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第43話 何でも屋(1)

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「ふむ……」

 私の回答にいぶしむ老人。
 しばらく何か考え込んでいたかと思うと、私から視線を離し、裏路地を歩きだしてしまう。

「あ、あの……」
「ついてこい」

 短く答えてくる老人の言葉に私は黙って付いていくことにする。
 余計な問答で、こちらの素性を知られても困るので丁度いいけど。
 幾つかの裏路地を歩き、女性一人がやっと通れるくらいの裏路地の中の裏路地のような場所へと、老人が入っていく。
 すると、私は思わず足を止めてしまった。
 何故なら、生ごみのような匂いが立ち込めていたから。
 風と水の魔法を使い周囲の空気――、立ち込めていた臭気を周囲に散らせながら私はデメトルと紹介してきた老人の後を追う。
 真っ直ぐに伸びる細い裏路地。
 幅は1メートルもない。
 足元は、ブーツに何かしらの粘着性のあるモノが絡みついてくる。
 歩く度に、「グチャ」と、言う田んぼの中を靴で歩くような音が聞こえてくるけど、変な匂いが立ち込める裏路地の事情から考えて、良いモノでは無い事は、簡単に推測できた。

 真っ直ぐな汚道を歩くこと1分ほど。
 ようやく、薄暗い路地を通り抜けることが出来た。
 まず視界に入ってきたのは、日本で言う所のコンビニと同じ広さくらいの空間。
 周囲は、煉瓦作りの建物の壁に囲まれている。

「デメトルさん、何も見当たりませんけど……」

 周りを見渡しても、本当にモノが何一つ置かれていない空き地があるだけ。
 建築用の資材すらないし、人の気配すらない。

「ヒッヒッヒッ。こっちに来るんじゃ」

 私の問いかけに答えるかのように、空き地のある一点――、建物の壁に向かっていく老人。
 そして――、彼は建物の一部に手を触れる。
 すると、「ゴゴゴゴゴッ」と、言う音と共に建物の壁が横にズレていき成人男性が一人通れるほどの隙間が出来た。

「これって……、隠し扉ですか?」
「ああ、そうじゃ。ほれ、いくぞ」

 私は、静かに頷く。
 そして老人と共に隠し扉を通り抜ける。
 すぐに扉は閉まっていき、建物の中は暗闇に閉ざされたけど、すぐに灯りが灯され室内が明るくなる。
 デメトルさんは、手にランタンを持っており、それで灯りを付けたのが理解出来た。

「ここが、何でも屋ですか?」
「ああ……。そして儂の店でもある」
「――え?」
「ようこそと言ったところか。儂が何でも屋のデメトルという」
「……」

 その言葉に私は無言になる。
 彼は、何でも屋を紹介すると言っていたけど、じつは目の前の人物が何でも屋だったと……。
 つまり……。

「私は試されていたという事ですか?」
「ふむ。馬鹿ではないのようじゃな」

 ニカッと、笑みを向けてくるデメトルという老人。
 そこには何処にも悪びれた様子なんて微塵も感じ取れなかった。



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