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第10話 プレゼント

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 車のトランクに積んである荷物――。
 駅ビルで衣類などを大量に購入したけど、母屋がある階段上まで運ぶとなると少し大変かな? と思っていたところで――、

「俺は仕事があるから、あとは任せたぞ」
「畏まりました」

 颯爽と手ぶらで階段を上がっていく高槻さん。
 一瞬、「――え? 手伝ってくれないの?」と、思った。
 でも、購入したのは私の衣類や靴ばかりで、それは全て高槻さんが奢りだと言って出してくれたモノなので、これ以上、頼るのは流石に我儘だと思い直し、口を噤む。
 
 ――それでも量が量なだけに溜息がでかける。

「それでは、宮内さん」
「――は、はい!?」
「まずは荷物を、お部屋まで運ぶとしましょうか」
「分かりました」

 櫟原さんは、車のエンジンを切るとトランクに積んである荷物を殆ど持つと――、「宮内さん、そちらの荷物だけ運んで頂けますか?」と、語り掛けてくる。

「えっと……」

 車のトランクの隅に小さな袋が3つほど置かれている。
 たしかに、これは衣類が入っている袋と一緒に運ぶのは大変かも……。
 でも、こんなのを買った覚えは私には無いんだけど。

「それでは部屋まで行きましょう」
「はい」

 コクンと頷く。
 大半の荷物は、櫟原さんが運んでくれているのですごく楽。
 長い階段を上がり神社の鳥居を潜り、境内を抜けたあと母屋に到着。
 2階に上がり、宛がわれている部屋に荷物を全部運び終えたあと――、

「あの、櫟原さん」
「何でしょうか?」
「この小さな袋は、どこに置けば?」
「それは、高槻様からのプレゼントです」
「――え?」

 高槻さんから? あの、高槻さんから? ちょっと意味が分からないんだけど……、ううん! 違う! 今日の衣類だって、高槻さんが奢ってくれたからプレゼントというのかも知れない。

「私へのプレゼント……?」
「はい。高槻様は、宮内さんを心配しておられるのです」
「私を?」

 どの口で私を心配しているの? と、思わず突っ込まずにはいられないけど。

「はい。家庭環境が芳しくない子供は教育機関では虐められる可能性があると考えておられたので」
「それは考えすぎだと思います。少なくとも私には友人がいます! 色眼鏡で人の友好関係を判断するのは早急だと思います」

「宮内さんの言う通りです。ですが――」
「分かっています。私が表向きは嫁ぐことになっているから、何かあれば困ると言う事ですよね?」

 高槻さんと私の関係はあくまでも雇用主と従業員という関係。
 それも、借金返済のためという。

「……宮内さん。高槻様は、少なくとも貴女のことを心配しておられます。些か、行き過ぎた帰来がありますが――。今回の、そちらはご学友と仲違いをしてしまった宮内さんへの謝罪の気持ちをお考えください」
「――!」

 その言葉に、私は数時間前の事を思い出し思わず唇を噛みしめる。
 高槻さんとの仲を誤解されたままだということを。
 そして――、それを引き起こした張本人が高槻さんだということを。

「……モノでですか」

 自分でも信じられないくらい冷たい声が出た。
 交友関係を引き裂いておいて、物で――、お金で――、解決しようなんて何て酷い……。
 
「申し訳ありません。そういう意味で言ったわけでは」
「分かっています」

 高槻さんは、出会った時からそういう人だって分かっているから。





洗濯物がいっぱいです!?
「そうですか……」

 櫟原さんは、短く答えてくると部屋から出ていく。
 彼が部屋から出たあと、私は襖を閉めて私服に着替えながら考える。
 たぶん、櫟原さんは高槻さんのフォローを――、私が仕事をしていく上で、ギクシャクしないように説明をしてくれたのだろう。

 ――でも、私は素直に受け取ることは出来ない。
 だから……、まずは家事や巫女としての仕事をしっかりとこなす事だけに集中することにする。

「――でも、明日の学校は大変そう……」

 思わず溜息が出てしまう。
 起きてしまった事は致し方ないとはいえ、気分的に重荷になるのは変わらない。

「――と、とりあえず!」

 まずは、家事をしっかりと!
 仕事だと思って割り切れば、衣食住付きの仕事は悪くない。
 むしろ借金まで返済できるならホワイト企業並みなのでは!? と、思ってしまう。
 私服に着替えたあとは、まずは洗面所へと向かう。
 
「あれ?」

 洗濯籠の中には、洗濯物がまったく入っていない。
 唯一、入っているのは私が今、自分で持ってきた服だけ。

「あの……高槻さ――総司さん」
「――ん? どうかしたのか?」

 居間に行き、ノートパソコンと睨めっこをしている高槻さんに話しかけると、彼は眼鏡をかけてまま、私を見てくる。
 眼鏡越しだからなのか――、その視線は、若干、柔らかい感じを受けてしまう。

「洗濯物が――、洗面所の洗濯籠に洗い物が入っていませんけど……」
「洗いモノ?」
「はい。衣服とかです。それなら隣の部屋にある」
「隣?」

 私は居間の隣に通じる襖を開ける。
 すると、そこには男物の服が散乱していて――、まあ、男の人だから男の人の衣類しかないのは当然なのだけど。
 むしろ、それよりも驚いたのは何日分の衣類? と、思えるほどの量。

「あの、たかつ――、総司さん……。普段は、洗濯はどうやって――」
「そうだな。都心に居る時は、クリーニング屋を呼びつけていたが――」
「そ、そうなんですか……」

 クリーニング屋を手配するとか、ブランド物を買っていた時から薄々と気が付いていたけど、もしかしてお金持ちだったりするの!?
 そうじゃなくて! お父さんに8ケタのお金を貸せるほどのお金を持っているってことだから、きっとじゃなくて! 間違いなくお金持ちだと思う。

「それじゃ洗濯しますね」
「ああ、頼む」

 上の空で答えてくる高槻さん。
 何をそんなに一生けん命になってしているのか分からないけど、私が口を出す事でないと思い、籠を取りに一度洗面所へと戻る。
 そして再度、高槻さんの服を洗濯籠に入れたあと――、

「そういえば櫟原さんの服は、どこにあるんですか?」
「櫟原は、仮眠では部屋を使う事はあるが、基本的に此処――戸沢村で宿を取っている」

 今、聞いたらいけない事を聞いた気が……。
 つまり、母屋に普段は暮らしているのは私と高槻さんだけという事になる。
 これ以上は、意識しているように思われるのも癪なので、無言で居間から洗面所へ移動する。
 そして――、最新の洗濯機に洗い物を入れて洗剤をセットした後にボタンを押す。
 あとは全自動でやってくれるはず。
 家には無かったけど、最新のはすごく便利だと思いつつも、もう夕飯の時間なのですぐに台所へ向かう。
 幸い、香辛料などもは櫟原さんにお願いしていて、冷蔵庫に入っている。
 洗濯物が洗い終わる間に夕飯を作り終え――、

「高槻さん、夕飯が出来ました。――ところで櫟原さんは?」
「アイツなら、大事な用事が出来たから今は不在だ。何か用事があったのか?」
「――いえ。三人分のお皿の用意が必要かと思って――」
「そうか。それじゃ夕食にするか」
「はい」

 食事を摂る場所は、高槻さんが仕事をしている囲炉裏のある部屋ではなく隣の部屋。
 つまり食堂と隣接している部屋。
 作った料理を並べたあとは、二人して黙々と食事を摂る。

「風呂の事だが、先に入っておけ」
「はい」

 昨日から、お風呂に入っていなかったから、少しでも早くお風呂に入りたかった私は素直に頷く。
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