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第54話 ダンジョン探索(4)

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「それは……」

 受付の女性も、冒険者の自由を束縛してきている商業ギルドに関して思う所はあるようで、私の言葉にチラッチラッと後ろの方へ視線を向けていた。
 すると、溜息交じりに立ち上がった女性が近づいてくる。

「冒険者ギルドの主任カグラだ。君が、ダンジョンに潜りたいという意思がある事は聞いているが、それは許可できない」
「どうしてもですか?」
「ああ。自分自身でも、ダンジョンに入れない理由は分かっているだろう?」

 金髪碧眼に褐色の肌が多い砂の国である迷宮都市グラナドでは珍しい黒髪黒眼の女性。
 スラリとした長身と、鋭い眼光も相まってきつい印象を受けてしまう。

「ですけど……。私もダンジョンに潜らないといけませんので」
「……決意は変わらないということか?」
「はい」
「……分かった。仕方ない……、それでは私が一緒に同行しよう。それで、良いのならダンジョンに潜る許可を出そう。それで、どうだ?」
「エリザさん」
「いいんじゃないか? ただ取り分は、シッカリしておいた方がいいんじゃないのか?」
「そうですね」

 どうやら、エリザさんとしてはカグラという女性が一緒にダンジョンに潜ることは問題ないみたい。
 たぶん、私が他国の妃教育を受けていたという情報は、すでに冒険者ギルドと商業ギルドは分かっているはず。
 だからこそ、ここまで強行してダンジョン探索を阻止してきていると思う。
 だけど、私の意思が固いと理解したのか、仕方なく譲歩してきたという事なのかも知れない。

「カグラさん。それでは、宜しくお願いします」
「分かった」
「主任!」
「メルル君。仕方ないだろう?」
「……分かりました。それより、そのことは――」
「ああ、言っておく」

 カグラという女性の言葉に目を伏せる私達の担当をしていた受付の女性――、名前はメルルさんと言うらしい。
 その方は、書類を受け付けのカウンターから取り出すと書類を作っていきハンコを押し、羊皮紙を私に差し出してきた。

「こちらがダンジョンを探索する際の許可書になります」
「ありがとうございます」
「いえ。くれぐれも無理はなさらないでください」
「それでは、私は用意があるから、明日の早朝にギルド建物前に集合という事でどうだろうか?」
「分かりました。エリザさんも、それで大丈夫ですよね?」
「ああ。――何か必要なモノとかあれば教えてもらいたい」
「数日分の食糧とキャンプ道具、あとは武器や防具の点検をしておくことくらいだな」
「なるほど……」

 キャンプ道具についてはアイテムボックスがあるから問題ない。
 装備に関しては魔法文字などを付与して劣化を抑えているから手入れは最小限で済む。

「分かりました。本日は、これで帰らせて頂きます。エリザさん、今日は市場に寄って帰宅しましょう」
「お、おい。アリーシャ、腕を引っ張るなって――」

 私は、エリザさんの腕を掴み冒険者ギルドの建物から外へと出る。
 急いで出たのは、相手が心変わりすることを恐れたから。



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