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第50話 迷宮都市グラナド(22)
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「商売ですか……」
たしかに魅力的な提案ではあるけれど、それは私が抱える問題の抜本的な解決からは程遠いというか、まったく関係の無い話。
「どうだ?」
「せっかくのご提案ですが、遠慮させていただきます」
「そうか……。それは残念だ」
メルドランさんは、すぐに引き下がる。
私の聞きたい本題とは違うというのは、彼も理解していたのだろう。
「メルドランさん」
「何かな?」
「私としては、迷宮に潜って探索をしたいと思っているのですが――」
「なるほど……。つまり、手勢が欲しい……。――いや、その表情を見る限り情報が欲しいと言ったところかな?」
「はい。ご推察のとおり」
「そうか……。だが――」
「タダで情報は渡せないという事ですわよね?」
「そうなるな」
何と言うか商業ギルドらしいと言えば商業ギルドらしい。
情報は対価だという考えなのだけれど……。
「冷風を作り出す魔道具ですが、迷宮にあるという事は分かりましたが、どのくらいの深度に存在しているのか? と、いう情報が欲しいです」
「ふむ……。たしか、アイテムボックスの魔法が使えたのだな……」
「はい」
「なるほど……。それなら、階層さえ分かれば手勢を揃える必要もなく探索は出来ると――」
「そう考えております」
「だが、グラナドの迷宮は一筋縄ではいかないぞ?」
「分かっています。そのあたりは、表層のダンジョンを探索して実践を経験したいと考えていますので」
「……無理をするということはないのだな?」
「私も命は惜しいので」
「そうか。――2人ほどなら手練れの商業ギルド専属の探索者を付ける事も良いが?」
「いえ、大丈夫です。私には頼もしいパートナーであるエリザが居りますので」
「ふむ……」
借りを作りたくない私は、頭を下げてエリザさんと共に部屋から出る。
そうでなくともメルドランさんは、私の素性を知っているので、今後の事を考えると面倒になりかねないし。
商業ギルドから出てから、しばらく歩いたところで――、
「それにしても、明日から楽しみだな」
エリザさんが、両手を頭の上で組みながら私に話しかけてくる。
「それは、迷宮の探索という意味ですか?」
「そうそう」
「だって、仕方がないじゃないですか」
もう夕刻だというのに、迷宮都市グラナドの温度は高い。
湿度が低いだけマシだとは思うのだけれど、森林に取り囲まれている王国であるラッセル王国とは対称的で、私にとっては耐えがたい温度。
一応、風と氷の魔法を使って周囲の温度を下げてはいるけれど、あまり常習すると睡眠時には魔法が切れるので、やはり気候には慣れないと……。
――でも、慣れるとは到底思えない暑さ。
「そういえば、エリザさんは暑さには慣れましたか?」
「多少は……。――ただきついよな……」
溜息交じりに答えてくるエリザさん。
やはり彼女も辛いみたい。
やっぱり、同じ国で生活してきた以上、砂漠の気候は体には堪える。
「ですよね……」
私も思わず、相槌を打ってしまう。
たしかに魅力的な提案ではあるけれど、それは私が抱える問題の抜本的な解決からは程遠いというか、まったく関係の無い話。
「どうだ?」
「せっかくのご提案ですが、遠慮させていただきます」
「そうか……。それは残念だ」
メルドランさんは、すぐに引き下がる。
私の聞きたい本題とは違うというのは、彼も理解していたのだろう。
「メルドランさん」
「何かな?」
「私としては、迷宮に潜って探索をしたいと思っているのですが――」
「なるほど……。つまり、手勢が欲しい……。――いや、その表情を見る限り情報が欲しいと言ったところかな?」
「はい。ご推察のとおり」
「そうか……。だが――」
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「そうなるな」
何と言うか商業ギルドらしいと言えば商業ギルドらしい。
情報は対価だという考えなのだけれど……。
「冷風を作り出す魔道具ですが、迷宮にあるという事は分かりましたが、どのくらいの深度に存在しているのか? と、いう情報が欲しいです」
「ふむ……。たしか、アイテムボックスの魔法が使えたのだな……」
「はい」
「なるほど……。それなら、階層さえ分かれば手勢を揃える必要もなく探索は出来ると――」
「そう考えております」
「だが、グラナドの迷宮は一筋縄ではいかないぞ?」
「分かっています。そのあたりは、表層のダンジョンを探索して実践を経験したいと考えていますので」
「……無理をするということはないのだな?」
「私も命は惜しいので」
「そうか。――2人ほどなら手練れの商業ギルド専属の探索者を付ける事も良いが?」
「いえ、大丈夫です。私には頼もしいパートナーであるエリザが居りますので」
「ふむ……」
借りを作りたくない私は、頭を下げてエリザさんと共に部屋から出る。
そうでなくともメルドランさんは、私の素性を知っているので、今後の事を考えると面倒になりかねないし。
商業ギルドから出てから、しばらく歩いたところで――、
「それにしても、明日から楽しみだな」
エリザさんが、両手を頭の上で組みながら私に話しかけてくる。
「それは、迷宮の探索という意味ですか?」
「そうそう」
「だって、仕方がないじゃないですか」
もう夕刻だというのに、迷宮都市グラナドの温度は高い。
湿度が低いだけマシだとは思うのだけれど、森林に取り囲まれている王国であるラッセル王国とは対称的で、私にとっては耐えがたい温度。
一応、風と氷の魔法を使って周囲の温度を下げてはいるけれど、あまり常習すると睡眠時には魔法が切れるので、やはり気候には慣れないと……。
――でも、慣れるとは到底思えない暑さ。
「そういえば、エリザさんは暑さには慣れましたか?」
「多少は……。――ただきついよな……」
溜息交じりに答えてくるエリザさん。
やはり彼女も辛いみたい。
やっぱり、同じ国で生活してきた以上、砂漠の気候は体には堪える。
「ですよね……」
私も思わず、相槌を打ってしまう。
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