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第47話 迷宮都市グラナド(19)

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「どういうことでしょうか?」

 私は首を傾げる。
 今までの物理現象という話から唐突に話が脱線したように思えたから。

「まぁ、結論を急ぐ事もない。まず、氷が溶解すると何に変化するのかは分かるかな?」
「えっと……水ですか?」
「そう。液体というのは、物質の三態の一つに過ぎないということ。氷は個体、水は液体、そして水が蒸発したものを気体として分けられる。そして水蒸気は大気の湿度を上げる事になる」
「そう言われれば……」
「――で、ここからが本題だ。氷というのは蒸発した時に湿度を上げる効果があるが、湿度が上がり過ぎると生物の体というのは発汗作用にて体温調節を行うが、それが上手く機能しなくなる。つまり、熱が体に留まってしまう要因になる。これが熱中症の原因の一つでもある」
「だから、私は倒れたと?」
「そういうことだね」

 私の言葉に、頷くヨランダさん。

「つまり、砂漠の真っただ中に存在する迷宮都市グラナドでは、涼を取る為に過度な氷の魔法というのは、命取りになると。そういうことですか?」
「ああ、そうなるね」

 肯定してくる彼女に、私は溜息をつきながら視線を手元へと落とす。
 正直、ラッセル王国は森林に囲まれた気候の穏やかな土地だったので、気温が高い砂漠で暮らしていくのは、かなり辛かったりする。

「まぁ、大規模な氷の魔法で涼を取ろうとしなければ、そこまで体調に影響はないと思うから、注意はするようにね」
「分かりました」
「それじゃ、いいかな?」
「ああ、すまない。無理を言ってしまって――」
「本当だよ。まぁ、また何かあったら困るから気を付けてくれたまえ」

 エリザさんから、診察料を受け取ったヨランダさんは、部屋から出ていく。
 私は、彼女のあとを追って部屋から出ていくエリザさんの後ろ姿を見送ってベッドで横になる。
 まだ、体中がだるい。
体を動かすのが億劫で、起き上がって家事をしたいという気持ちが沸き上がってこない。

「大丈夫か? アリーシャ」
「ヨランダさんは、お帰りになったのですか?」
「ああ、それなりの金銭を払って納得してもらった。これからも何かあった時に対応してもらえるようにな」
「そうですか」

 さすがに貴族出のエリザさんは、人とのつながりの重要性が分かっているのか、お金で何とか出来る部分には、キチンと躊躇わずにお金を使うというのが身に染みている。
 どれだけのお金を払うかで、人への誠意を見せるのかが分かるから。

「それにしてもアリーシャの魔法にも弱点はあったんだな」
「弱点というか限定的な物ですけど、かなり致命的なものですよね……」

 私は蒸し暑くなってきた部屋の中で溜息をつきながらエリザさんの言葉に答えた。




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