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第28話 お引越し完了です。

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「もう書類作成は終わったのですか?」
「ああ、とりあえずは司法庁に出すから、この書類にサインをしてくれ」
「分かりました」

 私は、ジョルジュさんが差し出してきた5枚の羊皮紙と羽ペンを受け取る。
 そして近くのテーブルで、『アリーシャ』の名前を書き入れていく。

「こんな感じでよろしいでしょうか?」
「ああ……。とりあえず、これで土地の譲渡は完了だ。それじゃ、いまから案内するから付いてきてくれ」
「分かりました。エリザさん、行きますよ」
「分かった。その前に、アリーシャ」
「何でしょうか?」
「服を乾かして欲しいんだが?」
「歩いていれば乾きます」

 私は、床に零れ落ちた水を大気に還元させ――、床を乾かしてからジョルジュさんの後を追うようにして商業ギルドの建物から外へと出た。
 外に出れば、大分――、日が沈んでいた。
 外気温も多少は減ってはいるけれど、暑い事には代わりはない。

「まだ、暑いな……」
「そうですね」

 数分、歩いただけでエリザさんの服は乾き――、私は彼女のぼやきに同意しつつジョルジュさんの後を付いていく。
 商業ギルドを出た通りは大通りで、馬車が3台ほど同時並走できるほど広い。
 そういうこともあり、両脇には露店が並んでいて多種多様な食材や、骨とう品に工芸品に野菜などが売られている。
 中には調理済みの食糧を販売している屋台などもあり、多くの人が購入して食べている姿を見かける事ができた。

「あれ、美味しそうだな」

 エリザさんが視線を向けた先には、体重が200キロ近い豚が丸ごと巨大な杭に刺され回されながら焼かれているところだった。
 豚の丸焼きと言った感じで、王宮で妃教育中でも数回しか食べた事がないほど、高級なモノ。
 それが売られているとは、思いもよらなかったけど。
 それよりなにより、匂いがとてもいい。

「あとで食べに来ましょう」
「そうだな」
「二人とも、早くこい」
「分かりました」
「うい」

 私達が足を止めて露店を見て話していたところで、ジョルジュさんから少し距離が離れてしまっていた。
 急かされた私達は急いで彼の後を追う。
 そして、歩いて5分ほど。
 町を囲む城壁のすぐ傍というより城壁に面した角地。
 そこは、地面が砂で――、とても建物を建てるような場所ではない。

「ここが迷宮都市グラナドで、商業ギルドが持っていた土地になる。ここの土地なら、好きに使ってくれて構わない」
「どう見ても砂だぞ? ジョルジュ」
「だから言っただろう? 家を建てるには、お金が必要だって。砂地だと建物を建てる前に石を切り出して床を作らないといけないんだよ。だから金がかかるんだ」
「そういうことなのですか……」
「ああ、でも契約は成立したんだから、いまさら契約無効はできないからな?」

 私とエリザさんの目の前には横60メートル、奥行き100メートルほどの砂漠という土地があり、そこは城壁内だから土地扱いらしい。

「分かりました。ちなみに、何をしても自由ということですね?」

 再度、私は確認する。

「ああ、法に触れない限りは自由だ」

 私達が購入した両脇は立派な石造りの一軒家。
 私達の土地と広さは遜色ないと思う。
 もちろん、砂の国と言うこともあり、どんなに立派な一軒家であっても植物などは育っていない。
 砂の国だから水が足りないのだろう。

「それじゃ、まずは土地の改良が最重要ですね」

 私は、まず大気から水を作りだす。
 次にアイテムボックスに入れていた木材を解体――、繊維素を作り出す。
 最後に砂と混ぜ合わせることにより土を作り地面を作り出した。

「――なっ!?」
「あとは……」

 私は、アイテムボックスから魔の森で暮らしていた2階建ての家を取り出し、購入した土地へと設置。

「お引越し完了です」
「ようやく、これで普通に眠れるな」
「そうですね。それではジョルジュさん、ご案内頂きありがとうございます」
「――い、いや! 待て待て待て! 何を当然のように言っているんだ? 砂を土に代える魔法なんて聞いたことがないぞ?」
「そうですか? でも、何をしてもいいんですよね? 法に触れたりしましたか?」
「――いや、触れてはいない」
「そうですか。それは良かったです」




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