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第91話 王都事件(16)
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串肉を食べてから小さな一口ほどの大きさの果物を蜂蜜で覆った菓子や、甘い衣を纏った揚げパンというものを口にしながら、チロちゃんとカーネルさんと共に、王都の市場を歩き回っていく。
「たくさん、屋台があるのですね」
「普段はもっと多い」
「そうなのですか?」
「ああ」
「やはり食糧不足だったことが響いているという事でしょうか?」
「それはあるだろうな」
つまり、普段はもっとたくさんの美味しい物が味わえるということですか!
「チロちゃん。いつもは、もっと美味しい物が食べられるみたいよ? 楽しみね」
「わんっ!」
「エリーゼは、食べる事が好きなのだな」
「はい。とくに温かいものは、美味しいです!」
「貴族は、温かい食事とは無縁だからな」
カーネルさんが、少し遠くを見て呟いてきます。
「そうですね。私も、5歳から王城に妃教育のために住んでいましたから、いつも冷えたスープとかでした」
「スープほど冷えたらまずいものはないよな」
「とってもわかりま――あっ!?」
「エリーゼ!?」
カーネルさんの声色が一瞬で強張るのを感じたと同時に、私の体がカーネルさんの両腕の中に抱き留められる。
「大丈夫か?」
「――は、はい。一体何が?」
「後ろから、子供がぶつかってきたみたいだな」
カーネルさんが指差した方向には、走り去っていく子供の姿が見える。
「そうなのですか……」
ホッと一息ついたところで、カーネルさんの腕の中から、私は離れる。
「とくに怪我はないか? 痛い所はないか?」
「はい。とくに痛みなどは……あっ!」
「どうかしたのか?」
「えっと……、アディーから渡された袋が無くなっています!」
「さっきの子供か!」
「え?」
「おそらくだが、お前とぶつかったのは、財布を盗むためだったのだろうな」
カーネルさんは、懐から笛を取り出し鳴らす。
すると市場に居た男性数人が子供が走り去った方角へと駆けていくのが見えた。
「あれって、冒険者の方々ですか?」
「ああ、念のために市場に伏せていたが、それはあくまでも子供相手ではなかったからな」
「やはり、食料が不足していたから子供達も窃盗をしたと言う事でしょうか?」
「それなら、まだ良いんだがな」
「――え? どういうことですか?」
「どんなに発展した町でも、そういう場所に馴染めない人間は存在する。そうした時、真っ先に煽りを受けるのは子供だからな。それに市政が、どんなに上手く行っていたとしても富は平等ではない。エリーゼも、それは分かるな?」
「はい。話しでしか聞いたことはありませんが、子供を犯罪者に仕立て上げている組織があるという事ですよね?」
「そうなるな」
「そういうのは……」
途中まで口にして、私は言葉を呑み込む。
子供が犯罪に手を染める理由は一つしかない。
それは生きる為であって、親の庇護がない可能性が非常に高いから。
「たくさん、屋台があるのですね」
「普段はもっと多い」
「そうなのですか?」
「ああ」
「やはり食糧不足だったことが響いているという事でしょうか?」
「それはあるだろうな」
つまり、普段はもっとたくさんの美味しい物が味わえるということですか!
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「わんっ!」
「エリーゼは、食べる事が好きなのだな」
「はい。とくに温かいものは、美味しいです!」
「貴族は、温かい食事とは無縁だからな」
カーネルさんが、少し遠くを見て呟いてきます。
「そうですね。私も、5歳から王城に妃教育のために住んでいましたから、いつも冷えたスープとかでした」
「スープほど冷えたらまずいものはないよな」
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「エリーゼ!?」
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「大丈夫か?」
「――は、はい。一体何が?」
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「はい。とくに痛みなどは……あっ!」
「どうかしたのか?」
「えっと……、アディーから渡された袋が無くなっています!」
「さっきの子供か!」
「え?」
「おそらくだが、お前とぶつかったのは、財布を盗むためだったのだろうな」
カーネルさんは、懐から笛を取り出し鳴らす。
すると市場に居た男性数人が子供が走り去った方角へと駆けていくのが見えた。
「あれって、冒険者の方々ですか?」
「ああ、念のために市場に伏せていたが、それはあくまでも子供相手ではなかったからな」
「やはり、食料が不足していたから子供達も窃盗をしたと言う事でしょうか?」
「それなら、まだ良いんだがな」
「――え? どういうことですか?」
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「はい。話しでしか聞いたことはありませんが、子供を犯罪者に仕立て上げている組織があるという事ですよね?」
「そうなるな」
「そういうのは……」
途中まで口にして、私は言葉を呑み込む。
子供が犯罪に手を染める理由は一つしかない。
それは生きる為であって、親の庇護がない可能性が非常に高いから。
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