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第81話 王都事件(6)

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 王都に来てから、一週間が経過。
 特に何をする事もなく、日がな一日、貴族の令嬢としての嗜みについて見張られている私としては、気持ちが休まる日は一日たりとも存在しない。

「もうお屋敷に帰りたいです……」

 私は、フェルシアさんのモフモフな毛並みに体を預けながら溜息と共に呟く。

「主。あと数週間は滞在するのであろう? もう少し、気軽に身構えてはどうかのう?」
「そんなに簡単にできるのでしたら、アディ―さんの対応も楽々に出来ましたけれども……」
「まぁ、貴族という生き物は自身で生き方を縛り付けている様相があるようだからのう」
「そうですね」

 私は、だらーっと体から力を抜いてフェルシアさんの体に背中を預けながら答える。
 正直、辺境の地で何不自由なく誰にも行動などを制限されずに、そして立ち振る舞いも指摘されずに、食べて遊んで寝ていた時は至福の時でした。
 そもそも、私はお茶会とか、そんなに好きではありませんし……、普通にベッドでゴロゴロしながら時々、マフィンなどを口にしていた方がいいまでありますし。

「フェルシアさんは、ずっと王都に居て飽きたりしないのですか?」
「ふむ。まぁ、妾くらいになれば数十年の眠りにつくことは容易であるからな」
「そうなのですか。それって、クマさんの冬眠みたいな?」
「大きく分ければ間違ってはいないな」
「そうなのですか」

 結構、便利な能力ですね。
 私も、そういう力が欲しいです。
 きっと、食べて寝るだけの生活ライフが送れるかも知れないです。
 
「また変な事を考えているようだな」
「そんな事ないですよ? 私は、常に真面目ですし……」
「そうか?」

 話しが変な方向へ行ってしまわないように話題を変えましょう。

「それよりも、フェルシアさんの毛並みは何時も最高ですね」
「ふっ。妾は、フェンリルであるからな」
「そういえば、お父様やお母様と契約したフェルシアさんの子供は私達みたく意思疎通は出来ているのでしょうか?」
「契約は出来たとしても、話が出来るとは限らない」
「そうなのですか? 私って、フェルシアさんと普通に会話していますよね?」
「そうだが――、妾の子供と言っても精霊言語を覚えるまで時間が掛かるからのう」
「精霊言語? それって、精霊が使う言語の事ですか?」

 言葉をそのまま受け取るなら、本当にそのままと言った感じだけど……。

「うむ」

 はたして私の予測は間違ってはいなかったようでフェルシアさんから肯定の言葉が伝わってきた。
 まぁ、そもそも人族が使う人間語という言葉は、世界の標準語と言うことで、大陸では使われている。
 そして――、それ以外にもエルフ言語や、ドワーフ言語、魔族言語と言った多くの言語が存在していて、他種族との交流の際には、多言語が利用される場面が多々ある。
 王族の中には、他種族との友好的な関係を築く必要もある為、他種族言語を覚える事も必須とされていて、その教育課程は非常に大変だったり。
 もちろん、私も魔族以外の言語は、妃教育の過程で全て覚えさせられていて、その教育は熾烈を極めた事は言うまでもなく……。

「どうかしたのか? 主」
「え?」
「――いや、心臓の鼓動がずいぶんと早くなったからの」
「そ、そうですか……。ちょっと嫌なことを思い出してしまったので……」
「ふむ……」

 私の受け答えにフェルシアさんが何も聞かず納得すると顔を伏せてしまった。
 



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