王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫

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第75話 色々と事情があるみたい?

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「はい。それにしても、しばらく見ない間に……ずいぶんと大きくなって……」

 そう手を伸ばしながら、フェルシアさんの毛並みをサワサワと触るアディ―さん。
 彼女は、メレンドルフ公爵家のお母様専属のメイドであったけれど、王宮で私が住んでいる間は、私の教育係りと一緒に貴族の嗜みを指導する係りになっていた。
 それは、私の両親からのたっての願いだったという事らしいけど……、妃教育は熾烈を極めた事もあり、私はアディ―さんがとても苦手だったりする。

「それは私ではありませんから!」
「あら? そうなの?」
「そうです」

 名残惜しそうに、フェルシアさんの毛並みから手を引くアディ―さん。
 
「主。この者は?」
「アディ―と言います。メレンドルフ公爵家のメイドと言うことになります」
「ほう? それなのに、こんなところに居て問題はないのか?」
「私が幼少期から王宮で住むようになってからは、どちらかというと私の教育係りの側面が強かったので……」
「なるほど。それで苦手意識があるような雰囲気があるのか」
「そんな風に見えますか?」
「うむ」

 もう半年以上、フェルシアさんとは一緒に住んでいる事もあり、機微が理解されてしまっているみたい。
 本来なら、相手に心情を悟らせないように行動し表情を変えないのが王族に嫁ぐ者の資格というよりも嗜みとして教えられてはいたのですけれど、それが無くなってしまっているという事は……、嫌な予感しかしません。

「エリーゼ様。先ほどから、フェンリルと話をしているのですか?」
「そうです」
「そうですか……」

 私の答えにアディ―さんが思案顔になる。
 そして、その視線はカーネルさんの方へと向けられる。

「それで、カーネル……貴殿が何故に、此処にいるのですか?」

 唐突に冷たい声が周辺に響き渡る。
 それは絶対零度のごとく。

「エリーゼの護衛に居るのだが?」
「……そうですか。それなら、エリーゼ様には護衛は不要ですのでお引き取り頂けますか?」
「それはエリーゼが決める事だからな。メイドのお前に何かを言われるつもりはないな」
「エリーゼ様」
「アディ―、カーネルは私の護衛ですので追い出す訳にはいきません」
「――ですが!」

 事情はよく知らないけど、普段は冷静沈着なアディ―さんが声を荒げてまでカーネルさんを放逐しようとしている事に、私は違和感を覚える。
 これは、もしかしてアディ―さんに対して対抗手段が出来たのでは? と……。

「いいこと? アディ―。この方は、私の恩人であり護衛を無償で行ってくれているの。そのような方を、主人に断りもなく屋敷から追い出そうというのは、公爵家の品位を穢す行いとなります。そのくらいは、分かるわよね?」
「……」
「沈黙は了承と受け取るわ。私の勝手に物事を勧めないで頂戴ね?」
「畏まりました」

 恭しく頭を下げてくるアディ―さん。
 これで何とか、アディ―さんに対してのマウントが取れるというか、有利な立場になったというか……、あとで詳しい事情をカーネルさんから伺うとしましょう。




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