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第50話 政務をしましょう。

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 ――翌朝、朝食を頂いてから、私は執務室でフェルベール地方の政務をする事になった。

 部屋に入るのは、2度目だけど、かつてのメレンドルフ公爵家の当主が使っていた部屋という事もあり、内部は、それなりに綺麗だったので、室内に置かれていた調度品は、そのまま流用する事になった。

 私は椅子に座り、書類に目を通す。
 そこに書かれている内容は、イスタンブールで販売した商品の目録と、その支出と収入内容。
 それらを纏めて、メレンドルフ公爵家に送らないといけない。
 国へ税金を納めるのは領主の務め。
 今までは、殆ど開墾されていなかった未開の土地扱いだったので、見込税収と言うことで、イスタンブールなどの税収管理を任せられていた代官に、書類作成は一任されていたけど、そのイスタンブールとの取引が開始されるので、新しく代官を雇うか、それとも私がしないといけない事になった。
 代官を雇うことも考えたけれど、メレンドルフ公爵家が管理している土地の中でも辺境の辺境に位置する場所に来るような有能な代官志望者の方はいない。
 それに、私の思いつきで野菜を販売する事になったので、代官を雇うのは勿体ないような気がする。

 そう言うこともあり、私は書類に目を通しながら、メレンドルフ公爵――、つまり私のお父様へと送る書類を作っていく。
 書類作成事態は、妃教育で習った知識を応用するだけで大丈夫。
 10分ほどで纏めて終わらせる。

「ウルリカ」
「はい、エリーゼ様。どうかなさいましたか?」
「終わったわ」
「――え? もうでございますか?」
「ええ」

 私は頷く。
 妃教育で教えられていた内容を思い出しながら書類を作成するだけなので、そこまでは難しくはない。
 ただ、ウルリカは非常に驚いた表情をしていて――。

「どうして、そんなに驚いていているのかしら?」
「いえ、普段のエリーゼ様とまったく違う様子で……、まるで貴族の方のようでしたで……」
「待って! 何だか、私が普段は貴族から掛け離れたような感じに聞こえるのだけれども?」
「申し訳ありません。つい――」
「とりあえず、私は作業が終わりましたから、フェルシアさんの所に行ってお昼寝をしてきます」
「エリーゼ様、まずはお茶など如何でしょうか? すぐにご用意いたしますので」
「少しお昼寝をしたいかなって……」
「エリーゼ様?」
「わ、分かったわ……」

 ニコリと微笑んでくるウルリカ。
 ただ、ウルリカの目は笑っていないので、渋々と私は頷く。
 そのあとは貴族の淑女らしく、邸宅の中庭でお茶を嗜みながら時間を潰す。

「あー釣りに行きたい。畑耕したい」
「エリーゼ様、心の内が駄々洩れです」
「分かっているわよ。ただ、誰とも会話する方がいないのに、一人だけでお茶を飲み、御菓子を摘まんでいるのよ? 時間の流れが遅く感じるのは仕方ないと思わない? 私としては、もう少し、体を動かすような事をしたいわ」
「それは貴族の淑女としての考えとは思えませんが……」
「分かっているわ。刺繍をしたり、お茶会で黄昏たり、恋文を書いたり、読書をするのが貴族の令嬢としての在り方くらいは――」
「お茶会で黄昏とは……」
「だって、ウルリカも知っていると思いますが、貴族の淑女や令嬢のお茶会は、相手の言動の裏側を読んで会話しますから疲れるのよね」
「それが普通なのでは?」
「だから嫌なのよね……。普通に釣りしたり畑を耕している方が、私には合っているような気がするわ」
「そんな話を王室の方が聞いたら困惑すると思いますよ?」
「そうよね……」

 たぶん、お父様やお母様も困ると思う。
 私は結婚適齢期だし、そのうち結婚相手が決まると思うから。

 
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