上 下
11 / 112

第11話 仔犬のお母さんがいました。

しおりを挟む
 それから、すぐに――。

「隊長! 見つけました! 森の中ではなく屋根裏に大きなフェンリルが!」
「分かった。総員、戦闘配置!」

 次から次へと館に入っていこうとする人達を見ながら、私は思ってしまう。
 カーネルさんや、ウルリカは、フェンリルは、すごく危険な生き物だって話をしているけど、それって、私の腕の中で寝ている仔犬の母親だよねって。

「待ってください」

 気がつけば、私は館の入り口に立っていた。
 
「お嬢様?」
「エリーゼ、どうかしたのか?」
「皆さん、フェンリルさんを排除しようとしていますか?」
「排除ではなく討伐だ」

 カーネルさんの即答。
 討伐って……、それって殺されちゃうってことだよね。

「あの! この子の、お母さんですよね? 屋根裏部屋にいるのって……」
「そうだな。フェンリルは基本的に母が子を育てるからな」
「――でも、フェンリルってドラゴンより強いんですよね?」

 冒険者の皆様は、全員が神妙な面持ちでコクリと頷く。

「私は誰にも怪我をしてほしくないです。怪我をすると痛いです。魔法で傷を治すことは出来ても痛いのは変わらないです」
「そんなことは分かっている。そういう覚悟が持って冒険者をしている。怪我を恐れないのは問題だが、恐れすぎるのも良くない」

 私は、コクリと頷く。

「それでしたら、私が一度、この仔犬を連れて母親に会いに行ったらダメですか?」
「ダメだ!」
「仔犬を返せば帰ってくれるかも知れませんから」
「話が通じるなら魔物とは言わない。魔物というのは道理が通じるモノではない」
「……お願いします。一度でいいから、チャンスをください。カーネルさんは、すごい冒険者だって、みんな知っています。だから、ほんの少しでいいので、フェンリルさんと話すお時間をくれませんか?」
「……エリーゼ様」
「分かっているわ。魔物は話すことが出来ないと冒険者の方々が仰るのでしたら間違いないのでしょう。――でも、私は冒険者の皆様にも怪我をして欲しくありませんし、この仔犬にもお母さんと離れるような悲しい思いは――、私みたいな思いはさせたくないんです……」

 私は王妃教育を受けるために、5歳の頃から大好きな両親と引き離されていたから、そういう思いは、誰かにしてほしくない。
 
「どういうことだ?」
「カーネル。エリーゼ様は、王妃教育を受けるために5歳で両親から離されて王城で教育を受けていたのです。おそらく、仔犬の母犬を私達が討伐したらと思うと、居ても経っても居られなくなったのではと思います」

 ウルリカの、その言葉にカーネルさんは、瞼を閉じて長考してしまう。
 どれだけの時間か分からない。
 ただ……「仕方ないな」と、一言呟くと、私をまっすぐに見てきた。

「…………分かった。少しの間だけだぞ?」
「ありがとうございます」

 私は頭を下げる。
 無理なお願いだというのは自覚していたから。
 これは私の我儘。
 だけど、ここで何もしなかったら絶対に後悔する。
 その確信だけはあった。

 それからすぐにカーネルさん、ウルリカを先頭にして、私達は屋根裏部屋へ続く階段を上がる。
 屋根裏に到着すると、屋根の一部に大きな穴が空いていた。

「あの穴から入ったのか」
「みたいですね」

 カーネルさんとウルリカは、屋根を見て呟き――、別の冒険者の方が「あれが、フェンリルか……」と呟いた。

 その冒険者の方は、一点を見つめながら呟いたあと唾を呑み込んでいた。
 私は、冒険者の視線が集まっている方へと視線を向ける。
すると、そこには体長4メートルくらいの大きな白銀の狼が座って、こちらを見ていた。
 
 私が視線を向けると、狼は、すぐに視線を私へと向けてくる。
 交差する私と狼の視線。
 
 すると、狼は大きな口を開いた。
 そして――、「なるほど、精霊王の言った通りの娘だ。これなら私の子らを託すのも問題ない」と、流暢な言葉で、話しかけてきた。




しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...