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第9話 毛布の中に仔犬がいます。
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「ただいま、戻りました」
馬車から降りて、館の方を見ると昨日の廃墟だった館は見違えるほど綺麗に修繕されていた。
数時間しか村に居なかったのに、職人さんはすごい。
もちろん、何十人もの冒険者の方々も手伝ってくれていて、冒険者には町の中での仕事もあるらしく、みんな手先が器用。
「おかえり、エリーゼ」
そう気軽に話しかけてきたのは、私に冒険者の心得とは――を、一週間の間に熱心に教えてくれたカーネルさん。
スキンヘッドで、強面な顔だと皆には恐れられている人。
カーネルさんが運営しているパーティは、町でも高位のパーティに入るらしくて、他の冒険者に、剣の使い方とかを教えてる場面を旅の最中に見かけたことがある。
年配の方で、お父様よりも一回り、お年を召していることもあり、怖いけど頼りにされている感じ。
同行してくれた切っ掛けは、腕を戦いの最中に失った彼を魔法で治療したから。
パーティ解散一歩手前だったらしくて、すごく感謝された。
袋いっぱいの金貨を渡そうとしてきたけど、私は、そんなに貰えないと断ったら、辺境の地まで護衛してくれることになった経緯がある。
「カーネルさん、村に行ってきましたっ!」
「そうか、そうか」
ニッ! と、笑いながら私の頭をカーネルさんは撫でる。
「村では歓迎されたようだな」
「はい! 怪我をしている方や、病を患っている方がいらっしゃたので、野菜をくれた代わりに治療してきました」
「なるほど……」
満足そうにうなずくカーネルさん。
「そういえば、エリーゼは、どうして、こんな辺境まで来たんだ?」
「――え?」
「たしか、ここの領地を治めているのは飛び地と言っても、メレンドルフ公爵家だったはずだ。――で、エリーゼと言えば、同じ名前で……」
「えっと……、フルネームを言うのを忘れていました。エリーゼ・フォン・メレンドルフが、私の名前です」
カーネルさんの目が大きく見開かれた。
「そ、それは……。今まで、大変なご無礼を――。未来の王妃様に向かって……」
片膝をついて頭を垂れてしまうカーネルさん。
「あ、カーネルさん。私、そんなに偉くないのでっ!」
「どういうことですか?」
「レオン様が、好きな方が出来たらしくて、婚約破棄されてしまいました。なので辺境の地で――」
「つまり、傷心した心を癒す為に、王都から離れた此処まできたと?」
「そんな感じです。――で、でも! レオン様のことは、悪くは思っていません。好きな人同士で付き合って結婚した方がいいと思いますから」
「それでは、エリーゼ様は、レオン王太子殿下の事を何とも思っていないと?」
「いいえ。――でも、レオン様が、ご自分で決められて幸せを手に入れられるのでしたら、身を引くのが本当にレオン様のことを思っていることだと思いましたので」
「……なんという……健気な……」
空を見上げながら、カーネルさんが声を押し殺して泣いているのが分かってしまう。
ここまでオーバーなリアクションをされるとは思っていなかったので、心が痛いです。
「だ、だから、ここで、この話は終わり! いいですね?」
「……分かりました。――ですが……」
私のお願いに頷くカーネルさん。
そんなカーネルさんは、言い難そうに口ごもるけど……、そんな彼の思いを一蹴するかのように、私の背後からウルリカの「エリーゼ様、皆様、手を止めて聞いておられました」と、いう突っ込みが無常に入ってきた。
よくよく周りを見渡せば、カーネルさんの声が大きかったのもあり、屋敷の修繕をしてくれていた人はもれなく全員が、今の会話を聞いていた。
私は、思わず羞恥から顔を真っ赤にして館の中へと走って戻り、自分の部屋に入り扉を閉めて、体温くらい温かい毛布に顔をうずめた。
「――ん?」
「くぅーん?」
何か違和感が……。
毛布を持ち上げて中を確認すると、そこには腕の中に納まるほどの小さな仔犬が居た。
馬車から降りて、館の方を見ると昨日の廃墟だった館は見違えるほど綺麗に修繕されていた。
数時間しか村に居なかったのに、職人さんはすごい。
もちろん、何十人もの冒険者の方々も手伝ってくれていて、冒険者には町の中での仕事もあるらしく、みんな手先が器用。
「おかえり、エリーゼ」
そう気軽に話しかけてきたのは、私に冒険者の心得とは――を、一週間の間に熱心に教えてくれたカーネルさん。
スキンヘッドで、強面な顔だと皆には恐れられている人。
カーネルさんが運営しているパーティは、町でも高位のパーティに入るらしくて、他の冒険者に、剣の使い方とかを教えてる場面を旅の最中に見かけたことがある。
年配の方で、お父様よりも一回り、お年を召していることもあり、怖いけど頼りにされている感じ。
同行してくれた切っ掛けは、腕を戦いの最中に失った彼を魔法で治療したから。
パーティ解散一歩手前だったらしくて、すごく感謝された。
袋いっぱいの金貨を渡そうとしてきたけど、私は、そんなに貰えないと断ったら、辺境の地まで護衛してくれることになった経緯がある。
「カーネルさん、村に行ってきましたっ!」
「そうか、そうか」
ニッ! と、笑いながら私の頭をカーネルさんは撫でる。
「村では歓迎されたようだな」
「はい! 怪我をしている方や、病を患っている方がいらっしゃたので、野菜をくれた代わりに治療してきました」
「なるほど……」
満足そうにうなずくカーネルさん。
「そういえば、エリーゼは、どうして、こんな辺境まで来たんだ?」
「――え?」
「たしか、ここの領地を治めているのは飛び地と言っても、メレンドルフ公爵家だったはずだ。――で、エリーゼと言えば、同じ名前で……」
「えっと……、フルネームを言うのを忘れていました。エリーゼ・フォン・メレンドルフが、私の名前です」
カーネルさんの目が大きく見開かれた。
「そ、それは……。今まで、大変なご無礼を――。未来の王妃様に向かって……」
片膝をついて頭を垂れてしまうカーネルさん。
「あ、カーネルさん。私、そんなに偉くないのでっ!」
「どういうことですか?」
「レオン様が、好きな方が出来たらしくて、婚約破棄されてしまいました。なので辺境の地で――」
「つまり、傷心した心を癒す為に、王都から離れた此処まできたと?」
「そんな感じです。――で、でも! レオン様のことは、悪くは思っていません。好きな人同士で付き合って結婚した方がいいと思いますから」
「それでは、エリーゼ様は、レオン王太子殿下の事を何とも思っていないと?」
「いいえ。――でも、レオン様が、ご自分で決められて幸せを手に入れられるのでしたら、身を引くのが本当にレオン様のことを思っていることだと思いましたので」
「……なんという……健気な……」
空を見上げながら、カーネルさんが声を押し殺して泣いているのが分かってしまう。
ここまでオーバーなリアクションをされるとは思っていなかったので、心が痛いです。
「だ、だから、ここで、この話は終わり! いいですね?」
「……分かりました。――ですが……」
私のお願いに頷くカーネルさん。
そんなカーネルさんは、言い難そうに口ごもるけど……、そんな彼の思いを一蹴するかのように、私の背後からウルリカの「エリーゼ様、皆様、手を止めて聞いておられました」と、いう突っ込みが無常に入ってきた。
よくよく周りを見渡せば、カーネルさんの声が大きかったのもあり、屋敷の修繕をしてくれていた人はもれなく全員が、今の会話を聞いていた。
私は、思わず羞恥から顔を真っ赤にして館の中へと走って戻り、自分の部屋に入り扉を閉めて、体温くらい温かい毛布に顔をうずめた。
「――ん?」
「くぅーん?」
何か違和感が……。
毛布を持ち上げて中を確認すると、そこには腕の中に納まるほどの小さな仔犬が居た。
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