バイスクル

トマト

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その8

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 記憶を手繰りながら、教育学部の廊下をはしる。トモを今日、 家に帰しちゃいけない。
談話室を覗くが、だれもいない。資料室の前の喫煙所に向かう。ヨウコさんが本をめくりながら、たばこをふかしていた。

「すみません。」

「む?さっきぶつかった…」

「あの、トモさんは?トモさん、どこいったかわかりませんか」

「トモはもうバイトに行ったよ。あんた、トモのしりあいだったの?」

「ええ、まあ。バイトって、なんのバイトでしょう?」

「さあ。あのこ、いろいろやってるからねー。」

 またしても、間に合わなかったのか。あきらめかけたが、おもいなおす。いや、まだ夜までになにかできることがあるはずだ。

「ヨウコさん、まだ、しばらくここにいらっしゃいますか?」

「一服したら研究室にもどるけど。なんで、私の名前しってるのさ。」

「んと、トモさんにきいたんですよ。」
 適当にごまかす。

「すみません。あとで、研究室にいってもいいですか?ちょっと、お願いしたいことがあるんです。」

 ヨウコから、研究室と学生課の窓口がある場所をおしえてもらう。
学生課で、校名のはいった封筒を入手し、学生名簿を閲覧する。
現代なら、名簿が簡単にみえるようなことは、ありえないだろう。このころは、プライバシー保護とか何もない時代だったんだ。
簡単な作業をすませ、ヨウコにひとつ頼みごとをすると、もう夜まですることはなくなってしまった。

学校のまわりでも散策することにしようか。
どうにも、元の世界にもどれなくなったら、ココで生きていくためには何が必要かも考えないといけないけれど、今はゆっくり歩いていたい気分だった。

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