藤次郎と滝之丞とたま

トマト

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たま、尾行する

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滝之丞と、話をした たまは 不思議に思っていた。

滝之丞は、お豊を知らないといい、そもそも、若い女から、金をとるなどしない。「どうせとるなら、がめつい大棚の旦那衆から、巻き上げるさ」と笑っていた。
嘘をついているようには見えなかった。

じゃあ、お豊ちゃんが持ち出したお金はどこに行ったんだろう。

人一倍、正義感も好奇心も強いたまは、こっそり、お豊をつけることにした。

菊おばちゃんが「今日も芝居小屋にいった」というので、芝居がおわるころに、こっそり物陰から見ていると たくさんの客が興奮した様子で流れ出てきた。
お豊を見つけられるかしらと、不安になったが、ひとしきり波が引いたあとで、お豊は夢見心地の様子ででてきた。

きょろきょろと、辺りをみまわしたあと、呼び込みの男のもとへいき、小さく畳んだ紙を渡すのが見えた。

以前、境内で見かけたのと、同じ男だ。

どちらを尾けようか、迷ったが、男の方をつけることにした。

男は芝居小屋には帰らず、金貸しの店に向かった。

しばらく、外でうかがっていると、

呼び込み男が、ふっとばされて道に転がり出てきた。

「こんなじゃ、利息にもならねえだろうがああ」

大入道のような大男が、呼び込み男を蹴りとばす。

「すんません。すんません。今日 また、カモに金を持ってくるよう段取りつけてありますから、許してくだせえ」

「カモはまた、若い女か?」

「はい。なかなか器量よしで、へへへ」

「じゃあ、金はいいから、その女連れてこい」

「へい。それで、借金はちゃらに?」

「バカヤロウ!まだ、半分にもなんねーぞ。さっさと、連れてこい!」

そう、怒鳴ると、また蹴り飛ばした。





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