怖い歯医者

トマト

文字の大きさ
上 下
1 / 1

いたい。いたい。

しおりを挟む
「ぐぐう」

営業マン水口は、激痛に顔をしかめた。今朝から歯が痛くてしかたないのだ。

薬屋で、痛み止めを買ったがまったくきかない。

キャンセルできない取引先から戻る途中、どうにも我慢できずに、歯医者に飛び込んだ。
綺麗な受付のおねえさんが困った顔をする

「はあ。うちは予約制なんですが。。」

「頼むよ。痛くて仕方ないんだ」

無理やり頼み込む。

「ちょっと、先生に きいてきますね。」

治療室に引っ込んだ受付がしばらくして、戻ってきた。

「たまたまキャンセルのお客様がいらっしゃったので、診てくださるそうです。どうぞ、おはいりください」

ここは歯科技工士などもおかず、歯科医が一人で、治療にあたっているようだ。

「はい。口を開けてください」
手には小さな金づちのようなものをもっている。


「どこが痛いのかな。ここかな」
金づちで、叩く。ゴン!
「ギュエ!」
めちゃめちゃいたい。

「ああ。ここもいたいかなあ」
ゴン!
「グガ!」
しぬしぬしぬーー

「ああ。かなりひどいむしばになってますねー。これはちょっと、削らないとむりですね。」

歯科医は、ドリルをとりだした。ぎゅいーーんと、耳障りな音がする。
歯科医は歯を削りながら、

「あれ?ま、いいか」

などと、不穏なことをいう。
しまった。はずれの医者だったきがする。

「大丈夫ですよ。たいしたミスじゃないですから。ふふふ。あ。しまった。削りすぎたかなあ。」

抗議しようにも口にドリルをつっこまれたままで、声をあげることもできない。

「カッカへ。。」
「ああ、しゃべらないで。舌に穴あきますよ」

マスクのうえで、キラリとめが光る。

「お客さん、このへんのかたですか。わたし、中学の途中まで、G市にいたんですよね。」

G市は、水口の出身地でもあった。

「ずいぶん、ひどいいじめにあいましてね。いつか、仕返しすることだけを目的に生きてきました。あっ。また、まちがえた」

(この歯医者、たしか『柴田歯科』。
あれ、あいつ。おれたちがいじめて引っ越していったやつ。あいつ、なんて名前だっけ。
。。。バッタ。バッタって、よんでた。。あいつた確か、柴田って、名前だった。)

「ぐああ」
無理やり身体をおこそうと決意したとき、
床全体が、ブルブルと、ふるえた。

「ああ、すみません。隣で工事してまして。時々、振動がつたわるんですよねー。これぐらいなら大丈夫ですけど、地震とか今きたら、怖いですよねー。ひひひ。」

「ほうぷひゃめへー(もう、やめてー)」

涙でぐちゃぐちゃになったとき、

「はい。おしまい。応急措置ですから、またしっかり予約してくださいね」

そういえば、いつの間にか、歯の傷みはだいぶひいていた。

 受付で、治療費をはらっていると、玄関があいて、男が一人はいってきた。

その顔をみて、受付がびっくりする。

「あれ?柴田先生?でかけてたんですか。」

「ああ。キャンセルがでて、ちょっと時間があいただろ。コンビニで、お金おろしてきたんだ。」

受付が、泣きそうな顔で きく

「じゃあ、今、治療室にいるのは、だれなんでしょう?」

「なんだって!」

治療室に飛び込んだ柴田歯科医師の嘆く声がきこえた。

「なんてこった。わたしの大事なコレクション。魔女っ子マジョリンのフィギュアが盗まれたあ」

 水口を治療したのは、ただの泥棒だったのだ。


復讐心に満ちたプロ歯医者と
赤の他人のただの素人

あなたなら、どっちに治療されるのが、いやですか。





しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...