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第7話:レオン君の右足

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家出したボクは転移装置で、遠い国に転移。
ダラクという都市国家に到着。

駆け出しだけど、憧れの冒険者のなることが出来た。

泊まる場所に困っていた時、神官見習いの少女マリアが助けてくれた。
でも彼女の家には、片足を失った弟がいた。



「呪いがある魔物らしくて、司祭様でも回復できない欠損なんです、レオンの右足は……」

明るかったマリアの顔が、急に曇る。
彼女の中で心配ごとなのであろう。

「ちょ、ちょっと姉さん! お客さんがいるのに、そんな顔しないでよ! それよりも、このお兄さんのことを、紹介してちょうだい!」

「あっ、ごめんね、レオン。えーと、この人はハリト君。他の街から来た人で……えーと仕事は……」

「ボクは冒険者です! 合格したばかりの駆け出しだけど」

「えっ⁉ ハリトさんは、冒険者なんですか⁉」

レオン君の目が急にキラキラする。
松葉杖を器用に使って、こっちに迫ってきた。

「ボ、ボクも幼い時から冒険者に憧れているんです! こんな右足だから武器は使えないけど、一生懸命に勉強して、魔法使いになって、冒険者になりたんです!」

レオンは真っ直ぐな目で、ボクの顔を見てきた。
口調も熱く、心が籠っている。

だからボクも応える。

「そうか……冒険者、絶対になれるよ。どんな大きな夢でも、信じて努力していけば、必ず道は開けるから!」

「そ、そうですか! ありがとうございます、ハリトさん!」

レオン君は本当に喜んでいる。
本当に冒険者になりたいんだろうな。・
こんなハンディキャップがあっても、心が全くぶれていない。

それに比べてボクは弱い。
十四歳になるまで、家族に言いなりになっていた。

真っ直ぐなレオン君は、本物の男なのだ。

「ごめんなさい、ハリト君。弟が強引で」

「いや、大丈夫だよ、マリア。すごく立派な弟さんだね」

「ありがとう。私もレオンのことは応援してあげたいの。でも、この街の状況で、その足だと生きていくこも精一杯で……」

マリアはまた暗い顔になる。
弟のことが、よほど可愛いのであろう。
何とか力になってあげたい。

あっ、そうだ。

「ねぇ、レオン君。ボクにちょっと足を、見せてもらっていいかな?」

「えっ、はい。どうぞ?」

ボクは膝をついて、レオンの右足の状況を確認する。

うーん、たしかに呪いがあるような気がする。
だから普通の回復魔法では、欠損を治せないのかもしれない。

「ちょ、ちょっと、ハリト君? 何をするつもりなのですか?」

「よし。ちょっと試してみるけど。大丈夫かな? レオン君?」

「えっ……はい、大丈夫ですが、何を?」

ボクは意識を集中。
魔力を自分の手に集める。

「それじゃ、いくよ……【完全解呪エクス・ディスペル】&【完全治癒エクス・キュアー】!」

キュイーン! ボァーン。

レオン君の全身が、眩しい光に包まれる。

ニョキニョキ♪

直後、レオン君の右足が、欠損部分から生えてくる。
しばらくすると完全な右足が完成。

よかった。
なんとか成功したぞ。

よし、レオン君とマリアに報告だ。

ん?
その時だった。
様子がおかしい

二人とも目を点して、口をあんぐり開けていた。
何か凄い物を見てしまった……そんな表情だ。

どうしたんだろうか?

「ハ、ハリト君……もしかして今の【完全解呪エクス・ディスペル】と【完全治癒エクス・キュアー】?」

「えっ、うん。そうだよ。家庭用の簡単な聖魔法だったけど、なんとか解呪できてよかったよ。もしかしたら呪いも弱かったのかもね?」

「いやいやいやいや……何を言っているんですか、ハリト君! あの呪いは強力すぎて、この街の最高司祭でも、解呪できなかったんですよ!」

「へ? そうな?」

「そうです! それに【完全解呪エクス・ディスペル】と【完全治癒エクス・キュアー】なんて超上級の聖魔法を、ハリト君は使えたんですか⁉ 【神聖浄化乃光ホーリー・ライト・ブレス】だけじゃなくて⁉」

「えっ、うん。そうだよ。【完全解呪エクス・ディスペル】は家の掃除とかで便利にだから、よく使っていたんだ。マリア、知ってた? 汚れって呪いの一種らしいよ。あと【完全治癒エクス・キュアー】は、かすり傷の治療に使っていたよ、我が家では。ほらツバを付けて治す感じで?」

我が家の母さんは、もっと本格的な聖魔法を沢山使える。
あれ、でも、冒険者ギルドでも、みんな【完全治癒エクス・キュアー】に驚いていたような気がしたな。

「はぁ……超上級の聖魔法を家の掃除と、ツバ変わりですか……ですか……何となく、思っていましたが、ハリト君……あなたは“普通”ではないのですね……」

「えっへっへへ……なんか、困らせてごめんね」

「いえ、大丈夫です。墓場の【神聖浄化乃光ホーリー・ライト・ブレス】で、何となく感じていました。だからハリト君のことを、あの後に探していたんですけど……」

「えっ? ボクのことを?」

「いえ、何でもないです。それよりも……レオンの足、ありがとうございます」

マリアは頭を深く下げてきた。

「レオン君、大丈夫? どこか痛くない?」

先ほどから自分の足をじっと見つめているレオン君に確認。
大丈夫かな?

「……はい、大丈夫です。まるで夢のようなことに、言葉が出ずに……動けなかっただけです……ハリトさん」

「そっか。それじゃ、ちょっと歩いてみようか? 回復したてだから、あまり無理しないでね?」

「は、はい……では、いきます。ふう……ああ、歩けます! ボク、歩けます!」

レオン君は見事に歩くことが出来た。

まだ危なげだけど、松葉杖を外し、自分の両足だけで歩いていたのだ。

「レオン! 本当に良かった……」

「お姉ちゃん……」

二人の姉弟は抱きしめ合う。
この数年間、本当に辛かったのであろう。
姉弟の絆の深さを感じる、温かな抱擁だった。

見ているボクも、ジーンと心が温かくなる。

「ふう……それじゃ、晩ご飯の準備をしましょう」

落ち着いてからマリアが、動き出す。
夕食の準備をしてくれるという。

「せっかくの快気祝いだから、なにかご馳走にしたいけど、いつもの質素なご飯になっちゃうけど、ごめんね。レオン」

「うんうん、大丈夫だよ、お姉ちゃん! こんなご時世だから、食事を食べられるだけでも、神様に感謝しないと!」

「そうね……そうよね」

このダランの街は、今は非常時。
お祝いだからといって、ご馳走の食材も買えないのだ。

「あの……よかったら、“ちょっとくらいの料理”なら、ボクもお手伝いしようか、マリア?」

「えっ、ハリト君。料理も出来るのですか?」

「あっ、はい少しは。でも今回はお祝いだから、プロの人に作ってもらったのを出すね」

「えっ? 『プロの人に作ってもらったのを出す』……ですか?」

「それじゃ、このテーブルの上を借りるよ。いくよ……【収納・出】!」

ボワン!

収納魔法を発動。

スゥ、トン。

マリア家のテーブルの上に、収納していたものが出現。

今回出したのは、出来立ての大皿を三品。
あとナイフやフォーク、飲み物などワンセットだ。

「え…………?」

またマリアは目を点にして、言葉を失っている。
出現した料理を見つめながら、硬直していた。

「あっ……もしかして、グラタンとパスタ、チキンの丸焼きは苦手だったか? ごめね。準備する前に、確認しておけばよかったね」

「い、いえ、グラタンとパスタ、チキンの丸焼きは全部大好物なので、問題はないです……と、というか、これは何ですか、ハリト君? どうして食事がいきなり出てくるんですか⁉ しかも料理から湯気が出ているんですか……?」

「あ、そういうことか! これは実家の料理人《シャフ》に作ってもらった料理を、【収納】魔法の中に入れておいたんだ。あっ、ちなみに収納は頑張ると、中の時間も止めておける。だから出来立てなんだ!」

「しゅ、【収納】魔法って、たしか伝説級の特殊魔法ですよね……Sランクの人しか使えない……しかも中の時間を止めることが、出来るんですね……」

「あっ、ごめん。なんか、やりすぎちゃったかな? やっぱり、もう少し落ち着いた感じの料理にすれば良かったかな?」

「うっ……レオン……姉はハリト君が……怖いです」

「あっはっはっは……姉ちゃん、諦めなよ。ボクは良く分からないけど、ハリトさんは凄い冒険者なんでしょ? だからありがたく、ちょうだいしようよ!」

「うっ……分かった……」

なんとかレオン君さんが仲介して、マリアは落ち着てくれた。
まだ少し涙目だけど。

ふう……これでひと段落。
皆で準備して、食卓に着く。

「それではレオン君の全快を祝って、乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」

三人で乾杯する。
ボクとマリアは十四歳で成人だけど、果実ジュース。
未成年のレオン君もジュースだ。

「うん、美味しいね! こんなに美味しい料理、ボク生まれて初めてだよ!」

「そうね……こんなご馳走は、数年ぶりね」

二人とも本当に美味しそうに食べてくれた。
ボクも一緒に食べていく。
食事をしながら二人の話を聞いていく。

マリアとレオン君が、今までどんな生活をしてきたか。
二人の将来の夢も聞いていった。

「あ、そういえばハリトさんは、すごくお姉ちゃんの好みのタイプなんだよ!」

「へっ?」

「だから、この家に泊めてあげるだと思うよ!」

「ちょ、ちょっとレオン……あなた何を言っているのよ!」

「えっへっへへ、果実ジュースで酔っ払っちゃったのかも、ボク」

「もう、仕方がないんだから……」

そんな感じで、楽しい宴だった。

ここには実家のように、豪華なオーケストラの生演奏や、宮廷のフルコースもない。

でも今までボクが食べた中で、一番楽しい夕食会だった。

「ねぇ、ハリトさん。この街で住む所がないなら、しばらくウチにいればいいのに?」

「えっ……でも、マリアが……」

「わ、私も大丈夫ですよ。ハリト君には返しきれない恩が出来たので……」

「ありがとう! それならお言葉に甘えて、新しい住居が決まるまで、よろしくお願いします!」

「やったね、お姉ちゃん!」

「も、もう……」

有りがたい提案を、二人から頂いた。
これで明日からの冒険者ギルドの任務に、集中できるぞ。

「それじゃ、そろそろ方付けをしまよう」

そんな楽しい宴も終わり、就寝の準備となる。

「ごめんね、ハリト君。せまい寝床しかなくて」

「うん、大丈夫だよ。ボクは基本的に、どんな所ででも寝られるから」

「それじゃ、お休み……お姉ちゃん……ハリトさん……」

三人で川の字になって、寝ることにした。
真ん中はレオン君。
狭くてギューギューだけど、温かみのある雰囲気だった。



翌朝になる。
今日から、冒険者ギルドに本格的に通う日。

窓から入ってきた朝日の光で、ボクは目を覚ます。

(ん……なんだ。この柔らかい感触は?)

でも何かがおかしい。
ボクの身体の上に、何かプニプニした感触があるのだ。

(何だろう……これは? ん マリア⁉)

目を開けると、目の前にマリアがいた。
ボクの身体に抱きついていたのだ。

もしや……寝癖が悪いのであろう。

薄い寝着の胸元から、彼女の白い肌があらわになっている。
目のやり場に困る。

「ふにゃ……ふにゃ……ん?」

マリアも目を覚ます。
でも、まだ寝ぼけている。

「ねぇ……マリア。朝だよ?」

「えっ? ハリト君? し、失礼しました!」

寝ぼけていたマリアが、一気に目を覚ます。
立ち上がって、乱れた寝着を直そうとする。

「えっ? キャッ?」

でも足を引っかけて、転んでしまう。
寝着のすそが大きくまくれて、彼女の薄桃色の下着と、真っ白な太ももがあらわなる。

プライベートのマリアは、かなり“うっかりさん”なのかもしれない。

(ふう……これから大変なことになりそうだな……)

こうしてマリア姉弟との共同生活をスタートするのであった。

でも、大丈夫かな……色々と心配だ。
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