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第71話:剣聖エルザとの初対話

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“赤髪の女剣士の少女”
最初に会ったのはボクが冒険者に成りたてのころ。
ハメルーンの街から少し離れた森で、“一角ウサギを狩り”をしていた時に出会った。

彼女は一角ウサギに“少しだけ”似た“一角ウサギもどき”の死骸の側に倒れていた。
目を覚ましていきなり『今の衝撃波は、いったい……ん⁉ そこのアナタ! 危ないわよ! そいつから離れなさい!』みたいなことを叫んできた変な子だ。

何やら面倒くさそうな予感がしたので、ボクはコッソリと離脱。ハメルーンの街で見かけても、ボクは見つからないようにしてきた。

その次に出会ったのは“暗黒古代竜エンシェント・ドラゴンバルドス”が死んだ後。遠くから物凄く高速で、こちらに駆けてきたのだ。

とにかく『この女剣士と関わったら、ボクの平穏な人生が、大きく変わってしまう』という予感があったから、ボクは今まで接触しないように心がけていたのだ。



「あんたはまさか、あの時の⁉ やっぱり間違いないわね! 探したのよ!」

だが今回ボクは油断していた。
まさかこんな場所に人がいるとは思っていなかった。呑気に鼻歌を歌っていたので、向こうも気がつかれてしまったのだ。

これはマズイ。とにかく知らないフリをしてごまかさないと。

「えーと、どちらさまでしょうか? どこかで会いましたか?」

「何を言っているのよ⁉ その特徴的な黒髪を、見間違える訳ないでしょ⁉」

だが白を切る作戦は失敗に終わる。
この大陸では純粋な黒髪は珍しく、ボクも今まで自分と同じ風な髪の人と出会ったことはない。

これは失敗してしまった。白を切る作戦は中止して、違う作戦に移行しないと。
あっ、そうだ。適当に話を合わせて、誤魔化す作戦でいこう。

「あっ、そういえば一角ウサギ狩りで、キミを見かけたことがあるような? いやー、こんな散歩の途中で会うなんで、すごい偶然だね」

「散歩の途中、ですって⁉ こんな魔境のような鉱脈の危険な探索を、“散歩”と言い放つなんて、やっぱりアンタはタダ者じゃないのね⁉ あと魔人将を倒しただけじゃなくて、“暗黒古代竜エンシェント・ドラゴンバルドス”も、やっぱりあんたの仕業なんでしょ⁉」

「えっ、バルドス?」

たしかにボクは“古代竜エンシェント・ドラゴンバルドス”を引き止めるために、必死で戦っていた。

でも最後は何かよく分からない。
何しろ『ボクが《ハンマー剣ソード》で“力いっぱい”叩いたら、黄金色の光が発生して、その後に凄い衝撃波が発生して、気がついたらバルドスは消滅していた』のだ。

だからバルドスの討伐した犯人は、未だに誰なのか不明なのだ。
そのことを含めて赤髪の少女に説明をする。

「な、『黄金色の光が発生させて、バルドスを倒した』ですって⁉ まさか、《剣神》様でも使えない奥義を、アンタが⁉」

「はっはっは……まさか。それにボクがその“まじんしょう”や“バルドス”を倒したった証拠はないでしょ?」

「しょ、証拠⁉ そ、それはたしかにないけど。でも、わたしの勘が告げているのよ! あんたは間違いなく常人ではないって⁉」

“証拠”という単語を聞いて、相手はかなり言葉が弱くなる。おそらく勘だけで、ここまで追ってきた負い目もあるのだろう。
これはねらい目だ。ボクは更に言葉を続ける。

「たしかにボクはあまり普通ではない幼少期を過ごしてきました。でも証拠がないのに、そうやって決めつけるのは良くないと思います。それにボクは“あんた”という名前ではないです。ハルクという名があるんですから!」

「そ、それは申し訳なかったわ。私は《剣聖》エルザよ。エルザでいいわ」

赤髪の女剣士はエルザと名乗ってきた。
雰囲気的に“けんせい”というのは苗字だろうか。本名は『ケンセイ=エルザ』みたいな。

たしか、どこかの国では名と苗字が逆に名乗るはず。ケンセイなんて変わった苗字だけど、人の名前は馬鹿にするのはよくない。ボクは聞き流すことにした。

「それならエルザ。ボクは急いで……いや、散歩で少し急いでいるから、ここで失礼するね」

ボクの今の任務は、この鉱脈をさらに調査をすること。他の人に構っている暇はないのだ。

「ちょ、ちょっと、待ちなさい、ハルク⁉ わたしの話は終わってないわよ⁉」

「でも証拠はないんだよね、エルザ?」

「うっ……そうだけど。ん? というか、あんた、この下の階層に降りるつもりなの⁉ 危ないから止めなさい⁉ わたしもさっき降りて探索してきたけど、この下は加護持ちでも、人が活動きる領域じゃないわよ!」

どうやらエルザは第二階層から戻ってきた帰りなのだろう。真剣な表情でボクのことを止めてきた。

「それに下の階層には“怪しい奴”がいたわ。何をしているか分からないけど、アレは普通じゃなかったわ……」

そして彼女は下の階層で、誰かを発見したらしい。
今のこの鉱脈に立ち入れるのは、ミカエル城からの入り口しかない。ということは、もしかしたらヒニクン国王か、その関係者かもしれない。

「その怪しい奴? どこにいたの、エルザ?」

「えっ? いきなりなによ。場所は覚えているけど、説明はしづらいわ。ほら、鉱脈の中ってクネクネしているから」

エルザが困るのも無理はない。ボクにとっては庭のような坑道も、一般の人からみたら迷路状態。口では説明できないのだ。

「うーん、それは困ったな……あっ、そうだ! エルザは、このあと時間は空いている?」

「えっ、いきなりなによ⁉ 基本的には今はアンタを探す仕事しかしてないから、暇だけど」

「それなら一緒に来てちょうだい! その怪しい連中を見た場所まででいいから!」

口で説明をできないなら、途中まで同行してもらう。これなら最短で目的地に到着できる。

「えっ、一緒に⁉ べ、べつにいいけど。でも、下の階層は危険な場所よ⁉ いくら剣聖の私も長時間の滞在はできないわ!」

「それなら心配無用。こっちに来て、一緒に荷馬車に乗ってちょうだい!」

「荷馬車の乗る? って、どういう意味? って、なに、この乗り物は⁉」

“ハルク式荷馬車チャリオット・参式”を目にして、エルザは言葉を失う。
何しろ馬が引かない自走式の荷馬車は、あまり普及していない。というか他にはないからだ。

「とりあえず説明は走りながらするから、中に乗ってちょうだい!」

固まるエルザを、強引に荷台の中に押し込む。

「えっ、中はこんなに広くなっているの⁉ というかドワーフと、青髪の女の子がいる⁉ 誰⁉」

中に乗っていたのはドルトンさんとサラ。互いに初対面なので驚いている。

「説明と紹介は走りながらするね! それじゃ、転ばないように、そこに座って、エルザ。それじゃ出発!」

こうして新たなる道先案内として、新たなる搭乗者エルザを乗せで、“ハルク式荷馬車チャリオット・参式”は出発。

怪しい人影いた第二下層に、坂道を降りていくのであった。
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