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第17話:新しい任務

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勇者パーティーを解雇されたオレは、新しい街で謙虚に生きていくことを決意。
兄妹パーティー《東方の黄昏たそがれ団》に加入して、冒険者として活動開始。

幼馴染マリナも加入して、皆で新しい装備も入手して順調な日々を過ごしていた。



そんなある日のこと。
オレたち《東方の黄昏団》は、冒険者ギルドから呼びだされる。

全員でギルドの応接室に向かう。
中年の男性、事務局長の話を聞くことにした。

「……という訳で、北の街道の工事現場の警備を、手伝って欲しいんです、ザムスさん」

「なるほど、そういうことか」

パーティーリーダーの剣士ザムスさんが、今回の依頼の話を聞いていた。
オレと女弓士マリナ、女魔術師サラは後ろで話を聞いている。

「市民の生活が困るのは、見捨ておけない。今回の依頼は受けよう」

「おお、ザムスさん。ありがとうございます! では、こちらが証明書です。北の工事現場に着いたら、担当者に見せてください」

「ああ、分かった。それでは早速、準備して向かう」

おっ、交渉は終わったようだ。
全員で応接室を出て、ギルドを後にする。

建物の外に出たこところでオレは、サラに小声で話しかける。

「ねぇ、サラ。今回の依頼って、結局どんな話だったの?」

「えっ……ハリト君、もしかして、ちゃんと聞いてなかったのですか⁉」

「いやー、最初は聞いていたんだけど、事務局さんの話し方が難しくて、途中からは……」

「ふう……やはり、そうですか。ずっと上の空だったので、怪しいと思っていたました。今回の話は簡単に説明すると、工事現場を魔物から守る護衛の仕事です……」

呆れながらも、サラは丁寧に教えてくれた。
それによると次のような感じだった。

・今から少し前に、北の街と結ぶ唯一の山岳街道が、大規模な落石で通行止めになった。

・このムサスの街の穀物の多くは、穀倉地帯の北から仕入れている。そのため街で食糧不足が起きる危険性がある。

・そのためムサスの収める貴族の領主が、自ら陣頭指揮を執って、落石の撤去工事を着手。

・でも落石の影響で山岳地帯の奥から、魔物の群れが工事現場に近づくようになった。

・手強い魔物もいるため、《東方の黄昏たそがれ団》に名指しで依頼がきた。

なるほど。
こういうことか。これは分かりやすく説明だ。

ありがとう、サラ。

「いえ、どういたしまして。ハリト君は魔法に関しては規格外ですが、こういった社会的な常識が、少し抜けているとこがありますよね?」

「いやー、面目ない。長年、師匠と二人きりで生活してきたから、話を聞くのが苦手でさー」

「いえ、気になさらず。逆に全てが完璧すぎるハリト君は怖すぎます。そのぐらい欠点があった方が、可愛げがあります」

「あっはっはは……ありがとう、かな?」

サラと雑談をしながら、今回の依頼について自分でも整理していく。
なるほど、今回は街の人の食糧難を、防ぐための仕事か。

人のために役立つ依頼で、すごくモチベーションが上がってきた。

「さて、ハリトもようやく理解したところで、さっそく向かうぞ」

「「「おー!」」」

パーティーリーダーのザムスさんの合図で、オレたちが街から出発。
北へ向かう街道を歩いていく。

移動は順調に進んでいった。
歩きながら女性陣は雑談をしている。

「ねぇ、サラ。目的地までは遠いの?」

「うーん、そうですね。このペースで少し早歩きでも、丸一日はかなります」

「へー、そうなんだ。けっこう遠いね」

冒険者は基本的に、徒歩移動が多い。

馬は値段が高く、かなり維持費かかる。
乗り合い馬車はゆっくり進むために、短い距離だと逆に遅くなるからだ。

あと潜在的に高い魔力を、冒険者は持つ。
そのため身体能力が高く結局、急ぎ足が一番早くて効率が良いのだ。

(でも丸一日かかるのか。もう少し早く到着して、工事の人を助けてあげたいな……)

そんな女性陣の話を聞きながら、オレはやきもきしていた。

ん?
というか、早く移動すればいいのか。

よし、皆に提案してみよう。

「あのー、良かったら、移動系の補助魔法を使っても、いいですか?」

「うっ……『移動系の補助魔法』⁉ なんか、嫌な予感しか、しないんですが、兄さん……」

「とりあえず話だけも聞いてやろう、サラ。ちなみにハリト、どんな効果があるんだ、その補助魔法は?」

パーティーリーダーのザムスさんに、今回の魔法について説明をする。

「えーと、【移動・身体能力強化《弱》】といいまして、“少しだけ”歩く速さがアップして、スタミナや呼吸も楽になる支援魔法です」

「なるほど、そうか。それじゃ試しに発動してくれ、ハリト」

「えっ……いいんですか、兄さん⁉」

「諦めろ、サラ。慣れていくしかない」

「うっ……分かりました。心の準備をしておきます」

よし、ザムスさんたちの了承も得られた。
これで全員に発動しても問題ない。

オレは意識を集中。

「それでは、いきます……【移動・身体能力強化《弱》】!」

ヒュイーン

支援魔法を発動。
対象は全員。
各自の全身が、緑色に輝く。

「む? これで強化ですか? 今回はなんか普通ですね、ハリト君にしては?」

「当たり前だよ、サラ。何しろ《弱》で、“ちょっと”しか強化できないからね、オレは。それじゃ、皆で駆けていこう!」

オレの号令で、全員で再出発。
北に向かう街道を、小走りで駆けていく。

「ほほう。これは便利だな? かなり速く走っても、疲れがこないな?」

「はい、ザムスさん。そうですね。呼吸や足の疲れも、溜まりにくいので、けっこうスピードを上げても、大丈夫なはずです!」

【移動・身体能力強化《弱》】は本来の足の速さを、急激に向上さる魔法ではない。
あくまでも長距離移動に特化した支援魔法なのだ。

「ふう……どんな危険な魔法かと思えば、今回は“普通”でよかったでした」

「そうだよ、サラ。オレは普通なんだから」

そんな雑談をしながら、四人で街道を駆けていく。
今日は天気も良いから、気持ちがいい散歩感覚。

サラとマリナは周囲の光景を見て、雑談しながら駆けていた。
ザムスさんは基本的に無言で、周囲を確認しながら走っていた。

オレは景色を見たり、雑談をしながら気長に駆けていった。



そして一時間後。
無事に目的地に到着する。

いやー、けっこう時間がかかっちゃったな。
出来れば、もう少し短時間で移動したかった。

でもオレの支援魔法は未熟だから、ここまで時間がかかってしまったのだ。

――――そんな時だった。サラとザムスさんの表情がおかしい。

どうしたのだろうか?

「いえ……何でも、ありません。なぜ、こんなに異常なまでに短時間で到着したのか、自分も分からなくて混乱しているだけです、私は……」

「えっ? 短時間? でも、一時間もかかっちゃったよね?」

「いえいえいえいえ、何を言っているんですか、ハリト君⁉ 丸一……十数時間かかる距離が、たったの一時間ですよ! つまり十数倍の効果があったんですよ、《弱》なのに⁉」

「えっ、そうな? ごめん、サラ。オレ、細かい計算が苦手で」

「うっ……ハリト君が、また……」

「あまり気にしない方がいいよ、サラ。ハリトのこの魔法は、いつもこんな感じだったから」

「マ、マリナ……はやり、貴女まで、そっちの住人だったのですね。兄さん、助けてください……」

「ふう、気にするな、サラ。たぶん今回の支援魔法は、そこまで表面的な効果が体感できない。オレたちも気がつかないぐらいに、どんどん加速して無休憩で移動できたんだろう」

「なるほど、そういうことでしたか。油断し私が愚かでした」

なんかよく分からないけど、サラとザムスさんも落ち着いていた。
よかった。

雑談をしている三人を置いて、オレは一足先に現場を見に行く。

工事現場には無事に到着したけど、かなり大変そうな雰囲気だ。

狭い山岳地帯の街道は、たくさんの落石で通行止め状態。
石もかなりの大きさがあり人力や、魔法でもかなり難しそうな雰囲気だ。

でも、あれを全て排除しないと、ムサスの街の人たちが困るからな。
なんとか警備だけでも頑張らないと。

――――そんなことを考えていた時であった。

工事現場から誰かが近づいて来る。
騎士風な長身の女性だ。

誰だろう、あの人は?
警備の人かな?

ん⁉
なんかオレの方に、真っ直ぐ向かってくるぞ。

「おい、お前は何者だ⁉ まさか賊か⁉」

女騎士は剣を抜いて、訪ねてきた。
かなり殺気だっている。

「えっ? えっ? オレたちはムサスの冒険者です! 冒険者ギルドで依頼されてきました!」

ザムスさんたち三人は、まだ向こうにいた。
とりあえず事情を説明して、誤解を解こうとする。

「ん? 我が町の冒険者ですって?」

「えっ、はい。《東方の黄昏たそがれ団》のハリトと言います。ん? 『我が町』?」

女騎士は妙なことを口にしていた。
どういうことだ?

「そうか……《東方の黄昏たそがれ団》が来たのか。私はムサスの街を収める領主レイチェル=バーンズだ」

「えっ……領主……様⁉」

領主……ということは貴族の人。

これは、どう対応すればいいんだ⁉
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