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第13話:会得
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自由を手にして北に旅立ち、北の名門キタエル剣士学園に入学。
謎の激ヤセでイケメン風に激変、急にクラスの女の子たちからモテモテ。
転入生であるお姫様マリエルが、オレにやけに執着してくる。
放課後も、寮の前まで追ってきたのだ。
◇
「ようやく二人きりで、お話ができますね……フードの剣士様……」
やって来たマリエルの表情は真剣……というか、少し思いつめたような表情だった。
「えーと、マリエルさん? どうして、こんな辺ぴな所に……?」
「フードの剣士様とゆっくり話がしたくて、校舎から尾行してきました……」
「えっ、尾行⁉」
王女様の口からまさかの言葉。
思わず聞き返してしまう。
「一つ、お尋ねします。なぜ、フーブの剣士様は学園で、実力を隠しているのですか?」
「えっ? 実力を隠す?」
言っている意味が分からない。
今日も一生懸命、型の稽古に励んでいた。
一切の手抜きなどない。
「いえ、貴方様は手を抜いていました。あの“三つ目大熊”を一刀両断した実力を……」
「えっ、あの魔獣を? 一刀両断? えっ、誰が?」
話がどんどん、謎の方向に進んでいく。
たしかに“三つ目大熊”はオレの目の前で、絶命した。
原因は謎だが、誰かの斬撃で首を斬られていたのだ。
「な、なぜ、そこまで白(しら)を切るのですか……? 貴方様のあの斬撃が、実は私には一瞬だけ辛うじて見えていましたのに……)
えっ、オレも斬撃?
いったい、この子は何の話をしているのだ、さっきから?
「私はあの斬撃に心を奪われ……そして貴方様の姿を、朝のホームルームで見つけた時は、本当に天にも昇る気持ちでした……それなのに」
思いつめていたマリエルさんの表情が、急に変わる。
「それなのに、どうして、先ほどから白を切るのですか、フードの剣士様⁉」
半分涙目になりながら、オレの方を睨んできた。
「ご、ごめんなさい、マリエルさん。さっきから、何のことか、本当にオレは分からいんだ」
これは嘘や方便でもない。
本当に何のことは理解できなかった。
今までの彼女の話をまとめると……
・あの“三つ目大熊”を一刀両断したのは、オレだと思っている。
・心を奪われた彼女は、この学園まで追ってきた。
・彼女は“三つ目大熊”を倒せるほどの剣士に、何かを頼りたい
こんな感じのことを、先ほどから言っているのであろう。
「と、とりあえず、お茶でも飲んで、少し落ち着いてみませんか?」
「くっ……なるほどです。私のような未熟な剣士には、正体すら明かせないということですね⁉」
「えっ、だから、そういう訳では……」
「それなら分かりました! ここで貴方様に正銘足します、私の本気度を!」
マリエルは思い込みが激しい子のようだ。
オレの話を聞かず、腰の剣を抜く。
訓練用の剣ではなく、刃先の鋭い真剣だ。
「えっ……そんな危ないモノを抜いて、どうしたのかな、マリエルさん……?」
「貴女様ほどの剣士と、私の腕の差は天と地ほど。この宝剣でも、どれほどの穴埋めになるか分かりません。ですが全力でいかせて頂きます! いざ、参ります!」
一切の話を聞かず、マリエルは斬り込んでくる。
凄まじい踏み込みから、突き技を繰り出してきた。
「全力でいかせて頂きます!……『鋭き風よ、敵を斬り裂け!』……剣術技【第二階位】一の型……』」
詠唱と同時に、彼女の剣が光り輝く。
まずい!
この子は本気で、剣術技を発動するつもりだ!
「……【烈風突き】!」
剣術技は発動
直後、マリエルの斬撃と共に、風の刃が繰り出される。
「くっ、これは、ヤバいぞ!」
まともに受けたら大けがをする威力。
オレは意識を集中。
後方に飛び退けて、斬撃を回避する。
「ふう……危なかった……運よく回避できたな、今のを……」
凄まじい斬撃だった。
先ほどのまでオレが立っていた場所に、視線を向ける。
硬い地面が吹き飛んでいた。
これが彼女の剣術技の破壊力の跡だ。
マリエルと距離を取りながら、相手のことを観察する。
(マリエルさんは、ここまで強力な剣術技を、会得していたのか……)
人は誰しも体内に、魔力を持つ。
“剣術技”は魔力をエネルギーとして、詠唱によって発動される剣士の技。
普通の剣技とは桁違い火力を、こうして発することが出来るのだ。
(しかも【第二階位】まで会得しているのか……)
剣術技は【第一階位】から【第五階位】まで、五段階で存在が確認されている。
上の段階にいくほど、火力は圧倒的に上昇していく。
だが最高位の【第五階位】を使える剣士は、大陸でもほんの一握りだけ。
第四階位ですら王国内に、わずかな習得者のみ。
普通の剣士は【第一階位】まで会得できる。
だが死ぬまで努力しても【第二階位】までが限界。
そんな中、マリエルの若さで【第二階位】の取得は、かなり特異。
剣士として、かなりの才能を有しているのだ。
(マリエルさん、凄すぎるな……そういえば【薔薇の剣姫】の“二つ名”を持つ剣士、らしいな……)
今朝のクラスの女子の話を、思い出す。
二つ名を持つ剣士は、それほど多くはない。
与えられる条件は、生まれた時に稀代まれな才能があること。
もしくは多大な功績があって、初めて与えられるものだ。
「“剣術技”と“第二階位”……それに“二つ名”か。どれもオレには無い剣士の誉《ほま》れだな」
一方でオレには何もない。
幼い時から必死に鍛錬してきたが、未だに剣術技を未収得。
もちろん階位も。
クラスメイトの中には既に、【第一階位】を習得済みの者もいるのに。
(そして今の攻撃……マリエルさんは手加減してくれたんだな、きっと……)
先ほどの斬撃は、本当に見事だった。
オレみたいな無才能な剣士に、普通は回避できない。
おそらく彼女の手心を加えた一撃だったのだ。
「わ、私の全力の攻撃を、ここまで完璧に回避……した⁉」
斬撃を放った後の、マリエルさんの様子がおかしい。
目を丸くして、何かに驚いている。
「なるほどです……ありがとうございます、フードの剣士様! ようやく、その実力の一介を出してくれたのですね!」
そしてオレに向かって、感謝を述べてくる。
回避をされたのに、何故か大喜びしていた。
「えっ? どういうこと?」
「それなら、この私も命を賭けて、一矢報いたいと思います! フードの剣士様に認めてもらうために!」
マリエルは話を全然聞いてくれない。
それどころか剣を構え、更に魔力が高めていく。
凄まじい集中と圧力。
先ほど以上の剣術技を、発動しようとしているのだ。
「ふう……次の技は、私でも完璧に使いこなせません。だから命を賭けて放ちます……」
マリエルは覚悟を決めた表情をする。
明らかに今までとは違う。
「受け止めてください、フードの剣士様! 『風の刃よ、嵐のごとく切り裂け!』 ……剣術技【第三階位】一の型……【暴風斬り】!」
剣闘技の発動と同時に、マリエルの全身が光り輝く。
彼女の剣と身体が暴風に包まれ、そのまま斬り込んでくる
「なっ、【第三階位】だって⁉」
まさかの段階の発動に、オレは思わず声を漏らす。
何故なら【第三階位】を完全に会得した者は、大人の腕利き剣士も数少ない。
それを若きクラスメイトが発動出来た。
もはや驚きでしかない。
(いや……これは違う。マリエルさんは完璧にマスターしていないぞ⁉)
意識を集中してよく見る。
マリエルの【暴風斬り】は、どこか未完成。
詳しくは分からないが、直感でオレは見抜いたのだ。
(このままオレが回避したら……マリエルさんの身体が危ない!)
おそらくオレは回避できる気がする。
だがマリエルさんの身体は、行き場失ったエネルギーで暴発してしまう。
策悪の場合、彼女の命が危険だ。
「くっ……助けないと!」
オレは回避の選択を捨てる。
迫ってくるクラスメイトに立ち向かう。
「絶対に助けるんだ……集中するんだオレ……全力で集中して、彼女を助けるんだ!」
そう誓った時だった。
――――目の前の世界が、ゆっくり動き出す。
これはヤバイ。
意識を集中し過ぎて、また走馬灯が見えてしまった。
今のオレは死の淵にあるのだ。
「でも今は有りがたい! 彼女を助けるために、斬撃を相殺するんだ……オレも“剣術技”を放つしかない!」
その時だった。
頭の中に“誰かの声”が響き渡る。
《――――剣術技……【第一階位】壱の型……解除》
(えっ? オレが剣術技の会得を⁉ どうして? いや、今は迷っている暇はない!)
オレは腰だめに訓練剣を構える。
「ふう……」
深く息を吐き出す。
意識を集中して、魔力を高めていく。
今まで感じたことがない高揚感が、全身に漲《みなぎ》る。
「フードの剣士様ぁあ!」
目の前に暴走したマリエルさんが迫る。
よし――――このタイミングしかない。
「『迅雷よ、天を焦がし、大地を斬り裂け』 ……剣術技【第一階位】極の型……」
頭に自然に浮かんできた言葉を、詠唱。
オレの右手の剣が、凄まじい轟雷をまとう。
目の前に、マリエルの暴走した斬撃が到達。
「いくぞ……【雷光斬】!」
オレは雷光の斬撃を、構わずにぶつける。
ドッゴォオオオオン!
直後、凄まじい閃光と雷鳴が弾ける。
【暴風斬り】の暴走斬撃は、跡形なく消滅していく。
よし、やったぞ!
「ん? あっ、マリエルさん!」
衝撃で吹き飛んでいく彼女を発見。
ダッシュで駆けつけ、落下前にキャッチ。
何とか助け出すことに成功する。
「うっ……フードの剣士様? ありがとうございます。流石です……お見事でした……」
腕の中のマリエルさんは無事だった。
かなり体力と魔力を消耗しているが、大きな外傷はない。
「すぐに、医務室に運ぶから、安心してね!」
「はい、ありがとうございます、フードの剣士様……ハリト様……」
マリエルさんは意識を失う。
おそらく魔力を使いすぎて、眠ってしまったのだろう。
すぐに医務室に治療してもらったら、大丈夫なはずだ。
「それにしても……このオレが……剣術技を発動できた……のか?」
まるで夢の様な経験だった。
今でも実感がない。
「どうして、オレは会得できたんだ? それにあの時、頭に響いた声は、いったい誰の……?」
とにかく疑問が多い。
落ち着いたら、調べていく必要がありそうだ。
「それにしても、危険な威力だったな……あまり多用しないにしないとな……あっ⁉」
爆心地の先に、視線を向けた時だった。
まさかの光景に、オレは言葉を失う。
「えっ……吹き飛んでいる? 寮が……オレの住まいが?」
なんとオレの放った【雷光斬】の衝撃で、無料寮が吹き飛んでいた。
跡形もなく更地になっていたのだ。
「ど、どうしよう……これから……」
こうして念願の剣術技を会得できたが、オレは住まいを失ってしまったのだ。
これからどこに住めばいいのだろう……。
謎の激ヤセでイケメン風に激変、急にクラスの女の子たちからモテモテ。
転入生であるお姫様マリエルが、オレにやけに執着してくる。
放課後も、寮の前まで追ってきたのだ。
◇
「ようやく二人きりで、お話ができますね……フードの剣士様……」
やって来たマリエルの表情は真剣……というか、少し思いつめたような表情だった。
「えーと、マリエルさん? どうして、こんな辺ぴな所に……?」
「フードの剣士様とゆっくり話がしたくて、校舎から尾行してきました……」
「えっ、尾行⁉」
王女様の口からまさかの言葉。
思わず聞き返してしまう。
「一つ、お尋ねします。なぜ、フーブの剣士様は学園で、実力を隠しているのですか?」
「えっ? 実力を隠す?」
言っている意味が分からない。
今日も一生懸命、型の稽古に励んでいた。
一切の手抜きなどない。
「いえ、貴方様は手を抜いていました。あの“三つ目大熊”を一刀両断した実力を……」
「えっ、あの魔獣を? 一刀両断? えっ、誰が?」
話がどんどん、謎の方向に進んでいく。
たしかに“三つ目大熊”はオレの目の前で、絶命した。
原因は謎だが、誰かの斬撃で首を斬られていたのだ。
「な、なぜ、そこまで白(しら)を切るのですか……? 貴方様のあの斬撃が、実は私には一瞬だけ辛うじて見えていましたのに……)
えっ、オレも斬撃?
いったい、この子は何の話をしているのだ、さっきから?
「私はあの斬撃に心を奪われ……そして貴方様の姿を、朝のホームルームで見つけた時は、本当に天にも昇る気持ちでした……それなのに」
思いつめていたマリエルさんの表情が、急に変わる。
「それなのに、どうして、先ほどから白を切るのですか、フードの剣士様⁉」
半分涙目になりながら、オレの方を睨んできた。
「ご、ごめんなさい、マリエルさん。さっきから、何のことか、本当にオレは分からいんだ」
これは嘘や方便でもない。
本当に何のことは理解できなかった。
今までの彼女の話をまとめると……
・あの“三つ目大熊”を一刀両断したのは、オレだと思っている。
・心を奪われた彼女は、この学園まで追ってきた。
・彼女は“三つ目大熊”を倒せるほどの剣士に、何かを頼りたい
こんな感じのことを、先ほどから言っているのであろう。
「と、とりあえず、お茶でも飲んで、少し落ち着いてみませんか?」
「くっ……なるほどです。私のような未熟な剣士には、正体すら明かせないということですね⁉」
「えっ、だから、そういう訳では……」
「それなら分かりました! ここで貴方様に正銘足します、私の本気度を!」
マリエルは思い込みが激しい子のようだ。
オレの話を聞かず、腰の剣を抜く。
訓練用の剣ではなく、刃先の鋭い真剣だ。
「えっ……そんな危ないモノを抜いて、どうしたのかな、マリエルさん……?」
「貴女様ほどの剣士と、私の腕の差は天と地ほど。この宝剣でも、どれほどの穴埋めになるか分かりません。ですが全力でいかせて頂きます! いざ、参ります!」
一切の話を聞かず、マリエルは斬り込んでくる。
凄まじい踏み込みから、突き技を繰り出してきた。
「全力でいかせて頂きます!……『鋭き風よ、敵を斬り裂け!』……剣術技【第二階位】一の型……』」
詠唱と同時に、彼女の剣が光り輝く。
まずい!
この子は本気で、剣術技を発動するつもりだ!
「……【烈風突き】!」
剣術技は発動
直後、マリエルの斬撃と共に、風の刃が繰り出される。
「くっ、これは、ヤバいぞ!」
まともに受けたら大けがをする威力。
オレは意識を集中。
後方に飛び退けて、斬撃を回避する。
「ふう……危なかった……運よく回避できたな、今のを……」
凄まじい斬撃だった。
先ほどのまでオレが立っていた場所に、視線を向ける。
硬い地面が吹き飛んでいた。
これが彼女の剣術技の破壊力の跡だ。
マリエルと距離を取りながら、相手のことを観察する。
(マリエルさんは、ここまで強力な剣術技を、会得していたのか……)
人は誰しも体内に、魔力を持つ。
“剣術技”は魔力をエネルギーとして、詠唱によって発動される剣士の技。
普通の剣技とは桁違い火力を、こうして発することが出来るのだ。
(しかも【第二階位】まで会得しているのか……)
剣術技は【第一階位】から【第五階位】まで、五段階で存在が確認されている。
上の段階にいくほど、火力は圧倒的に上昇していく。
だが最高位の【第五階位】を使える剣士は、大陸でもほんの一握りだけ。
第四階位ですら王国内に、わずかな習得者のみ。
普通の剣士は【第一階位】まで会得できる。
だが死ぬまで努力しても【第二階位】までが限界。
そんな中、マリエルの若さで【第二階位】の取得は、かなり特異。
剣士として、かなりの才能を有しているのだ。
(マリエルさん、凄すぎるな……そういえば【薔薇の剣姫】の“二つ名”を持つ剣士、らしいな……)
今朝のクラスの女子の話を、思い出す。
二つ名を持つ剣士は、それほど多くはない。
与えられる条件は、生まれた時に稀代まれな才能があること。
もしくは多大な功績があって、初めて与えられるものだ。
「“剣術技”と“第二階位”……それに“二つ名”か。どれもオレには無い剣士の誉《ほま》れだな」
一方でオレには何もない。
幼い時から必死に鍛錬してきたが、未だに剣術技を未収得。
もちろん階位も。
クラスメイトの中には既に、【第一階位】を習得済みの者もいるのに。
(そして今の攻撃……マリエルさんは手加減してくれたんだな、きっと……)
先ほどの斬撃は、本当に見事だった。
オレみたいな無才能な剣士に、普通は回避できない。
おそらく彼女の手心を加えた一撃だったのだ。
「わ、私の全力の攻撃を、ここまで完璧に回避……した⁉」
斬撃を放った後の、マリエルさんの様子がおかしい。
目を丸くして、何かに驚いている。
「なるほどです……ありがとうございます、フードの剣士様! ようやく、その実力の一介を出してくれたのですね!」
そしてオレに向かって、感謝を述べてくる。
回避をされたのに、何故か大喜びしていた。
「えっ? どういうこと?」
「それなら、この私も命を賭けて、一矢報いたいと思います! フードの剣士様に認めてもらうために!」
マリエルは話を全然聞いてくれない。
それどころか剣を構え、更に魔力が高めていく。
凄まじい集中と圧力。
先ほど以上の剣術技を、発動しようとしているのだ。
「ふう……次の技は、私でも完璧に使いこなせません。だから命を賭けて放ちます……」
マリエルは覚悟を決めた表情をする。
明らかに今までとは違う。
「受け止めてください、フードの剣士様! 『風の刃よ、嵐のごとく切り裂け!』 ……剣術技【第三階位】一の型……【暴風斬り】!」
剣闘技の発動と同時に、マリエルの全身が光り輝く。
彼女の剣と身体が暴風に包まれ、そのまま斬り込んでくる
「なっ、【第三階位】だって⁉」
まさかの段階の発動に、オレは思わず声を漏らす。
何故なら【第三階位】を完全に会得した者は、大人の腕利き剣士も数少ない。
それを若きクラスメイトが発動出来た。
もはや驚きでしかない。
(いや……これは違う。マリエルさんは完璧にマスターしていないぞ⁉)
意識を集中してよく見る。
マリエルの【暴風斬り】は、どこか未完成。
詳しくは分からないが、直感でオレは見抜いたのだ。
(このままオレが回避したら……マリエルさんの身体が危ない!)
おそらくオレは回避できる気がする。
だがマリエルさんの身体は、行き場失ったエネルギーで暴発してしまう。
策悪の場合、彼女の命が危険だ。
「くっ……助けないと!」
オレは回避の選択を捨てる。
迫ってくるクラスメイトに立ち向かう。
「絶対に助けるんだ……集中するんだオレ……全力で集中して、彼女を助けるんだ!」
そう誓った時だった。
――――目の前の世界が、ゆっくり動き出す。
これはヤバイ。
意識を集中し過ぎて、また走馬灯が見えてしまった。
今のオレは死の淵にあるのだ。
「でも今は有りがたい! 彼女を助けるために、斬撃を相殺するんだ……オレも“剣術技”を放つしかない!」
その時だった。
頭の中に“誰かの声”が響き渡る。
《――――剣術技……【第一階位】壱の型……解除》
(えっ? オレが剣術技の会得を⁉ どうして? いや、今は迷っている暇はない!)
オレは腰だめに訓練剣を構える。
「ふう……」
深く息を吐き出す。
意識を集中して、魔力を高めていく。
今まで感じたことがない高揚感が、全身に漲《みなぎ》る。
「フードの剣士様ぁあ!」
目の前に暴走したマリエルさんが迫る。
よし――――このタイミングしかない。
「『迅雷よ、天を焦がし、大地を斬り裂け』 ……剣術技【第一階位】極の型……」
頭に自然に浮かんできた言葉を、詠唱。
オレの右手の剣が、凄まじい轟雷をまとう。
目の前に、マリエルの暴走した斬撃が到達。
「いくぞ……【雷光斬】!」
オレは雷光の斬撃を、構わずにぶつける。
ドッゴォオオオオン!
直後、凄まじい閃光と雷鳴が弾ける。
【暴風斬り】の暴走斬撃は、跡形なく消滅していく。
よし、やったぞ!
「ん? あっ、マリエルさん!」
衝撃で吹き飛んでいく彼女を発見。
ダッシュで駆けつけ、落下前にキャッチ。
何とか助け出すことに成功する。
「うっ……フードの剣士様? ありがとうございます。流石です……お見事でした……」
腕の中のマリエルさんは無事だった。
かなり体力と魔力を消耗しているが、大きな外傷はない。
「すぐに、医務室に運ぶから、安心してね!」
「はい、ありがとうございます、フードの剣士様……ハリト様……」
マリエルさんは意識を失う。
おそらく魔力を使いすぎて、眠ってしまったのだろう。
すぐに医務室に治療してもらったら、大丈夫なはずだ。
「それにしても……このオレが……剣術技を発動できた……のか?」
まるで夢の様な経験だった。
今でも実感がない。
「どうして、オレは会得できたんだ? それにあの時、頭に響いた声は、いったい誰の……?」
とにかく疑問が多い。
落ち着いたら、調べていく必要がありそうだ。
「それにしても、危険な威力だったな……あまり多用しないにしないとな……あっ⁉」
爆心地の先に、視線を向けた時だった。
まさかの光景に、オレは言葉を失う。
「えっ……吹き飛んでいる? 寮が……オレの住まいが?」
なんとオレの放った【雷光斬】の衝撃で、無料寮が吹き飛んでいた。
跡形もなく更地になっていたのだ。
「ど、どうしよう……これから……」
こうして念願の剣術技を会得できたが、オレは住まいを失ってしまったのだ。
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突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった!
那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。
しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」
そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?)
呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!)
謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。
※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。
※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。
※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎
⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。
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