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静かなひととき
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「エクシティウム」の拠点をリューリたちが落としてから、少しの時間が経っていた。
各地にあった組織の拠点が次々に潰され、様々な事後処理が進む中、リューリの周囲にも少しずつ静かな日常が生まれている。
リューリは、ジークとローザの希望もあり、二人の住居である「離れ」に滞在していた。
フレデリクもまた、娘のマリエルと共に「離れ」で生活している。
当初、彼は固辞していたのだが、短期間とはいえ「エクシティウム」の関係者であったことから、世の中の情勢が落ち着くまで、「監視」の名目でジークたちにより保護されることになったのだ。
リューリはフレデリクと共に、魔法兵団が行っている「エクシティウム」の技術の解析に参加したり、マリエルの「友達」として彼女の相手をしたりといった日々を過ごしている。
マリエルは、最近になって魔法に興味を持ったという。
「父様とリューリちゃん、いつも楽しそうに魔法のお話してるでしょ? マリエルも、一緒にお話ししたい!」
そうマリエルにせがまれ、リューリは折を見て彼女に初歩の魔法の手ほどきをするようになった。もちろん、フレデリクには了承を得ている。
この日、リューリとマリエルは「離れ」の庭園で魔法の実技を行っていた。
「この前教えた『水を生成する呪文』だ」
リューリが呪文を詠唱しながら杖を振るうと、その先端から水が噴き出した。
「すごい!」
目を輝かせたマリエルは、手を叩いて感心している。
「では、君も、やってみてくれ」
リューリに促され、マリエルが呪文を詠唱すると、その小さな掌から、花に水をやる際のような柔らかい水の流れが生まれた。
「あれ? リューリちゃんみたいに、ぶしゅーって、ならないよ?」
「いや、初めて詠唱した呪文で、そこまでできるのは大したものだ。君は『魔素との親和性』も高いようだし、勉強すれば、フレデリクのような、すごい魔術師になれるぞ」
首を捻っていたマリエルだが、リューリの言葉に、その表情が明るくなった。
「ほんと? うん、父様みたいになりたい!」
無邪気に喜ぶマリエルを見ていたリューリは、前世を思い出した。
――師匠は魔法のことにしか興味のない人だったが、私が教えられた呪文を上手く使いこなしてみせると、大喜びしていたっけ。今なら、その気持ちが分かる気がする……
「二人とも、そこにいたのか」
その声と共に、フレデリクが現れた。
「父様、おかえりなさい!」
飛びついてきた娘を優しく抱きとめるフレデリクを前に、リューリは胸の中が温まるような気がした。
「さっき、『みずをせいせいするじゅもん』を使ったんだよ」
「もう、そこまで教えてもらったのか?」
マリエルの言葉に、フレデリクが目を丸くする。
「マリエルは覚えがいいからな」
リューリが微笑むと、フレデリクは眉尻を下げた。
「何だか、ずっと娘の相手をしてもらっていて申し訳ないね」
「構わんさ。私も楽しいし。『ままごと』の時は、いつも赤ん坊役だが」
と、マリエルが誇らしげに言った。
「だって、マリエルのほうが、お姉ちゃんだもの」
――たしかに、今の身体の生活年齢はマリエルより一歳ほど下だな……前世と合わせれば中身はフレデリクと変わらないくらいなんだが。
くすりと笑ったリューリだったが、ここ最近考えていた「あること」を思い出し、フレデリクの顔を見上げた。
「近いうちに、ちょっと行きたいところがあるんだが、付き合ってもらえるか?」
「君の頼みなら喜んで……それで、行きたいところとは?」
首を傾げるフレデリクに、リューリは告げた。
「前世の自分が住んでいた家だ」
各地にあった組織の拠点が次々に潰され、様々な事後処理が進む中、リューリの周囲にも少しずつ静かな日常が生まれている。
リューリは、ジークとローザの希望もあり、二人の住居である「離れ」に滞在していた。
フレデリクもまた、娘のマリエルと共に「離れ」で生活している。
当初、彼は固辞していたのだが、短期間とはいえ「エクシティウム」の関係者であったことから、世の中の情勢が落ち着くまで、「監視」の名目でジークたちにより保護されることになったのだ。
リューリはフレデリクと共に、魔法兵団が行っている「エクシティウム」の技術の解析に参加したり、マリエルの「友達」として彼女の相手をしたりといった日々を過ごしている。
マリエルは、最近になって魔法に興味を持ったという。
「父様とリューリちゃん、いつも楽しそうに魔法のお話してるでしょ? マリエルも、一緒にお話ししたい!」
そうマリエルにせがまれ、リューリは折を見て彼女に初歩の魔法の手ほどきをするようになった。もちろん、フレデリクには了承を得ている。
この日、リューリとマリエルは「離れ」の庭園で魔法の実技を行っていた。
「この前教えた『水を生成する呪文』だ」
リューリが呪文を詠唱しながら杖を振るうと、その先端から水が噴き出した。
「すごい!」
目を輝かせたマリエルは、手を叩いて感心している。
「では、君も、やってみてくれ」
リューリに促され、マリエルが呪文を詠唱すると、その小さな掌から、花に水をやる際のような柔らかい水の流れが生まれた。
「あれ? リューリちゃんみたいに、ぶしゅーって、ならないよ?」
「いや、初めて詠唱した呪文で、そこまでできるのは大したものだ。君は『魔素との親和性』も高いようだし、勉強すれば、フレデリクのような、すごい魔術師になれるぞ」
首を捻っていたマリエルだが、リューリの言葉に、その表情が明るくなった。
「ほんと? うん、父様みたいになりたい!」
無邪気に喜ぶマリエルを見ていたリューリは、前世を思い出した。
――師匠は魔法のことにしか興味のない人だったが、私が教えられた呪文を上手く使いこなしてみせると、大喜びしていたっけ。今なら、その気持ちが分かる気がする……
「二人とも、そこにいたのか」
その声と共に、フレデリクが現れた。
「父様、おかえりなさい!」
飛びついてきた娘を優しく抱きとめるフレデリクを前に、リューリは胸の中が温まるような気がした。
「さっき、『みずをせいせいするじゅもん』を使ったんだよ」
「もう、そこまで教えてもらったのか?」
マリエルの言葉に、フレデリクが目を丸くする。
「マリエルは覚えがいいからな」
リューリが微笑むと、フレデリクは眉尻を下げた。
「何だか、ずっと娘の相手をしてもらっていて申し訳ないね」
「構わんさ。私も楽しいし。『ままごと』の時は、いつも赤ん坊役だが」
と、マリエルが誇らしげに言った。
「だって、マリエルのほうが、お姉ちゃんだもの」
――たしかに、今の身体の生活年齢はマリエルより一歳ほど下だな……前世と合わせれば中身はフレデリクと変わらないくらいなんだが。
くすりと笑ったリューリだったが、ここ最近考えていた「あること」を思い出し、フレデリクの顔を見上げた。
「近いうちに、ちょっと行きたいところがあるんだが、付き合ってもらえるか?」
「君の頼みなら喜んで……それで、行きたいところとは?」
首を傾げるフレデリクに、リューリは告げた。
「前世の自分が住んでいた家だ」
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