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襲来

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 隠し通路を通って、フェリクスは、地上にある庭園へ出た。
 彼は、何が起きても反応できるよう、全身の神経を研ぎ澄ませた。
 夜のとばりが降りた庭園の中ほどに、赤く光る光剣こうけんを携えた「侵入者」が佇んでいる。
 それと向かい合う格好で、「リベラティオ」の構成員たちが小銃などを構え、睨み合っていた。
 屋外照明に照らし出された、侵入者の輪郭に、フェリクスは見覚えがあった。 
 よく見れば、その周囲には数名の構成員たちが倒れている。
 彼らが、いずれも、「戦士型の異能いのう」だと紹介された者たちであることに、フェリクスは気付いた。
 そして、銃を構えている者たちは、それ以上の行動がとれないらしい。
 「戦士型の異能いのう」が相手の場合、並の人間の反応速度では、狙いを定めて引き金を引いた時点で、既に懐へ飛び込まれている。
 迂闊に発砲すると、却って危険なのだ。
 「異能いのう」同士の戦いには飛び道具がほとんど用いられず、格闘や剣などを用いた近接戦になるのは、そのほうが確実に攻撃を命中させられる為である。
「フェリクスくん!」
 フェリクスの背後から声をかけたのは、カドッシュだった。
「どこかに隠れていてくれ。あなたが死んだら、この組織は、お仕舞しまいなのだろう?」
「申し訳ありませんが、ここは君に任せるしかないようですね。『彼女』を捕らえて尋ねたいことは多々あります。しかし、無理であれば……」
 カドッシュは言葉を濁した。「リベラティオ」の目的は、あくまで「智の女神」の排除であり、人間に危害を加えることは避けたいのだろう。
「了解した」
 短く答えると、フェリクスは、「侵入者」に向かってゆっくりと数歩進み、足を止めた。
「――待ちくたびれたよ」
 「侵入者」が、口を開いた。
 その声は、忘れもしない、皇帝守護騎士インペリアルガード、グスタフ・ベルンハルトのものだ。
 だが、彼女は、以前戦った際に着ていた制服を身に着けていない。
 フェリクスは、それを見て、違和感を覚えた。
「彼らを……殺したのか?」
 グスタフの周囲に倒れている構成員たちに目をやってから、フェリクスは彼女を見据えた。
「僕の目当ては貴様だけだと言っているのに、彼らが向かってきたから、片付けただけさ。あぁ、光剣は麻痺仕様パラライズモードにしたから、殺しちゃいないよ。数時間は目を覚まさないだろうけどね」
 けだるげに長い髪をかき上げながら、彼女が言った。
「俺が目当て……だと? セレスティアを捕らえに来たのではないのか?」
「僕の要求は、貴様と勝負させろというだけだよ」
「……君の言っていることが理解できないのだが」
 フェリクスは、戸惑っていた。
「前に君と戦ったのは、君がセレスティアを捕らえようとするのを防ぐ為だ。そうでなければ、俺が君と戦う理由が無い」
「ふ……あはははは!!」
 突然笑い出したグスタフを見て、フェリクスは、自分が何かおかしなことを言ったのだろうか、と、ますます困惑した。
 しかし、よく見れば、彼女の目は笑っていなかった。
「貴様に無くても、僕にはある。何なら、『理由』とやらを作ってやるよ。僕が、その気になれば、ここにいる貴様以外の連中を皆殺しにするのは容易たやすいことだ。貴様の、命より大事な『王女』もね」
 グスタフは、唇の端に皮肉な笑みを浮かべ、手にした光剣の柄にある突起部分を操作した。
 すると、赤かった「光のやいば」が、白くなった。
 「麻痺パラライズ」だった仕様モードを、「通常」……つまり殺傷可能な状態に戻したのだ。
 次の瞬間、彼女は、銃を構えていた構成員の一人に向かって跳躍した。
 何が起きているのかすら分かっていないであろう構成員が、光のやいばに両断されるかと思われた刹那せつな
 間に飛び込んだフェリクスは、自分の光剣で、やいばを受け止めた。
「みんな、離れてくれ!」
 鍔迫つばぜいの状態から、フェリクスは叫んだ。
「そう、こなくてはね」
 グスタフが退すさり、一旦、距離をとった。
 今の一太刀ひとたちを受けた瞬間、先刻のグスタフの言葉が「脅し」などではないことを、フェリクスは悟っていた。
 ――結局は、戦わなければ誰も守れないということだ。
 フェリクスは、腹を括った。
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