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神殺しの男
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クルトの隊と別れ、ナタンたちは再び目的地へと歩き出した。
ナタンは、また殺人蔦のような「化け物」に出会うのではないかと冷や冷やしていたものの、「帝都跡」は至って静かなものだ。
リリエの言っていた通り、あれほど大きな個体を維持するには、それなりの食料が必要、つまり、狭い地域にナタンたちの手に余るほどの「化け物」が密集して棲息するのは不可能なのだろう。
やがて、彼らはリリエの設定していた目的地へと到着した。
「この一帯は、帝国時代の建物が比較的残っている場所です。目ぼしい魔導絡繰りは掘り尽くされていると思いますけど……」
そう言って、リリエは小走りに廃墟と化した帝国時代の建物へ近付いていく。
「ま、待ってよ!」
――興味のあるものを前にすると、それしか目に入らなくなるんだな……結構危なっかしいな。
ナタンも、慌てて彼女についていった。
「見てください。この建物は、本当は、もっとずっと高かったんですね」
「え……今、残っている部分だけでも、かなりデカいよね?」
ナタンは、リリエと共に廃墟を見上げた。
上部は崩れているが、形を保っている部分だけなら、四、五階建ての建物と同じくらいの高さがある。
「帝国時代には、最大で百階建ての建造物が存在したと言われています」
「百階?!」
リリエの言葉に、ナタンは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「この前、アミティエに五十階建ての建物ができたって騒いでたところだよ? 帝国時代の技術って凄いんだな……」
アミティエとは、ナタンの故郷、クラージュ共和国の首都である。
現代の先進国と言われているクラージュ共和国を遥かに凌駕していたという、帝国時代の技術の高さは、ナタンの想像を超えていた。
「そうですね。建築技術だけではなく、高層の建造物を作るには、それに耐えうる強度を持つ素材も必要になりますから」
リリエは、荷物から魔導絡繰りと思われる器具を取り出すと、廃墟のあちこちを歩き回っては、何かの数値を測定したり、壁面から削った素材を採取したりしている。
「――そうしてると、やっぱり『研究者』って感じがするね」
ナタンが言うと、リリエは照れたように微笑んだ。
「早速、調査開始というところか」
フェリクスとセレスティアも、二人を追って廃墟の中へと入ってきた。
「しかし、これだけの文明を誇っていた帝国の首都が、一夜にして滅びたなんて嘘みたいだな」
ところどころに不思議な光沢の残る廃墟の壁に触れて、ナタンは呟いた。
「帝国時代、その政治を司っていたのは『考える魔導絡繰り』だという話、ご存知ですか?」
リリエが、ふとナタンに問いかけた。
「うん、どんなことを聞いても正しい答えを出してくれるっていうやつだろ? でも、さすがに『言い伝え』の範囲じゃないかなぁ。まるで神様のお告げみたいだ」
ナタンは肩を竦めた。
「神様のお告げ……帝都壊滅にまつわる話の中に、『神殺しの男』というものがあります」
「『神殺しの男』?」
「そもそも、帝国にあらゆる技術を授けたのは、神の遺した『考える魔導絡繰り』……神の座を奪おうとした一人の男によって、それが破壊されたことで、帝都が壊滅したという話です」
「神の遺した……?」
「荒唐無稽な話にも思えますが、『考える魔導絡繰り』が『神』の遺したものであるとすれば、帝国時代の技術の異常な高さの説明がつくのではないでしょうか」
「そうだね……『言い伝え』の中に意外な事実が含まれているってこともあるよね」
ナタンが頷くと、リリエも嬉しそうに微笑んだ。
「『神殺しの男』か。そんな風に言われているとは」
二人が話しているのを黙って見ていたフェリクスが、ぽつりと呟いた。
セレスティアは、何故か労わるようにフェリクスの背中へ手を当てている。
「フェリクスさんは、何かご存知なのですか?」
「いや、世間一般で言われていることくらいしか分からないな」
リリエに問われたフェリクスが、少し困ったような曖昧な笑みを浮かべているように、ナタンには見えた。
ナタンは、また殺人蔦のような「化け物」に出会うのではないかと冷や冷やしていたものの、「帝都跡」は至って静かなものだ。
リリエの言っていた通り、あれほど大きな個体を維持するには、それなりの食料が必要、つまり、狭い地域にナタンたちの手に余るほどの「化け物」が密集して棲息するのは不可能なのだろう。
やがて、彼らはリリエの設定していた目的地へと到着した。
「この一帯は、帝国時代の建物が比較的残っている場所です。目ぼしい魔導絡繰りは掘り尽くされていると思いますけど……」
そう言って、リリエは小走りに廃墟と化した帝国時代の建物へ近付いていく。
「ま、待ってよ!」
――興味のあるものを前にすると、それしか目に入らなくなるんだな……結構危なっかしいな。
ナタンも、慌てて彼女についていった。
「見てください。この建物は、本当は、もっとずっと高かったんですね」
「え……今、残っている部分だけでも、かなりデカいよね?」
ナタンは、リリエと共に廃墟を見上げた。
上部は崩れているが、形を保っている部分だけなら、四、五階建ての建物と同じくらいの高さがある。
「帝国時代には、最大で百階建ての建造物が存在したと言われています」
「百階?!」
リリエの言葉に、ナタンは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「この前、アミティエに五十階建ての建物ができたって騒いでたところだよ? 帝国時代の技術って凄いんだな……」
アミティエとは、ナタンの故郷、クラージュ共和国の首都である。
現代の先進国と言われているクラージュ共和国を遥かに凌駕していたという、帝国時代の技術の高さは、ナタンの想像を超えていた。
「そうですね。建築技術だけではなく、高層の建造物を作るには、それに耐えうる強度を持つ素材も必要になりますから」
リリエは、荷物から魔導絡繰りと思われる器具を取り出すと、廃墟のあちこちを歩き回っては、何かの数値を測定したり、壁面から削った素材を採取したりしている。
「――そうしてると、やっぱり『研究者』って感じがするね」
ナタンが言うと、リリエは照れたように微笑んだ。
「早速、調査開始というところか」
フェリクスとセレスティアも、二人を追って廃墟の中へと入ってきた。
「しかし、これだけの文明を誇っていた帝国の首都が、一夜にして滅びたなんて嘘みたいだな」
ところどころに不思議な光沢の残る廃墟の壁に触れて、ナタンは呟いた。
「帝国時代、その政治を司っていたのは『考える魔導絡繰り』だという話、ご存知ですか?」
リリエが、ふとナタンに問いかけた。
「うん、どんなことを聞いても正しい答えを出してくれるっていうやつだろ? でも、さすがに『言い伝え』の範囲じゃないかなぁ。まるで神様のお告げみたいだ」
ナタンは肩を竦めた。
「神様のお告げ……帝都壊滅にまつわる話の中に、『神殺しの男』というものがあります」
「『神殺しの男』?」
「そもそも、帝国にあらゆる技術を授けたのは、神の遺した『考える魔導絡繰り』……神の座を奪おうとした一人の男によって、それが破壊されたことで、帝都が壊滅したという話です」
「神の遺した……?」
「荒唐無稽な話にも思えますが、『考える魔導絡繰り』が『神』の遺したものであるとすれば、帝国時代の技術の異常な高さの説明がつくのではないでしょうか」
「そうだね……『言い伝え』の中に意外な事実が含まれているってこともあるよね」
ナタンが頷くと、リリエも嬉しそうに微笑んだ。
「『神殺しの男』か。そんな風に言われているとは」
二人が話しているのを黙って見ていたフェリクスが、ぽつりと呟いた。
セレスティアは、何故か労わるようにフェリクスの背中へ手を当てている。
「フェリクスさんは、何かご存知なのですか?」
「いや、世間一般で言われていることくらいしか分からないな」
リリエに問われたフェリクスが、少し困ったような曖昧な笑みを浮かべているように、ナタンには見えた。
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