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緑の暗殺者
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「うわあああッ!」
ナタンたちの正面にあった茂みから、悲鳴と共に一人の男が飛び出してきた。
脚がもつれて転倒した男の背後から、大人の腿ほどの太さを持つ、緑色の巨大な蛇が素早い動きで迫る。
咄嗟に飛び出したナタンは、男の身体を抱えると、全力で後方に跳躍した。
すかさず、フェリクスが目にも止まらぬ無数の斬撃を繰り出し、蛇を寸断する。
身体の半分近くを斬り落とされながらも、蛇の残った部分は、出てきた時と同じく素早い動きで茂みの中に引っ込んだ。
フェリクスの刀で細切れにされても、ぴくぴくと痙攣するように蠢いている物体を目にして、ナタンは驚いた。
「緑色の蛇かと思ったけど……蛇じゃない??」
切断面から流れ出しているのは、緑色の、血液よりは水に近い液体だ。
よく見れば、その「胴体」には、蛇であれば存在する筈の頭部や骨も見当たらない。
「……まだ……終わりじゃない……あれは、ほんの一部……」
ナタンに抱きかかえられている男が、息も絶え絶えに言った。よく見ると、命に関わるほどではないものの、負傷している様子だ。
その言葉が終わらないうちに、何か重い物を引きずるような音を立てて、茂みの中から巨大な緑色の「蛇」が姿を現した。
先刻の「蛇」が何体も絡まり構成された、巨大な緑色の柱の如き物体……動物とも植物ともつかない、ナタンにとっては未知の生物だ。いや、「蛇」に見えるのは、獲物を狩る為の触手なのだろう。
「皆さん、動かないでください!」
リリエが、これまでに聞いたことのない大きな声で叫んだ。
「あれは、『帝都跡』に生息する『殺人蔦』と思われます! 動くものに反応して獲物を捕食すると……『帝都跡の歩き方』に記述がありました」
彼女の言葉に、ナタンたちは呼吸する以外の動きを止めた。
すると、殺人蔦も動きを止める。
ナタンには、耳など持たぬ筈の殺人蔦が、耳を澄ませて周囲の様子を窺っているように感じられた。
フェリクスが、足元に落ちていた太めの枝を殺人蔦に向かって放り投げる。
次の瞬間、殺人蔦が素早く一本の触手を伸ばしたと思うと、その先端が裂けるように開き、枝を捕らえた。
まるで生き物の顎の如く開いた触手の中に、無数の鋭い棘が生えているのを、ナタンの目は捉えた。
触手に食らいつかれた枝が、瞬く間に粉々にされる。
戦士型の「異能」であっても、下手をすれば逃れられないかもしれない反応速度だ。
「ああして獲物を捕食するのか」
フェリクスが、なるほどとでも言うように頷いた。
「でも、あいつ、目も耳も無さそうなのに、どうやって獲物の位置を探っているんだろう」
ナタンは首を傾げた。小声で話している分には反応を見せないところから、「音」は関係しないようにも思えた。
「あの蔦は、走って逃げている人を追ってきました……あくまで推測ですが、ある程度の速度で動くもの……その周囲の空気の動きを感じているのではないでしょうか」
リリエが小声で言った。
先刻の、フェリクスが投げた枝への反応を思い返せば、リリエの言う通りかもしれないと、ナタンは思った。
「だとすると、このままでは動けませんね……困りましたね」
言って、セレスティアがフェリクスを見た。
「……気を付けろ……奴は、剣で数か所斬ったくらいじゃ、残った部分から再生してきやがる……」
ナタンの腕の中で、逃げてきた男が途切れ途切れに言った。
「俺の脚なら、逃げ切れると思って囮になったが……このザマだ……」
「囮ってことは、他にも仲間がいるのか?」
ナタンの問いかけに、男は力なく頷いた。
「……私に、考えがあります」
そう言って、リリエが魔法の呪文を詠唱し始めた。
すると、殺人蔦の周囲に風が巻き起こる。
殺人蔦は空気の流れが起きた場所に触手を伸ばすが、その先端は空を切るばかりだ。
「そうか、奴が空気の流れで獲物の位置を探っているなら、風が目眩ましになるってことか」
ナタンは、気弱だと思っていたリリエが存外冷静であるのに驚き、そして彼女に対する尊敬の念を強くした。
「あとは、奴が再生できないくらい細切れにすればいいということだな。ナタン、やれるか?」
言って、フェリクスが刀を構えた。
「もちろんだ」
ナタンは、負傷している男を、そっと地面に横たえながら答えた。
ナタンたちの正面にあった茂みから、悲鳴と共に一人の男が飛び出してきた。
脚がもつれて転倒した男の背後から、大人の腿ほどの太さを持つ、緑色の巨大な蛇が素早い動きで迫る。
咄嗟に飛び出したナタンは、男の身体を抱えると、全力で後方に跳躍した。
すかさず、フェリクスが目にも止まらぬ無数の斬撃を繰り出し、蛇を寸断する。
身体の半分近くを斬り落とされながらも、蛇の残った部分は、出てきた時と同じく素早い動きで茂みの中に引っ込んだ。
フェリクスの刀で細切れにされても、ぴくぴくと痙攣するように蠢いている物体を目にして、ナタンは驚いた。
「緑色の蛇かと思ったけど……蛇じゃない??」
切断面から流れ出しているのは、緑色の、血液よりは水に近い液体だ。
よく見れば、その「胴体」には、蛇であれば存在する筈の頭部や骨も見当たらない。
「……まだ……終わりじゃない……あれは、ほんの一部……」
ナタンに抱きかかえられている男が、息も絶え絶えに言った。よく見ると、命に関わるほどではないものの、負傷している様子だ。
その言葉が終わらないうちに、何か重い物を引きずるような音を立てて、茂みの中から巨大な緑色の「蛇」が姿を現した。
先刻の「蛇」が何体も絡まり構成された、巨大な緑色の柱の如き物体……動物とも植物ともつかない、ナタンにとっては未知の生物だ。いや、「蛇」に見えるのは、獲物を狩る為の触手なのだろう。
「皆さん、動かないでください!」
リリエが、これまでに聞いたことのない大きな声で叫んだ。
「あれは、『帝都跡』に生息する『殺人蔦』と思われます! 動くものに反応して獲物を捕食すると……『帝都跡の歩き方』に記述がありました」
彼女の言葉に、ナタンたちは呼吸する以外の動きを止めた。
すると、殺人蔦も動きを止める。
ナタンには、耳など持たぬ筈の殺人蔦が、耳を澄ませて周囲の様子を窺っているように感じられた。
フェリクスが、足元に落ちていた太めの枝を殺人蔦に向かって放り投げる。
次の瞬間、殺人蔦が素早く一本の触手を伸ばしたと思うと、その先端が裂けるように開き、枝を捕らえた。
まるで生き物の顎の如く開いた触手の中に、無数の鋭い棘が生えているのを、ナタンの目は捉えた。
触手に食らいつかれた枝が、瞬く間に粉々にされる。
戦士型の「異能」であっても、下手をすれば逃れられないかもしれない反応速度だ。
「ああして獲物を捕食するのか」
フェリクスが、なるほどとでも言うように頷いた。
「でも、あいつ、目も耳も無さそうなのに、どうやって獲物の位置を探っているんだろう」
ナタンは首を傾げた。小声で話している分には反応を見せないところから、「音」は関係しないようにも思えた。
「あの蔦は、走って逃げている人を追ってきました……あくまで推測ですが、ある程度の速度で動くもの……その周囲の空気の動きを感じているのではないでしょうか」
リリエが小声で言った。
先刻の、フェリクスが投げた枝への反応を思い返せば、リリエの言う通りかもしれないと、ナタンは思った。
「だとすると、このままでは動けませんね……困りましたね」
言って、セレスティアがフェリクスを見た。
「……気を付けろ……奴は、剣で数か所斬ったくらいじゃ、残った部分から再生してきやがる……」
ナタンの腕の中で、逃げてきた男が途切れ途切れに言った。
「俺の脚なら、逃げ切れると思って囮になったが……このザマだ……」
「囮ってことは、他にも仲間がいるのか?」
ナタンの問いかけに、男は力なく頷いた。
「……私に、考えがあります」
そう言って、リリエが魔法の呪文を詠唱し始めた。
すると、殺人蔦の周囲に風が巻き起こる。
殺人蔦は空気の流れが起きた場所に触手を伸ばすが、その先端は空を切るばかりだ。
「そうか、奴が空気の流れで獲物の位置を探っているなら、風が目眩ましになるってことか」
ナタンは、気弱だと思っていたリリエが存外冷静であるのに驚き、そして彼女に対する尊敬の念を強くした。
「あとは、奴が再生できないくらい細切れにすればいいということだな。ナタン、やれるか?」
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