私って何者なの

根鳥 泰造

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第三章 裏切りと復讐の果て

念願成就できました

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 王都に帰還するまでは、軍の総司令官として、軍団を率いていくべきだったが、ナージ村で解散し、そこからは各自、自由行動とすることにした。
 ナージ村に立ち寄ったついでに、薬師の老婆に挨拶しておこうと思ったからだ。
 そして、ナージ村の入り口で、各隊の参謀として、ばらばらになってしまったオリーブの芽のメンバーを待っていると、背後から背中をたたかれた。
「聞いたぞ、メグ、勇者様になったんだってな。凄いじゃないか」
 モローだった。彼と共に、『邪眼の目』の面々もいた。
「まだ勇者じゃないよ。勇者になるには、聖剣エクスカリバーを手にいれなければならないんだけど、それが地下迷宮の四階層に眠っているの。あのS級ボスを攻略しないと、勇者にはなれない」
「すっかり日焼けして、遊んでいたようにしか見えないが、少しは強くなったのか?」
 邪眼の目のリーダーのジョージに皮肉を言われてしまった。
「うん、ケントは寝技で動きを止める方法を考えていて、ミラは衝撃波範囲を二倍に広げ、リットも電撃網を展開する新魔法を開発してくれたし、新たに頼もしい三人の仲間が加わったから」
「人海戦術か。確かに、あのニ十四人の攻撃はすさまじかったからな」
「そうだ、『邪眼の目』も、三階層ボスの攻略に参加してくれない?」
「報奨金次第だな。お前の所が、七人、俺の所が六人で、合計十三人。一人百万クルーゼとして、一千三百万クルーゼを冒険者ギルドが出すと言うなら、引き受けてやるぜ」
 体の良い断りだと、直ぐにわかったけど、メグはダメもとで訊いてみた。
「冒険者ギルドの報奨金は、絶対に無理だけど、私が、六百万クルーゼを『邪眼の目』に出すといったら、協力してくれる?」
「本気か。なら、一人二百万。一千二百万クルーゼだすなら、真剣に参加してやるよ」
 女王陛下から、一千万クルーゼの報奨金を貰い、それが手つかずに残っているけど、一千二百万クルーゼとなると、私の一存では決められない。
「あのボスを攻略するには、少しでも人がいた方が良いから、その程度の条件なら、お願いしたいところだけど、少し持ち帰らせてくれる?」
「ああ、金さえもらえれば、真剣に考えてやる」
「メグ、それはさておき、お前自身は、何か対策を考えているのか。S級というと、とんでもなく強い化け物なんだろう。十三人で戦っても、全滅しかねないだろう」
「うん、正直勝てる気がしない。でも、すこし光明は見つかったかな。嘗ての勇者が使っていたという究極魔法を発動できれば、魔人の動きを遅くできるの。まだ、たったの二回しか、発動できたことがなく、未だにどうすれば発動するのか、よくわかってないんだけど、それを習得すれば、互角に戦える気はしている」
「そいつは、凄い魔法だな。そいつができたら、喜んで参加してやる」
 そんな話をして、彼らと別れた。

 その後、各メンバーが参加していた大隊も、戻って来て、全員が揃った。
 そして薬草の森の入り口まで出向いて、新人三人に老婆を紹介し、ついでに、薬草や毒消しも補充して、王都に帰還することにした。

 その道中で、『邪眼の目』の協力を仰ぎたいので、誰かお金を貸してくれないかと相談すると、ケントが、冒険者ギルドも、三階層ボス攻略の重要性は、十二分に理解しているので、ギルド長に相談すべきじゃないかと言ってきた。
 そして、三階層ボス攻略の報奨金アップを交渉にいったら、二百万クルーゼだった報奨金が、なんと五百万クルーゼにしてもらえた。これなら、邪眼の目の要求金額を払う事もできる。
 早速、ジョージに連絡を取り、討伐協力してもらうように約束を取り付けた。
 出発は五日後として、総勢十三人で、ベルゼブブ討伐に動き出すこととなった。

 そして、地下迷宮三階層に進み、慎重にトラップに引っかからない様にして、最深部まで進んだが、そこで待ち構えていたのは、魔人ベルゼブブではなかった。
「厄災の黒龍。ついにみつけたぞ」
「こんどこそ、仕留めてやる。覚悟しろ」
「この竜が、フェルニゲシュ?」
 潰した筈の両目がしっかりと見開いているで、同種の黒龍かもしれないが、黒龍フェルニゲシュが、ベルゼブブの代わりに、門番をしていた。
 ベルゼブブについては念入りに作戦会議してきたが、これは想定外。
「やはり来たか小娘。今度は前回の様にはいかんぞ」
 同種ではなく、まさに、あのフェルニゲシュだった。胸の鱗も元通りになり、万全な態勢で、口を開け、竜火炎ドラゴンブレスを吐く体勢を取り始めた。
「全員退避」
「ドリャ」
 メグは、一旦引く指示を出したが、狂戦士となったミラは、既に飛び込んで、大ジャンプしていた。
 そして、竜の鼻をハンマーで叩き、口を閉じさせて、竜火炎を止めてくれた。
「モロー、三人と邪眼に、奴の攻撃を教えて、私たちは、翼を壊して、飛べなくする。ケントとミラは左翼を、リットと私で右翼を切り裂くから」
 一旦、距離を取り始めた三人だったが、直ぐに、竜に向かって走り出す。
 洞窟なので高くは飛べないが、それでも飛ばれると厄介なので、翼を潰すのが、正攻法の攻めになる。
 四人はそれぞれ左右に展開して、翼を破壊に行くが、やはり飛び上がろうと羽ばたいてきて、それが風圧攻撃の様になって、思う様に動けない。
 それでも、ケントが改造鉄矢をボーガンで放ち、左翼に穴をあけ、メグも十倍速を掛けて、右翼を切り裂いた。
 再び、竜火炎を放とうとするが、今度はメグが竜の口に雷球を放って感電させ、竜火炎を防ぐ。
 風圧が弱まったことで、ミラのジャンプ攻撃も当てることができ、左翼の骨を折ることに成功し、リットも魔法で、右の翼に、火球で穴をあけることに成功した。
 同時に、邪眼の目の魔導士ロンが、火球をはなってくれたらしく、左翼にも穴が開いた。
 これで、もう飛ぶことも、風圧攻撃することもできなくなった。
「次は爆裂魔法で、腹の鱗を剥がすから、一旦退避。鱗が剥がれたら、削岩機能を出し惜しみせずに、どんどん使って、全員で攻撃するよ」
 そして、リットと二人で正面に飛び込んでいったら、竜が再び、竜火炎の態勢を取った。
 今度はリットが雷球を放って、それを阻止しようとしてくれたが、交わされてしまった。
 時間魔法はクールタイム中で、ここからだと急いで回避しても、あの火炎放射の射程は長く、間に合わない。
「リット、防御魔法を連発して耐えるよ」
 岩柱壁、持続放水、氷壁を三連続で出し、大火傷はしたけど、なんとか丸焦げにされることなく、凌ぎ切った。
 そして、すぐさま、四連続目となる爆裂魔法を放った。
「逃げるよ」
 岩柱壁は既に発動してしまったので、爆風を防ぐ手段がない。
 全力で逃走したが、吹き飛ばされて、骨折までする大怪我を負うことになった。
 邪眼の目のロンが、治癒魔法を掛けてくれたけど、暫くは戦闘不能。
 バン。それでも、皆が頑張ってくれている。
 強烈な大口径ライフルが、鱗が無くなった腹に命中する。
「どりゃ」
「この野郎」
 続けて、ミラとコリンの二人が大ジャンプして、鱗の取れた腹目掛けて、必殺削岩パンチを繰り出した。
 そして、苦しそうにしている竜の腹に、今度は爆裂鉄矢が刺さる。
「死ね」 コリンは、その矢を更に深く刺すように、ハンマーパンチを当て、ミラは、ブレスを吐こうとした口に、再び回転攻撃して、口を閉めさせ、またもそれを阻んだ。
 邪眼の目の面々も、槍、大剣、斧で攻撃参加してくれた。
 邪眼の目の狩人リリーの弓では、硬い皮膚に矢を刺すことすらできないけど、それでも直ぐに目を狙って、視界を遮る攻撃に切替え、前衛が攻撃する隙を作ってくれている。
 なのに、ミミは、ブルブルと震え、ただ茫然とその戦闘を見守っているだけ。
「ミミ、怖いかもしれないけど、勇気を出して。あいつが口をあけたら、エレウィップで感電させて、あの竜火炎を防げるのあなたの武器だけだから」
「ああ、俺のトラップは暫く時間がかかる。それまで何とか、ブレスを吐かせない様に食い止めてくれ」
 モローは、石を金属のワイヤで繋ごうとしていた。どうやら、口を開けられなくする道具を造っているらしい。
 竜火炎は、とんでもない脅威だけど、それさえ防げれば、きっと攻略できる。
 そう思った瞬間、邪眼の目の戦士三人とコリンが吹っ飛んできた。
 竜は身体を回転させ、尻尾攻撃をしてきて、注意していたにも関わず、交わしきれずに食らってしまったのだ。
 ミラとケントは、何とか交わしたみたいで、まだ前衛で攻撃しているが、竜は再び竜火炎の態勢に入る。
 メグも、リットもまだ雷球を出せないし、ミラは、空中から着地態勢で落下しているので、今から再度ジャンプしてハンマーで口を閉じるさせるのでは、間に合わない。
 また、仲間が丸焦げにされてしまう。
 そう思った時、エレウィップが口に跳んできて、感電させることに成功した。
「ミミ、ナイス」「よくやった」
 ミミが勇気を出して飛び込んでくれて、なんとか二人が丸焦げになるのを防いでくれた。
「お前は、ブレス対策専門でいい。少し離れて待機していろ」
 そういうと、ケントが、竜の目、目掛けて銃弾を撃ち込み始めた。
 三発かかったが、先ずは左目を見えなくして、六発掛けて右目にも命中させ、完全に視界を奪う事に成功した。
 その間も、ライフル射撃や、ハンマー攻撃は続いている。
 メグも何とか身体を動かせるようになり、治療は邪眼の目の魔導士に任せて、戦闘を再開した。肋骨を骨折していて、切りつけるだけで痛いが、三倍速を掛けて、肉を切り落とす様に、激しく切り刻んでいく。
 竜は、尻尾攻撃、踏みつぶし、引っかきと多彩な攻撃を仕掛けてきたが、三人は攻撃を交わし、ミカのライフルも含め、少しずつ竜にダメージを蓄積させ続ける。
 竜火炎の態勢になると、ミミが飛び込んで来て、阻止してくれるので、安心して攻撃に専念できる。
「少し、離れてろ」
 モローから指示が出て、一旦引くと、丸い石が二つ付いたワイヤが飛んできて、口の周りに絡みつき、口を開けられなくすることに成功した。
 あとは、体力勝負。もう、必殺兵器も爆裂魔法も出せないが、視力を無くした竜を三人で切り刻んで、行くだけだ。
 二十分程経つと、ジョージやコリン、他のメンバーも戦闘復帰してきて、ついに、あのフェルニゲシュ討伐に成功した。
「よし、ついにやった。フェルニゲシュを仕留めたぞ」
 A級討伐としては、信じがたい程の短時間、四十分程で、仕留めてしまった。
 フェルニゲシュが落とした魔晶玉は、今までに見ことがない銀色のものだった。
 骨折したものが六人も出たが、一人も死ぬことなく、退治することができた。

 でも、ここは通過点。いよいよ、未知の領域、地下四階層が待ち構えている。
「どうする。一旦出直して、聖剣探しは、明日にするか」
「そうね。その方が良いとは思うけど、明日になると、ベルゼブブが戻っているかもしれない。今のうちに、地下四階層に進みましょう」
 メグは、このまま、聖剣探索することを決断した。

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