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第三章 裏切りと復讐の果て
あの魔物使いだけは、許せない
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飼育舎前まで逃げ、振り向くと、追手はいなかった。
「メグ、どうするつもりだ。あの魔獣使いしかいなかったが、直ぐにここにも兵隊が俺たちを探しに来るはずだ。あまり時間はないぞ」
自然の摂理を捻じ曲げて、ワイバーンの雌を卵を産むためだけの道具にしていたなんて、あの男は絶対に許せない。
「いっそのこと、この建屋毎、爆発させて、全滅させるのはどうだい」
あんな可哀そうな状態にされていても、ワイバーンはB級魔物。人間を平気で殺し、私の大切な仲間に大火傷を負わせた敵。ミラのいうとおりに、全滅させてもかまわないとは思う。でも……。
「御免、ワイバーンは殺したくないの」
同情したわけじゃないけど、彼らを魔物の森に返してあげたい。さっき攻撃してきたのだって、あの男に命令されて、仕方なく攻撃してきたに違いない。
魔獣使いのバロックを倒しさえすれば、きっと彼らは分かってくれはず。
でも、問題はワイバーンの子供達。バロックはボスの様な存在らしく、必死になって、彼を守って盾になる。無視して、チビごとバロックを倒す事は可能だけど、そんなことすれば、母親の説得ができなくなる。それに、火球攻撃。遠距離からなら容易に避けられるけど、戦っている背後から吐かれると、直撃を浴びかねない。バロックが強いとは思えないけど、仮にも一軍の将。片手間に相手することはできない筈。
やはり、先ずは火球攻撃を止めてもらう様に説得するしかないけど、興奮していて、話を聞いてもらえなかった。
『精神安定剤は、利かないでしょうか』
セージがナイスな提案をしてきた。
「ミラ、精神安定剤は、あとどれくらいある?」
「確か、あと四本とちょっとかな」
一本で、六回分だけど、あの大きさなら、二倍量は必要そう。
「興奮している雌を冷静にさせたいの。火球を吐いて攻撃してくるけど、何とか掻い潜って、背中に乗って、薬を無理やり飲ませてもらえないかな」
「図体のデカいのは、三十頭くらいいたはずだが、それ全部か?」
「交尾中のは無視していい。一人、三体として四人で十二体。さっきは、十二体くらいの大人の雌が、攻撃していたから、なんとか、火球攻撃してくる大人はそれで抑えられるとおもう」
「えっ、三分の一も飲ませるの?」
「体格が大きいからそれぐらい飲ませないと、効果がでないでしょう。それと、どんなことがあっても、怪我をさせないで。敵だと思われてしまったら、冷静になっても、話し合いどころでなくなるから」
そんな訳で、各自、一瓶ずつ精神安定剤を持って、再び飼育舎に飛び込んだ。
だが、そこには子供のワイバーンが隊列を組んで、待ち構えていた。赤ちゃんの様な一メートルにも満たないものから、大人になる一歩手前位の大きさのものまで、大小さまざまだが、ざっと五十体程の大軍勢。
「やってしまいなさい」
バロックの魔界語の指令と共に、一斉に跳びかかってくる。火球は成体になるまで吐けないのか、火球攻撃はしてこないが、それでも、五十体もが押し寄せてくる。
メグを含め、四人とも体調は万全ではないが、なんとか攻撃を致命傷を負わない様に、交わし続けた。
でも、五十体の一斉攻撃は、流石につらい。少しずつ、切り傷が増えてくるし、疲労も見え始める。足が思う様に動かなくなり、大きなダメージも負い始めた。
「流石に怪我人にこれはつらい。このまま、反撃せずにいると、やられるぞ」
「同意。今はまだ交わせているけど、流石に疲れてきたよ」
「やむを得ない。メグ、中央に衝撃波。絶対に彼らには直接当てないで。リットは沼凍結で動けなくして」
「了解」
メグは、右横の真上から落雷を放ち、ミラが衝撃波を放つと同時に、その手薄になった中央に走り込んでいく。そして、火炎放射で、近寄れない様に威嚇して、中央を突っ切った。残りの三人も、メグの後に続く。
だが、今度は、足を繋がれている雌が火球を吐いてきた。
遠方からの火球なんて、楽に交わせるが、挟撃された形になってしまう。
「メグと、リットはそのまま、彼らを押さえて。私とケントとで、大人の雌に薬を飲ませるから」
二人から薬瓶を受け取って、急いで雌に近づこうとしたが、バロックが慌てて、交尾中ワイバーンの陰に隠れるのが見えた。
なら、作戦変更。もう、彼を守るものはいない。
メグは、火球攻撃を交わしながら、三倍速で、彼の後を追い、切りつけた。
「グワッ」
「子供達を自分の傍に置いておかなかったのが、敗因よ」
彼に猿轡して、縛り、ヒールを掛けて死なないように治療した。
それから、予定通り、火球を交わしながら、近接して、雌の背に跨って、精神安定剤を飲ませ、説得していった。
そして、三体目のワイバーンに飲ませ、説得しようとしていた時だった。
その個体が、キーっと、天に響き渡る程の大声を上げた。
交尾に夢中だったものも、暴れていた子供たちも、火球を吐いていた雌も、全員大人しくなって、彼女を見る。
「皆の者、救世主が降臨した。もう、我らは奴隷ではない。気高き、ワイバーンに戻る時。若者たちよ、かの人間の命に従い、安寧の地を探す旅にでよ」
直ぐに、呼応するように、そこかしこから、クゥンと鳴き声がしはじめた。
「もしかして、あなたがリーダーだったの」
「いや、魔物の森で、捕えられた最初の二匹のうちの一匹に過ぎん。この子たちは、皆、儂の子孫じゃ。儂は長老なだけに過ぎん。それより、若い子供達をどうか魔物の森に返してやってくれないか」
「勿論、そうするつもりだけど、あなたが彼らを引っ張っていってよ」
「そうしたいが、我ら大人は、ここで死ぬつもりじゃ。この翼では、飛ぶことはできんからな」
確かに、治癒魔法を掛けてもこの翼は元にも戻らない。
「それでも、見捨てるなんてできない。なんとか助ける方法を考えるから」
「ありがとう。でも、儂らはもうだめなんじゃ。いろいろな薬で、実験された所為で、奴の餌を食べないと、苦しくて、頭がおかしくなる身体にされてしまっている。だから、若き子供たちだけでよい」
「酷い。あの男に解毒剤を造らせるから、諦めないで……」
「いや、無理じゃ。もし、慈悲があるのなら、私たちを一瞬で苦しまない様に殺してくれんか。あの苦しみに悶えて死ぬのは嫌だからの」
「メグ、何を話しているんだ。ボクたちにも分かる様に通訳してくれ」
メグは、三人にも事情を説明し、どうするかを相談した。
三人とも、彼らの願いを叶えてやるべきだと言ってきて、メグは悩んだ結果、長老の願いを叶えることにした。
ただ、長老の命に背くものも居た。普通に生きていけない身体にされ、死は覚悟しているが、どうせ死ぬのなら、復讐したいと言い出したのだ。
二十体は、その場での安楽死を、四十体は、帝都を襲撃し、兵隊に殺される道を、そして残り四十体の子供は、魔物の森に返すこととなった。
「本当に、ごめんなさい。私がふがいないばかりに」
「何を言う。儂の我儘を聞き届けてもらい、感謝以外にないわ。子供らを頼んだぞ」
安楽死を望んだ二十体のワイバーンと、バロックとを飼育舎に置き去りにして、八十体のワイバーンで、外に出た。人殺しはしたくなかったけど、この外道だけは、どうしてもゆるせなかったし、生かして置いたら、また同じような非道を繰り返すにきまっているから。
「リット、人殺しになるから、あなたはやらなくていい」
「いや、もう砦で、僕は、大量に殺してしまってますから」
私を助けに来なければ、人殺しなんてさせずに済んだのにと、メグは悲しくてならなかったが、リットと二人で、爆裂魔法を飼育舎目掛けて放ち、粉々に吹き飛ばした。
子供たちは、クィンと泣いていたが、爆裂音を聞きつけ、砦から無数の兵士が近づいてくる。
「それじゃ、子供たちを頼んだぞ。皆、行くぞ」
四十体の若い雄と雌のワイバーンが、ロンブル帝国軍に突撃していった。
四人は、残り四十体の子供を引き連れて、カーマン山脈の麓の山道近くの馬の隠し場所へと移動した。馬は四頭繋がれていて、メグの愛馬もそこにいた。
そこで、一旦、休憩を取ってから、魔物の森へと向かう事にした。
小さな子供達ばかりとは言え、四十体ものワイバーンを引き連れて移動していれば、直ぐに見つかると、戦闘を覚悟していたが、若いワイバーンたちが、囮になってくれたお蔭で、兵隊から見つからずに、移動ができた。
魔物の森の入り口までには、三日も掛かったが、なんとか無事、彼らを魔物の森まで連れてくることができた。
「メグ、どうするつもりだ。あの魔獣使いしかいなかったが、直ぐにここにも兵隊が俺たちを探しに来るはずだ。あまり時間はないぞ」
自然の摂理を捻じ曲げて、ワイバーンの雌を卵を産むためだけの道具にしていたなんて、あの男は絶対に許せない。
「いっそのこと、この建屋毎、爆発させて、全滅させるのはどうだい」
あんな可哀そうな状態にされていても、ワイバーンはB級魔物。人間を平気で殺し、私の大切な仲間に大火傷を負わせた敵。ミラのいうとおりに、全滅させてもかまわないとは思う。でも……。
「御免、ワイバーンは殺したくないの」
同情したわけじゃないけど、彼らを魔物の森に返してあげたい。さっき攻撃してきたのだって、あの男に命令されて、仕方なく攻撃してきたに違いない。
魔獣使いのバロックを倒しさえすれば、きっと彼らは分かってくれはず。
でも、問題はワイバーンの子供達。バロックはボスの様な存在らしく、必死になって、彼を守って盾になる。無視して、チビごとバロックを倒す事は可能だけど、そんなことすれば、母親の説得ができなくなる。それに、火球攻撃。遠距離からなら容易に避けられるけど、戦っている背後から吐かれると、直撃を浴びかねない。バロックが強いとは思えないけど、仮にも一軍の将。片手間に相手することはできない筈。
やはり、先ずは火球攻撃を止めてもらう様に説得するしかないけど、興奮していて、話を聞いてもらえなかった。
『精神安定剤は、利かないでしょうか』
セージがナイスな提案をしてきた。
「ミラ、精神安定剤は、あとどれくらいある?」
「確か、あと四本とちょっとかな」
一本で、六回分だけど、あの大きさなら、二倍量は必要そう。
「興奮している雌を冷静にさせたいの。火球を吐いて攻撃してくるけど、何とか掻い潜って、背中に乗って、薬を無理やり飲ませてもらえないかな」
「図体のデカいのは、三十頭くらいいたはずだが、それ全部か?」
「交尾中のは無視していい。一人、三体として四人で十二体。さっきは、十二体くらいの大人の雌が、攻撃していたから、なんとか、火球攻撃してくる大人はそれで抑えられるとおもう」
「えっ、三分の一も飲ませるの?」
「体格が大きいからそれぐらい飲ませないと、効果がでないでしょう。それと、どんなことがあっても、怪我をさせないで。敵だと思われてしまったら、冷静になっても、話し合いどころでなくなるから」
そんな訳で、各自、一瓶ずつ精神安定剤を持って、再び飼育舎に飛び込んだ。
だが、そこには子供のワイバーンが隊列を組んで、待ち構えていた。赤ちゃんの様な一メートルにも満たないものから、大人になる一歩手前位の大きさのものまで、大小さまざまだが、ざっと五十体程の大軍勢。
「やってしまいなさい」
バロックの魔界語の指令と共に、一斉に跳びかかってくる。火球は成体になるまで吐けないのか、火球攻撃はしてこないが、それでも、五十体もが押し寄せてくる。
メグを含め、四人とも体調は万全ではないが、なんとか攻撃を致命傷を負わない様に、交わし続けた。
でも、五十体の一斉攻撃は、流石につらい。少しずつ、切り傷が増えてくるし、疲労も見え始める。足が思う様に動かなくなり、大きなダメージも負い始めた。
「流石に怪我人にこれはつらい。このまま、反撃せずにいると、やられるぞ」
「同意。今はまだ交わせているけど、流石に疲れてきたよ」
「やむを得ない。メグ、中央に衝撃波。絶対に彼らには直接当てないで。リットは沼凍結で動けなくして」
「了解」
メグは、右横の真上から落雷を放ち、ミラが衝撃波を放つと同時に、その手薄になった中央に走り込んでいく。そして、火炎放射で、近寄れない様に威嚇して、中央を突っ切った。残りの三人も、メグの後に続く。
だが、今度は、足を繋がれている雌が火球を吐いてきた。
遠方からの火球なんて、楽に交わせるが、挟撃された形になってしまう。
「メグと、リットはそのまま、彼らを押さえて。私とケントとで、大人の雌に薬を飲ませるから」
二人から薬瓶を受け取って、急いで雌に近づこうとしたが、バロックが慌てて、交尾中ワイバーンの陰に隠れるのが見えた。
なら、作戦変更。もう、彼を守るものはいない。
メグは、火球攻撃を交わしながら、三倍速で、彼の後を追い、切りつけた。
「グワッ」
「子供達を自分の傍に置いておかなかったのが、敗因よ」
彼に猿轡して、縛り、ヒールを掛けて死なないように治療した。
それから、予定通り、火球を交わしながら、近接して、雌の背に跨って、精神安定剤を飲ませ、説得していった。
そして、三体目のワイバーンに飲ませ、説得しようとしていた時だった。
その個体が、キーっと、天に響き渡る程の大声を上げた。
交尾に夢中だったものも、暴れていた子供たちも、火球を吐いていた雌も、全員大人しくなって、彼女を見る。
「皆の者、救世主が降臨した。もう、我らは奴隷ではない。気高き、ワイバーンに戻る時。若者たちよ、かの人間の命に従い、安寧の地を探す旅にでよ」
直ぐに、呼応するように、そこかしこから、クゥンと鳴き声がしはじめた。
「もしかして、あなたがリーダーだったの」
「いや、魔物の森で、捕えられた最初の二匹のうちの一匹に過ぎん。この子たちは、皆、儂の子孫じゃ。儂は長老なだけに過ぎん。それより、若い子供達をどうか魔物の森に返してやってくれないか」
「勿論、そうするつもりだけど、あなたが彼らを引っ張っていってよ」
「そうしたいが、我ら大人は、ここで死ぬつもりじゃ。この翼では、飛ぶことはできんからな」
確かに、治癒魔法を掛けてもこの翼は元にも戻らない。
「それでも、見捨てるなんてできない。なんとか助ける方法を考えるから」
「ありがとう。でも、儂らはもうだめなんじゃ。いろいろな薬で、実験された所為で、奴の餌を食べないと、苦しくて、頭がおかしくなる身体にされてしまっている。だから、若き子供たちだけでよい」
「酷い。あの男に解毒剤を造らせるから、諦めないで……」
「いや、無理じゃ。もし、慈悲があるのなら、私たちを一瞬で苦しまない様に殺してくれんか。あの苦しみに悶えて死ぬのは嫌だからの」
「メグ、何を話しているんだ。ボクたちにも分かる様に通訳してくれ」
メグは、三人にも事情を説明し、どうするかを相談した。
三人とも、彼らの願いを叶えてやるべきだと言ってきて、メグは悩んだ結果、長老の願いを叶えることにした。
ただ、長老の命に背くものも居た。普通に生きていけない身体にされ、死は覚悟しているが、どうせ死ぬのなら、復讐したいと言い出したのだ。
二十体は、その場での安楽死を、四十体は、帝都を襲撃し、兵隊に殺される道を、そして残り四十体の子供は、魔物の森に返すこととなった。
「本当に、ごめんなさい。私がふがいないばかりに」
「何を言う。儂の我儘を聞き届けてもらい、感謝以外にないわ。子供らを頼んだぞ」
安楽死を望んだ二十体のワイバーンと、バロックとを飼育舎に置き去りにして、八十体のワイバーンで、外に出た。人殺しはしたくなかったけど、この外道だけは、どうしてもゆるせなかったし、生かして置いたら、また同じような非道を繰り返すにきまっているから。
「リット、人殺しになるから、あなたはやらなくていい」
「いや、もう砦で、僕は、大量に殺してしまってますから」
私を助けに来なければ、人殺しなんてさせずに済んだのにと、メグは悲しくてならなかったが、リットと二人で、爆裂魔法を飼育舎目掛けて放ち、粉々に吹き飛ばした。
子供たちは、クィンと泣いていたが、爆裂音を聞きつけ、砦から無数の兵士が近づいてくる。
「それじゃ、子供たちを頼んだぞ。皆、行くぞ」
四十体の若い雄と雌のワイバーンが、ロンブル帝国軍に突撃していった。
四人は、残り四十体の子供を引き連れて、カーマン山脈の麓の山道近くの馬の隠し場所へと移動した。馬は四頭繋がれていて、メグの愛馬もそこにいた。
そこで、一旦、休憩を取ってから、魔物の森へと向かう事にした。
小さな子供達ばかりとは言え、四十体ものワイバーンを引き連れて移動していれば、直ぐに見つかると、戦闘を覚悟していたが、若いワイバーンたちが、囮になってくれたお蔭で、兵隊から見つからずに、移動ができた。
魔物の森の入り口までには、三日も掛かったが、なんとか無事、彼らを魔物の森まで連れてくることができた。
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