私って何者なの

根鳥 泰造

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第二章 チーム『オリーブの芽』の躍進

地下三階層は最高難度なのに

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 地下迷宮のある洞窟は、魔物の森の中央、最深部にあるので、森の入り口から、四十キロもの距離がある。通常の冒険者なら、一泊せざるを得ない程の距離に当たるが、メグ達『オリーブの芽』の四人は、四時間足らずで走破する。
 C級なんかは瞬殺し、B級に遭遇しても無視して戦闘回避して、一直線に走り続ける。
 B級魔物だと、流石に討伐するのに時間がかかるし、この森のB級は、逃げる敵を追撃してこないからだ。
 
 そして、地下迷宮のある洞窟に到着したが、ここから先は日の光が差し込まない暗闇の世界。メグが適当な松明代わりになりそうな木を、予備一本を含めて五本程伐採し、それを乾燥魔法で乾燥させ、全員が松明を掲げて、進むことになる。
 周囲は松明の明かりで見えるが、少し先には何があるかもわからない闇の中を、それでも、魔物の森同様に、最短距離でひた走る。
 と言っても、ここのB級魔物は、冒険者を見つけると追いかけて襲ってくるので、強い気配を感じると、多少遠回りしてでも遭遇を回避して進む。急がば周れで、その方が、早く地下三階までたどり着くことができる。
 そして、なんとか、嘗て、ナイトメアが待ち構えていた地下三階に続く通路まで、無傷でたどり着いた。

 問題はここからの地下三階層。とんでもない過酷な世界が待っている。
 強い魔物が沢山いるだけでなく、C級がトラップまで仕掛けて、徒党を組んで待ち伏せしていたりする。
 だから、罠にも警戒して、慎重に進まないと、大変なことになる。

 メグが、メンバー全員に改めて身体強化魔法をかけていると、その地下三階層から、冒険者が駆け上がってきた。
 あの若いケンとトムの二人で、ケンに背負われて、顔面の肉を抉られ、血まみれになって気絶しているジェットもいた。
「メグさん、頼む。リーダーにヒールを掛けてくれ」
 ジェットは、肋骨も折れて肺に刺さっている様で、唇まで真っ青になっていて、治癒魔法だけでは、治らない重態だった。
 それでも、できるだの処置をしておこうと、顔と胸に治癒魔法を掛けはじめ、心配そうにしている二人に問い質した。
「なんで、こんな危険な場所に入り込んだのよ」
 今まで『血塗られたナイフ』では、危険の割りには報酬が低いので、この地下迷宮の依頼を受けてこなかったが、『オリーブの芽』が、地下迷宮で荒稼ぎしていると訊いて、一度様子を見てみようと、依頼を受けることにしたのだとか。
 他の五人について聞くと、ジェットを逃がすために、十頭のコルドホーンの群れと、今も戦っていると言ってきた。
 C級魔物とはいえ、俊敏で、魔法や矢の類の攻撃は当たらないし、近接すると、強烈な前足攻撃や、ジャンプからの衝撃波で攻撃してくる厄介な鹿だ。それが、同時に十匹で襲ってきたら、A級冒険者五人だとしても、歯が立たないに違いない。
「それを早く言いなさいよ。まだ助けられるかもしれないでしょう」
「自業自得だ。無理して進むと、ボクたちも危険な目に遭いかねない」
「ミラの言う通りだ。助けに行くのは構わないが、いつもの様に慎重に周囲に気を配りながら進まないと……」
「一刻も早く行かないと、助けられるものも助けられないわよ」
「師匠は、お人好しだから、諦めて、着いていくしかないでしょう」
 そんな訳て、無謀にも、まだマップができていないエリアへと、四人は、駆け出して行った。

 幸い、トラップにはかからなかったが、B級魔物に追いかけられることになった。
 それでも全速力で振り切り、叫び声がする方向にひた走った。
 そしてそこで、C級のコルドホーンの一団を見つけた。
 十頭と言っていたが、半分は退治したのか、居たのは五頭だけだが、甲冑を着た重戦士一人を弄んでいた。角でお手玉でもしているかのように、放り上げて、パスしあっている。
 恐らく、既に死んでいるとは思ったが、助け出すことにした。
「ミラ、あいつらの背後に衝撃波。リットは沼を出して、嵌ったら凍らせて。ケントは彼の救出をお願い」
 メグは、ミラの衝撃波で、動けなくなっている隙に、二頭の鹿の前足に、裾払いを掛けて、俊敏な動きや、足攻撃ができないようし、同時に、リットに命令した魔法攻撃で、沼に嵌った鹿の足を凍結し、一頭を身動きできなくする。
 リットも同じように、もう一頭の動きを封じ、痺れが取れても、機敏に動ける鹿は、たったの一頭となっていた。
 その間に、鎧の戦士を、リットが救出し、すかさず彼も、鹿退治に参戦する。
 機敏に動ける一頭は、メグが相手をし、動きが鈍い二頭をミラとケントが、そして動けなくなった二頭を、リットが相手して、ものの二分も掛けずに、鹿五頭を葬り去った。
 既に、四人の死体が無残な姿で残されていたが、死んでいると思われた戦士は生きていた。体中骨折し、角で突かれて、瀕死だったが、まだ息をしている。
「ジェットさんは、無事ですか?」
 メグが治癒魔法を掛けていると、微かに声を絞り出して訊いてきた。
「うん、治療はしたから、きっと助かる。あなたも、ゆっくりと休んでいなさい」
 彼もなんとか、回復の兆しが見え、これなら命は助かるに違いないと安堵した。

 その後、ケントが彼を背負って、ケンとトムが待っている合流地点まで運んだが、その間も、魔物が襲ってきて、大変だった。

「あんたら、とんでもなく強かったんだな。あの時は、馬鹿にしてすまなかった」
 リーダーのジェットは、既に意識を取り戻していて、謝罪してくれた。
『メグ様、この者たち、どうなされるつもりですか。この二人だけでは、怪我人を背負って、村まで無事にたどり着けるとは思えませんが……』
 結局、あんなに走り続けて、漸くたどり着いた地下迷宮だったが、今日の探索は断念し、彼ら二人に怪我人を背負わせ、彼らを護衛する形で、キース村まで、送り届けた。


 予定が大幅に、狂ってしまったが、翌日の昼過ぎには、メグ達四人は、地下迷宮地下三階の捜索エリアに到着していた。
 そのエリアの地形や建物配置を地図に書き込んでいき、一軒ずつ、全ての建屋に入り、遺物の捜索も同時にしていく。
 未完成だったマップの最後の地点の石造りの建物の中に入り、慎重に警戒しながら、建物内の捜索を行っていた。
「ここは、他とちがって、随分綺麗に残ってるね」
「ああ、四、五年前まで、誰かが住んでいたみたいだ」
「これ、今までに収集してない遺物ですよね」
 リットが、部屋の隅にあった石の机の下にあった小さなものを拾って、掲げて見せた。
「いったい、何んだろう。変な形の人形だな」
 そこにあったのは、木彫りの不細工なロボットの人形だった。
 メグは、前世の記憶から、これがガンダムだと知っていたが、知っているとも言い出せない。そんなものが何でこんなところにあるのか疑問を抱きながら、知らない振りをした。
「不思議な形のお人形ね。とりあえず、遺物収集は済んだわね」
「マップも完成したし、そろそろ戻らないか。銃弾を補充もしておきたいし」
 まだ、依頼の二つしか、終わっていないが、一旦地下迷宮を出て、魔物の森で比較的、安全ないつもの野営地で、野宿することになった。

 外は、既に真っ暗で、まだ日没頃だと思っていたが、月の位置からすると、夜の七時位らしい。暗闇の中で、緊張しながら、探索していると、時間の感覚が大幅に狂ってしまう。
 早速、全員で食材を調達し、腹を満たすことにした。
 料理担当はミラ。料理なんてしそうにない獣人だが、意外に料理上手で、性格に似合わず繊細な料理を作ってくれる。
 ジンさんの様な、美味しい豪華な料理といかないが、味もなかなかで、メグの料理なんかより、ずっとおいしい。
 ただ、肉料理がないのが玉に瑕。
 動物は殺さないと言っていたが、ベジタリアンではなく雑食で、鳥や貝や魚を捕まえて、食べるらしい。たがら、ちゃんと鳥や魚は料理してもらえるのだが、四つ足の獣だけは、捌いた肉になっていても、調理してくれない。

 そして、翌日の早朝、朝日と共に、眠い目をこすって起き出し、簡単な朝食と、お昼の弁当を準備すると、再び、地下迷宮三階の探索へと向かっていった。
 全員睡眠不足で、欠伸をしたり、首を傾けたりして、身体がだるそうだ。
 二日間、走りどおしで、疲労が溜まっているのに、熟睡する暇がないからだ。
 野営地は、比較的、安全とはいえ、魔物の森の最深部。深夜に何度も、魔物の襲撃がある。
 B級魔物は興味がないのか、一度も襲われたことがないが、C級魔物はいろんな種類の魔物が、頻繁に襲ってくる。
 と言っても、C級魔物一体か、D級数匹程度なので、見張り一人でも撃退できるのだが、その度に、たたき起こされるので、熟睡することができない。
 地下迷宮の依頼が大変な点は、魔物の森、最深部のため、魔物の森で何泊もしなくてはならず、睡眠不足に悩まされるという点にもある。

 そして、この日、いよいよ、三階層ボス攻略に動きだすのだった。

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