私って何者なの

根鳥 泰造

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第二章 チーム『オリーブの芽』の躍進

戦争なんて信じられないけど、チーム強化はしておきました

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 ナージ村から王都に戻り、依頼の報酬を受け取ろうとしたら、ギルド窓口の係は厳しく、薬師のサイン入りの証文を見せても、依頼達成にしてもらえなかった。
 でも、ギルド長に呼ばれ、ワイバーン二匹を討伐した事への感謝を言われ、モーリー王国からの感謝報奨金が出たと伝えられた。ついでに、魔結晶二つも買取って貰え、二百五十万クルーゼも貰う事ができた。
 その時、ギルド長から、不思議な話を聞いた。
 ワイバーンは魔物の森と、ロンブル帝国の一部にしか生息しないのだそうで、そのワイバーンは、ロンブル帝国が送り込んだのではないかと、言ってきた。
 セージが、『ロンブル帝国のワイバーンは、完全に狩りつくされた筈です』と言ってきたので、訊いてみると、最近、ワイバーンを飼育して増やしているとの噂があるのだとか。
 魔物の飼育技術が確立できていること自体信じがたいが、魔獣を思い通りに操れるなんて、もっと信じられない。
 とはいえ、カーマン山脈にワイバーンが生息していないのなら、ロンブル帝国が送り込んだと考えるしかないのも事実。
 もし、ロンブル帝国が、本格的にモーリー王国に対し、侵攻をしようとしているのなら一大事。戦争になり、魔物狩りどころではなくなる。
「まだ戦争が起きるとは決まっていないが、その時は、冒険者にも傭兵としては戦ってもらいたいと、国王の使者から協力要請されてしまった。だから、君達にも、協力してもらいたいと、こうして時間を取ってもらったわけだ。君たち『オリーブの芽』の事は、私も大いに期待して、応援している。君たちだからこそ、こんな話を打ち明けたんだから、この話は他言無用でお願いする。頼んだよ」
 応援してくれるのは、嬉しいし、他の人に吹聴する気も毛頭ないけど、戦争とは困ったことになってしまった。人間同士で殺しあうなんて、絶対に嫌で、ギルド長の頼みでも、素直に従えない。
 まあ、あのワイバーン襲撃は、私たちの所為ではないと分かって、心苦しさもなくなったし、戦争が起きるとは限らない。
 いずれにせよ、チームの戦力強化はしておくつもり。

 ミラはもうバーサーカーになっても問題なくなり、一人でB級魔物を無傷で狩れるほどの戦力になったけど、約束したミラのための強力な武器造りから始めることにした。
 新しいハンマーの設計図を書き、いつもの様に、鍛冶屋の大将に試作品の製造をお願いした。

 ついでに、リットの戦力強化のために、拳銃も製作依頼しようかと考えたけど、今回はやめることにした。私が扱えない程重いので、彼にはまだ早いという判断。
 でも、最近急激に背が伸びてきて、私と同じ背の高さになった。あっという間に、ケント位の背の高さになりそうで、今度の十六歳の誕生日に、拳銃をプレゼントするつもり。
 その代わりと言うのは変だけど、リットには懇切丁寧に土魔法を指導してあげた。

 本当にこの子は血筋なのか、執念なのか分からないけど、魔力が尽きるまで、ひたすら練習し、みるみる土魔法を習得していく。弟子ながら、感心する。
 これで、四属性魔法を全てマスターしたことになり、大賢者は無理でも、相当な魔導士になるのは間違いない。
 そのうえ、魔法のクールタイム中に、拳銃を使いこなしたら、本当に化け物級。
 まあ、時間魔法まで使える私ほどではないけど、ミラ、ケントと共に頼もしい仲間に成長していく。
 これなら、本当に四人だけで、あの厄災の黒龍フェルニゲシュを討伐できそうな気がしてきた。

 二日程で、そのハンマーが出来上がって来て、早速その威力を試してみることにした。
 といっても、二十五キロもあって重いので、納品された宿屋で、武器をお披露目して、ミラ自身に運んでもらう。
「はい。これが新しいハンマー。今までのものより五キロ重くなっているけど、ここをこうして回転させると、取り外せて、十キロ軽くできる。つまり、今までのハンマーより、五キロ軽くなる。バランスが悪くなるので、推奨しないけど、バーサク化しないで、戦うのなら、これの方が、高く飛べる筈よ」
「どれどれ」
 怪力ミラは、片手で楽々とそのハンマーを持ち上げる。
「確かに軽い。槌を尖らせて、破壊力を増した訳だな。そのうちに、潰れる気はするが、ありがとう。でも、外したり付けたりすのは嫌だな」
 そう言って、外した片方の槌の部分を取り付け始め、この武器の肝の部分に気が付いた。
「これはなんだ。押すと引っ込むぞ」
「先端を少し尖らせたのは、これを仕込むためのおまけのようなもの。この武器の本当の秘密はここなんだ。これで、フェルニゲシュの硬い鱗も破壊できるはず。実際に使って、確かめてみて。じゃあ、出かけましょう」

 そんな訳で、今日は王都から、少し離れた石切り場に、皆でやってきた。徒歩だと、三十分以上掛かるが、銃弾づくりの実験場にも使わせてもらった場所で、大きな音を出しても、迷惑を掛けずに済むし、大きな石がそこら中に転がっているので都合がいい。
「バーサーカーになると、こんな大きな石でも、壊してしまいそうだから、普通の状態で、こっちの側で、叩いてみてくれる」
「バーサク化したって、こんな大きな岩は砕けない。ましてや、生身でこれを叩くなんて嫌だね。魔物や地面を叩くのは問題ないが、硬い石なんて叩くと、手が痺れて、しっかりと握っていられなくなる」
「そうなんだ。知らなかった。割れる筈なんだけど、どうしよう。それじゃ、威力確認できないね」
 メグは、態とそう言って、困った顔をした。
「分かったよ。確かに、砕けるなら、問題ないからな」
 ミラは、まんまとメグの作戦に引っかかり、ハンマーを振りかざした。
「ドリャ」
 思いっきり、その岩を叩いたが、ガンと鈍い音がしただけで、岩はびくともしない。
 ミラも手がしびれたのか、ハンマーを押し付けたままの姿勢で、顔を歪めている。
 だが、その数秒後、岩に罅が広がっていき、砕け散った。
「大成功。これなら、フェルニゲシュの硬い鱗の上からでも、ダメージを与えられるし、鱗を割ることだってできる」
「凄い威力なのは認めるが、手が痛いぞ。砕けても直ぐに割れなきゃ、反動は全てこっちに返ってくるんだからな」
「まさか、魔宝石を起爆剤にしたのか。確かにあの大きさなら、爆発力は遥かに大きくなり、そのエネルギーを全て一点に集中させたら、とんでもない破壊力になる」
 ケントは、直ぐに秘密に気づいた。
 魔結晶の破壊力の十分の一にも満たない破壊力でも、全体に散逸して広がる破壊力を、一方向に集中させれば、その破壊力は、魔結晶の爆発以上になる。
 魔石玉で、弾丸を飛ばす薬莢と同じ原理を応用し、槌の中に仕込んだ魔宝石を爆発させ、先端一点に、その力を集中させた。
「うん、魔宝石は高価だし、魔宝石交換も手間がかかるので、ここぞという時にしか使えないけど、致命傷を与えることができる」
 その後、魔石玉の破片を取り除き、新たな魔宝石をセットする方法を教えたが、ミラは面倒だと、あまり乗り気じゃなかった。
 もっと、喜んでもらえると期待していただけに、少し残念。
 でも、確かに魔石玉交換が大変すぎるのは認める。もう少し、簡単に扱える改良が必要だと認識した。
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