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第四章 真相は闇の中

六月六日 真犯人との遭遇

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 翌日の午後二時過ぎ、神野は磯川から電話を貰った。
「先輩、ビンゴでした。足立准教授が、葛西美羽と付き合いのあった化学専攻の学生の名を覚えていました。三箇山という名で、当時、脱法ドラックと呼ばれた違法麻薬を密かに研究していたそうです。東大の在籍者を問い合わせしたら、三箇山姓は独りだけ。三箇山徹という男です。OB名簿から、現在の職場も分りました。これから、彼に会いに行ってきます」
 それを訊いて、神野は居ても立っても居られなかった。今日から、自分の担当捜査に専念すると決めたばかりなのに、磯川と待ち合わせをして、一緒に話を聞くことにした。

 神野は、磯川と上野駅で待ち合わせして、車で、三箇山徹が起業した池袋の会社へと向った。途中、磯川から、足立教授から聞いたという三箇山について、詳細に話をきいた。
 三箇山が、『カマキリは泣いた』に登場していたヘロインを精製した化学科の学生で間違いない。そして、彼の実験を手伝っていた女学生が居たのも事実らしい。その女性に関しては名前すら覚えていないらしいが、写真を見れば分ると話していたそうだ。
 おそらく、それは真由に違いないと神野は思ったが、磯川には何も話さなかった。
 そうこうしている内に、現地着き、駐車させる場所を探したが、何処も一杯たった。
「僕が聞き込みしてきますから、先輩はここで待ってて下さい」磯川がそう言いだした。
「何を言ってる。三箇山は、殺人犯の可能性が高い。単独聞き込みは危険過ぎる」
「先輩の方こそ、田沼修治殺しの捜査を続けていると分ると、折角の係長の椅子が、オジャンになるでしょう。ここは、任せてください。これを持って来ていますし」
 磯川は背広を開き拳銃をちらと見せた。はっきりとはしなかったが、防弾チョッキも身に付けているらしい。
 それでも、二人で行くべきとは思ったが、駐車場が見つからない現状では仕方がない。
「すまないな。じゃあ、俺はここで待ってるから」
 神野は、駐車禁止エリアの道路脇に車を止め、磯川を送り出した。
 神野は、車の中から、磯川が入って行ったオフィスビルを見上げた。ビルは八階建で、入っているテナントの看板を見ると、スポーツジム、マッサージ店、風俗店が入った雑居ビル。三箇山の会社があるという八階は、何も看板が出ていないが、真面な化学会社とは到底、思えない。もしかして、危険ドラッグを製造する違法な会社の様な気がしてきた。
 その上、二階と三階とを占めるスポーツジムの看板のマークをどこかで見た気がする。
 その記憶を手繰っていると、安田真由の部屋で見た事に気づいた。
 同時に、昨晩、四係の新人大石から聞き出した事も思い出す。凛を殺した犯人は身長、百五十五センチ程の短髪の女性だ。
 神野は、慌てて車から降り、磯川を追いかけた。
 真由を信じたい一心から、冷静に真実が見えなくなっていた。真由が凛殺しの真犯人の可能性だってある。

 既に、エレベータは、八階フロアに到着している。でも、何時まで経っても、エレベータが降りてこない。エレベータは一機しかなく、神野は仕方なく階段で、八階まで駆け上がる事にした。
 八階フロアまで息を言切らして、一気に駆け上がった。
 八階のエレベータ前には、血痕が飛び散っていて、エレベータから足だけが覗き、開閉を繰り返している。
 中を覗くと、仰向けになったまま、磯川が死んでいた。首にロープが巻き付けたままになっていて、顔面を、めった刺しされていて判別困難だが、服や体型は、磯川に間違いなかった。
 そして、磯川が携帯していた筈の拳銃まで奪われて、無くなっている。
「キャー、人殺し」背後から声が聞えた。
 振り向くと、真由が立っていた。
「なんで、あなたがこんな所に居るの?」
 真由は、神野が殺人事件から外されていると聞いていたので、神野を見て驚いてる。
「真由、お前が磯川をやったのか?」
「そんな訳ないじゃない。私はたまたまここのスポーツジムに来ていて、エレベータが全く動かないから、なにがあったのかと見に来ただけよ」
 スポーツジムは二階と三階で、ここは八階だ。俺が階段を駆け上がる時に追い抜いたのなら、分らなくもないが、五フロアを歩いて登ってきたにしては、到着が早過ぎるし、息も切らしていない。
 神野は、真由が凛と磯川を殺しの犯人だと確信し、警戒した。盗んだ拳銃を所持している様には見えないが、近くに三箇山が拳銃を持って、隠れている可能性もある。
 神野は周囲をキョロキョロと警戒しながら、エレベータから出た。
「嘘だ。磯川がお前を調べ廻っていると知って、殺すことにしたんだろう」
「違う。もし私が殺したのなら、返り血を浴びる筈でしょう。返り血なんてどこにも無い」
「分った。話は署で訊く。手を上げろ」
 神野は、そう言って、腰の手錠を取り出した。
「私が犯人だと思っているの。信じて……」
 そう言って、彼女は手を上げずに近づいて来て、神野は後ずさる。真由を信じたい気持ちはあるが、凛と磯川を惨殺した凶悪犯だ。
 そして、彼女が右手を背へと回した瞬間、神野は殺されると脅えた。
 背中に、奪った拳銃を隠し持っているに違いないし、五年前、信頼していた須藤刑事が、突然発砲して来た時の事を思い出したからだ。
 神野は、拳銃も警棒も携帯していないかったが、翔太に貰った折り畳みナイフが有った事を思い出した。
 真由が、背中から、黒い拳銃の様なものを取りだそうした瞬間、神野は彼女の拳銃を抑えようと飛び込みながら、ナイフも抜いた。
 そこに真由も飛び込んで来て、彼女の右腕を押さえる筈が、そのナイフは彼女の胸に突き刺さっていた。
 そして、彼女の右手から、落ちたのは拳銃ではなく、黒いボイスレコーダった。
「あなたに、これを聞いてもらいたかっただけなのに……。私はあなたを愛していた。貴方を守りたかっただけなの」
 そう言って崩れ落ち、真由は意識を失った。
 神野は「どうして」と呟きながら、真由を抱きしめて、泣き続けた。

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