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第二章 勇者一行としての旅
勇者というのは大変です
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無事にクリフトに帰還し、僕だけ別行動して、マンションを解約し、カール部長に挨拶にいった。
「部長、酷いですよ。騙したんですね」
「すまん、すまん。売り言葉に買い言葉で、つい引けなくてっな。でも、お前なら暗殺できるのではと思っていたが、やはりだめだったか」
「僕は忘れていましたが、気配感知のスキルを持っていて……」
「気配感知でも気づかれない筈だが、レベルアップスキルだからか。レベルマックスにまでなると、隠密と不可視でも、通用しないということか。勉強になったよ。それで、勇者一行はどうなんだ」
「SSランクなので当然かもしれませんが、とんでもない人たちばかりです。自分が無能だと、改めて思い知らされました。A級ダンジョンは、遊び場と考えていて……」
今回の隠れダンジョン攻略の話をすると、カール部長も呆れていた。
「お前は、まだ入ったばかりだから、意図が分からないのは仕方がない。直ぐに仲間の行動が分かる様になるさ。ともあれ、お前も念願の勇者一行なれたんだ。おめでとう。で、勇者ユリは美人なのか? あんなに気の強い女だと、尻に敷かれるのは間違いないが、勇者ユリも気があるようだし、頑張れよ」
「別に僕は……」
否定しようと思ったが、正直、大好きだ。二十七歳になっていも、昔と変わらず可愛いし、正義感もあり、訓練を怠らず、常に挑戦を続ける僕のヒロインだ。僕なんかとは、到底釣り合わないが、魔王討伐したら……。
つい、そんな考えまで浮かんでしまった。
部長からは、最後に、「俺たちの為に魔王を倒してくれよ。頑張れ」と応援してもらい、その日はホテルで宿泊し、翌朝、王都ラクニスへと向かった。
列車を降りると、皆が待っていて、再びその列車に乗って、終点クラウスへと向かう事になった。
勇者一行となると列車も個室車両で、寝台にかわるソファが四つもある応接室のような室内で、好きに飲み食いできて、快適そのもの。
「どこに行くんですか?」
「魔王討伐に決まってるでしょう」
「まずは、リットのダンジョン」
「ぺセププにリベンジしてやる」
「思い出すだけで、鳥肌がたつ。でも、二度目と同じ失敗はしない」
この化け物じみた勇者一行を大敗させたという四天王ぺセププについて話を聞いたが、単なる格闘家の魔人らしい。必殺技の様なものもなく、自らに強化魔法を施し、殴る蹴るの攻撃をするだけ。だが、その移動速度が尋常じゃなく、範囲攻撃すら当てられない。瞬間移動しているかのような高速移動をするのだそう。
「魔王って、当然その四天王より強いんだよね。勝てるの」
「おそらく、一度じゃ勝てない」
「初見で勝てるほど甘い相手じゃないのは確実ね」
「全員、死なないように鍛えている」
「皆、しっかりしなさい。負けてもいいつもりじゃ、勝てないわ」
「勿論、勝つつもり」
「全力で戦うさ。勝つためにも鍛えている」
「弱気になっているわけじゃない。冷静な分析をしただけよ。ぺセププよりずっと強いというし」
「そうね、胸を借りるつもりで全力を出しましょう。死なずに諦めない限り、いつかは勝てるし」
死なない前提で、なんとも楽観的だが、それが勇者一行なのかもしれない。
終点のクラウスは、この高速列車でも十六時間もかかり、到着は明朝ということで、この日はこの個室で寝ることになったが、寝台は四つしかない。
「新入りのユウスケは椅子で寝て」と言われ、僕だけ、一人用ソファで寝たが、リクライニング可能で、毛布もあって、熟睡することができた。
明朝、終点駅を降りると、正規軍らしき軍人がぞろぞろと降りて来た。総勢五十人程で、今回の魔王討伐に参加する精鋭部隊なのだそう。先の魔王討伐では五万人もの援軍が居たそうだが、ダンジョンのトラップと魔界での戦いで、ほとんど壊滅し、その生き残りを再編成した援軍という事だ。国王からは今回は倍の援軍を送ると提案されたらしいが、精鋭でなければ犬死にするだけなのでと、生き残りの精鋭のみにしてもらったということらしい。
その隊長らしき人が、歩み寄って来て、勇者ユリに挨拶した。
「これより先、我々は別動にて魔界に向かいますので、一時、お別れとなります」
「ローラント、皆を頼んだわよ」
「一人も欠けることなく合流できるよう心がけます。勇者様もお気をつけて」
S級ダンジョンは、ここから車でも一日半かかる距離にあるらしいが、大型バス等はないらしく、分隊ごとに、リットまでの移動手段を確保して、リットにて集合し、そこから徒歩で、S級ダンジョン攻略に向かう予定なのだそう。
僕らはというと、やはりリットまでの移動手段を探すところから始めるのだそうで、既に、その手段を探しに、フレイアはいなくなっていた。
「この街、温泉もあるんでしょう。温泉入りたいんだけど」
列車の中で聞いた話だと、このクラウスには、古代神殿や、素晴らしい景観の滝という観光名所があるだけでなく、良質の湯量豊富な硫黄泉の温泉もあるのだそう。湯衣という水着のような服を着て入る混浴で、前回の遠征時もここで一泊し、皆で観光して、温泉に浸かったという話だった。
「そんな急ぐ必要はないし、私も温泉にははいりたいけど、フレイアが行っちゃったから」
「連絡便は週に二便のはずだから、心配しなくても、この街で泊ることになるわよ」
「ここのアイスは濃厚で絶品なんだ。食べにいこう」
そんな話をして、改札を抜けてフレイアを探そうとしていると、そのフレイアがダッシュで戻ってきた。
「急いで、丁度、リットに向かう商人がいて、乗せてもらえることになったから」
十年振りに温泉に浸かって、ゆったりして疲れをとるという僕の夢は、この男装姫君のせいで崩れ去った。
その商人は、ミミウスと言う名の老人で、リットに注文の品の納品にいくという話で、軽トラックの様な運搬車の荷台は、既に半分以上が荷物の山。その荷台の空きスペースに乗せてもらえることになったのだが、五人だと、かなり狭い。しかも、クラウスから少し離れると、舗装路で無くなるので、激しく揺れて、乗り心地は最悪だった。
丸一日も、こんな車で移動するのかと思うと、ぞっとした。
S級ダンジョンがあるというリットについて聞いてみると、一応、小都市になっているが、人口一万人にも満たない寂れた街なのだそう。
嘗ては、魔水晶採掘で栄え、二十万人もの人がいた大都市で、鉄道の終点は、そのリットと計画されていたらしい。だが、魔水晶を掘りつくすと、急速に寂れて過疎化していき、鉄道計画も中止になり、今は見る影もない廃墟のような街になっているのだとか。
因みに、この世界の都市基準は、世界人口が地球の十分の一以下なので、全てが十分の一程度と考えていい。
地球基準では、都市は人口五十万人以上になるが、この世界の基準では五万人以上。王都ラクニスやクリフトには、実際に五十万人以上がいるみたいだが、貿易都市ロッテルは五万人程度だし、観光都市クラウスも六万人だそう。
夕刻頃、魔鉱石の補給と食事のため、とある村に立ち寄った。人口百人にも満たない小さな村だが、近くに魔鉱石の採掘場があり、安く魔鉱石を買えるのだそう。
先ずは魔鉱石を補給し、宿をさがしたが宿屋等はなく、食堂にて宿泊できるとの話で、そのお店に立ち寄った。
でも、宿泊可能な部屋は、一つしかなくベッドも二つしかないという話だったので、トラックの周りで野営することになった。
こんなことなら、温泉に浸かってゆっくりと疲れを取ってからにしたかった。クリフトのホテルで一泊しているが、浴槽がない部屋だったし、ダンジョン攻略での野営や、椅子での車中泊だけで、身体の疲れが十分にとれていないのだ。
「あんたたち、リットなんて田舎町に何しにいくんだい」
その村の飲食店で注文を済ませると、ミミウスさんが僕らに尋ねて来た。
ユリが応えると思っていたが、なぜか困った顔をしていて、他の三人も沈黙していて応えない。
仕方ないので、僕が魔王討伐に行くと話したら、皆から睨まれた。
「なんと勇者様の御一行であらせたか。そんなことも知らず失礼した。おい、この人たち、勇者様御一行だぞ」
「もう知らない。ユウスケの責任だからね」
程なく、ユリの言った意味を、知ることになった。次々と注文していない料理がでてきて、高価なお酒も出してくれ、ただで飲み食いし豪遊することになったのだ。
しかも、つぎつぎと村民が集まって来る。
「私、この村の村長のトコシムと申します。こんな田舎までお越しいただきありがとうございます。町を挙げて、歓迎させていただきますので、どうか私たちの願いを聞き届けて頂けないでしょうか」
「私たちにできる事でしたら」
「ありがとうございます。ところで、勇者様はどなたですかな」
「この方です」 僕以外の全員が、僕を指さして来た。
「勇者ユウスケ様です。私たちはそのお付きで……」
「ユウスケ様、実はゴブリンが村の娘を襲って……」
この村近くに、ゴブリンのアジトができ、この村の食糧や娘を奪っていくようになり困ってるので、そのゴブリン達を討伐をしてほしいという依頼だった。
突然、ゴブリンが湧いたのかとユリが訊くと、車で三十分ほど先の山に、二か月程前にダンジョンが出現し、そこからやってきたらのではないかという話だった。国には報告してあるが、国からの討伐隊がいつまで待っても派遣されず、ダンジョン攻略できるものもいないので、未攻略のまま放置されていた。
「分かりました。手分けして、そのゴブリンのアジト攻略と、ダンジョン攻略とをお引き受けします。それで、その代わりというわけではないんですが、今晩の宿を探していて……」
ユリが引き受けて、先ほど野宿しようと決めたのに、宿を要求した。どうやら、僕が野宿と聞いて、不満そうにしていたのを見抜かれていたらしい。
「五人様同時は無理ですが、別々でもよろしければ、喜んで用意させて頂きます」
そんな訳で、この食堂の宿泊施設と、村長宅と、万事屋とに、二人づつ、泊まれることになった。
宿泊先はくじ引きで公平に割り振りを決め、村長宅にはユリとローラ、この食堂にアーロンとフレイア、万事屋宅には僕とミミウスと決まった。
「ミミウスさんは、いつまで出発を待って頂けますか?」
「朝出発の予定でしたが、この村で商売することにしましたので、昼過ぎまでは待ちます。ですが、流石にそれ以上は」
流石に未踏破ダンジョンを半日で攻略するは無理なので、ミミウスさんとはここでお別れになりそうだ。
「いろいろと便宜を図って頂き、ありがとうございます。では、早朝日の出と共に出発しましょう。村長さんの方で、ダンジョンまで車を手配してもらえるそうなので、村長宅に集合ということで」
そんな早くから出発ということは、本気で半日でダンジョン攻略するきなのかと一瞬思ってしまったが、やる気を見せるポーズに違いないと解釈した。
ユリの趣味を封印して、一階層二十分で攻略していくとしても、六時間で、十八階層が限界だからた。
その食堂で解散となり、僕とミミウスとで、万事屋へと歩いていると、突然、ミミウスが言ってきた。
「私は、この辺で失礼させてい抱きます。勇者様と一緒に寝泊まりするなんて、滅相もないです。私は車の中で寝ますので」
そんな訳て、僕一人で、泊まる事になってしまった。
万事屋は、この村で一番の商人と言う話で、この村一の豪邸に住んでいて、家族総出で歓迎してくれた。旦那と奥様、息子二人と娘一人の五人家族で、子供は他にも長女がいるそうだが、既に嫁いだとの話だった。
奥様とお嬢さんは、とても綺麗な人で、両手に花状態で、勇者様、勇者様と、接待してもらった。二人とも、胸の谷間を強調するナイトドレスでおめかししていて、僕はついその胸の谷間に見入って興奮してしまったほどだ。
お風呂も足が延ばせるほどの大きな浴槽があり、寝室のベッドもふわふわで快適だった。
だが、勇者一人での宿泊となったのは大失敗だった。寝ているとベッドに万事屋の令嬢が潜り込んできたのだ。
「なにを考えているんだ」
「勇者様の子種が欲しいの。両親も賛成していることだから」
「御両親も何を考えているんだ。とにかく戻りなさい」
「私、駆け落ちして、連れ戻された出戻りなの。生娘ではないし、もう嫁の貰い手もないと思うから」
美人で胸も大きく、据え膳食わぬはという格言まで、思い浮かんだが、僕は必死に自制し、彼女を説得した。
「私のこと、そんなに嫌いですか」彼女は泣き出してしまって、宥めるのも大変だった。
結局、僕は好きな彼女がいるからと説明して、納得して帰ってもらったが、危うく僕が暗殺対象になる所だった。
少し寝たのと、興奮してしまったのとで、結局、ほとんど眠ることができず、最悪な一夜となった。
「部長、酷いですよ。騙したんですね」
「すまん、すまん。売り言葉に買い言葉で、つい引けなくてっな。でも、お前なら暗殺できるのではと思っていたが、やはりだめだったか」
「僕は忘れていましたが、気配感知のスキルを持っていて……」
「気配感知でも気づかれない筈だが、レベルアップスキルだからか。レベルマックスにまでなると、隠密と不可視でも、通用しないということか。勉強になったよ。それで、勇者一行はどうなんだ」
「SSランクなので当然かもしれませんが、とんでもない人たちばかりです。自分が無能だと、改めて思い知らされました。A級ダンジョンは、遊び場と考えていて……」
今回の隠れダンジョン攻略の話をすると、カール部長も呆れていた。
「お前は、まだ入ったばかりだから、意図が分からないのは仕方がない。直ぐに仲間の行動が分かる様になるさ。ともあれ、お前も念願の勇者一行なれたんだ。おめでとう。で、勇者ユリは美人なのか? あんなに気の強い女だと、尻に敷かれるのは間違いないが、勇者ユリも気があるようだし、頑張れよ」
「別に僕は……」
否定しようと思ったが、正直、大好きだ。二十七歳になっていも、昔と変わらず可愛いし、正義感もあり、訓練を怠らず、常に挑戦を続ける僕のヒロインだ。僕なんかとは、到底釣り合わないが、魔王討伐したら……。
つい、そんな考えまで浮かんでしまった。
部長からは、最後に、「俺たちの為に魔王を倒してくれよ。頑張れ」と応援してもらい、その日はホテルで宿泊し、翌朝、王都ラクニスへと向かった。
列車を降りると、皆が待っていて、再びその列車に乗って、終点クラウスへと向かう事になった。
勇者一行となると列車も個室車両で、寝台にかわるソファが四つもある応接室のような室内で、好きに飲み食いできて、快適そのもの。
「どこに行くんですか?」
「魔王討伐に決まってるでしょう」
「まずは、リットのダンジョン」
「ぺセププにリベンジしてやる」
「思い出すだけで、鳥肌がたつ。でも、二度目と同じ失敗はしない」
この化け物じみた勇者一行を大敗させたという四天王ぺセププについて話を聞いたが、単なる格闘家の魔人らしい。必殺技の様なものもなく、自らに強化魔法を施し、殴る蹴るの攻撃をするだけ。だが、その移動速度が尋常じゃなく、範囲攻撃すら当てられない。瞬間移動しているかのような高速移動をするのだそう。
「魔王って、当然その四天王より強いんだよね。勝てるの」
「おそらく、一度じゃ勝てない」
「初見で勝てるほど甘い相手じゃないのは確実ね」
「全員、死なないように鍛えている」
「皆、しっかりしなさい。負けてもいいつもりじゃ、勝てないわ」
「勿論、勝つつもり」
「全力で戦うさ。勝つためにも鍛えている」
「弱気になっているわけじゃない。冷静な分析をしただけよ。ぺセププよりずっと強いというし」
「そうね、胸を借りるつもりで全力を出しましょう。死なずに諦めない限り、いつかは勝てるし」
死なない前提で、なんとも楽観的だが、それが勇者一行なのかもしれない。
終点のクラウスは、この高速列車でも十六時間もかかり、到着は明朝ということで、この日はこの個室で寝ることになったが、寝台は四つしかない。
「新入りのユウスケは椅子で寝て」と言われ、僕だけ、一人用ソファで寝たが、リクライニング可能で、毛布もあって、熟睡することができた。
明朝、終点駅を降りると、正規軍らしき軍人がぞろぞろと降りて来た。総勢五十人程で、今回の魔王討伐に参加する精鋭部隊なのだそう。先の魔王討伐では五万人もの援軍が居たそうだが、ダンジョンのトラップと魔界での戦いで、ほとんど壊滅し、その生き残りを再編成した援軍という事だ。国王からは今回は倍の援軍を送ると提案されたらしいが、精鋭でなければ犬死にするだけなのでと、生き残りの精鋭のみにしてもらったということらしい。
その隊長らしき人が、歩み寄って来て、勇者ユリに挨拶した。
「これより先、我々は別動にて魔界に向かいますので、一時、お別れとなります」
「ローラント、皆を頼んだわよ」
「一人も欠けることなく合流できるよう心がけます。勇者様もお気をつけて」
S級ダンジョンは、ここから車でも一日半かかる距離にあるらしいが、大型バス等はないらしく、分隊ごとに、リットまでの移動手段を確保して、リットにて集合し、そこから徒歩で、S級ダンジョン攻略に向かう予定なのだそう。
僕らはというと、やはりリットまでの移動手段を探すところから始めるのだそうで、既に、その手段を探しに、フレイアはいなくなっていた。
「この街、温泉もあるんでしょう。温泉入りたいんだけど」
列車の中で聞いた話だと、このクラウスには、古代神殿や、素晴らしい景観の滝という観光名所があるだけでなく、良質の湯量豊富な硫黄泉の温泉もあるのだそう。湯衣という水着のような服を着て入る混浴で、前回の遠征時もここで一泊し、皆で観光して、温泉に浸かったという話だった。
「そんな急ぐ必要はないし、私も温泉にははいりたいけど、フレイアが行っちゃったから」
「連絡便は週に二便のはずだから、心配しなくても、この街で泊ることになるわよ」
「ここのアイスは濃厚で絶品なんだ。食べにいこう」
そんな話をして、改札を抜けてフレイアを探そうとしていると、そのフレイアがダッシュで戻ってきた。
「急いで、丁度、リットに向かう商人がいて、乗せてもらえることになったから」
十年振りに温泉に浸かって、ゆったりして疲れをとるという僕の夢は、この男装姫君のせいで崩れ去った。
その商人は、ミミウスと言う名の老人で、リットに注文の品の納品にいくという話で、軽トラックの様な運搬車の荷台は、既に半分以上が荷物の山。その荷台の空きスペースに乗せてもらえることになったのだが、五人だと、かなり狭い。しかも、クラウスから少し離れると、舗装路で無くなるので、激しく揺れて、乗り心地は最悪だった。
丸一日も、こんな車で移動するのかと思うと、ぞっとした。
S級ダンジョンがあるというリットについて聞いてみると、一応、小都市になっているが、人口一万人にも満たない寂れた街なのだそう。
嘗ては、魔水晶採掘で栄え、二十万人もの人がいた大都市で、鉄道の終点は、そのリットと計画されていたらしい。だが、魔水晶を掘りつくすと、急速に寂れて過疎化していき、鉄道計画も中止になり、今は見る影もない廃墟のような街になっているのだとか。
因みに、この世界の都市基準は、世界人口が地球の十分の一以下なので、全てが十分の一程度と考えていい。
地球基準では、都市は人口五十万人以上になるが、この世界の基準では五万人以上。王都ラクニスやクリフトには、実際に五十万人以上がいるみたいだが、貿易都市ロッテルは五万人程度だし、観光都市クラウスも六万人だそう。
夕刻頃、魔鉱石の補給と食事のため、とある村に立ち寄った。人口百人にも満たない小さな村だが、近くに魔鉱石の採掘場があり、安く魔鉱石を買えるのだそう。
先ずは魔鉱石を補給し、宿をさがしたが宿屋等はなく、食堂にて宿泊できるとの話で、そのお店に立ち寄った。
でも、宿泊可能な部屋は、一つしかなくベッドも二つしかないという話だったので、トラックの周りで野営することになった。
こんなことなら、温泉に浸かってゆっくりと疲れを取ってからにしたかった。クリフトのホテルで一泊しているが、浴槽がない部屋だったし、ダンジョン攻略での野営や、椅子での車中泊だけで、身体の疲れが十分にとれていないのだ。
「あんたたち、リットなんて田舎町に何しにいくんだい」
その村の飲食店で注文を済ませると、ミミウスさんが僕らに尋ねて来た。
ユリが応えると思っていたが、なぜか困った顔をしていて、他の三人も沈黙していて応えない。
仕方ないので、僕が魔王討伐に行くと話したら、皆から睨まれた。
「なんと勇者様の御一行であらせたか。そんなことも知らず失礼した。おい、この人たち、勇者様御一行だぞ」
「もう知らない。ユウスケの責任だからね」
程なく、ユリの言った意味を、知ることになった。次々と注文していない料理がでてきて、高価なお酒も出してくれ、ただで飲み食いし豪遊することになったのだ。
しかも、つぎつぎと村民が集まって来る。
「私、この村の村長のトコシムと申します。こんな田舎までお越しいただきありがとうございます。町を挙げて、歓迎させていただきますので、どうか私たちの願いを聞き届けて頂けないでしょうか」
「私たちにできる事でしたら」
「ありがとうございます。ところで、勇者様はどなたですかな」
「この方です」 僕以外の全員が、僕を指さして来た。
「勇者ユウスケ様です。私たちはそのお付きで……」
「ユウスケ様、実はゴブリンが村の娘を襲って……」
この村近くに、ゴブリンのアジトができ、この村の食糧や娘を奪っていくようになり困ってるので、そのゴブリン達を討伐をしてほしいという依頼だった。
突然、ゴブリンが湧いたのかとユリが訊くと、車で三十分ほど先の山に、二か月程前にダンジョンが出現し、そこからやってきたらのではないかという話だった。国には報告してあるが、国からの討伐隊がいつまで待っても派遣されず、ダンジョン攻略できるものもいないので、未攻略のまま放置されていた。
「分かりました。手分けして、そのゴブリンのアジト攻略と、ダンジョン攻略とをお引き受けします。それで、その代わりというわけではないんですが、今晩の宿を探していて……」
ユリが引き受けて、先ほど野宿しようと決めたのに、宿を要求した。どうやら、僕が野宿と聞いて、不満そうにしていたのを見抜かれていたらしい。
「五人様同時は無理ですが、別々でもよろしければ、喜んで用意させて頂きます」
そんな訳で、この食堂の宿泊施設と、村長宅と、万事屋とに、二人づつ、泊まれることになった。
宿泊先はくじ引きで公平に割り振りを決め、村長宅にはユリとローラ、この食堂にアーロンとフレイア、万事屋宅には僕とミミウスと決まった。
「ミミウスさんは、いつまで出発を待って頂けますか?」
「朝出発の予定でしたが、この村で商売することにしましたので、昼過ぎまでは待ちます。ですが、流石にそれ以上は」
流石に未踏破ダンジョンを半日で攻略するは無理なので、ミミウスさんとはここでお別れになりそうだ。
「いろいろと便宜を図って頂き、ありがとうございます。では、早朝日の出と共に出発しましょう。村長さんの方で、ダンジョンまで車を手配してもらえるそうなので、村長宅に集合ということで」
そんな早くから出発ということは、本気で半日でダンジョン攻略するきなのかと一瞬思ってしまったが、やる気を見せるポーズに違いないと解釈した。
ユリの趣味を封印して、一階層二十分で攻略していくとしても、六時間で、十八階層が限界だからた。
その食堂で解散となり、僕とミミウスとで、万事屋へと歩いていると、突然、ミミウスが言ってきた。
「私は、この辺で失礼させてい抱きます。勇者様と一緒に寝泊まりするなんて、滅相もないです。私は車の中で寝ますので」
そんな訳て、僕一人で、泊まる事になってしまった。
万事屋は、この村で一番の商人と言う話で、この村一の豪邸に住んでいて、家族総出で歓迎してくれた。旦那と奥様、息子二人と娘一人の五人家族で、子供は他にも長女がいるそうだが、既に嫁いだとの話だった。
奥様とお嬢さんは、とても綺麗な人で、両手に花状態で、勇者様、勇者様と、接待してもらった。二人とも、胸の谷間を強調するナイトドレスでおめかししていて、僕はついその胸の谷間に見入って興奮してしまったほどだ。
お風呂も足が延ばせるほどの大きな浴槽があり、寝室のベッドもふわふわで快適だった。
だが、勇者一人での宿泊となったのは大失敗だった。寝ているとベッドに万事屋の令嬢が潜り込んできたのだ。
「なにを考えているんだ」
「勇者様の子種が欲しいの。両親も賛成していることだから」
「御両親も何を考えているんだ。とにかく戻りなさい」
「私、駆け落ちして、連れ戻された出戻りなの。生娘ではないし、もう嫁の貰い手もないと思うから」
美人で胸も大きく、据え膳食わぬはという格言まで、思い浮かんだが、僕は必死に自制し、彼女を説得した。
「私のこと、そんなに嫌いですか」彼女は泣き出してしまって、宥めるのも大変だった。
結局、僕は好きな彼女がいるからと説明して、納得して帰ってもらったが、危うく僕が暗殺対象になる所だった。
少し寝たのと、興奮してしまったのとで、結局、ほとんど眠ることができず、最悪な一夜となった。
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