セジアス 魔物の惑星

根鳥 泰造

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魔物外交編

新しい仲間

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「キャプテン、何時まで寝てるんですか、起きて下さい」
 アテーナの声で、深い眠りから、無理やり現実に引き戻された。同時に、ブルと俺は身震いし、身体がガタガタと震えだす。
 まさかここは棺桶の中なのか?
「御推察の通りです。セシルさんの判断で、三日ほどコールドスリープ状態にさせて頂きました」
「そうだ。セシルは? 命令無視で、無理しやがって、皆、無事なのか?」
「はい、モロウキャプテン以外は、全員無事です。セシルさんの精神操作魔法も解除しました。ここに呼びましょうか?」
「いやいい。三日と言ったが、何で棺桶にいれられてるのか説明してくれるか?」
「日射病で危篤状態に陥っただけでなく、日焼けによる全身火傷が深刻でした。その対策として、コールドスリープ療法が最適とセシルさんが判断され、この様な対処療法を取らせて頂きました。もう、皮下炎症も完全に収まった事を確認しましたので、私の判断で覚醒処理しました」
 普通なら、医師であるセシルの判断を仰ぐものだろう。なんでそうしない。やはりセシルへの嫉妬か?
「セシルさんの判断を仰がなかったのは、彼女が現在、自主隔離中で、薬品保管庫に籠ったまま、誰とも話をしたくないと本人が言ってるからです」
「自主隔離?」
「ええ、ギグさんは検査の結果、感染症の危険はないとの判断がでましたが、ギグさんと肌を合わせて抱き合って寝ていたらしく、自主隔離を言いだしました。キャプテンが好きだと知られたことや、裸の様な恰好を見られたこと等で、恥ずかしくて顔を見せられないと言うのが本当のようです。もういい歳なのに乙女ですね」
 アテーナの性格が、ますます悪くなってる気がするが、セシルを慰めるのは俺の役目だ。
「ところで、ギグはもう母国に送り届けたのか?」
「それなんですが、すっかりここが気に入って、モールガン王国に戻りたくないと言っておりまして……」
 そうこうしている内に棺桶の蓋が開き、俺は服を着て、彼と直接話をすることにした。


「キャップ。もう大丈夫ですか」
 制御室にいたケビンが俺の身体を心配してくれた。
「ガスパは?」
「ギグと訓練室トレーニングルームにいるはずです」

 ということで訓練室に顔をだしたが、其処には筋骨隆々とした見知らぬ男が筋トレに励んでいた。
「あんた、誰?」
「おお、モロウ殿ではないか。我じゃ。モールガン王国第二王子のギグ・コンロ・モールガンだ。もうすつかり体調は良さそうだな」
 帽子を取ると確かに角が生えた鬼人だが、全くの別人。ガリガリにやつれていたのに、筋肉自慢の二枚目になってた。
 しかも、英語で話している。
 あの時から片言で英語を話せていたが、まだ少し変なものの普通に会話ができている。
 セシルはIQ130の天才なので、短期間に語学習得したのをうなずけるが、なんでこいつが英語を話せる。
 それに、この体型。僅か三日で、どうすればここまで変わる。
 鬼人がなんだかこわくなってきた。
「ここは飯もうまいし、筋トレ設備も整っておるからな。最高の環境よ」
「朝・昼・晩と三人前の食事を食べ、一日中、ここに篭って働きもしない穀潰しです」
「アテーナさんは、相変わらず、口煩いな。良いではないか、それ位。度量が足りんぞ」
 体格が変わった事で、性格までかわったらしい。
「ところで、ガスパールは?」
「魔法を使った新たな武器を思いついたとかで、作業室に行きおった」
「魔法? どういうことだ」
「ケヴィンさんから報告を受けるべきだと思いますが、こちらでいう魔晶石とはグラニウム鉱石そのものでした。そこに魔法術式の念を込めると、さまざまな魔法が発現します。念とは、グラニウムコアの様な固定波長のレーザービームではなく、周波数変調と照射時間変動、強度変動とを同時に併せ持つもので、それを照射する事で、今まで人類が知らずにいた効果を発現すると分りました。それが魔法と呼ばれるものの仕組みです」
「分った。後はケビンから聞く。一時間後、今後の方針を相談するから、食堂に集合する様に伝えてくれ」


 ガスパとの挨拶はその時でいいとして、次はセシルだ。
「セシル、俺だ、モロウだ。これから今後の方針を相談するんだが、出て来てくれないか?」
 俺は薬品保管庫の前から声を掛けた。
「私、抜きに決めていいから。今はそっとして欲しいの」
「そうはいかないよ。大事な仲間だろう」
「…………」
「じゃあ、ここで少し話をさせてくれ。それ位ならいいだろう」
 暫く待っても応答がないので、勝手に話をすることにした。
「ショックなのは良く分る。俺も魔法を掛けられたからな。怖い魔法だよな。なんでも幸せに思えて、素直に受け入れて、疑問にも思わない。聞かれれば、隠そうともせずに、素直に全て話してしまう。下手に隠そうとすると、気分が悪くなるしな。でも、お前が俺に好意を抱いていた事は、俺も、アテーナも気付いていたことだ。ケビンは鈍感だから気づいていなかったかもしれないが、ガスパも薄ら気付いていた。今更、気にすることじゃない」
 何か反論してくると思ったが、何も言ってこない。
「それに、ずっと隠していたが、俺もセシルの事が好きだ。アテーナも良くからかってくるからな」
「そんなの知ってる」漸く声が聞けた。
「恋愛はトラブルの元だから、今はまだ付き合えないが、任務が終われば、交際を申し込むつもりだった。だから、もう恥ずかしがらずに出て来てくれよ」
「でも……」
 暫く待ったが、その後は沈黙が続いた。
「もしかして、裸に近い恰好をしていたことを気にしているのか? それなら気にする事無い。あれはトカゲ族の女性の普段着なんだろう? 恥ずかし事じゃない。普通の衣装だと言われて、それに着替えただけだろう。みんな分っているから」
「違うの。女王から服を交換しようと言われた時、こんな服は着たくないと、とても嫌だった。なのに、女王は強引で、下着もタブレットも全て没収された。確かに、着替えてしまえば、その格好でも気にならなかったけど、最初は嫌だったし、恥ずかしい恰好という認識もあった。なのに、断れずに従ってしまい、恥ずかしい服装だという事も忘れてしまった。そんな自分が情けないの。あの時、はっきりと断っていれば、あんな恥ずかし思いをしないで済んだのに……」
 予想と違ったが、自分がとんでもない選択をした事で、情けないと考えているらしい。
 なら、奥の手を出すだけだ。
「これはセシルには内緒にするつもりだったが、俺の方が君より恥ずかしい思いを経験している。実は、洗脳を解いて貰ったあと、俺の演技が下手で、ペダルに魔法が解けているのではと疑われた事があったんだ。その時、皆の前で下半身裸になる様に命令された。いやだったけど、言う通りにして、じろじろ見られ、大笑いされたんだ」
 そう言い終わると扉が開いた。
「確かに、私より恥ずかしい経験をしたみたいだし、普通に仕事に復帰して上げる。でも、勘違いしない様に訂正しておくと、私が貴方を好きになったのは、裸をみられて意識する様になったから。あれがなければ、何とも思ってなかったと思う。自分がいけてるとか誤解しないでね」
 本当は俺の全てが好きな癖に、素直じゃない。
「何か変な事考えなかった?」
「いや、素直じゃないなぁと思っただけ」
「そんな私が好きなんでしょう。文句はいわないの」
 そう言って、手摺を使って飛ぶように、先に勝手に行ってしまった。


 まだ打ち合せ時間より早かったが、食堂にはケビンとガスパとギグがいて、おやつを摘まんで食べていた。
「キャプテン、セシル、久しぶり」
「セシル、お前も食うか? おやつはずっと食べてないだろう」
 皆、できるだけ普通にしようと、気遣ってくれている。
「流石はキャプテン。天の岩戸を開けられたみたいですね。めでたし、めでたし」
 ガスパは耳元で、そう呟いた。
 そして、セシルはギグと向き合い見つめ合ってる。
「うそ、ギグなの?」
「セシル、漸く出て来たか。会いたかったぞ」
「どうしちゃったの? 別人じゃない」
「いや、これが本来の私だ。惚れなおしたか?」
「馬鹿!」
 まあ、これでセシルも大丈夫そうだ。

「なあ、ギグさん、仲間うちだけで打ち合せしたいので、席を外してくれないか」
「いいではないか。我も仲間の一人だ」
「そうだよ。除け者にするのは可哀相だ」
「今後の方針を決めるうえでも、彼が一緒の方がいい」
「皆、そう言っておるではないか。仲間外れにするなんて、度量が足りんぞ」
 少し使い方が変だが、仕方がない。
「そう言えば、何時の間に英語をマスターしたの?」
「漸く気づいたか。アテーナさんが、毎晩スパルタ教育してくれた玉ものじゃ」
「言葉を勉強したいと言われて、仕方なく協力したまでです」
 こういう偉そうな態度を教えたのも、きっとアテーナさんに違いない。

 その後は、普通通りに会議を始めた。今日の議題は3つ。
 1.ギグをこれからどうするか。
 2.モールガン王国の何処に着陸するか。
 3.誰がいつ地上に降りるのか。
 交渉方針は既に決まっているし、相手の出方次第の所があるので、今回はパス。その都度、念話で相談する予定だ。

 まず1だが、ギグがモールガン王国に戻りたくないと言ってる理由は、俺達の仲間に成りたかったからだった。モールガン王国に行って、人類受け入れを国王に約束させる件は、当然行う意思で、その後、王宮に戻るのではなく、俺達と一緒に行動したいと言う意味だった。
 そんなの駄目だと俺は直ぐに思ったが、仲間になるのを反対していたのは俺だけ、いやアテーナもだが、三人とも、彼が一緒に居たいなら良いんじゃないかという意見だった。
 俺はなんて心が狭いんだろう。もしかして、無意識にセシルとギグが一週間一緒に牢屋で生活していた事に嫉妬していたのかもしれない。
 そう言う事で、これからは仲間の一人として、全ての作戦に参加して貰う事となった。
 ただ、アテーナさんはそれでもクルーの安全管理の面から反対を主張。何杯もおかわりして、三人前も食事を食べる人が増えると、半年で食糧素材のデンプンが底を着くし、他の素材も一年も持たないのだとか。そうなればバランスの良い食事を提供できなくなるし、最悪餓死することになり、反対だと説明してきた。
 それに対しては、ギグの食事制限で対策。彼も身体が元に戻ったので、一人前の食事で我慢するとの約束してもらえた。それでも消費速度が25パーセント増になるが、モールガン王国で提供可能な食材は何でもそろえさせるということで、折り合いがついた。

 そして、2に関してもギグの助言で直ぐに決定。モールガン国内は乱れ、治安がかなり悪くなっているそうだが、彼の叔父が管理する領土は治安も良く、ギグが一緒なら、友好的に接して貰えると言う話。そんな訳で、着陸地点も、叔父さんの家の広い庭に直ぐに決まった。

 そして、いつもは揉めに揉める3の誰が行くのかも、俺とギグで行くしかないだろうと、あっさりと決定した。
 決行は明日の朝。今回は偵察艇をステルスモードにして、叔父さんの屋敷の庭先に着陸すると決まった。


 あまりに簡単に会議が終わったので、魔法の研究に付いて、ケビンとガスパに話を聞くことにした。
 魔法の原理は、アテーナさんから聞いた範囲の情報だったが、残念ながら、我々人間には使えない。この土地の人間には、生まれながらに手から特殊な信号を出せる能力が備わっていて、それで魔法が使えるのだそう。
 そして、その特殊信号も既に一部解明し、科学的に魔法を発生する実験にも成功したという。
 現在、信号パターンが判明している魔法は八つ。攻撃魔法に属する、水・風・火系の三属性のもの。

 ギグは魔法が得意だそうで、ケビンの魔法の研究にずっと協力していたので、こんなに早く解明できたのだとか。
「それで、力を使い過ぎ、栄養補給の為に沢山食べていたのだ。がっはっは」
 ギグは三人分も食事を食べていた言い訳をしていた。

 攻撃魔法の属性には、他に雷属性と地属性があるらしい。地属性は、魔法アニメ等で細分化されている金・土・草の属性を統合した様な属性で、土や鉱物、木を操る魔法だそう。
 その地属性と雷属性について何も分ってないのは、彼がその魔法術式を知らないから。爆裂魔法はこれらの属性魔法の複合魔法らしいが、その術式も、彼が使えないので分らない。
 とはいえ、雷魔法に関しては、グラニウムから直接電気を取り出せばよく、ケビンなら簡単に方法を見つけると信じている。

 その他の魔法としては、防御魔法というのがあるらしい。これも彼は術式を知らないらしく未解明だが、我々のシールドと同じ様なもので、これもケビンなら、いつか実現しそうな気がする。
 因みに防御魔法もいろいろあり、物理攻撃防壁と攻撃属性毎の魔法防壁とがあるらしい。
 念の為、俺は他にもアニメで良く見る魔法等がないか、ギグに尋ねてみた。
 傷が治ったり、無くした手足が生えたりする治癒・回復魔法、肉体強化や能力アップ等を施す補助魔法、どこでもドアや四次元ポケットといった空間魔法、聖霊の力を借りる精霊魔法などなど。
 でも、彼はそんな便利な魔法があるかと、完全否定して言い切った。
 まあ、精神操作魔法もないと言い切ったので、彼が知らないだけで、実際には存在するのかもしれないが。
[因みに後日、ケビンから聞いたが、ナーシャの精神操作魔法は、通常の魔法原理とは異なり、超能力の類らしい。彼女にしか使えず、魔晶石なしに発現できるは、そう言う特殊能力だからだと話してくれた]
 
 そして、現在開発中の魔法道具について、今度はガスパから話を聞いた。
 まだ設計段階だそうだが、それは魔法の杖。先端に魔晶石(グラニウム鉱石)を填め、ロットのダイヤルを変更する事で、メモリーから魔法パターンが選択され、誰でも発動できるというもの。
 その杖さえあれば、誰でも魔法使いになれる夢の様な道具。
 クリップ強度に応じて、魔法の威力調整もできるようにすることを考えているのだとか。
 俺としては、一刻も早くそれ完成させてもらい、魔法を使って見たいものだ。


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