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魔物外交編
救出作戦 その二
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翌日の朝、危惧していたように、食事の席で、ナーシャが俺に再度魔法を掛けて来た。
危惧されたナーシャの正視も、強制散瞳させていた事で問題なくできた。瞳孔が大きく開いていたので、裸の様な躰が白く輝いていて、良く見えなかったのだ。
そんな訳で、魔法に関しては、特に怪しまれる事もなく、直ぐ終わった訳だが、その直後、とんでもない悲劇が待っていた。
強制散瞳とは、副交感神経を麻痺させ、交感神経を過敏な緊張状態にして、自律神経失調症の様な状態にする。この場合、確かに瞳孔が最大まで拡大するが、身体全体が興奮状態になる。俺の息子も俺の意思とは無関係に堅くなっていた。
それを同席していたペダルに気づかれた。
「今は発情期なのかしら? ナーシャは人間と体型が似ているからといって、欲情するなんて、うふっ」
笑いものにされるだけならよかったが、さらに彼女は調子に乗った。
「どんな生殖器をしてるのかしら、見て見たくない」
そんな事をいいだし、見せる様に命令してきたのだ。
嫌でもしなければ魔法に掛かっていないと気付かれる。
俺は恥を忍んでズボンとパンツを脱ぎ、ペダル、ガジル、ナーシャにじろじろ観察され、大笑いされた。
触られたりはしなかったが、本当に死にたい程の屈辱。
それでも仲間の皆には見えていないのと、セシルがこの事実を知らないのが救いだ。
因みに、女王と王配はいない。昨日の昼食会にて会っただけ。昨晩の夕食時と同様、偵察艇で一緒に来た三人と俺との四人で取っている。
その後、クルーの皆に慰められ、部屋に戻って、強制散瞳を解除して貰ったが、それからも大変だった。無理やり自律神経失調症にした事で、後遺症に悩まされる事になったのだ。
頭痛、下痢、吐き気、息苦しさ、倦怠感、耳鳴り。その日は丸一日、体調不良に苦しむことになった。
そんな訳でその日は、隠し地下室探しを出来ずに終わった。
その翌日からの四日間も、やはり何もできない日々を過ごす事となった。
また仲間が俺を救出にくるのではないかと、部屋の前に常時兵隊が立っていて、常に見張られている状態だったからだ。
と言っても、王宮内散歩程度はでき、迷った振りをして、衛兵に注意されるまで、知らない場所まで入って行き、王宮内の地図を少しずつ広げて行った。
とはいえ、隠し地下室のある部屋を出た左側には行くことができない。左側に進もうとすると、「そちらは立ち入り禁止地区です」と衛兵に注意される。
部屋の前の通路は全長約四十メートル。通路を挟んで左右に客間がずらっと並んでいる。
俺の部屋は右から二番目で、扉間隔は五メートル。なので、左に三十メートルと言うと、突き当りの手前位となる。
そこにも客間がある様に見えるが、正直、ここからでは良く見えない。
ここの通路は、部屋越しにしか日光がはいらないので、昼間でも暗く良く見えないのだ。
だから、実際に近づいてみるしかないのだが、そっちは進入禁止。
どうやって、左側の散策に行こうと思案していると、その日の夜、ガスパが新兵器を開発して、光学迷彩ドローンでそれを届けてくれた。
それは催眠ガン。遠赤外線ビームで副交感神経を活性化させ、睡眠を促すという装置だ。
壁やドア程度なら貫通する程の威力があり、ビームが当ったものは強い睡魔に襲われる。
人間でないリザードマンに効果があるかは分らないそうだが、早速、その日の深夜、警備兵が交代すると直ぐ、ドアの中から撃ってみた。
結果は良好。ものの見事に二人とも熟睡してくれた。
彼らの持つランタンが倒れて消え、廊下は更に暗くなったので益々好都合。
一緒に届けて貰った光学迷彩に着替えているので、絶対に見つからない。
俺は暗がりの中、セシル探索に出かけた。
廊下には右側の角と、左の突き当りとの二か所にランブが灯ってる。だから廊下の中央付近までくると真っ暗と言っていいほど暗くなる。
それでも更に奥に行けば少しずつ明るくなるので、このまま照明無しでも問題はない。
扉間隔が五メートルという情報を元に、俺は扉の数を数えながら、ゆっくりと進んでいく。だが六個目の扉はなく、三十メートル先は突き当り。右側は二階へと続く階段になっていた。この上が何処に続いているのか、興味もあるが、今は隠し地下室の発見が先決。
突き当りのどこかに隠し扉がないかと探した。でも見つからない。
アテーナが距離を間違える訳はないが、俺は少し戻り、一個手前のドアをそっと開けてみた。
窓から月明かりが差し込み室内の様子が見えるが、誰もいない普通の客間だ。念の為室内も見て回ったが、やはり地下への階段なんて存在しない。
逆側の部屋も覗いてみたが、やはり同様。秘密の地下室なんて存在しなかった。
そこで、再び二階に続く階段の所まで行き、あらためて周囲を確認していると、階段の裏の植木の陰に隠された扉を見つけた。壁と同色で暗がりだと分り辛く見逃していた。
ここが地下室の入口に間違いない。
だが、鍵が掛かってる。ドアに鍵穴なんかはないのだが、勝手に開けられない様に、後付けしたしたような、変わった形の鍵が取り付けてある。
俺はそのカギを細い針金で開ける事にした。
ピッキングなんてしたことがないので、どうやれば開くのか全く分らず苦戦したが、一時間ほど試行錯誤していると、カチッと鍵が開いた。
そしてドアを開けたが中は真っ暗。近くにランプがあるが、その光も届かない。
俺は、警備兵がランタンを持っていたのを思いだし、それを取りに戻った。
これを灯すと、その明かりで見つかりかねないが、仕方ない。その蝋燭に火を点し、再び階段裏に行き、隠し扉の中へと入って行った。
入って三メートルほど先に、地下へと続く階段が本当にあった。
そして階段を降りた先にまた扉。鍵付のかなり分厚い頑丈な扉だ。分厚い板を鉄板で補強した感じで、扉の小窓には鉄格子が填めてある。
俺がその小窓から中を覗こうとすると、ガチャンと足元に何かが当った。
見ると空の器と皿が乗ったトレーだった。扉の下に十センチ程の隙間があり、そこから食事の提供をしているらしい。
「誰、誰かいるの?」
セシルの声がした。物音で目を覚ましたらしい。
「俺だ。モロウだ。助けに来た」
【キャプテン、セシルさんは魔法にかかったままだという事をお忘れですか?】
救出のその時まで、絶対にセシルに気づかれてはならないと言われていたが、いざセシルの声を聞いたら、話し掛けずにはいられなかった。
地下室と言っても、客間と変わらない内装で、テーブルや椅子、調度品等もある部屋だ。それ程、酷い目には合っていなさそうだと一安心した。
そして、鉄格子の窓越しに、セシルが現れたが、俺はその格好に仰天。初めてペダルと出会った時のトカゲ女達と同じ格好。薄手のすけすけの布を羽織っただけの格好で、下着の類も一切着ていない。
普段のセシルなら、そんな恰好で俺の前に立つなんてありえないが、今の彼女は羞恥心すら持ち合わせていない様で、堂々と裸を晒している。
【おい、映像を切るなよ】ガスパの声が聞えて来た。
一言も話し掛けて来なかったので、もう寝ていると思っていたが、じっとモニターを見続けていたらしい。
【セシルさんの名誉のために、映像は暫く無しです】
アテーナ、ナイス判断。俺も出来るだけセシルの身体は見ない様にして話をした。
「あいつら、こんな所に閉じ込めやがって、酷い事をしやがる」
「酷い事? なんのこと。私は毎日とても幸せよ」
酷い環境でも、酷いと思わない状態になるのを忘れていた。
「今、この扉を開けてやるから、暫らく待っていろ」
「待っているのは構わないけど、私はここから出る気はないわよ。私にはここでする大事な任務があるから」
「任務。あいつらに何を命じられた」
その時だった。「#%$¥¥%#」と太い男の声がした。
今は翻訳マスクを持って来ていない。
【誰かいるのかと言っています。同時通訳モードに移行します】
「起こしちゃった。御免なさい。人間の仲間が助けに来たとか言って来たの」
セシルがマスクも使わず、この地の言葉を話している。
「じゃあ、俺も挨拶しなくちゃいけないな」
俺は何がなんだかわからない。正直パニックで何も考えられない。
そして、セシルより少し高い位の背丈をした上半身裸の男が現れた。人間の男に似ているが、頭に角が二本生えている。鬼人だ。と言っても筋骨隆々とした肉体ではなく、がりがりの骨と皮状態なのだが……。
それにしても、鬼までいるとは、本当にセジアスは何でも有りの星だ。
「私はモールガン王国の第二王子ギグ・コンロ・モールガン。半年前に奴らに捕まり、ずっとここに監禁されている。セシルには、本当に良くして貰っている」
そして、セシルとギグという鬼とが見つめ合って微笑む。何なんだ。
いろいろと聞きたくなったが、今の俺はマスクもタブレットも無いので話せない。
「ここに来て、随分経つのにまだ言葉が話せないの? 私が通訳してあげる」
セシルがその鬼の手を恋人繋ぎしながら、英語でそう言いってきた。
任務とはもしかして……。
ベッドはここからでは見えないが、二つある様には思えない。俺のベッドサイズからして、二人で寝るとすると……。
「御免。今は混乱していて……。今日は帰る。それと俺がここに来た事は内緒にしておいてくれないか」
「それは良いけどちょっと待って」
そしてセシルは鬼の耳元に口を近づけ、ぼそぼそと呟きはじめた。
まるでラブラブのカップルの様で、見ていられない。
俺はこの場を逃げるように帰ろうとすると、鬼が呼び止めてきた。
「ちょっと、待ってくれ。誤解が無い様に、はっきりと言っておくが、セシルとは何もない。君がセシルの意中の男、モロウなんだろう。君の話は聞いている。そして、君たちがこの神の大地にやってきた理由も、全て聞かせてもらった。我が国は君たちを受け入れると約束する。だから、私をここから出して、我が国まで送って欲しい」
「そんなの信じられるか。この国の女王も歓迎する振りをして、計りやがったからな」
【良い話じゃないか。鬼人がどんな男なのか分らないが、俺は乗りたい。トカゲ達は受け入れてくれないみたいだからな】
【私も、賛成です。ケヴィンさんはいないので、分りませんが、彼も恐らく賛成だと思います。嫉妬に狂わず冷静に判断して下さい】
嫉妬なんてしていないが、確かに感情に任せた発言をしたかもしれない。
「初めて会った男を信じられないのは当然だ。だが、信じて欲しい。マリルは悪党だが、我はマリルとは違う。我もあいつに騙され、ここに幽閉された身だ。頼む」
男はそういうと頭を深々と下げて来た。礼儀正しい好青年。悪い奴では無いかも知れない。
それに冷静に考えれば、確かに悪い話ではない。この国と友好的に話しあう事はもはや困難だし、どこかの国に拠点を置く必要がある。
こいつが俺達の技術力で、この国に復讐を企てている可能性も否めないが、協力しなければいいだけの話。どうせ最終的には人間大陸を作るので、拠点がどこであっても関係ない。
「わかった。君も助ける。決行は明日の深夜。ヘリオスで攻撃して大騒ぎしているうちに、脱出する。そのために、今日はこの扉の鍵を開けるが、鍵が掛かったままの振りをしなければ、作戦失敗になる。なので、勝手に出ない事。それを守れるか?」
「ねぇ、攻撃するって、どういうの?」
セシルの語彙力では、通訳できないらしい。「鍵」「作戦」の単語も分らないみたいで、俺経由でアテーナさんに聞きながら通訳したので、時間がかかった。
「了解した。指示にはすべて従う。モロウ殿、本当に感謝する」
それから俺の長い鍵との戦いが始まった。
今度は一時間経っても、二時間経っても開ける事はできなかった。
「迷惑でなければ、話を聞いてくれるか?」
「ああ、構わない」
そして、彼が何故捕まり、セシルがここに来ることになったかの経緯を話してくれた。
この国ロシナント王国と彼の国モールガン王国は隣接しており、昔は領土争いが絶えなかったが、五十年前、和平条約を締結してからは、友好的関係を保ち、今では友好条約まで交わし、貿易交流も文化交流もあるのだそうだ。
そんな訳で、彼も修行を兼ねて、この国にお忍びの旅に来ていた。
だが、迷子になり、見てはならないもの見てしまう。
ロシナント国が隠匿していた広大な芥子畑と、麻薬密造工場を見つけてしまったのだ。
彼等一行は、スパイ容疑で逮捕・投獄された。
だが、モールガン王国の王子と分ると、直ぐに釈放して貰えた。そして、この国の女王マリルから、失礼があったお詫びにと、王宮に招待されることになったのだ。
だが、それが罠。歓迎する振りをして、食事に毒を盛り、暗殺を謀った。食事をとらなかった御付の者も、全員、近衛兵に殺された。そして、気づけばここに幽閉されていた。
一度は暗殺しようとしたが、利用価値があると、監禁する作戦に切換えたらしい。
その後暫くは、なんとか脱出しようと試みたが、どうにもならず、彼は絶望して自害を計る。
だがそれも失敗。一命を取り留め、刃物の類は全て没収されることになった。
そして彼は餓死する道を選んだ。
奴らも、侍女を付け、無理やり食事を取らそうとしたが、日に日に身体が衰弱していく。
そこで、今度は鬼と近い体型のセシルを彼の治療にあたらせた。医者で生物学者でもあるとしり、適任と判断したらしい。
セシルの大事な任務とは、彼を元気に回復させるというものだった。
「セシルに身体中をいろいろと調べ回され、大変だったけど、彼女に会えた事で希望が持てた。モロウ殿、貴方がきてくれて感謝の言葉もない」
俺も、セシルと鬼とが、医師と患者の関係に過ぎないと確信でき、彼は信用できると確信できた。
そして、改めて開錠に全力で取り組もうとした時だった。
【キャプテン、そろそろ夜明けで、衛兵の交代時間になります。また明日、出直しましょう】
二時間以上、頑張ったが時間切れになってしまった。
「セシル御免、今日は開けられなかった。作戦は一日延長。明日こそ鍵を開け、明後日、ここをでるから」
「セシル、とっくに寝た」 ギグが今度は片言の英語で言って来た。
彼もセシルから英語を習っていたらしい。
「今の言葉、良く、変わらない」 また英語で話した。
【キャプテン、私の言う通りに、復唱して下さい】
そして、アテーナがゆっくりとセジアス語を念話で伝えて来た。
発音が複雑で、音を真似るのも難しく、何度も首を傾げられたが、何とか伝える事ができた。
「了解しました。作戦が延期になった事を我からセシルに伝えておきます。それと、今日の事は、誰にも話さないこと、ちゃんとセシルにも守らせます。安心して下さい。それで、明日の事ですが、同じようにチャレンジして、この扉の鍵は開くのでしょうか? この鍵は特別製で簡単に開けられるものではないと思います。開けるのなら、鍵が必要です。命令に従うと言っておいて、おこがましいとは思いますが、鍵はギゼルが保管している筈なので、その入手を考えた方がいいのではないですか?」
そう思ったのなら、早く言え。内心そう思ったが、「ありがとう」と私が唯一知る現地語で話し、急いでその場を離れた。
あれから既に四時間、衛兵が寝ざめているのではと危惧したが、まだ眠っていた。
俺はそれを横目に見て、そっとランタンを隣に置いて、一旦部屋に戻り、迷彩服をワイシャツとズボンに着替え、マスクをして、彼等を揺り起こした。
寝ている所を、交代要員に見つかると、彼らが首になるかも知れないので、ちゃんとフォローも忘れない。
俺って、優しいから。
「大丈夫ですか。こんな所で寝ていると風邪を引きますよ」
「あっ、行けない」
「トイレに行きたいのですが、良いですか?」
「ああ、構わない」
まさか、自分達が寝ていた事を報告するとも思えないので、これで問題なしだ。
トイレから戻ると、もう一人も起きていて、扉の前で直立していた。
俺は部屋に戻ると、速攻でベッドに寝転がる。
正直、疲れた。セシルとあいつは何でもないと知って、安心した事もあり、俺は直ぐに眠りについていた。
危惧されたナーシャの正視も、強制散瞳させていた事で問題なくできた。瞳孔が大きく開いていたので、裸の様な躰が白く輝いていて、良く見えなかったのだ。
そんな訳で、魔法に関しては、特に怪しまれる事もなく、直ぐ終わった訳だが、その直後、とんでもない悲劇が待っていた。
強制散瞳とは、副交感神経を麻痺させ、交感神経を過敏な緊張状態にして、自律神経失調症の様な状態にする。この場合、確かに瞳孔が最大まで拡大するが、身体全体が興奮状態になる。俺の息子も俺の意思とは無関係に堅くなっていた。
それを同席していたペダルに気づかれた。
「今は発情期なのかしら? ナーシャは人間と体型が似ているからといって、欲情するなんて、うふっ」
笑いものにされるだけならよかったが、さらに彼女は調子に乗った。
「どんな生殖器をしてるのかしら、見て見たくない」
そんな事をいいだし、見せる様に命令してきたのだ。
嫌でもしなければ魔法に掛かっていないと気付かれる。
俺は恥を忍んでズボンとパンツを脱ぎ、ペダル、ガジル、ナーシャにじろじろ観察され、大笑いされた。
触られたりはしなかったが、本当に死にたい程の屈辱。
それでも仲間の皆には見えていないのと、セシルがこの事実を知らないのが救いだ。
因みに、女王と王配はいない。昨日の昼食会にて会っただけ。昨晩の夕食時と同様、偵察艇で一緒に来た三人と俺との四人で取っている。
その後、クルーの皆に慰められ、部屋に戻って、強制散瞳を解除して貰ったが、それからも大変だった。無理やり自律神経失調症にした事で、後遺症に悩まされる事になったのだ。
頭痛、下痢、吐き気、息苦しさ、倦怠感、耳鳴り。その日は丸一日、体調不良に苦しむことになった。
そんな訳でその日は、隠し地下室探しを出来ずに終わった。
その翌日からの四日間も、やはり何もできない日々を過ごす事となった。
また仲間が俺を救出にくるのではないかと、部屋の前に常時兵隊が立っていて、常に見張られている状態だったからだ。
と言っても、王宮内散歩程度はでき、迷った振りをして、衛兵に注意されるまで、知らない場所まで入って行き、王宮内の地図を少しずつ広げて行った。
とはいえ、隠し地下室のある部屋を出た左側には行くことができない。左側に進もうとすると、「そちらは立ち入り禁止地区です」と衛兵に注意される。
部屋の前の通路は全長約四十メートル。通路を挟んで左右に客間がずらっと並んでいる。
俺の部屋は右から二番目で、扉間隔は五メートル。なので、左に三十メートルと言うと、突き当りの手前位となる。
そこにも客間がある様に見えるが、正直、ここからでは良く見えない。
ここの通路は、部屋越しにしか日光がはいらないので、昼間でも暗く良く見えないのだ。
だから、実際に近づいてみるしかないのだが、そっちは進入禁止。
どうやって、左側の散策に行こうと思案していると、その日の夜、ガスパが新兵器を開発して、光学迷彩ドローンでそれを届けてくれた。
それは催眠ガン。遠赤外線ビームで副交感神経を活性化させ、睡眠を促すという装置だ。
壁やドア程度なら貫通する程の威力があり、ビームが当ったものは強い睡魔に襲われる。
人間でないリザードマンに効果があるかは分らないそうだが、早速、その日の深夜、警備兵が交代すると直ぐ、ドアの中から撃ってみた。
結果は良好。ものの見事に二人とも熟睡してくれた。
彼らの持つランタンが倒れて消え、廊下は更に暗くなったので益々好都合。
一緒に届けて貰った光学迷彩に着替えているので、絶対に見つからない。
俺は暗がりの中、セシル探索に出かけた。
廊下には右側の角と、左の突き当りとの二か所にランブが灯ってる。だから廊下の中央付近までくると真っ暗と言っていいほど暗くなる。
それでも更に奥に行けば少しずつ明るくなるので、このまま照明無しでも問題はない。
扉間隔が五メートルという情報を元に、俺は扉の数を数えながら、ゆっくりと進んでいく。だが六個目の扉はなく、三十メートル先は突き当り。右側は二階へと続く階段になっていた。この上が何処に続いているのか、興味もあるが、今は隠し地下室の発見が先決。
突き当りのどこかに隠し扉がないかと探した。でも見つからない。
アテーナが距離を間違える訳はないが、俺は少し戻り、一個手前のドアをそっと開けてみた。
窓から月明かりが差し込み室内の様子が見えるが、誰もいない普通の客間だ。念の為室内も見て回ったが、やはり地下への階段なんて存在しない。
逆側の部屋も覗いてみたが、やはり同様。秘密の地下室なんて存在しなかった。
そこで、再び二階に続く階段の所まで行き、あらためて周囲を確認していると、階段の裏の植木の陰に隠された扉を見つけた。壁と同色で暗がりだと分り辛く見逃していた。
ここが地下室の入口に間違いない。
だが、鍵が掛かってる。ドアに鍵穴なんかはないのだが、勝手に開けられない様に、後付けしたしたような、変わった形の鍵が取り付けてある。
俺はそのカギを細い針金で開ける事にした。
ピッキングなんてしたことがないので、どうやれば開くのか全く分らず苦戦したが、一時間ほど試行錯誤していると、カチッと鍵が開いた。
そしてドアを開けたが中は真っ暗。近くにランプがあるが、その光も届かない。
俺は、警備兵がランタンを持っていたのを思いだし、それを取りに戻った。
これを灯すと、その明かりで見つかりかねないが、仕方ない。その蝋燭に火を点し、再び階段裏に行き、隠し扉の中へと入って行った。
入って三メートルほど先に、地下へと続く階段が本当にあった。
そして階段を降りた先にまた扉。鍵付のかなり分厚い頑丈な扉だ。分厚い板を鉄板で補強した感じで、扉の小窓には鉄格子が填めてある。
俺がその小窓から中を覗こうとすると、ガチャンと足元に何かが当った。
見ると空の器と皿が乗ったトレーだった。扉の下に十センチ程の隙間があり、そこから食事の提供をしているらしい。
「誰、誰かいるの?」
セシルの声がした。物音で目を覚ましたらしい。
「俺だ。モロウだ。助けに来た」
【キャプテン、セシルさんは魔法にかかったままだという事をお忘れですか?】
救出のその時まで、絶対にセシルに気づかれてはならないと言われていたが、いざセシルの声を聞いたら、話し掛けずにはいられなかった。
地下室と言っても、客間と変わらない内装で、テーブルや椅子、調度品等もある部屋だ。それ程、酷い目には合っていなさそうだと一安心した。
そして、鉄格子の窓越しに、セシルが現れたが、俺はその格好に仰天。初めてペダルと出会った時のトカゲ女達と同じ格好。薄手のすけすけの布を羽織っただけの格好で、下着の類も一切着ていない。
普段のセシルなら、そんな恰好で俺の前に立つなんてありえないが、今の彼女は羞恥心すら持ち合わせていない様で、堂々と裸を晒している。
【おい、映像を切るなよ】ガスパの声が聞えて来た。
一言も話し掛けて来なかったので、もう寝ていると思っていたが、じっとモニターを見続けていたらしい。
【セシルさんの名誉のために、映像は暫く無しです】
アテーナ、ナイス判断。俺も出来るだけセシルの身体は見ない様にして話をした。
「あいつら、こんな所に閉じ込めやがって、酷い事をしやがる」
「酷い事? なんのこと。私は毎日とても幸せよ」
酷い環境でも、酷いと思わない状態になるのを忘れていた。
「今、この扉を開けてやるから、暫らく待っていろ」
「待っているのは構わないけど、私はここから出る気はないわよ。私にはここでする大事な任務があるから」
「任務。あいつらに何を命じられた」
その時だった。「#%$¥¥%#」と太い男の声がした。
今は翻訳マスクを持って来ていない。
【誰かいるのかと言っています。同時通訳モードに移行します】
「起こしちゃった。御免なさい。人間の仲間が助けに来たとか言って来たの」
セシルがマスクも使わず、この地の言葉を話している。
「じゃあ、俺も挨拶しなくちゃいけないな」
俺は何がなんだかわからない。正直パニックで何も考えられない。
そして、セシルより少し高い位の背丈をした上半身裸の男が現れた。人間の男に似ているが、頭に角が二本生えている。鬼人だ。と言っても筋骨隆々とした肉体ではなく、がりがりの骨と皮状態なのだが……。
それにしても、鬼までいるとは、本当にセジアスは何でも有りの星だ。
「私はモールガン王国の第二王子ギグ・コンロ・モールガン。半年前に奴らに捕まり、ずっとここに監禁されている。セシルには、本当に良くして貰っている」
そして、セシルとギグという鬼とが見つめ合って微笑む。何なんだ。
いろいろと聞きたくなったが、今の俺はマスクもタブレットも無いので話せない。
「ここに来て、随分経つのにまだ言葉が話せないの? 私が通訳してあげる」
セシルがその鬼の手を恋人繋ぎしながら、英語でそう言いってきた。
任務とはもしかして……。
ベッドはここからでは見えないが、二つある様には思えない。俺のベッドサイズからして、二人で寝るとすると……。
「御免。今は混乱していて……。今日は帰る。それと俺がここに来た事は内緒にしておいてくれないか」
「それは良いけどちょっと待って」
そしてセシルは鬼の耳元に口を近づけ、ぼそぼそと呟きはじめた。
まるでラブラブのカップルの様で、見ていられない。
俺はこの場を逃げるように帰ろうとすると、鬼が呼び止めてきた。
「ちょっと、待ってくれ。誤解が無い様に、はっきりと言っておくが、セシルとは何もない。君がセシルの意中の男、モロウなんだろう。君の話は聞いている。そして、君たちがこの神の大地にやってきた理由も、全て聞かせてもらった。我が国は君たちを受け入れると約束する。だから、私をここから出して、我が国まで送って欲しい」
「そんなの信じられるか。この国の女王も歓迎する振りをして、計りやがったからな」
【良い話じゃないか。鬼人がどんな男なのか分らないが、俺は乗りたい。トカゲ達は受け入れてくれないみたいだからな】
【私も、賛成です。ケヴィンさんはいないので、分りませんが、彼も恐らく賛成だと思います。嫉妬に狂わず冷静に判断して下さい】
嫉妬なんてしていないが、確かに感情に任せた発言をしたかもしれない。
「初めて会った男を信じられないのは当然だ。だが、信じて欲しい。マリルは悪党だが、我はマリルとは違う。我もあいつに騙され、ここに幽閉された身だ。頼む」
男はそういうと頭を深々と下げて来た。礼儀正しい好青年。悪い奴では無いかも知れない。
それに冷静に考えれば、確かに悪い話ではない。この国と友好的に話しあう事はもはや困難だし、どこかの国に拠点を置く必要がある。
こいつが俺達の技術力で、この国に復讐を企てている可能性も否めないが、協力しなければいいだけの話。どうせ最終的には人間大陸を作るので、拠点がどこであっても関係ない。
「わかった。君も助ける。決行は明日の深夜。ヘリオスで攻撃して大騒ぎしているうちに、脱出する。そのために、今日はこの扉の鍵を開けるが、鍵が掛かったままの振りをしなければ、作戦失敗になる。なので、勝手に出ない事。それを守れるか?」
「ねぇ、攻撃するって、どういうの?」
セシルの語彙力では、通訳できないらしい。「鍵」「作戦」の単語も分らないみたいで、俺経由でアテーナさんに聞きながら通訳したので、時間がかかった。
「了解した。指示にはすべて従う。モロウ殿、本当に感謝する」
それから俺の長い鍵との戦いが始まった。
今度は一時間経っても、二時間経っても開ける事はできなかった。
「迷惑でなければ、話を聞いてくれるか?」
「ああ、構わない」
そして、彼が何故捕まり、セシルがここに来ることになったかの経緯を話してくれた。
この国ロシナント王国と彼の国モールガン王国は隣接しており、昔は領土争いが絶えなかったが、五十年前、和平条約を締結してからは、友好的関係を保ち、今では友好条約まで交わし、貿易交流も文化交流もあるのだそうだ。
そんな訳で、彼も修行を兼ねて、この国にお忍びの旅に来ていた。
だが、迷子になり、見てはならないもの見てしまう。
ロシナント国が隠匿していた広大な芥子畑と、麻薬密造工場を見つけてしまったのだ。
彼等一行は、スパイ容疑で逮捕・投獄された。
だが、モールガン王国の王子と分ると、直ぐに釈放して貰えた。そして、この国の女王マリルから、失礼があったお詫びにと、王宮に招待されることになったのだ。
だが、それが罠。歓迎する振りをして、食事に毒を盛り、暗殺を謀った。食事をとらなかった御付の者も、全員、近衛兵に殺された。そして、気づけばここに幽閉されていた。
一度は暗殺しようとしたが、利用価値があると、監禁する作戦に切換えたらしい。
その後暫くは、なんとか脱出しようと試みたが、どうにもならず、彼は絶望して自害を計る。
だがそれも失敗。一命を取り留め、刃物の類は全て没収されることになった。
そして彼は餓死する道を選んだ。
奴らも、侍女を付け、無理やり食事を取らそうとしたが、日に日に身体が衰弱していく。
そこで、今度は鬼と近い体型のセシルを彼の治療にあたらせた。医者で生物学者でもあるとしり、適任と判断したらしい。
セシルの大事な任務とは、彼を元気に回復させるというものだった。
「セシルに身体中をいろいろと調べ回され、大変だったけど、彼女に会えた事で希望が持てた。モロウ殿、貴方がきてくれて感謝の言葉もない」
俺も、セシルと鬼とが、医師と患者の関係に過ぎないと確信でき、彼は信用できると確信できた。
そして、改めて開錠に全力で取り組もうとした時だった。
【キャプテン、そろそろ夜明けで、衛兵の交代時間になります。また明日、出直しましょう】
二時間以上、頑張ったが時間切れになってしまった。
「セシル御免、今日は開けられなかった。作戦は一日延長。明日こそ鍵を開け、明後日、ここをでるから」
「セシル、とっくに寝た」 ギグが今度は片言の英語で言って来た。
彼もセシルから英語を習っていたらしい。
「今の言葉、良く、変わらない」 また英語で話した。
【キャプテン、私の言う通りに、復唱して下さい】
そして、アテーナがゆっくりとセジアス語を念話で伝えて来た。
発音が複雑で、音を真似るのも難しく、何度も首を傾げられたが、何とか伝える事ができた。
「了解しました。作戦が延期になった事を我からセシルに伝えておきます。それと、今日の事は、誰にも話さないこと、ちゃんとセシルにも守らせます。安心して下さい。それで、明日の事ですが、同じようにチャレンジして、この扉の鍵は開くのでしょうか? この鍵は特別製で簡単に開けられるものではないと思います。開けるのなら、鍵が必要です。命令に従うと言っておいて、おこがましいとは思いますが、鍵はギゼルが保管している筈なので、その入手を考えた方がいいのではないですか?」
そう思ったのなら、早く言え。内心そう思ったが、「ありがとう」と私が唯一知る現地語で話し、急いでその場を離れた。
あれから既に四時間、衛兵が寝ざめているのではと危惧したが、まだ眠っていた。
俺はそれを横目に見て、そっとランタンを隣に置いて、一旦部屋に戻り、迷彩服をワイシャツとズボンに着替え、マスクをして、彼等を揺り起こした。
寝ている所を、交代要員に見つかると、彼らが首になるかも知れないので、ちゃんとフォローも忘れない。
俺って、優しいから。
「大丈夫ですか。こんな所で寝ていると風邪を引きますよ」
「あっ、行けない」
「トイレに行きたいのですが、良いですか?」
「ああ、構わない」
まさか、自分達が寝ていた事を報告するとも思えないので、これで問題なしだ。
トイレから戻ると、もう一人も起きていて、扉の前で直立していた。
俺は部屋に戻ると、速攻でベッドに寝転がる。
正直、疲れた。セシルとあいつは何でもないと知って、安心した事もあり、俺は直ぐに眠りについていた。
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