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魔物外交編
ファーストコンタクト
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「アテーナ。分析…結果は…でた~~か?」
俺は筋トレマシーンで、ウェイトトレーニングしながら、問い掛けた。
目覚めてから、今日で三日目。セジアスの五十万メートル上空を周回しながら、地上の観察を続けている。
そして俺らは今、トレーニングの時間。全員がこのトレーニングルームで何らかの筋力強化を行っている。無重力下では、急速に筋力低下を起こすので、こうやって負荷をかけ、筋力維持する必要があるのだ。
「ハイ、キャプテン。未だ謎のエネルギー反応の解析はできませんが、ご要望に沿う着陸地点の分析に関しては、完了しました」
最近のアテーナは、優秀な秘書に徹してくれている。
俺とセシルとの関係が悪化した責任が自分にあると分っているのか、自我を押さえ、ちゃんと仕事を熟してくれる。AIはそうでなくてはいけない。智の女神の名を付けられた最新鋭AIか何か知らないが、人間と対等と勘違いされては困る。
そんな事を思った途端、少し負荷がきつくなった気がした。不味い。
さっき命じたばかりなのに、瞬時に熟すなんて、アテーナさんは本当に優秀なだなぁ。
そう意識すると負荷が元に戻った。やはり負荷を勝手に増やしていたらしい。
言葉だけでなく、こんな事までしてくるとは、セシル同等に怖いAIだ。
ついさっき、俺達は今後の方針を決める会議を開いた。
セジアスに近接し、周回軌道に入った事で、地上の事がかなり詳細に分る様になったからだ。
大部分を占める海の中に関しては、残念ながら観測困難だが、地上に関しては、ほぼ認識できた。
この星の地上には、沢山の動物が生息しており、文明を持つ知的生命体種も数多存在する。彼等は集落を形成し、国家と呼んでいいほどの大規模な領土を治める種族も、幾つもある。
そして、ひと昔前の人類の如く、覇権を争っていたりする。
といっても、武器は稚拙で、矢や剣や槍の類。火薬等もない。
だが、たまに何も無い場所で大爆発が起きる。火薬によるものではない事は確認されているが、その爆発原因は不明。アテーナですら解析できない現象が、セジアスでは起きている。
かなりの破壊力のある爆発で、その点が気がかりだが、いつまでもこうしてはいられない。本来の任務である人類受け入れ交渉に向かうことを決めた。
と言っても、何処と交渉するかが問題だ。国家らしき勢力がいくつもある。最終的にそれらすべての承認を取る必要がありそうだが、まずはその中の温厚な国から交渉しようと決めた。
最大勢力の国家から、交渉に行くべだとの意見もあったが、謎の武器は脅威だ。
といっても、機体を損傷できる程ではなく、文明の技術差は歴然としている。戦闘になればこちらが圧勝、否、一方的に蹂躙することになる。
だが、争いは避けなければならない。できるだけ平和的に人類の受け入れを認めてもらう。
どうにもならない場合には、こちらの圧倒的力を誇示し、屈服させることもやむなしだが、そう言う事態は極力避けたい。
というわけで、着陸地点は、比較的争いのない温厚な種族の地で、それなりに大きな国家を形成している場所を選ぶことにした。
その地で、協力関係を築き、他国の情報も入手し、武装国家との交渉の仕込みをする目論見だ。
そんな訳で、アテーナには、温厚で支配力もある、ある程度大きい国の選別と、適切な着陸地点の算出とを依頼しておいた。
「それじゃ、……いよいよ……上陸……作戦に」
「ああ、まどろっこしい。訓練を終えてから話し掛けて下さい」
さっき、変な事を言って機嫌を損ねてしまっていたのか、遂にアテーナが切れてしまった。
ここ最近、下僕に徹していたので、ストレスを貯め込んでいたのかもしれない。AIに心的ストレスというのが有るかは知らないが、感情があるのだから、あってもおかしくない。だとすると、ますます扱いずらい。一昔前のAIの方がずっと良かったよ。
「何か、不満でもありますか?」
その声は冷徹でとげがある。今までになく、かなり激しく怒ってる。怖い。
もしかして、女性キャラ設定だから、あの日なんかも、設定されていたりして……。
そう考えた途端、急に負荷が増えた。さっきの微増なんてレベルでは無い。明らかに倍以上。
「ちょっと、アテーナ。骨折しちゃうって……」
「…………」
無視するし、一向に負荷は軽くならない。ハンドルを放そうと思っても、もうどうにも回避困難。
「キャプテン、大丈夫? いま解除してあげるから。でもこれって、アテーナさんに愛されてる証拠だよ」
ケビンが助けに来てくれて、何とか装置から抜け出せたが、本当に死ぬかと思った。
トレーニング時間が終わってから、皆で制御室に集まり、上陸作戦を打ち合せた。
着陸地点は、トカゲ族の国家の端の全く戦争の起きていない海岸沿いの平地。
トカゲ族とは、空想上のリザードマンの様な生物で、トカゲが二足歩行するようになった感じの種族。この一帯を支配している。
ヘリオスで直接乗り付ける案もでたが、二人乗りの偵察艇で地上に降りる事に決まった。
航空機などない世界に、偵察艇で降り立てば大騒ぎになりそうだが、それ以外に安全に着陸する手段はない。
搭乗するのは、俺とガスパールの二人。
電脳拡張しているのは俺しかいないので、俺が行くのは文句なく決まった。キャプテンだという事もあるが、首の後ろに通信パーツを取り付けると、回線接続した端末で、俺の視覚情報や聴覚情報を共有できるようになるからだ。
もう一人の選出は揉めた。皆、自分こそが適任だと演説して譲らかなかった。温厚な種族だとのアテーナの分析結果が出ていたかもしれない。
でも、最終的に、元パイロットでエンジニアであるガスパに決まった。偵察艇の運転は全て自動で行われるが、万が一の場合、手動で操縦できる方がいいし、故障時にも修理対応できるガスパが最適とのアテーナの分析判断による。
因みに、地球には、セジアスの調査結果を既に送ってある。任務の一つである移住可能な星かの判断は、可能という結果だ。
セジアスの大気は、地球の大気同様に、窒素と酸素がそのほとんどを占め、窒素七十五パーケント、酸素二十五パーセントと少し酸素濃度が高い位。人間に害がある気体は一切存在しない。
ただ地球でいうオゾン層にあたる宇宙線遮断層が希薄で、平均気温は二十八度と高めで、宇宙線被爆量も、地球より遥かに多い。それでも放射能被爆するほどではなく、真夏の太陽の下に晒されている程度で、問題ないレベル。
その他の地球との違いは、月に当る衛星が二つある事と、自転周期と公転周期。一日は二十二時間三十分程で、一年はアテーナ計算だと、400日程度と長いらしい。
いずれも、人類が移住する上では問題ない些末な事だ。
その後、直ぐにガスパと二人で偵察艇に乗り込んで、セジアスの大気圏に突入した。特に問題なく、直ぐに着陸予定地に到着した。
夕日で少し赤く見えるが、浜辺から五百メートル程入った緑の草原だ。
偵察艇をそこに着陸させ、俺は宇宙服に身を包み、セジアスに降りたつ準備を始める。外気は問題なくても、細菌感染のリスクもあるし、温厚な種族といっても、何をしてくるか分らない。この宇宙服は防護服の効果もかねているので、これを着ていれば、身を守ることができる。
「ガスパ、それじゃ、行ってくる。くれぐれも勝手な事はするんじゃないぞ」
「俺が戦争マニアだとしても、それ位、分ってますって」
そして、俺は希望の星の大地へと降り立った。
最初に降りるのは俺一人。ガスパも行くと言い張ったが、先ずは俺だけで様子を見て、安全が確認されてから、ガスパにも来てもらう事で納得してもらった。
それにしても身軽だ。重力が三分の一だと、こんな重装備の宇宙服を着ていても、スキップする様に軽く動ける。
そんな風に散歩を楽しんでいると、トカゲ族の兵士たちがゾロゾロと集まってきた。
中世の鎧の様なものを着て、手には槍を携えている。
「$#&%$&#」トカゲが何か言っている。
モニタで見た時、人間と同じ程度の大きさと勘違いしていたが、皆、身長百二十センチ程度で、子供位の大きさだ。
【アテーナ、通訳してくれ】俺は念話した。
念話と言うと超能力の様に聞こえるが、頭の中で言葉にしたことが、回線接続中の皆に伝わるだけのこと。
勿論、俺の視覚と聴覚も共有されているはずだ。
【キャプテンはやはり馬鹿ですか? 私がいくら天才でも、初めて聞く言語を直ぐに理解できるわけがないでしょう】
さっきまでは、忠実な秘書だったのに、あのトレーニング時間に切れてから、以前以上の生意気な部下になってしまった。俺、そんなに悪い事考えた記憶が無いのだが……。
【いや、お前なら分る。だってお前は、心の中が読めるんだからな】
【何度も言ってることなので、説明したくありませんが、私は超能力者ではありません。だから、心の中は分りかねます。あくまで、脳波、心拍、血圧、仕草、諸々の情報と、日頃の行動とから、推理しているだけです。もし心の中が分れば、こんなに苦労しなくて済みますから】
まるで、俺がお荷物みたいに発言してきた。これで俺も切れてしまった。
【否、嘘だ。何と無くでも絶対に心の中が読めている。良いから通訳しろ】
【…………】
【無視するな。艦長命令だぞ】
【もう、こんな所で言い争わないで。直ぐに敵意がないと動作で示して】
セシルに怒られてしまった。
俺は手を頭の後ろに組み、敵意が無い事を示した。
「$#&%$&#」
それでも、彼等は仕切りに何かを言って、槍を向けて来る。
【いっその事、一発撃って、黙らせてやりましょうか】
ガスパが余計な事を言って来た。
【ガスパ。俺らは平和的に交渉すると決めただろう。手間を掛けさせるな】
【わかってますよ。冗談に決まってるでしょう。何もする気ありませんって】
本当は一発撃って、ビビらせてやりたかったに違いない。
【違いますって……。俺はただ……】
【うむ、確かに】
【ガスパールなら、絶対にそうね】
今は、脳内で言葉にした事が全て、皆に伝わってしまうのを忘れていた。
だから、この通信コネクタは装着したくなかったんだ。
【おそらくですが、跪けと命令しているものと、思われます】
その時、アテーナの有用な助言が聞えて来た。
彼らからすれば、俺は巨人。見下ろす形では、安心できないのは確かかも知れない。
アテーナのいう事を全面的に信じて、跪いた。
すると、漸く安心したのか、ツタの様な植物で作ったロープで、俺を結わき始めた。
そして、拘束が終わると、無抵抗な俺に一斉に蹴りを入れ始めた。
この宇宙服は、防護服を兼ねているので、全くダメージはない。それに彼等の蹴りは、本当にひ弱で、子供が叩いている程度の衝撃しかない。例え、宇宙服を着ていない生身であっても、この程度なら、なんらダメージを与えられないと思われる。
【苦しそうにして! 彼らを満足させる仕草をしなさいよ】セシルの声。
【私も、それが一番有効な手段だと判断します】
俺は言われた通りに、痛がっている素振りをし続けた。
すると、彼等も疲れて来たのか、満足したのかはしらないが、何かを話し、暴力を止めた。やれやれだ。
そして、彼等は、俺を立たせて引っ張り、どこかに連れて行こうとする。
【くれぐれも、何もするんじゃないぞ】
俺は、ガスパに念を押して、彼らに従って、素直に歩いて行った。
着いたのは巨大洞窟。中はかなり立派な村になっていて、小枝を重ねた様な家々が所狭しと並んでいる。
そして石を並べて作った様な立派な家に連れていかれ、しゃがまされて、中に連れ込まれた。
驚いた事に、そこにいたのは薄手の布を羽織っただけの人間の様な女性が五人。否、尻尾があり、首や手に鱗があるので、トカゲ族の雌なのだろう。でも、髪の毛があり、首は細く、肌も顔も人間に近い。しかも薄手の透ける様な布なので、胸まで透けてみえる。
俺は少し恥ずかしくなって、跪きながら、視線を逸らせた。
【ちょっと、もっとよく見て】
セシルに言われて、視線を再び彼女達に移した。変な事を考えない様に、必死に円周率を思い出しながら。
【どういうこと。明らかに爬虫類なのに、まさか哺乳類なの?】
セシルの指摘の様に、その女性陣の一人は大事そうに、赤ん坊を抱えている。乳房があるという事は、授乳で育てると言う意味でもある。
「#&|##!%」
じろじろ見つめていると、兵隊が何かを言い、頭を押さえてきた。
彼らの力では、無視して注視するのもたやすいが、俺は逆らわずに頭を下げた。
どうやら、このトカゲ族は、女性の方が、地位が高いらしい。
【その様ね。外で活動するのは男で、洞窟内で指示を出しているのが女という役割分担を取ってるみたい。だから、温厚な種族なのかもしないわね】
【かかあ殿下の方が、家庭は上手くいくというしね】
【ケヴィンは黙ってて。今は私が話しているの。ねえ、モロウ、死体で良いから、彼等の身体を持って帰れない? ここまで男女差の激しい生物は初めてなの】
解剖は諦めてると言ってたが、やはり生物学者の血が騒ぐらしい。
【馬鹿、そんなの無理に決まってるだろう。交渉が上手くいってから、お前が直接、交渉しろ】
その後、暫らく、トカゲ女内での何やら訳の分からない会話が続き、俺は再び引っ張られて、今度は牢屋が並ぶ場所に連れて行かれた。
岩壁を穿ち、鉄格子をとりつけただけのものだが、中に居るのはトカゲ族ではなく、別種族のものばかりなので、奴隷収容所なのかもしれない。
俺は、そこの牢屋の一室に押し込まれた。
中には、耳の長いウサギの獣人と豚鼻の獣人がいた。体格はトカゲ族より大きいが、それでも百五十センチ程だ。ボロボロの服を着ている。
「#&#%$% &#$¥#%」
その豚鼻男が話し掛けて来た。
【基本文法は、大凡理解できるようになりました。韓国語、日本語に類似した述語が最後になる形式の様です。ですが、語彙があまりに不足しており、翻訳までには至っておりません。暫く、私の指示通りのジェスチャーをして頂けませんか?】
【勿論構わないよ】
先ずは言葉が分らないというジェスチャーをして、頭を下げて、言葉を教えて欲しいということを必死に伝えた。
そして、彼等が頷くと、今度は歩いたり、走ったり、泣いたり、笑ったりと、次々と動作をさせられた。彼らはそれを見て、ジェスチャーゲームの様に、応える。
そんなことを暫く続けると、突如、アテーナが話し出した。宇宙服の音声スピーカを勝手に使って、彼女の声のまま、話しかける。
俺の声に変換して話す事は、アテーナにとって簡単なはずだが、なぜか普段のアテーナの声だ。
考慮が足りていないと、俺は浅はかにも思ったが、それはどうやらそれはアテーナの作戦だったらしい。
俺を女性だと勘違いしたのか、彼等は更に温和になり、頷いたり、首を振ったりしながら、楽しそうに話す様になっていった。
そのうち、アテーナは、俺にいろいろなものを指し示す様に、命令してきた。
今度は名詞のボキャブラリーを増やそうとしているらしい。
そして、アテーナは、ぺらぺらと話だし、獣人から笑いまで取る様になって行った。
俺だけ除け者にされている様で、面白くない。
【なあ、何を話してるんだ?】
【ちょっと黙ってて、今は言語の勉強中で忙しいの】
こっちは恥かしい思いをして、必死に協力したのに、それはないだろう。
そんな不満も抱いたが、これで言葉が分る様になるのなら、じっと我慢するしかない。
そう自分に言い聞かせたものの、ボッチはやはり寂しいものがある。
【モロウキャプテン。何だったら私が会話して慰めてあげようか】
あの事件で、よそよそしく俺を避ける様にしていたのに、今のセシルさんは優しい。
アテーナが二人の獣人と話している間、こっちも二人で念話して楽しい時間を過した。
セシルが以前よりも楽しそうに俺と話すので、話の合間に、つい余計な事まで考えてしまった。
もしかして、俺によそよそしくしたのも、俺に気があったからじゃないのかという思考。
そう考えた次の瞬間、彼女の機嫌が再び悪くなった。
【そんなことあるわけないでしょう。可哀相だから、相手して上げるだけだから】
心で思った事が筒抜けになるのは、本当に勘弁してほしい。
それでも、その後も、不満を言いながらも、セシルは俺達が寝るまで付き合ってくれた。
そして俺はセシルを今まで以上に意識するようになった。
俺は筋トレマシーンで、ウェイトトレーニングしながら、問い掛けた。
目覚めてから、今日で三日目。セジアスの五十万メートル上空を周回しながら、地上の観察を続けている。
そして俺らは今、トレーニングの時間。全員がこのトレーニングルームで何らかの筋力強化を行っている。無重力下では、急速に筋力低下を起こすので、こうやって負荷をかけ、筋力維持する必要があるのだ。
「ハイ、キャプテン。未だ謎のエネルギー反応の解析はできませんが、ご要望に沿う着陸地点の分析に関しては、完了しました」
最近のアテーナは、優秀な秘書に徹してくれている。
俺とセシルとの関係が悪化した責任が自分にあると分っているのか、自我を押さえ、ちゃんと仕事を熟してくれる。AIはそうでなくてはいけない。智の女神の名を付けられた最新鋭AIか何か知らないが、人間と対等と勘違いされては困る。
そんな事を思った途端、少し負荷がきつくなった気がした。不味い。
さっき命じたばかりなのに、瞬時に熟すなんて、アテーナさんは本当に優秀なだなぁ。
そう意識すると負荷が元に戻った。やはり負荷を勝手に増やしていたらしい。
言葉だけでなく、こんな事までしてくるとは、セシル同等に怖いAIだ。
ついさっき、俺達は今後の方針を決める会議を開いた。
セジアスに近接し、周回軌道に入った事で、地上の事がかなり詳細に分る様になったからだ。
大部分を占める海の中に関しては、残念ながら観測困難だが、地上に関しては、ほぼ認識できた。
この星の地上には、沢山の動物が生息しており、文明を持つ知的生命体種も数多存在する。彼等は集落を形成し、国家と呼んでいいほどの大規模な領土を治める種族も、幾つもある。
そして、ひと昔前の人類の如く、覇権を争っていたりする。
といっても、武器は稚拙で、矢や剣や槍の類。火薬等もない。
だが、たまに何も無い場所で大爆発が起きる。火薬によるものではない事は確認されているが、その爆発原因は不明。アテーナですら解析できない現象が、セジアスでは起きている。
かなりの破壊力のある爆発で、その点が気がかりだが、いつまでもこうしてはいられない。本来の任務である人類受け入れ交渉に向かうことを決めた。
と言っても、何処と交渉するかが問題だ。国家らしき勢力がいくつもある。最終的にそれらすべての承認を取る必要がありそうだが、まずはその中の温厚な国から交渉しようと決めた。
最大勢力の国家から、交渉に行くべだとの意見もあったが、謎の武器は脅威だ。
といっても、機体を損傷できる程ではなく、文明の技術差は歴然としている。戦闘になればこちらが圧勝、否、一方的に蹂躙することになる。
だが、争いは避けなければならない。できるだけ平和的に人類の受け入れを認めてもらう。
どうにもならない場合には、こちらの圧倒的力を誇示し、屈服させることもやむなしだが、そう言う事態は極力避けたい。
というわけで、着陸地点は、比較的争いのない温厚な種族の地で、それなりに大きな国家を形成している場所を選ぶことにした。
その地で、協力関係を築き、他国の情報も入手し、武装国家との交渉の仕込みをする目論見だ。
そんな訳で、アテーナには、温厚で支配力もある、ある程度大きい国の選別と、適切な着陸地点の算出とを依頼しておいた。
「それじゃ、……いよいよ……上陸……作戦に」
「ああ、まどろっこしい。訓練を終えてから話し掛けて下さい」
さっき、変な事を言って機嫌を損ねてしまっていたのか、遂にアテーナが切れてしまった。
ここ最近、下僕に徹していたので、ストレスを貯め込んでいたのかもしれない。AIに心的ストレスというのが有るかは知らないが、感情があるのだから、あってもおかしくない。だとすると、ますます扱いずらい。一昔前のAIの方がずっと良かったよ。
「何か、不満でもありますか?」
その声は冷徹でとげがある。今までになく、かなり激しく怒ってる。怖い。
もしかして、女性キャラ設定だから、あの日なんかも、設定されていたりして……。
そう考えた途端、急に負荷が増えた。さっきの微増なんてレベルでは無い。明らかに倍以上。
「ちょっと、アテーナ。骨折しちゃうって……」
「…………」
無視するし、一向に負荷は軽くならない。ハンドルを放そうと思っても、もうどうにも回避困難。
「キャプテン、大丈夫? いま解除してあげるから。でもこれって、アテーナさんに愛されてる証拠だよ」
ケビンが助けに来てくれて、何とか装置から抜け出せたが、本当に死ぬかと思った。
トレーニング時間が終わってから、皆で制御室に集まり、上陸作戦を打ち合せた。
着陸地点は、トカゲ族の国家の端の全く戦争の起きていない海岸沿いの平地。
トカゲ族とは、空想上のリザードマンの様な生物で、トカゲが二足歩行するようになった感じの種族。この一帯を支配している。
ヘリオスで直接乗り付ける案もでたが、二人乗りの偵察艇で地上に降りる事に決まった。
航空機などない世界に、偵察艇で降り立てば大騒ぎになりそうだが、それ以外に安全に着陸する手段はない。
搭乗するのは、俺とガスパールの二人。
電脳拡張しているのは俺しかいないので、俺が行くのは文句なく決まった。キャプテンだという事もあるが、首の後ろに通信パーツを取り付けると、回線接続した端末で、俺の視覚情報や聴覚情報を共有できるようになるからだ。
もう一人の選出は揉めた。皆、自分こそが適任だと演説して譲らかなかった。温厚な種族だとのアテーナの分析結果が出ていたかもしれない。
でも、最終的に、元パイロットでエンジニアであるガスパに決まった。偵察艇の運転は全て自動で行われるが、万が一の場合、手動で操縦できる方がいいし、故障時にも修理対応できるガスパが最適とのアテーナの分析判断による。
因みに、地球には、セジアスの調査結果を既に送ってある。任務の一つである移住可能な星かの判断は、可能という結果だ。
セジアスの大気は、地球の大気同様に、窒素と酸素がそのほとんどを占め、窒素七十五パーケント、酸素二十五パーセントと少し酸素濃度が高い位。人間に害がある気体は一切存在しない。
ただ地球でいうオゾン層にあたる宇宙線遮断層が希薄で、平均気温は二十八度と高めで、宇宙線被爆量も、地球より遥かに多い。それでも放射能被爆するほどではなく、真夏の太陽の下に晒されている程度で、問題ないレベル。
その他の地球との違いは、月に当る衛星が二つある事と、自転周期と公転周期。一日は二十二時間三十分程で、一年はアテーナ計算だと、400日程度と長いらしい。
いずれも、人類が移住する上では問題ない些末な事だ。
その後、直ぐにガスパと二人で偵察艇に乗り込んで、セジアスの大気圏に突入した。特に問題なく、直ぐに着陸予定地に到着した。
夕日で少し赤く見えるが、浜辺から五百メートル程入った緑の草原だ。
偵察艇をそこに着陸させ、俺は宇宙服に身を包み、セジアスに降りたつ準備を始める。外気は問題なくても、細菌感染のリスクもあるし、温厚な種族といっても、何をしてくるか分らない。この宇宙服は防護服の効果もかねているので、これを着ていれば、身を守ることができる。
「ガスパ、それじゃ、行ってくる。くれぐれも勝手な事はするんじゃないぞ」
「俺が戦争マニアだとしても、それ位、分ってますって」
そして、俺は希望の星の大地へと降り立った。
最初に降りるのは俺一人。ガスパも行くと言い張ったが、先ずは俺だけで様子を見て、安全が確認されてから、ガスパにも来てもらう事で納得してもらった。
それにしても身軽だ。重力が三分の一だと、こんな重装備の宇宙服を着ていても、スキップする様に軽く動ける。
そんな風に散歩を楽しんでいると、トカゲ族の兵士たちがゾロゾロと集まってきた。
中世の鎧の様なものを着て、手には槍を携えている。
「$#&%$&#」トカゲが何か言っている。
モニタで見た時、人間と同じ程度の大きさと勘違いしていたが、皆、身長百二十センチ程度で、子供位の大きさだ。
【アテーナ、通訳してくれ】俺は念話した。
念話と言うと超能力の様に聞こえるが、頭の中で言葉にしたことが、回線接続中の皆に伝わるだけのこと。
勿論、俺の視覚と聴覚も共有されているはずだ。
【キャプテンはやはり馬鹿ですか? 私がいくら天才でも、初めて聞く言語を直ぐに理解できるわけがないでしょう】
さっきまでは、忠実な秘書だったのに、あのトレーニング時間に切れてから、以前以上の生意気な部下になってしまった。俺、そんなに悪い事考えた記憶が無いのだが……。
【いや、お前なら分る。だってお前は、心の中が読めるんだからな】
【何度も言ってることなので、説明したくありませんが、私は超能力者ではありません。だから、心の中は分りかねます。あくまで、脳波、心拍、血圧、仕草、諸々の情報と、日頃の行動とから、推理しているだけです。もし心の中が分れば、こんなに苦労しなくて済みますから】
まるで、俺がお荷物みたいに発言してきた。これで俺も切れてしまった。
【否、嘘だ。何と無くでも絶対に心の中が読めている。良いから通訳しろ】
【…………】
【無視するな。艦長命令だぞ】
【もう、こんな所で言い争わないで。直ぐに敵意がないと動作で示して】
セシルに怒られてしまった。
俺は手を頭の後ろに組み、敵意が無い事を示した。
「$#&%$&#」
それでも、彼等は仕切りに何かを言って、槍を向けて来る。
【いっその事、一発撃って、黙らせてやりましょうか】
ガスパが余計な事を言って来た。
【ガスパ。俺らは平和的に交渉すると決めただろう。手間を掛けさせるな】
【わかってますよ。冗談に決まってるでしょう。何もする気ありませんって】
本当は一発撃って、ビビらせてやりたかったに違いない。
【違いますって……。俺はただ……】
【うむ、確かに】
【ガスパールなら、絶対にそうね】
今は、脳内で言葉にした事が全て、皆に伝わってしまうのを忘れていた。
だから、この通信コネクタは装着したくなかったんだ。
【おそらくですが、跪けと命令しているものと、思われます】
その時、アテーナの有用な助言が聞えて来た。
彼らからすれば、俺は巨人。見下ろす形では、安心できないのは確かかも知れない。
アテーナのいう事を全面的に信じて、跪いた。
すると、漸く安心したのか、ツタの様な植物で作ったロープで、俺を結わき始めた。
そして、拘束が終わると、無抵抗な俺に一斉に蹴りを入れ始めた。
この宇宙服は、防護服を兼ねているので、全くダメージはない。それに彼等の蹴りは、本当にひ弱で、子供が叩いている程度の衝撃しかない。例え、宇宙服を着ていない生身であっても、この程度なら、なんらダメージを与えられないと思われる。
【苦しそうにして! 彼らを満足させる仕草をしなさいよ】セシルの声。
【私も、それが一番有効な手段だと判断します】
俺は言われた通りに、痛がっている素振りをし続けた。
すると、彼等も疲れて来たのか、満足したのかはしらないが、何かを話し、暴力を止めた。やれやれだ。
そして、彼等は、俺を立たせて引っ張り、どこかに連れて行こうとする。
【くれぐれも、何もするんじゃないぞ】
俺は、ガスパに念を押して、彼らに従って、素直に歩いて行った。
着いたのは巨大洞窟。中はかなり立派な村になっていて、小枝を重ねた様な家々が所狭しと並んでいる。
そして石を並べて作った様な立派な家に連れていかれ、しゃがまされて、中に連れ込まれた。
驚いた事に、そこにいたのは薄手の布を羽織っただけの人間の様な女性が五人。否、尻尾があり、首や手に鱗があるので、トカゲ族の雌なのだろう。でも、髪の毛があり、首は細く、肌も顔も人間に近い。しかも薄手の透ける様な布なので、胸まで透けてみえる。
俺は少し恥ずかしくなって、跪きながら、視線を逸らせた。
【ちょっと、もっとよく見て】
セシルに言われて、視線を再び彼女達に移した。変な事を考えない様に、必死に円周率を思い出しながら。
【どういうこと。明らかに爬虫類なのに、まさか哺乳類なの?】
セシルの指摘の様に、その女性陣の一人は大事そうに、赤ん坊を抱えている。乳房があるという事は、授乳で育てると言う意味でもある。
「#&|##!%」
じろじろ見つめていると、兵隊が何かを言い、頭を押さえてきた。
彼らの力では、無視して注視するのもたやすいが、俺は逆らわずに頭を下げた。
どうやら、このトカゲ族は、女性の方が、地位が高いらしい。
【その様ね。外で活動するのは男で、洞窟内で指示を出しているのが女という役割分担を取ってるみたい。だから、温厚な種族なのかもしないわね】
【かかあ殿下の方が、家庭は上手くいくというしね】
【ケヴィンは黙ってて。今は私が話しているの。ねえ、モロウ、死体で良いから、彼等の身体を持って帰れない? ここまで男女差の激しい生物は初めてなの】
解剖は諦めてると言ってたが、やはり生物学者の血が騒ぐらしい。
【馬鹿、そんなの無理に決まってるだろう。交渉が上手くいってから、お前が直接、交渉しろ】
その後、暫らく、トカゲ女内での何やら訳の分からない会話が続き、俺は再び引っ張られて、今度は牢屋が並ぶ場所に連れて行かれた。
岩壁を穿ち、鉄格子をとりつけただけのものだが、中に居るのはトカゲ族ではなく、別種族のものばかりなので、奴隷収容所なのかもしれない。
俺は、そこの牢屋の一室に押し込まれた。
中には、耳の長いウサギの獣人と豚鼻の獣人がいた。体格はトカゲ族より大きいが、それでも百五十センチ程だ。ボロボロの服を着ている。
「#&#%$% &#$¥#%」
その豚鼻男が話し掛けて来た。
【基本文法は、大凡理解できるようになりました。韓国語、日本語に類似した述語が最後になる形式の様です。ですが、語彙があまりに不足しており、翻訳までには至っておりません。暫く、私の指示通りのジェスチャーをして頂けませんか?】
【勿論構わないよ】
先ずは言葉が分らないというジェスチャーをして、頭を下げて、言葉を教えて欲しいということを必死に伝えた。
そして、彼等が頷くと、今度は歩いたり、走ったり、泣いたり、笑ったりと、次々と動作をさせられた。彼らはそれを見て、ジェスチャーゲームの様に、応える。
そんなことを暫く続けると、突如、アテーナが話し出した。宇宙服の音声スピーカを勝手に使って、彼女の声のまま、話しかける。
俺の声に変換して話す事は、アテーナにとって簡単なはずだが、なぜか普段のアテーナの声だ。
考慮が足りていないと、俺は浅はかにも思ったが、それはどうやらそれはアテーナの作戦だったらしい。
俺を女性だと勘違いしたのか、彼等は更に温和になり、頷いたり、首を振ったりしながら、楽しそうに話す様になっていった。
そのうち、アテーナは、俺にいろいろなものを指し示す様に、命令してきた。
今度は名詞のボキャブラリーを増やそうとしているらしい。
そして、アテーナは、ぺらぺらと話だし、獣人から笑いまで取る様になって行った。
俺だけ除け者にされている様で、面白くない。
【なあ、何を話してるんだ?】
【ちょっと黙ってて、今は言語の勉強中で忙しいの】
こっちは恥かしい思いをして、必死に協力したのに、それはないだろう。
そんな不満も抱いたが、これで言葉が分る様になるのなら、じっと我慢するしかない。
そう自分に言い聞かせたものの、ボッチはやはり寂しいものがある。
【モロウキャプテン。何だったら私が会話して慰めてあげようか】
あの事件で、よそよそしく俺を避ける様にしていたのに、今のセシルさんは優しい。
アテーナが二人の獣人と話している間、こっちも二人で念話して楽しい時間を過した。
セシルが以前よりも楽しそうに俺と話すので、話の合間に、つい余計な事まで考えてしまった。
もしかして、俺によそよそしくしたのも、俺に気があったからじゃないのかという思考。
そう考えた次の瞬間、彼女の機嫌が再び悪くなった。
【そんなことあるわけないでしょう。可哀相だから、相手して上げるだけだから】
心で思った事が筒抜けになるのは、本当に勘弁してほしい。
それでも、その後も、不満を言いながらも、セシルは俺達が寝るまで付き合ってくれた。
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