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060:追い詰められた大聖女

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「僕は彼女と出会ったのは牛になってからだ。つまり言葉もなにも通じない状態だった。それがどうして僕と取引なんてできるんだい?」
「……それは貴方が悪魔だからでしょう。悪魔は精神へと直接語りかける事ができます。それを利用したのは明白ですわ」

 無表情でそういいながら「それに」と、さらにたたみかける。

「大体皇族がなぜ悪魔の腕を持ち、しかも一人でこんな場所にいるのですか? どう考えても貴方……あやしいですわね」
「あやしい、か。確かにそうだろうね。僕のこの左腕は呪われたんだ。それで帝国ではお手上げな状況だったから、解呪してもらうために、このファルメル王国にいる大聖女に会いに来た。でも最近行方不明になったと聞いたから、それを探していたのさ」

「フン、語るに落ちるとは正にこの事ですわ。やはり貴方はエリクラムを使用して解呪しようとしていた。だからアネモネがここでエリクラムを作っていたからこそ、一緒にいたのは明白!」
「違う! 僕たちはそんな事をしてない!!」
「それを誰が証明するのです? 今、アネモネが持っている大罪品がなによりの証拠ですわよ?」
「クッ……キミという人はッ!?」

 まずい、流石はマリエッタ様は口がうまい。
 違うと否定しても、また論点をずらされて不利な状況にもっていかれちゃう。

 それに状況証拠は確実に私達が不利。
 私とマリエッタ様しか作り出せないのは、イストメール様もご存知のはず。

 今、天からそれを見ているイストメール様も私たちが不利と思うからこそ、神託も何もないんだ。
 この状況なら、確実に何かしらあってもいいのに……私の残された時間もあとわずか。
 
 ここまで超・高濃度エリクラムをどう隠蔽していたのかは分からないけれど、あの箱を見れば、どれだけ用意周到にイストメール様の目に触れないようにしていたのかは分かる。
 それを説明したいけど、詳細に調べ上げなくてはいけないし、その時間がない。

 何か、なにか決定的な物証があれば……。
 
 苦虫を噛み締め、私の命のしずくが落ちるのに余裕を感じたのか、マリエッタ様は私をあざわらいに上から降りてくる。
 その様子はまるで天使であり、光る体を神聖力でつつみフワリと右足から着地した。

「元・大聖女アネモネ。ここまで心が歪んでいたとは思いもしませんでした。これも全てワタクシの非力が招いた結果です。だからこそ……その大罪を今、ワタクシが処断いたしましょう」

「ケホッ、それは構いません。でもマリエッタ様……貴女の大罪はイストメール様をごまかせても、私には通用しません! かならず報いを受けてもらいます!!」
「大罪人がよくさえずることですわね。なら見せていただきましょうか、ワタクシのどこに大罪を犯したという証拠があるのかを!?」

 その言葉に反論できなく、「くぅ」と唸った瞬間、真上より声が響く。

「ふぉふぉふぉ。大悪女と言うのはこうも厚顔無恥なのかのぅ」
「ええ、いつの時代もこの輩は常にいるものですよ父さ……いえ、頭領」
「違いないわなぁ~。特に今回の聖女は大悪女の中でも特別じゃな。まさに稀代の大悪女と言ってもよいほどに、魂から腐り切っておる」

 二人の声が高らかに響く。それは最近聞いたばかりの馴染みある声であり、それが誰だかすぐに分かった。
 それはあのオウレンジ村の村長親子の声であり、それが確信に変わったのは二人の姿が現れた……とき……だれよアンタたち!?

「アネモネ様、ランス様。お久しゅうございますなぁ~。あの時は村を二度もお救いいただき誠にありがとうございますじゃ」

 ぺこりと頭を下げる二人。
 でも、どうみても、それは、牛人間だった。なんで牛なの?!

「アネモネ様、遅れてしまい申し訳ございませなんだ。しかもそんな傷を……」

 村長? だと思える牛の人の雰囲気がガラリと変わる。
 そしてマリエッタ様へと凍る言葉で、「このれ者めが……キサマの悪事、腐った眼でとくと見よ!!」と言い放って、大量の紙をばらまいた。
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