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 赤と白と少しの金。それが金華魚という金魚の魔物の色。
 空を水中のごとく泳ぎ、治癒魔法を使うときに金粉を撒く金華魚は、魔物の巣窟といわれるこの森でも上位の魔物。

 私もその一匹。
 ただ私の体の色は、他の皆と違う。
 親も兄弟も他の仲間もみんな赤と白と金なのに、私一人だけ真っ黒だった。
 黒は醜いと、家族や友達から気味悪がられた。
 どこかのお伽噺のように、醜いと思われた子が実は美しい鳥だったとか、魔力が高い特別な子とか、そういうのじゃない。ただ色が他と違うごく普通の魔物。
 
 皆の中にいられなくて、自然と森の外へ居場所を探した。
 でも怖いから姿を消して。姿を消せば、私より魔力が高くなければ人間の目に映らない。

 人間の世界には森にはないものがたくさんあった。安全な家、温かい食べ物、夜の明かり、人の営みすべてがキラキラ輝いてみえた。

 特別心惹かれたのは、女の子の人形。人間の顔の美醜はよくわからないけれど、私が人間に転化すると、似たような顔があったから。それを人間の女の子が可愛いと抱いていたので、醜い私は人間の世界では可愛いと言ってもらえるかもしれないと嬉しくなった。

 私もあんな風に、誰かに好かれたかった。


 それからの私は森でも人に転化して過ごすようになった。
 人形と同じような服を蜘蛛の魔物に糸で編んでもらい、それだけでは寂しいから花を織り込んだり縫い付けたりした。
 
 もちろんそんなことをする私を仲間はよく思わない。
 さらに異質と判断されるとわかっていて、それでも人の姿で居続けたのには理由がある。

 それは、人と契約するため。
 契約すると、人は魔物が操る魔法を使え、魔物は人から魔力というごちそうをもらえる。
 そして森を出て人と一緒に暮らすのだ。
 金華魚としては異質でも、人形と同じような顔なら受け入れてくれるかもしれない。
 そう思って、人に転化して契約してもらえる機会をずっと待っていた。

 だけど、なかなかその機会は来なかった。
 たまに入ってくる人間はいたけれど、誰も私に見向きもしない。
 金華魚に興味がある人は、結局普通の金華魚を欲した。
 

 ある日、すでに習慣のようになっていた服作りを蜘蛛としていたとき、女性が森へ入ったという噂が聞こえた。 
 私は迷った。何人もの人に断られたけど、人にはまだ憧れがある。けれど、どうせまたダメかもしれない。

「なぜ会いに行かない?」

 花を縫い付ける手が止まり考え込む私を見て、蜘蛛が言った。

「だって、どうせ選ばれないから」
「人の世界へ行きたいのだろう?」
「でも……」
「久々の女性だぞ」

 男性はよく来るが、一緒に暮らすなら女性がいいと決めていた。でも女性は男性よりも美しい魔物を好む傾向にある。
 くよくよする私に苛立つように、蜘蛛はため息をついた。 

「なら諦めるんだな」
「だけど……」

 諦めきれないから、未だに人の姿でいる。

「ええい!うじうじされると気が滅入る!今日は終わりだ!!」

 蜘蛛は糸をぷつりと切って、木々の間に張った巣へ帰ってしまった。
 私は縫いそこなった紫色の花びらを両手で持ってぼんやり眺める。
 行きたい。でも、また拒絶されるのが怖い。
 でも。
 でも。
 ……でも。

 私はすっくと立ちあがって、渦中の人物を探し始めた。
 出会う魔物たちに聞いて回ると、この先の池のほとりにいると兎の魔物が教えてくれた。
 うっそうと茂る木々をかき分け、ぬかるみに気を付けながら進み、前方を遮る枝の下をくぐって、思わず息を飲む。

 薄暗い森の中に、光が生まれたようだった。
 光の中には、神々しく輝く赤金色の髪の少女。 

 陶器人形みたいな人がいた。

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