竜人王の伴侶

朧霧

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無謀な契約

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 フィーネは予め二、三日はアルフレッドから会えないこと言われていた。

そして結婚の申し込みをされたことを仕事から帰ってきた母に話をしたら喜んでくれた。

「フィーネ、あなたが結婚するのはとても嬉しいわ! 
普通な体に産んであげられなかったからごめんね」

「ありがとう。目が見えなくてもお母さんの子供に生まれて感謝しているし、アルさんみたいな優しい人と結婚できるから幸せなの」

「そうね、アルさんはフィーネのことをとても愛していると思うわ。
でもね、これから色々な困難が待っていると思うけれども自分の愛した人を信じなさい。
フィーネの純粋なところは良いところだけれども決して他人に惑わされては駄目よ」

チェリナは肩の荷が少し軽くはなったが娘の結婚相手が国王で竜人の血を引く方だと思うと不安は拭い去れないでいる。これから降りかかる困難を乗り切ることができるのか、アルさんが陛下だと知った娘はどうなるのか心配でたまらないが、陛下の言葉を信じてフィーネを託すしかないのだ。




アルフレッドも少し肩の荷が下りた。
これから定期的に自室で子種を採取し廊下で待たせてあるセリーナのかかりつけ医に渡すのは、はっきり言ってものすごく気分が悪い。
だがフィーネと結婚できるならこれくらい意図も容易いし、会いに行けば嫌なことなど全て無かったことになる。

「アルさん?」

「フィーネ、二、三日会えなくてすまなかったな」

小さく柔らかい体を抱き寄せると体中の血が急速に流れ始めてドクドクと鼓動がなる。

「やっと結婚の目安がたちそうで半年後くらいには結婚する。いいな?」

「そんなに早く? 無理してない? いつまでも待ってるのに」

「無理してる。本当は明日にでも結婚してフィーネを俺のものにしたい」

「アルさんが好きすぎて逃げられないから心配しすぎよ」

「嬉しいことを。まぁ、今のはそういう意味ではないのだかこれからゆっくり教えてやる」

フィーネは平民だから閨教育も受けてないし外部との交流も大人になってからは少ないから察知していない。
本当は結婚まで待たずにフィーネの全てを自分のものにしたいのだが、無理強いはできないな。ゆっくり進めていくか…。

そうと決まればじっとしてられない。今日は少し手で体を撫でながら触る範囲を広め反応を見ると、恥じらいはあるが嫌そうではなかったので自分が暴走するのを抑えるのが大変だった。




ヒュティルナは呆れた顔でセリーナの部屋に入ってきた。言われることはわかっているから余裕はある。

「また失敗か? 教育係を変えた方がいいな」

「お父様、ジュード様には色々教わりながら良き相談相手になっていただいておりますのでその必要はございません」

「相談相手? お前は俺の言われた通りに動けばよいだけだ。
まさか純潔は守っているだろうな? 純潔でなくなれば公爵家には必要ない」

「もちろん守っております。そして今日は私から報告がございます」

「くだらんことなら言うな」

テーブルの上にあのとき交わした契約書を父に差し出す。

「いったいなんだ?」

父は徐々に目を見開きながら読み始めると契約書を持っている手が震え顔を真っ赤にしている。
少しだけおかしくなってしまい、笑いを隠すために扇で口元を隠した。

「ふざけるな!! こんな馬鹿げた契約書に勝手署名するなど」

「あら、お父様。抱かれるのを待つより一番効率がよろしくてよ?」

「効率だと?」

「はい。閨の儀の前にかかりつけ医のヒル医師に相談をしました。
陛下が私に欲情するように刺激を与えて抱かれるのをひたすら待つよりもずっと良い方法です。
子種さえいただければ専用の器具を用意してもらいましたので妊娠は可能ですわ。
感染症の危険もあるみたいですし確率もとても低いですが他国では成功例もございます」

「陛下がお前を騙して他の種を孕んだらどうするつもりだ! 
それに専用の器具とやらで純潔でなくなったらなんと言い訳するのか! 
ましてや感染症などかかってしまったら妊娠どころではない!」

「契約書にも書かれているようにヒル医師が用意した専用の羊皮袋で擬装ができないように工夫されております。
そして廊下で待機し子種をいただいてすぐに処置をするのです。
それにヒル医師には初診で純潔であることは確認してもらえましたし、妊娠さえすれば出産時に純潔を失ったと言えば良いのです。
元々、蓋のように塞がっているわけではないようですし、細長い器具なので滅多に傷つくわけではないですわ」

余裕の笑みを浮かべながら平然と話す娘に少し違和感を感じた。

「騙されて違う子種の子を産んだらお前は終わりだ。
そのようなときにはお前は公爵家には居られないと思え」

「はい、承知しております。そのような結果になりましたら公爵家から籍を抜いてくださいまし。
お父様が一番望んでいることは陛下と私のお世継ぎ誕生ですよね? 
そして私達姉妹は二人しかおりませんし、妹に任せられますか? 
お父様が再婚なさって子作りされてもかなりの時間を要しますから、アルフレッド陛下の代に妃となるのは不可能でしょう。
ヒル医師からは当主であるお父様の署名が必要と言われましたのでご記入をお願いします」

いつしかセリーナも父親のいいなりにならなくなってきた。
心が強くなったようで自分の思った通りに事を進められる。

その影にはジュードがいて練習相手とは仮の姿。
いつでも優しく受け入れてくれる存在であり愛を与えてくれる。
本当は陛下よりもこのままジュードに抱かれて結婚したいが、幼少期からの呪縛からは解放されることはない。

もしジュードを選んだとしても公爵家からは追い出されるはずの私をはたして娶ってくれるのだろうか? 
セリーナは目的達成よりもジュードのことばかり考えるようになってしまった。




ヒュティルナはセリーナに勝手なことをされ腹立たしい。
だがいざとなれば役に立たない駒など要らないのだから縁を切ればよい。
ましてやあのような方法で妊娠などできる可能性は低い。
早く対策をたてなければ…。
そろそろ邪魔な平民親子を消すために屋敷に戻り執事のトーマを呼ぶ。

「セリーナが勝手に三か月以内に子を孕まなければ後宮を出る契約を陛下と結んだ」

「なんと! そのような…」

「すでに結んでしまったことは取り返せない。だが成功したときのために平民親子を徐々に追い出す。
あまり立て続けに事を起こすと気付かれ危険だな。まずは母親からとするか。
トーマ、手配しろ」

「はい。それでどの程度を?」

「そうだな、あきらかに狙ったのではなく事故に見せかけて城にいるのが不安になるくらいから始めるか」

「承知いたしました」






平穏な日々が続いていたが、ある日ホークが慌てた様子で執務室に入ってくる。

「アル、メイド長からの連絡でフィーネさんの母親が井戸に落ちそうになったと。幸い怪我はないそうだ」

「なんだと! それで犯人は?」

「犯人というか同じ下働きの者だ。井戸の近くにいたチェリナさんに誤ってぶつかり落ちそうになったが、同僚が二人いたため咄嗟に助けててくれたから何事もなく助かりメイド長に報告があった。
ぶつかったメイドは洗濯籠いっぱいにシーツなどを積んでいて、前が見えにくかったと故意を否定している」

「故意か故意ではないか…。 それだけでは判断に迷うな。
その下働きの素情を調べてくれ。チェリナさんは明日休ませて一時的に俺の部屋の清掃や洗濯などに職務を変えるようにメイド長へ手配してくれ。
それとメイド長にはこの際フィーネと結婚することを話すので空いている時間の確認を頼む」

「わかった、早速手配してくる」

さて故意だとしたら最近の尾行と関係があるのか? 騎士団の巡回の回数を増やす? 
いや、いっそのこと王家以外入れない森の中に住居を建て護衛とメイドをつけて結婚まで安全に暮らせるようにするか。そうすればフィーネと尾行を気にせず気兼ねなく会えて安全は今よりも確保できる。それも早速ホークに手配を依頼しよう。

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