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フィーネの母
しおりを挟む城へ戻りフィーネの母親の誤解を解くことにした。
ホークに騎士団の服を借りに行かせ、上げていた前髪を下ろして変装し菓子を小袋に詰めて用意させる。
「アル、一体これは何の真似だい? 潜入ならお供するし何でメイド長に会う必要があるのか?」
「潜入ではないが野暮用だ。いいからメイド長のところに連れていけ」
ホークはやむなくメイド長がいるところへ案内するが部屋の前で別れた。
メイド長の部屋に入ると一瞬怪訝そうな顔をし、そのあとすぐに目を開いて驚いてる。
「へ、へ、陛下? ご機嫌麗しゅうございます」
「あー、楽にしてよい。突然すまない」
「はい。ところで何かございましたでしょうか? それに普段のお姿とは違うのには何か理由があるのでしょうか」
「今からすることは他言無用だ。いいな?」
メイド長は深く頷く。
「実は先ほど小屋の娘に菓子を届けに行ったのだが不在だった。
母親に渡そうと思うのだが面識もないし、こちらの正体も隠しておきたい。
騎士団員のアルということにしてメイド長から紹介してほしい」
「不在は珍しいですね。私が陛下としてではなく騎士団のアル様として紹介すればよろしいのでしょうか?」
「あぁ、そうしてくれ」
「承知いたしました。母親を呼んで参りますのでソファーにお掛けになってお待ちくださいませ」
メイド長は母親を呼びに行き戻ってきた。
「アル様、大変お待たせいたしました。こちらがフィーネの母親チェリナでございます」
「お、お初にお目にかかります。下働きのチェリナでございます」
「突然呼び出して申し訳ない。私は騎士団員のアルだ。
昨日知り合ったフィーネに菓子を渡したいのだが母親の貴方にお願いしようと思ってな。
愛馬のレクスを可愛がってくれたお礼だ」
「貴方様がアル様。娘からアル様のことを聞いておりまして馬に初めて触れたことをとても喜んでおりました。
こちらがお礼をしなければならない立場なのにこのようなお礼をいただくわけには…」
「チェリナ、アル様のご厚意なのだから有り難く受け取りなさい」
「承知いたしました。それでは頂戴いたします」
「アル様、チェリナへの用件はお済みでしょうか?」
「あぁ、下がってよい」
母親のチェリナは何度もお礼をしながら退出した。
「メイド長、助かった。すまないな」
「いいえ。お力添えができましたこと嬉しゅう存じます。
チェリナも年頃の娘を抱えて最近では思うこともたくさんあり特に男性の方への警戒が強いのです。
今回ご紹介できたことで次からは直接菓子を持っていっても安心できるでしょう」
「ところで母親が最近思うこととは何だ?」
「娘のフィーネは世間一般では婚約や結婚をするような年の17才になりました。
今までは娘を育てることで精一杯でしたがその分母親も年をとります。
自分が早死にしたら娘はどうなるのかなど心配したらきりがないほどでしょう。
商会長に優しい方を探してもらい見合をさせて結婚したほうがよいのか、修道院に入るのがよいのかなど色々考えているようです。
目が見えませんが健康上問題なく顔立ちは美人で気立も良いですし、縁談を申し込めば結婚は可能でしょう」
フィーネが見合いか修道院? 冗談じゃない!! その前に俺が…。
「そうか。母親も気苦労するな。メイド長も経験済みか」
「はい、それはもう子供には幸せになって欲しいですから」
親子の話をして執務室に戻ったらホークが待ち構えていた。
「アル、おかえり。そろそろここ最近、何かあったのか教えてもらいたのだがどうだろう?」
「そうだな、心配させて俺が悪かった。先ほどメイド長を介して小屋の母親に会わせてもらった」
「は? なぜ母親に会う必要が? 何か怪しいのか?」
「落ち着け。あの親子は全く怪しくない。実は今日も娘に会いに小屋へ行ったが母親に俺の存在を警戒されて扉越しにしか会えなかった。
それが無性に嫌で一刻も早く解決することにした」
「えっ、アルもしかして惚れたのか?」
「まだわからんと言いたいがそうかもしれない」
「いや、今冗談で言ったのにまさか本気か?」
「まだ自分でも確実に彼女を好きかは見極めているところだ」
「いやいや、平民の目が見えないお嬢さんで会って間もないのに? まさか」
「平民とか目が見えないとかそんなの俺には関係ないだろ。平民と伴侶になった先祖だっているわけだし、俺の体は普通の人間とは感覚が違う」
「あっ、まぁそうだった。ということは何か感じたのか?」
「今まで感じたことがない変化はあった。体中の血がものすごい勢いでドクドクと巡るような…、 説明が難しいな。
これからだ、本当に伴侶かどうかわかるのが」
「そうか、まぁ喜ばしいことだな。でもなぁ、閨の儀の日にちが決まったこのタイミングで…」
「俺の両親は出会うのが遅かったから自分でもまだ先のことだと思っていた。だが、あきらかに今回は違うのがわかるから逃したら一生独身かもしれない」
「それは駄目だ。国が終わる」
「だろう? 俺も今、必死なんだ」
ホークは独り言をいいながらウロウロ歩き今後の動きを考えているようだ。
そうだな、言われてみればタイミングが悪いし、どのようになるかわからない。
父は35才になるまで伴侶に出会えなかった。
母は伯爵家の長女だったが体が弱いという理由で成人しても社交界には出なかった。
体が弱かったというのは建前で、前妻を亡くした伯爵の再婚相手の継母が領地から出さず、自分の子だけ可愛がった。
父が伯爵領に視察に行った際、勘が働いたのか24才になった母を見つけた。
令嬢として世話をされていないのは一目瞭然で、父は激怒し伯爵家と縁を切らせてそのまま王宮へ連れ帰りすぐに結婚した。
その後、伯爵家は不作が続き王命で当主を息子に変えるように言われ、座を譲り不作も収まったが今ではなんとか持ち堪えている状態だ。
継母と子供は社交界では相手にされず、伯爵は離縁し二人の娘は平民に嫁がせた。
当主となった息子も結婚相手が見つからず、遠縁から妻を娶るもいまだに子はできていない。
父と母は一人しか子を作らなかったが孤独を感じたこともない。
この世に生を受けて彼女に出会えて良かったと思っている。
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