上 下
154 / 222
シーズン6-ビージアイナ戦線編

152-ラビ初戦闘

しおりを挟む
私たちはナサトラ星系の手前であるコールフォーム星系をワープしていた。
ハイパージャンプは、何日も掛かるゲート間の移動をスキップしてくれるが、連発は出来ない。

「あとどれくらいで着くかな」
『四時間後です』

私の隣の席では、コンソールに突っ伏したラビが寝息を立てている。
散々喋り倒したあと、疲れて眠ったのだと思う。

「それにしても、戦地だというのに、襲撃にあまり遭いませんね」
「確かにね」

ゲートで張られている事もない。
それどころか、ゲート周辺に基地もない。

「そういえば...」

私は別の話題を振ることにする。
それは、私のアームガードについて。
ラビとの戦いで壊れたのだが、いつの間にか直っていた。
誰かが修理に出したのかと思ったけれど、誰も知らないという。

「アームガードって結局何だったの?」
「「「「「.........」」」」」

その場にいる全員が黙り込んだ。
分からないならしょうがないか。
ラビは寝てるし。

「あ、ファイスのバトンの修理代はファイスの口座から引いておいたから」
「分かりました」

基本的に支払い・申請は全部私がやっている。
ついでに言うと、ケインの装備のオプションパーツなども私が勝手に揃えて請求した。
どうせ買うなら中途半端はダメだから。

「実戦がないのが一番なんだけど...」

私がそう言った時。
コンソールから音が鳴り、SOSの表示が出た。

『近いですね、行きますか?』
「勿論だ」

私は仮面を展開して、強く頷いた。
アドアステラはワープトンネルから離脱し、すぐにその地点に回頭する。
そして、再びワープへと入る。

『ワープ終了まで10秒』
「全員、戦闘準備! ラビ、格納庫へ!」
「うん!」

アドアステラがワープを明けると、艦船数隻が交戦する場に出た。
素早く私は、SOSを発している艦に通信を送る。

「エンフォース、傭兵ギルド所属だ、救援をお求めか?」
『ぜひ頼む! 敵味方識別コードを共有するので、敵の掃討に協力願う!』
「勿論だ」

私は通信を切り、アドアステラを敵の元へ回頭させるのであった。






『準備はできているか?』
「うん、勿論」

ラビは頷いた。
場所は格納庫、ドローンなどが収容されている空間に、翼を折り畳んだ戦闘機が鎮座していた。
その名は『スラッシャー』。
重厚な機体装甲に見合わない速度で飛翔できる優秀な艦載機である。
スラッシャーはレールの付いた床に乗って、移動を始めた。
ラビがキャノピーを閉めると、封鎖機構が作動して内部の気密が完全に保持された。

『これより、出撃前チェックリストの読み上げを開始します』

その時、シトリンの声がコックピット内に響いた。
そして、読み上げが始まる。
レシーバーと酸素マスクの装着手順、環境設定、ウェポンシステムのチェック、燃料、弾薬......それらを、ラビは順番にチェックしていく。

「オールグリーン」
『射出口を開きます、発進準備』

ドローンとは異なり、戦闘機はアドアステラ推進器の下部に存在する発進口から出撃する。
後ろ斜めに傾斜したスラッシャーは、その機関を始動させる。
ラビは人間用のレシーバーを外し、コックピットのサイレンサーを作動させて通信を聞こえやすくした。

「行くよ!」
『任せる』

スラッシャーは射出され、スラスターから光を噴射して加速、翼を開いて敵陣へと飛び込んだ。

「これ、私要らないんじゃないかな?」
『そんな事はない。敵の小型艦を抑えろ、一隻も逃すな』
「注文が多いけど、やってみるよ!」

スラッシャーからチャフがばら撒かれ、敵艦のトラッキングを妨害する。
そして、大きく旋回しながら小型艦の密集地帯に飛び込む。

「ッ!」

スラッシャーに搭載されているパルスレーザーは、威力を高める代わりに秒間五発程度まで連射力を落としてある物である。
敵艦のシールドを破壊し、その装甲に届かせるのには充分な威力を持つ。

「っはぁ!」

スラッシャーはバレルロールを行いながら、砲撃をかわして離脱する。
そして、アドアステラからの砲撃が、小型艦の一隻を破壊した。

「ヒュウ!」

ラビは口笛を吹く。
そして、SWDを起動して再度接近する。

「RABBIT1、発射!」
『了解、対空支援を行う』

スラッシャーからスマートミサイルが放たれ、対空砲火を回避して一隻に突き刺さる。
直後、小型艦の一隻の横っ腹に大きな穴が開く。
その損傷跡にアドアステラのパルスレーザーが飛び込み、内部機構を破壊して無力化した。

「行けそうだね、カル!」
『そのようだな。既にWDAで全員捕まえてある。味方は退避済みだ』
「うん!」

ラビはふと、元々敵の艦隊がいた場所を見た。
――――そこには既に残骸があるのみであった。

「.....やるね」

一つの艦隊を単艦で料理できる。
それは規格外である。ラビはそれを恐れることもなく笑い、小型艦へと襲い掛かるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

CREATED WORLD

猫手水晶
SF
 惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。  惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。  宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。  「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。  そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。

セルリアン

吉谷新次
SF
 銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、 賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、 希少な資源を手に入れることに成功する。  しかし、突如として現れたカッツィ団という 魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、 賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。  人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。 各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、 無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。  リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、 生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。 その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、 次第に会話が弾み、意気投合する。  だが、またしても、 カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。  リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、 賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、 カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。  カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、 ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、 彼女を説得することから始まる。  また、その輸送船は、 魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、 妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。  加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、 警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。  リップルは強引な手段を使ってでも、 ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

処理中です...