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シーズン4-スリーパー防衛編
SUBPAGE-001 ゼーレンの後悔と、その”続き”
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戦いから二日後、私は単身ゼーレンの元を訪れ、カナードの話をした。
一通り話を聞いたところで、
「そうか......」
そう、ゼーレンは呟いた。
「何か思うことは?」
「........君は、彼から何を聞いた?」
私はそれに対し、ただ言われたことを素っ気なく答えた。
「最悪の父親だと」
「間違ってはいないね。私は、あまりに視界が狭小だったと、今でも思うよ」
ゼーレンは語る。
「当時の私は若かったのだ。それを言い訳にするつもりもないし、免罪符にすることもない。ただ、父親がそうだったからこそ、私は父親としてそうしたのだ」
彼の言い分は、そうした保険をかけるところから始まった。
「私はね、父親から『カスクレイに相応しい男になりなさい』と教わったのだよ。当然、軍人になるために、様々な責め苦に遭わされた。それが酷いことだとは私は思っていない、カスクレイは騎士として成り上がったのだから、軍人として親の跡を継ぐのは当然のことだ.....とね」
「カナードは貴方のその態度に辟易していたようですが」
「私はね、若いということは過ちを認めたくないということと同義だと思っているんだ」
ゼーレンはしみじみとそう語った。
「私には妻がいたが、結局出て行ったカナードと言い争ったまま死別したよ。そこからだ、彼ともう一度話し合う必要があると思ったのは」
「何故、そうしなかった?」
「結局ね、人は変われんのだよ」
私の問いに、ゼーレンは心底辛そうな表情を浮かべた。
だが私は同情することはない。
カナードの苦しみは、戦っていてはっきりわかった。
この親がどう思っていようと、子に寄り添わない親など存在価値もない。
「メールを書こうとしても、手が止まってしまう。それは、三つの感情のぶつかり合いだった。過去を清算するときだという正しい感情と、今更子供に向き合う資格などないだろうというもの、そして、過去の過ちを認められない若い自分の足掻き。カスクレイの子は軍人になるべきなのだと、理性より本能が訴えかけている。これは呪いだよ」
だからこそ、とゼーレンは微笑んだ。
その笑みは、複雑な感情を孕んでいた。
「そんなわけで、息子は死んだ。これでよかったとは思わない、だが......どうしようもないのだよ」
「それでいいのか?」
「ああ、構わない。所詮、変われんよ。息子は息子で、私は私。軍人として育てられ、軍人として生き、息子にそれを強要した私は、今更それを悔やんで善人になど、なれはしない」
――――それは、息子に対しても余りに失礼だ。
ゼーレンはそう言い切ったのだった。
「とはいえ、息子の弔いはさせてもらう。カスクレイはここで途絶えることにはなるが、今更惜しくもない。滅んで当然の家だったと、今なら言えるだろう――――ありがとう、カル」
「.......精々悔やんで死ね」
「ああ。そうする事にする」
私の嫌悪を伴った呪言にも近い言葉に対し、ゼーレンは理解っているとばかりに頷いたのだった。
アドアステラに戻った私は、シャワーを浴びて着替えてブリッジに戻ってきていた。
トマト風ジュースの補充も終わったので、好きなように飲める。
「.......ん?」
その時私は、自分のメールフォルダに[1]の表示が出ているのに気付いた。
開いてみると.....
『やぁ 差出人:C.C』
という文が最初に見えた。
カナード・カスクレイの名前で、誰かが私に連絡を入れている。
『初めに言っておくと、これは自動送信でも、他者による偽装でもないよ。僕の死に様を見届けなかったのは失敗だったね?』
「しまった......!」
あそこまで綺麗に勝ったなら、当然死んでいると思っていた。
だが、生きていたのだ。
『あのメッセージを受け取ったならわかると思うけれど、僕は考えを改めることにしたんだ。指名手配されているんで、帰ることはできないから、カルメナスにでも行くさ。ただし......今までの研究成果は、全て君に託すよ。それでも許せないというのなら、宇宙の果てまで僕を追い詰めて、今度こそ殺すといい。僕も、初めて死にたくないと思えた事件だったからね......じゃあ、これも付けておくから』
メッセージを全部読んだ私は、呆れ果てた。
人を散々実験動物にしておいて、この言い分である。
そこは責任を取って死んでほしかったが、逃げてしまったものはしょうがない。
私は添付されていた数個の設計図データをダウンロードすると、メールを削除した。
一通り話を聞いたところで、
「そうか......」
そう、ゼーレンは呟いた。
「何か思うことは?」
「........君は、彼から何を聞いた?」
私はそれに対し、ただ言われたことを素っ気なく答えた。
「最悪の父親だと」
「間違ってはいないね。私は、あまりに視界が狭小だったと、今でも思うよ」
ゼーレンは語る。
「当時の私は若かったのだ。それを言い訳にするつもりもないし、免罪符にすることもない。ただ、父親がそうだったからこそ、私は父親としてそうしたのだ」
彼の言い分は、そうした保険をかけるところから始まった。
「私はね、父親から『カスクレイに相応しい男になりなさい』と教わったのだよ。当然、軍人になるために、様々な責め苦に遭わされた。それが酷いことだとは私は思っていない、カスクレイは騎士として成り上がったのだから、軍人として親の跡を継ぐのは当然のことだ.....とね」
「カナードは貴方のその態度に辟易していたようですが」
「私はね、若いということは過ちを認めたくないということと同義だと思っているんだ」
ゼーレンはしみじみとそう語った。
「私には妻がいたが、結局出て行ったカナードと言い争ったまま死別したよ。そこからだ、彼ともう一度話し合う必要があると思ったのは」
「何故、そうしなかった?」
「結局ね、人は変われんのだよ」
私の問いに、ゼーレンは心底辛そうな表情を浮かべた。
だが私は同情することはない。
カナードの苦しみは、戦っていてはっきりわかった。
この親がどう思っていようと、子に寄り添わない親など存在価値もない。
「メールを書こうとしても、手が止まってしまう。それは、三つの感情のぶつかり合いだった。過去を清算するときだという正しい感情と、今更子供に向き合う資格などないだろうというもの、そして、過去の過ちを認められない若い自分の足掻き。カスクレイの子は軍人になるべきなのだと、理性より本能が訴えかけている。これは呪いだよ」
だからこそ、とゼーレンは微笑んだ。
その笑みは、複雑な感情を孕んでいた。
「そんなわけで、息子は死んだ。これでよかったとは思わない、だが......どうしようもないのだよ」
「それでいいのか?」
「ああ、構わない。所詮、変われんよ。息子は息子で、私は私。軍人として育てられ、軍人として生き、息子にそれを強要した私は、今更それを悔やんで善人になど、なれはしない」
――――それは、息子に対しても余りに失礼だ。
ゼーレンはそう言い切ったのだった。
「とはいえ、息子の弔いはさせてもらう。カスクレイはここで途絶えることにはなるが、今更惜しくもない。滅んで当然の家だったと、今なら言えるだろう――――ありがとう、カル」
「.......精々悔やんで死ね」
「ああ。そうする事にする」
私の嫌悪を伴った呪言にも近い言葉に対し、ゼーレンは理解っているとばかりに頷いたのだった。
アドアステラに戻った私は、シャワーを浴びて着替えてブリッジに戻ってきていた。
トマト風ジュースの補充も終わったので、好きなように飲める。
「.......ん?」
その時私は、自分のメールフォルダに[1]の表示が出ているのに気付いた。
開いてみると.....
『やぁ 差出人:C.C』
という文が最初に見えた。
カナード・カスクレイの名前で、誰かが私に連絡を入れている。
『初めに言っておくと、これは自動送信でも、他者による偽装でもないよ。僕の死に様を見届けなかったのは失敗だったね?』
「しまった......!」
あそこまで綺麗に勝ったなら、当然死んでいると思っていた。
だが、生きていたのだ。
『あのメッセージを受け取ったならわかると思うけれど、僕は考えを改めることにしたんだ。指名手配されているんで、帰ることはできないから、カルメナスにでも行くさ。ただし......今までの研究成果は、全て君に託すよ。それでも許せないというのなら、宇宙の果てまで僕を追い詰めて、今度こそ殺すといい。僕も、初めて死にたくないと思えた事件だったからね......じゃあ、これも付けておくから』
メッセージを全部読んだ私は、呆れ果てた。
人を散々実験動物にしておいて、この言い分である。
そこは責任を取って死んでほしかったが、逃げてしまったものはしょうがない。
私は添付されていた数個の設計図データをダウンロードすると、メールを削除した。
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