上 下
115 / 182
シーズン4-スリーパー防衛編

115-素 顔

しおりを挟む
こうして、ネセト星系は奪還された。
私たちの艦隊は、そのままアルカのスターゲートを潜り、陣地を構築する....はずだった。
しかし、アルカ星系は少し様子が違うようだ。

「アルカ星系のステーションと連絡が取れたが、どこも全く問題がないようだ....ただし、待ち伏せにあって艦隊は大体全滅している」
「つまり、この星系は占拠されていない?」

私は疑問に思った。
奴らの法則に従うなら、この星系にもあるステーションを巣として潜伏する筈。

「いや....全く分からない、そもそもこの星系のスリーパードローンがどこに集結しているのかも分からない」
「それで」

私はとりあえず疑問を棚に上げて、尋ねる。

「どうして俺は、お前と食事をしている? 仲間はどこへ?」
「お前の仲間たちは、豪華な戦勝ビュッフェスタイルのディナーにご案内した」
「俺もそちらに行きたいのだが?」
「惑星環境下で作られた超自然食材のフルコースに、何か文句でもあるのか?」

この世界では、惑星環境下で無農薬栽培された野菜や無調整環境下で育った畜肉、魚介類は超高級品だ。
私の収入でも、毎日三食食べてたら一瞬ですっからかんになる。

「どうして、俺をここに?」
「勝利の英雄様が、あの中に現れれば確実に食事など落ち着いて楽しめないぞ?」
「そうか」

私は運ばれてきたプレートの上の料理を見る。
一般的な料理のように思えるが、素材が高いんだよね。

「......」

暫く無言で食事を続ける。
というか、久々にトマト味以外の料理を食べたような....
トマト風の何かの缶詰の備蓄だけは、三か月分くらいある。

「ジスト星系は研究機関が多いからな、培養肉や人工肉の種類も多い。だが、結局は本物の肉には勝てない....面白いと思わないか?」
「感情の問題だろう、培養肉の素材は自然素材の畜肉だし、人工肉はバイオテクノロジーによる肉に遥かに近いものだ、味も風味も、食感も変わらない」

私の回答に、シラードは暫く食事の手を止める。

「つまりは、物の価値とは結局人間の感覚によるものだと?」
「貴族様は、こういう話は不快か?」
「いいや、面白い視点だと思ってな。こう贅沢を続けると、高級とはどのようなものかと悩むことも多いんだ」
「そうか....」

私はシラードの意図が掴めず、スープに手を付ける。
その時。

「お前、女だろ?」
「.....!」

唐突にシラードが、核心をついてきた。

「...いきなり何を」
「たまに通信で、声が変わるから疑問に思ってたんだよ。こうして何度か招いて動きを見たが、流石に綺麗すぎる」

観察されていたのか。
道理で、ディナーに招いたり私的に話したりするわけだ。

「で、どうする? 俺の正体を喧伝するか?」
「いいや? どうせお前のことだ、女だとナメられるとか、面倒が多いとか思って隠してるんだろ?」
「そうだが....一番の理由がある」
「ほう、聞こうか」

シラードの意表を突くため、私はとある理由を語る。

「かっこいいからだ」
「へぇ....ッ!?」

シラードの意識が一瞬そちらに向いた瞬間、私は椅子を蹴倒して銃を抜く。

「俺をやる気か?」
「アレンスターにも続き、貴族というのは本当に面倒だ、どうしてわざわざ隠しているものを引き出したがる?」

男が女性に向ける視線は、とても嫌なものだ。

「あぁ、俺がお前をエロい視線で見るとでも言いたいのか?」
「勿論」
「俺はそんなに趣味の悪い男ではない」
「......そうか。ならいい」

私はニケをしまう。
その時、扉が開いて衛兵が入ってきた。

「シラード様、如何いたしましたか!?」
「いや、大したことではない。俺が彼に失礼なことを言ってしまっただけだ」
「....そうですか、失礼いたします」

衛兵は去っていく。
その背を見送る私に、シラードは言った。

「俺は趣味の悪い男なので、男装してまで日の目を見るお前に興味があって、少し驚かせてやりたかっただけだ。済まない」
「こちらこそ、銃を向けてしまった。貴族にするべき行為ではなかった」
「顔を見せてくれたら、不問にしてやってもいいぞ?」
「仕方ない.....」

その日、私の顔を知る者が一人増えたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

Clavis X Chronus クラヴィスアンドクロノス

黴男
SF
東京の大学に通っていた普通の学生、三星治明(みほし はるあき)はある日突然、異世界に転生してしまう。 しかし、転生先はファンタジーの溢れる世界などではなく、シークトリアという名前の銀河に跨る星間国家。 しかも、治明は人間ではなくロボットに転生していたのだった。 シークトリアを含めて全部で七つある星間国家のうちの三つが連合軍を形成してシークトリアに攻め込んできており、シークトリアはプレトニアと呼ばれる星間国家と同盟軍を結成し、これに対抗している。 そんな情勢の中開発された人型のロボット兵器、『Chronus』。 そのパイロットとして開発・製造されたロボ、『Clavis』に転生したハルアキは、Chronus…クロノスに宿る親友の魂を見つけ、前世の親友と共に戦いへと身を投じる。 更新は月、水、金の週三日になります。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

神となった男

ぴっさま
SF
男は50代の普通のリーマンだった。 ある時、神の権限を手に入れたが… 他サイトにも掲載中

処理中です...