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序章
019-蜃気楼
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夢を見ていた。
そこは永遠に続く白い場所で、吐いた息はどこか遠くへ消えていくようだった。
「.....私、死んだのかな」
走馬灯もなかった。
お兄ちゃんの顔をずっと見ていられる筈だったのに。
こんな白い景色じゃなくて、もっとお兄ちゃんの顔が見たい。
『オマエノ ノゾミハ ソレカ?』
「......誰?」
その時、白い空間に黒点が生まれた。
それは、人の形になって私に問いかけてくる。
『アニニ アイタイ ノカ?』
「.......そうだけど」
『アワセテ ヤロウカ?』
「.....必要ない。お兄ちゃんは情けない私を見たくはないだろうから」
『デハ オマエノ ノゾミハ ナンダ?』
「何も無い。お兄ちゃんに胸を張って生きれるのなら」
『オマエハ ナニモ ノゾマヌ ノカ?』
「そうだ」
影は、光に消えていく。
私はそれを、見送った。
見送る直前で、我に返って叫ぶ。
『コウケツナ タマシイ ニ ワガイノリヲ ササゲヨウ』
「待って、何を言って.......」
影は、消える直前に私の中に入り込む。
そして、夢は終わった。
「ごしゅじん.....さま....!」
「.....大丈夫、だ」
「ごしゅじんさま!」
「御主人様!」
「主人!」
私は目を開けた。
気づくと、マスクが解除されていた。
私は顔を上げ、周囲を見渡す。
「.....ええっと、ここは?」
周囲は、知らない一室だった。
窓からはビル群が見えていた。
「目が醒めたか?」
「.....アレンスター?」
その時扉が開き、アレンスターが姿を現した。
「...ここは?」
「病院だ」
それはそうだ。
怪我をしたなら病院に行くのは当然だ。
「.....海賊は?」
「殲滅したさ。頑張って急造したブラスターのお陰だ。.......ありがとう」
「...ああ」
私は表情を隠すため、マスクを起動する。
「何だよ、照れ隠しか?」
「そんなものだ」
私はマスクの下でにやりと笑った。
これで、私の身分証明書も発行できた.........けど........
「そ、そういえば.....こいつらは、どう処理したんだ?」
「君の奴隷だろう? あの海賊の拠点から回収して、隷属させる装置を外し、船員教育を........もう奴隷ではないからな、まとめて戸籍を作っておいてやった」
「....良いのか? バレたら......」
「大丈夫だ、俺ならな」
「どういう........」
アレンスターはにやりと笑って言った。
「なんだ、知らなかったのか? 俺はディエゴ・アレンスター・ブライトエッジ! ブライトエッジ子爵家の若き後継者にして――――身分で警察に入った伝説のくされ警官さ!」
「........子爵?」
なんだか、おおよそこの世界観に似つかわしくない単語が聞こえたような気がする。
いや、それより.....
「....くされ警官、は忘れてほしいな」
「俺は気に入ってるんだぜ?」
アレンスターは朗らかに笑う。
何が気に入ったんだろう?
「それよりもだ、カル殿....仕事の話をしようか」
「....!」
そうだった。
そもそもが、傭兵の業務だった事を忘れていた。
「まず、カル殿が破壊した船には賞金首が何十人か乗っていた。その賞金をカル殿の傭兵口座に移しておいた」
「.......ふむ」
2万MSCか。
MSCとは、MajestySecureCreditsの略で、このオルトス王国でもっとも多く流通している通貨単位らしい。
お隣のビージアイナ帝国は、Imperial Social CreditでISCになるそうだ。
王が価値を保証するお金、というわけだ。
「オイソルジュースにして、実に2万本分か」
「なんだ? その変な基準は....」
「それから?」
「.....それから、今回の事件はこのアウクレン地方全体の有力者や、有力な犯罪組織を巻き込んだ大事件だ。カル殿にも箝口令を守ってもらうのと、退院後にブライトエッジ子爵家の統治星系、ブライトプライムまで事情聴取に来てほしい」
「.....それは、わかったが....」
こちらにまだメリットが提示されていない。
勿論、それは向こうもわかっていたようで。
「今回の戦闘で、カル殿は充分な実力を示した。操船技術だけでなく、戦闘のセンスや連携技術までをアピールしたわけだ」
「....ああ」
「というわけで、お前は今日からシルバー傭兵だ!」
「....本気か?」
「俺の褒美が受け取れないのか?」
「.....いいや」
というわけで。
半ば強制的に私はシルバーランクとなった。
病人を脅すとは、とんでもない人だ。
「......時に、一つ聞きたい」
「どうした?」
「お前....あの傷、どうやって負ったんだ?」
「あの傷と言うと?」
「ここに入院した原因だ」
ジャンプ疲労か。
あれは肉体に対する負担の結果だけど、それを説明するのも面倒だ。
「持病だ」
「.......そうか、悪い事を聞いたな」
「いいや、構わない。メディカルベイを復旧する予定だからな」
アドアステラはもともとメディカルベイがあったが、維持費がかかるのでシャットダウンしていた。
それを復旧すれば、生体ナノマシンを使った高速治療の行えるメディカルポッドが使える。
「.....さて、俺は一応領主なので忙しい。そろそろ帰らなくてはいけないな」
「また会おう」
「...ああ」
私は去って行くアレンスターの背中を見送った。
この時の私は、アレンスターがまさかあんなことを考えているなんて、微塵も思っていなかった。
だが、それを知るすべも隙も無かったのだった。
そこは永遠に続く白い場所で、吐いた息はどこか遠くへ消えていくようだった。
「.....私、死んだのかな」
走馬灯もなかった。
お兄ちゃんの顔をずっと見ていられる筈だったのに。
こんな白い景色じゃなくて、もっとお兄ちゃんの顔が見たい。
『オマエノ ノゾミハ ソレカ?』
「......誰?」
その時、白い空間に黒点が生まれた。
それは、人の形になって私に問いかけてくる。
『アニニ アイタイ ノカ?』
「.......そうだけど」
『アワセテ ヤロウカ?』
「.....必要ない。お兄ちゃんは情けない私を見たくはないだろうから」
『デハ オマエノ ノゾミハ ナンダ?』
「何も無い。お兄ちゃんに胸を張って生きれるのなら」
『オマエハ ナニモ ノゾマヌ ノカ?』
「そうだ」
影は、光に消えていく。
私はそれを、見送った。
見送る直前で、我に返って叫ぶ。
『コウケツナ タマシイ ニ ワガイノリヲ ササゲヨウ』
「待って、何を言って.......」
影は、消える直前に私の中に入り込む。
そして、夢は終わった。
「ごしゅじん.....さま....!」
「.....大丈夫、だ」
「ごしゅじんさま!」
「御主人様!」
「主人!」
私は目を開けた。
気づくと、マスクが解除されていた。
私は顔を上げ、周囲を見渡す。
「.....ええっと、ここは?」
周囲は、知らない一室だった。
窓からはビル群が見えていた。
「目が醒めたか?」
「.....アレンスター?」
その時扉が開き、アレンスターが姿を現した。
「...ここは?」
「病院だ」
それはそうだ。
怪我をしたなら病院に行くのは当然だ。
「.....海賊は?」
「殲滅したさ。頑張って急造したブラスターのお陰だ。.......ありがとう」
「...ああ」
私は表情を隠すため、マスクを起動する。
「何だよ、照れ隠しか?」
「そんなものだ」
私はマスクの下でにやりと笑った。
これで、私の身分証明書も発行できた.........けど........
「そ、そういえば.....こいつらは、どう処理したんだ?」
「君の奴隷だろう? あの海賊の拠点から回収して、隷属させる装置を外し、船員教育を........もう奴隷ではないからな、まとめて戸籍を作っておいてやった」
「....良いのか? バレたら......」
「大丈夫だ、俺ならな」
「どういう........」
アレンスターはにやりと笑って言った。
「なんだ、知らなかったのか? 俺はディエゴ・アレンスター・ブライトエッジ! ブライトエッジ子爵家の若き後継者にして――――身分で警察に入った伝説のくされ警官さ!」
「........子爵?」
なんだか、おおよそこの世界観に似つかわしくない単語が聞こえたような気がする。
いや、それより.....
「....くされ警官、は忘れてほしいな」
「俺は気に入ってるんだぜ?」
アレンスターは朗らかに笑う。
何が気に入ったんだろう?
「それよりもだ、カル殿....仕事の話をしようか」
「....!」
そうだった。
そもそもが、傭兵の業務だった事を忘れていた。
「まず、カル殿が破壊した船には賞金首が何十人か乗っていた。その賞金をカル殿の傭兵口座に移しておいた」
「.......ふむ」
2万MSCか。
MSCとは、MajestySecureCreditsの略で、このオルトス王国でもっとも多く流通している通貨単位らしい。
お隣のビージアイナ帝国は、Imperial Social CreditでISCになるそうだ。
王が価値を保証するお金、というわけだ。
「オイソルジュースにして、実に2万本分か」
「なんだ? その変な基準は....」
「それから?」
「.....それから、今回の事件はこのアウクレン地方全体の有力者や、有力な犯罪組織を巻き込んだ大事件だ。カル殿にも箝口令を守ってもらうのと、退院後にブライトエッジ子爵家の統治星系、ブライトプライムまで事情聴取に来てほしい」
「.....それは、わかったが....」
こちらにまだメリットが提示されていない。
勿論、それは向こうもわかっていたようで。
「今回の戦闘で、カル殿は充分な実力を示した。操船技術だけでなく、戦闘のセンスや連携技術までをアピールしたわけだ」
「....ああ」
「というわけで、お前は今日からシルバー傭兵だ!」
「....本気か?」
「俺の褒美が受け取れないのか?」
「.....いいや」
というわけで。
半ば強制的に私はシルバーランクとなった。
病人を脅すとは、とんでもない人だ。
「......時に、一つ聞きたい」
「どうした?」
「お前....あの傷、どうやって負ったんだ?」
「あの傷と言うと?」
「ここに入院した原因だ」
ジャンプ疲労か。
あれは肉体に対する負担の結果だけど、それを説明するのも面倒だ。
「持病だ」
「.......そうか、悪い事を聞いたな」
「いいや、構わない。メディカルベイを復旧する予定だからな」
アドアステラはもともとメディカルベイがあったが、維持費がかかるのでシャットダウンしていた。
それを復旧すれば、生体ナノマシンを使った高速治療の行えるメディカルポッドが使える。
「.....さて、俺は一応領主なので忙しい。そろそろ帰らなくてはいけないな」
「また会おう」
「...ああ」
私は去って行くアレンスターの背中を見送った。
この時の私は、アレンスターがまさかあんなことを考えているなんて、微塵も思っていなかった。
だが、それを知るすべも隙も無かったのだった。
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