上 下
1 / 182
序章

001-アドアステラ

しおりを挟む
「はっ!?」

言い知れない寒さを感じて、私は顔を上げた。

「!?!?」

そして、同時に困惑する。
自分の部屋だと思っていた場所はよく分からない場所になっているし、突っ伏して寝ていたのは机じゃなくて何かのコンソールだった。
いや、何かのコンソールじゃない。

「どうして.....」

私は自分のほっぺたを抓ってみる。
痛い。
少なくとも夢じゃない。

「なんで、SNOのコンソールが.....」

StarNovasOnline。
私が昨日までプレイしていたゲームの、見慣れたコンソール。
それが私のすぐ目の前にあった。
いや、コンソールだけじゃない。
周りのデッキも、後ろを振り向けば見える見慣れた扉も。
全部、SNOの私の愛機、「AD-Astralアドアステラ」だ。

「お兄ちゃん.....」

誕生日にお兄ちゃんがくれた船だ。
ずっと使ってるし、アップグレードを欠かしたことはない。

「寒い.....」

外を見ると、黒以外何も見えなかった。
もしここが宇宙なら、外はマイナス200度以下になるはず。
お兄ちゃんがそう解説してたのを思い出す。

「生命維持装置を起動して.....」

この辺はSNOの基礎操作だ。
電気がついてたから、予備電源は生きている。

「うえ.....もしかして、寝落ちしてたの?」

コンソールが起動すると、船の状態が空中のモニターに投影される。
それによると、こんな感じ。

◇AD-Astral・Per-Aspera 襲撃型重巡洋艦
シールド:322/15000
アーマー:281/50000
コア:1/100

パワーコア出力:安定
ワープドライブ出力:安定
ハイパードライブ出力:不安定

電力:45/3000(回復中)
予備電力:1499/1500

船体装甲はボロボロ、シールドはほぼなくて、0になったら沈むコアはギリギリ。
電力は底を尽きかけだし、眠っている間に総攻撃を食らったっぽい。

「よかった.......」

お兄ちゃんに貰った船を沈められたら、私はショックできっと死んでたと思う。
その結果お兄ちゃんにはもう会えそうにないけど。
どっちが良かったんだろう.....
きっと選べないよね。

「ひゃっ!?」

その時、物凄い音がして船が揺れた。
警報が鳴って、システムの無機質な音声が状況を伝える。

『次元振動を感知、複数ワープアウト』
「ま、まずは...」

私は状況を俯瞰するために艦の立体ビューを出す。
艦の周囲には、全部で六隻の船がワープアウトしてきていた。

「あれ?通信が来てる」

まずい。
映像通信だとこちらが女の子一人だとバレちゃう。
私は慌ててブリッジのクローゼットを漁る。

「なんでこんなのしか...まあいいや」

適当にイベントで貰ったアパレルを突っ込んでいたようで、私は顔を隠す仮面と体のラインをあやふやにする服を身に付けた。

「ここに音声調整機能が...あー、あー」

私はなるべく声を低く調節して、通信に応じる。

「こちらメイルシュトローム所属アドアステラ、えー...カルだ、何の目的で通信を」

私の本名は黒川流歌。
流歌を逆にしてかる、カルにする事にした。

『へっへっへ、事故かい? 積荷を全部くれるなら助けてやってもいいぜえ?』
「...」

この口ぶり、何度も見た。
ゲーム内のNPCでも、プレイヤーでも誰でもできる行為、海賊だ。

「.......断る」

お兄ちゃんがよく言ってた。
「奪う事は別に悪い事じゃないが、奪う時は遠慮はするな。ただ無言で仕掛けて、ものを奪って立ち去るんだ。少なくとも海賊行為をしたいならな」って。
だからこいつらは海賊としては三流。
三流海賊に渡す積荷はない。

『へぇ? じゃあ殺して奪ってもいいって事だよなぁ!?』
「どうぞ?」

やれるもんなら。
海賊たちが動く前に私はこちら側のマイクを切断し、コンソールを操作して「戦闘モード」を起動する。

「全艦戦闘モードに移行! 使用可能な武装は........うそー!」

スマートミサイル使用不可、XLレーザーブラスター使用不可、Lパルスレーザー使用....可能。
パルスレーザーなんて、小惑星を破壊する用に積んでるだけなのに、これで戦えなんて無謀だ。

「......モジュレーションクリスタルを換装」

変調モジュレーションクリスタルを変え、パルスレーザーを岩石粉砕用から戦闘用のものに切り替える。

『砲撃感知。シールド300に低下』
「撃たれてる.....」

こういう時お兄ちゃんはどうすればいいって言ってたかな.....そうだ!
「敵の武器にもよるが、こういう時は基本敵の船の周りを回るんだ。大抵の武器は速度の出ている船を捉えるのは難しいからな、当たらないか威力が落ちるはずだ」
って言っていたはず。
このアドアステラは船の中では結構速度が速い。

「速度上昇、敵...恐らく旗艦を最適射程距離で旋回! ターゲット開始」

数秒もしないうちに、六隻のターゲットロックが完了する。
パルスレーザーは二門、一隻ずつ相手にしよう。

『武器系統にエネルギー注入完了』
「攻撃開始」

私は冷たく言い放った。
パルスレーザーから秒間300発程度の射撃が放たれ、対象のシールドを削っていく。

『へぇ、やる気かよ』

とにかく今は危ない。
私はシールドの回復速度を向上させる装置にエネルギーを供給し、シールドの回復が砲撃による損傷に追いつくように調整する。

「「落ち着きを失ったやつから死んでいく」...」

お兄ちゃんの言葉を復唱しながら、私は冷静に船の攻撃を続行する。

『ベオル、もういい! 離脱しろ!』
「させないよ」

私はコンソールを操作する。

『Warp Drive Anchor Activated』

そんな項目が表示され、逃げようとしていた船を捕まえる。
ワープドライブアンカーは重力井戸を人工的に発生させて、ワープドライブを起動しようとしている船を捉えることができる。
どうやらアーマーはそんなでもなかったみたいで、シールドを抜かれた船はあっという間に穴だらけになって爆発した。

『ベ、ベオル!』

お兄ちゃんは勝ったら煽りは欠かすなよ、って言ってたよね。
よし....自信ないけどやってみよう。

「....アーマーの修理はしっかりした方がいいぞ」
『テ、てめえ.........!!』

人を殺したはずなのに、なんでか罪の意識はなかった。
いや、お兄ちゃんに怒られなければ、それは罪じゃないんだ。
そう思うと、胸が軽くなる。

『全員、全武器使用許可オールウェポンフリー! ナメた野郎を殺せ!』
「野郎じゃないんだけどね」

私はアフターバーナーを点火し、より速度を上げていく。

『クソ、速すぎる! どうなってやがんだ!』
「ふふふ」

吶喊戦術で知られるグローリー級の特別仕様のこの船は、通常の約5.5倍の速度が出る。
お兄ちゃんが私の戦術を見て贈ってくれたこの船は、その本来の速度から更に速くなる工夫をしている。
グローリー級襲撃型重巡洋艦という名に反し、この船の全力はフリゲート級よりも速い速度、旋回速度を誇る。

「お兄ちゃんの力、見せてやる」

私はマスクの下で不敵な笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。 その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。 しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。 さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。 直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。 他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。 しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。 考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。 誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?

完全武装少女

けんはる
SF
姉の策略によって完全武装少女・ジャンヌになってしまった無表情少女・夢 それに加え夢の友達も魔装少女となり〈完全少女隊〉を結成することなってしまった 敵は人工生物・能力者・傭兵団等々 正義も悪も関係なく依頼があれば どんな相手とも闘う 今日もジャンヌは敵をぶっ飛ばす よければ感想お願いします♪ 書く活力になるので

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

世界樹の下でぼくらは戰う理由を知る

長崎ポテチ
SF
4章開始しました  この宇宙はユグドラシルという樹木に支えられた13の惑星で成り立つ世界。  ユグドラシルはあらゆる産業や医療、そして戦争の道具に至るまで加工次第でなんでも出来るしなんにでもなれる特徴を持つ。  約200年前、汎用人型兵器『クライドン』を製作した「解放軍」と名付けられた惑星の軍により、この宇宙は上位等星連合と解放軍の2つの勢力にわかれてしまう。  そして今、秘密裏にお互いの軍が人型兵器クライドンの新型を製作し、この戦争の終結へと向け歩みだそうとしていた。 物体に干渉する才能を持つ少年サンド 干渉を遮断する才能を持つ軍人ユリウス 万物を生成する才能を持つ少女クリス かれらは偶然か必然か、お互いの新型兵器を奪取することとなる、そして、この無益な戦争を終わらせるため、戦うことを決意する お気に入り、感想よろしければお願いいたします。

プリーマヴェーラ春の夢

F.Marrj
SF
ハンガリー王室摂政の娘・中洲麻衣は日本の若き有名詩人・中洲所縁里の妻である。一人の可愛い男の子にも恵まれて幸せな結婚生活を送っていたが、ある日麻衣は末期ガンの宣告をされ、一年の余命まで告知されてしまう。そして一年後、麻衣の愛したプリーマヴェーラの日差しの中で突然訪れた死の瞬間…。しかし麻衣の魂は黄泉の国へと行かずに、旧石器時代、まだ何もない日本へと送られてしまう。そこで麻衣はタルタラ人と名乗るシヴェーノという幼き少年と出会って、転生後にウラニアと名前を変えた麻衣はシヴェーノと二人きりの世界で生活を始めるが、この出会いと、麻衣のお腹にいる生前妊娠が発覚していた6ヶ月の子供が将来未来を大きく動かす存在になる。

『世界統合に伴う大型アップデートのお知らせ』

葉月+(まいかぜ)
SF
「ゲームだと思って遊んでいたらリアルな異世界だった(人によってはSAN値チェック案件)」×「現実世界にダンジョンがこんにちは!」な、よくあるはなし。     ※ゲームの周年イベントで「サプラーイズ!今日からリアルでもゲームのスキルが使えるしダンジョンからモンスターも湧くよ!たのしんでね!」とぶちかますような運営がいる近未来。ゲームの中にしかいなかった恋人を現実にサモン/召喚できるようになってしまった廃ゲーマーの「日常もの」。 ※物語の舞台はナノマシンと外付けデバイスを併用する可逆的な(やめようと思えばやめられる)電脳化が実用化され、それなりに普及もしていて、サスティナブルなウォーが遠隔操作型の戦闘人形で行われているくらいの近未来。母なる惑星から宇宙への脱出など夢のまた夢で、人類は地球の資源を食い尽くしながらこのままゆるやかに滅んでいくのだろうなと、多くの人々が薄々気付いていながら知らない振りをしているような時代。 ※主人公はひきこもり廃ゲーマーですが、あっという間に社会復帰します。ゲームで培った廃人ステがリアルに反映されたので。 ※カクヨム、ノベルピアでも読めます。 ※聖句の引用元は基本的に『Wikisource( https://ja.wikisource.org/w/index.php?title=%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&oldid=191390 )』です。     その日、世界の壁は打ち砕かれて。 めくるめく幻想が現実のものとなり、鬱屈としたリアルはゲームのルールに塗り潰された。

処理中です...