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シーズン2-シークトリア首都編
066-陰鬱なパレード
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クロノスから降りた私は、溢れんばかりの歓声に迎えられる。
黙って降りるのも問題なので、笑顔を作り、手を振ってアピールする。
「Clavis、乗れ」
「はい」
タラップを降りた先で、私は軍人に囲まれて車輛に乗り込んだ。
殆どが護衛のための人で、面識がないので緊張する。
それに、実験艦隊の人たちが優しかっただけで、私は今まで禁忌だった自律型AIだ。
護衛たちからすれば、憎みこそすれお近づきになろうなどという気はないだろう。
「(皆は遅れてくるようですね)」
先にクロノスで降下したので、みんなはまだ軍事ステーションにいる。
気まずい空気の中、私は車列が動き出すのを見ていた。
「Clavis、これより軍事パレードを行う。お前の任務は首都の人間達にアピールをする事だ。愛想を振りまけ。.....もっとも、愛想が何か理解できないだろうから、データは送っておく」
冷たいものだ。
でも、対応としては正しいのだろう。
向こうとしてはAIを相手にしているのだから。
「分かりました、特定の表情パターンを行い、人間の興味関心を引く行動をすれば良いのですね?」
「そうだ。これは戦略上重要な事であるので、欠かさず行え」
「はい」
ならばこちらも、機械的に答えるまで。
もとより、近しい人間以外に素顔を見せたとしてロクな事にはならないだろうから。
「もうすぐ大通りに出る。そうすれば、オープンカーのように車体が変形する。全方位にセンサーを展開し、狙撃に備えながら愛想を振りまけ」
「はい」
護衛の話通り、大通りに出た瞬間屋根が開き、私の座る席の列だけが上に持ち上げられた。
一般道の上を走る車列が、まず最初に......次に、私を見ている群衆の姿が目に入った。
駅伝の道路沿いのようだ.....と一瞬思ってしまう。
「.......にひ」
愛想笑い、と言うのだろうか?
思えば、人前で笑ったことなんか一度もなかった。
だから、これはきっと愛想笑いで会ってると思う。
それを浮かべて、周囲に手を振る。
「オオオオオオオオ!!!」
歓声が上がる。
でも、嬉しくはない。
『射線感知、B-T2ポイントからの狙撃予測――――射撃までの予測時間00:02:11』
そういう通知が、脳裏に流れてくるからだ。
どうも複数の狙撃者に狙われているらしく、避けるべきなのだろうと思い、手を振る振りをして射線から身をずらす。
すると、また私を狙う射線がずれるので、また後ろに手を振り、避ける。
「.......」
狙撃されていると言いたいのだけれど、護衛にはそんなことを言っても理解されないだろう。
既に周辺は軍事関係者によって警備されており、「完全な」セキュリティが確保されているのだから。
仕方がないので私は、射線を回避しながらパレードを敢行する。
「段々しつこくなってきましたね…」
恐らく撃てるのは一回だけで、指定されたエリアから出ると警備に引っ掛かるようにされているのかもしれない。
オフライン状態である私の記憶回路を破壊すれば、それで事は済むのだから。
「クラビスーーー! 頑張ってーー!!」
そのとき、私の聴覚センサーがノイズの中から子供の声を拾った。
そちらを見ると、小さな子供が父親に抱き上げられてこちらに手を振っているのが見えた。
「...........」
皮肉なものだと、私は思った。
国民は新たなヒーローを熱望し、私はそれになった。
子供が無邪気に私を応援する中で、大人というものは身内で潰し合う。
きっとこれは危険な思想なのだろう。
そう考え、私はそれ以上考えるのをやめた。
◇◆◇
パレードは都市内の長い道路で行われており、私たちがその場所を通過すると私は車内に収納される。
「ご苦労。これから君はホテルに移送されるから、指示があるまでそちらで待機するように。メンテナンス用の機材は既に室内に運び込んである」
「.....分かりました」
私は頷き、外を流れる風景に意識を向けるのだった。
黙って降りるのも問題なので、笑顔を作り、手を振ってアピールする。
「Clavis、乗れ」
「はい」
タラップを降りた先で、私は軍人に囲まれて車輛に乗り込んだ。
殆どが護衛のための人で、面識がないので緊張する。
それに、実験艦隊の人たちが優しかっただけで、私は今まで禁忌だった自律型AIだ。
護衛たちからすれば、憎みこそすれお近づきになろうなどという気はないだろう。
「(皆は遅れてくるようですね)」
先にクロノスで降下したので、みんなはまだ軍事ステーションにいる。
気まずい空気の中、私は車列が動き出すのを見ていた。
「Clavis、これより軍事パレードを行う。お前の任務は首都の人間達にアピールをする事だ。愛想を振りまけ。.....もっとも、愛想が何か理解できないだろうから、データは送っておく」
冷たいものだ。
でも、対応としては正しいのだろう。
向こうとしてはAIを相手にしているのだから。
「分かりました、特定の表情パターンを行い、人間の興味関心を引く行動をすれば良いのですね?」
「そうだ。これは戦略上重要な事であるので、欠かさず行え」
「はい」
ならばこちらも、機械的に答えるまで。
もとより、近しい人間以外に素顔を見せたとしてロクな事にはならないだろうから。
「もうすぐ大通りに出る。そうすれば、オープンカーのように車体が変形する。全方位にセンサーを展開し、狙撃に備えながら愛想を振りまけ」
「はい」
護衛の話通り、大通りに出た瞬間屋根が開き、私の座る席の列だけが上に持ち上げられた。
一般道の上を走る車列が、まず最初に......次に、私を見ている群衆の姿が目に入った。
駅伝の道路沿いのようだ.....と一瞬思ってしまう。
「.......にひ」
愛想笑い、と言うのだろうか?
思えば、人前で笑ったことなんか一度もなかった。
だから、これはきっと愛想笑いで会ってると思う。
それを浮かべて、周囲に手を振る。
「オオオオオオオオ!!!」
歓声が上がる。
でも、嬉しくはない。
『射線感知、B-T2ポイントからの狙撃予測――――射撃までの予測時間00:02:11』
そういう通知が、脳裏に流れてくるからだ。
どうも複数の狙撃者に狙われているらしく、避けるべきなのだろうと思い、手を振る振りをして射線から身をずらす。
すると、また私を狙う射線がずれるので、また後ろに手を振り、避ける。
「.......」
狙撃されていると言いたいのだけれど、護衛にはそんなことを言っても理解されないだろう。
既に周辺は軍事関係者によって警備されており、「完全な」セキュリティが確保されているのだから。
仕方がないので私は、射線を回避しながらパレードを敢行する。
「段々しつこくなってきましたね…」
恐らく撃てるのは一回だけで、指定されたエリアから出ると警備に引っ掛かるようにされているのかもしれない。
オフライン状態である私の記憶回路を破壊すれば、それで事は済むのだから。
「クラビスーーー! 頑張ってーー!!」
そのとき、私の聴覚センサーがノイズの中から子供の声を拾った。
そちらを見ると、小さな子供が父親に抱き上げられてこちらに手を振っているのが見えた。
「...........」
皮肉なものだと、私は思った。
国民は新たなヒーローを熱望し、私はそれになった。
子供が無邪気に私を応援する中で、大人というものは身内で潰し合う。
きっとこれは危険な思想なのだろう。
そう考え、私はそれ以上考えるのをやめた。
◇◆◇
パレードは都市内の長い道路で行われており、私たちがその場所を通過すると私は車内に収納される。
「ご苦労。これから君はホテルに移送されるから、指示があるまでそちらで待機するように。メンテナンス用の機材は既に室内に運び込んである」
「.....分かりました」
私は頷き、外を流れる風景に意識を向けるのだった。
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