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初々しき口遊び
しおりを挟む休日。珍しく、彼の部屋に行きたい、と明里が些か大胆なことを言い出したため、彼らは今日はお部屋デートに興じていた。
が、彼女が彼の部屋に来てからというものの、何をするでもない、二人並んでベッドに座るという奇妙な時間が流れていた。お茶入れようか? というただの決まり文句さえ言うのが憚られそうな異様な雰囲気。いつもはにぱー、という効果音が似合いそうなほどに明るい笑顔を浮かべる彼女のため、真剣な顔で黙られるととてつもなく怖い。
できる男であれば、こちらから彼女の言いたいことをさり気なく引き出してあげるべきなのかもしれないが、生憎彼にそんな余裕はない。彼も彼でそんな神妙な顔で黙り込まれては別れ話でも切り出されるのではないかと、気が気でない。
結果、口火を切ったのは明里だった。意を決して彼の方を振り向き、目が合い、ひるんで彼女は目を逸らし、気合を入れるために自分の頬を数回叩き、きっ! ともう一回彼の方を振り返ると、誰に触発された、もとい、変なことを吹き込まれたのかは分からないが、彼女は急にこんなことを言い出した。
「きっ、君の! お、おちんちんを……、そのっ、……舐め……、させて……ぇっ……」
よっぽど恥ずかしかったのだろう。最後の方の声などほとんど消えかけていた。彼の顔など見れもせず、彼女は顔を真っ赤にして俯いている。あまりにも唐突に素っ頓狂なことを言うものだから、彼はついうっかり、
「はい?」
と聞き返してしまった。これは恐ろしいほどの悪手である。何せ今にも恥ずかしさで泣き出しそうになっていることの元凶となった発言をもう一度しろと言っているのだ。鬼畜が過ぎる。案の定、
「聞き返さないでぇ……」
彼女は両手で顔を覆って本格的に泣き出してしまった。この場合、彼を責めるべきか、とんちんかんなことを言い出した彼女を責めるべきかは、まぁ難しいところだろう。
彼女が自発的にこんな淫乱なことを言い出すはずもないので、大方彼女のおませな友人にでも唆されたのだろう。例えば、付き合ってもう何年なんだからそれくらいしてあげなよ、とか、それくらいしないと嫌われるよ、とか。そんなエセマインドコントロール状態の彼女にそんなことをさせるのも気が引けた彼は、
「い、いや……、それはちょっと……」
断ろうと努力はしたのだが、彼女が即座に浮かべた不安そうな涙目顔で言葉に詰まる。
「い、嫌……、なの……?」
嫌か、と聞くのであれば即答しよう。全く嫌ではない。いやむしろ土下座してお願いしたいくらいだ。
彼女の唇が視界に映る。あれに咥えてもらえれば気持ちいいであろうことは想像に難くない。しかしそうすると彼女は今後、彼のモノを咥えた口で飲食をしていくということになる。
彼女の口を見る度に、彼はきっとそこに自分のモノを咥えられたことを思い出すだろう。対面しての食事の時なんかきっと彼女の口が動く度にそれを思い出す。そんなことになったら、当面の間彼のモノは彼女の口を見る度に反応しかねない。日常生活に大いなる支障をきたしてしまう。
自分の穢れたモノを咥えた口で物を食べる女。自分の最愛の人をそんな醜い化け物に変えてしまってもいいのか? いや、いいはずはない。だが、自分から『舐めさせて』とお願いしてきた女性の一世一代のお願いを断ってしまうことは、彼女の女としてのプライドを傷つけることにはならないか? それがきっかけで性に臆病になり、二度と咥えてくれなくなったらどうしてくれよう? そんなことになったら泣きながら夜の街を徘徊する自信が彼にはある。
さぁ、どうする?
結果、勢いに流されてしまうのが彼の悪いところである。いや、これはもう彼が悪いのではない。草食男子という生き物を生んだ時代が悪いのである。
恐らく初めて男性のモノを口に咥えるのだろう。いや、下手すれば初めて生で見るのかもしれない。下着の脱がし方といい、起き上がった彼のモノを見た時のリアクションといい、少なくとも慣れていないのであろうことは彼の目からも明らかだった。
口に咥える時もどう咥えたらいいかが分からなかったようで、口を開けては閉め、口の角度を変えて、もう一度口を開けては閉め、をしばらく繰り返していた。
ようやく口の中へと入れてくれた時も、歯が当たって中々の痛みを覚えたものだったが、彼も男の子なので我慢した。
彼女は見よう見まねと言った感じで口を動かしてくれてはいるが、しゃぶっている、と言うよりは、どちらかと言うと唾液を塗っている、という感覚の方が近いだろう。射精に至るためにはあまりにも足りない刺激だった。
好きな人に初めて咥えてもらっている、という興奮と、曲がりなりにも性器に刺激を与えられていることもあって、萎えこそしないが、それが逆に苦痛にもなる。言ってしまえば、射精にも至れない、萎えさせてもくれない寸止め責めをずっとされているようなものだ。
だが、
「……気持ち、いい……?」
そんな今にも泣きそうな、あまりにも不安そうな顔で聞かれては、彼の回答など一つだった。
「気持ちいい、よ」
明らかなウソではあったが、それを聞いて彼女は嬉しそうな、安心したような顔をすると、一生懸命自分の口を動かしてくれる。気持ち良くさせる動かし方を知らない、幼稚で単調な動き。正直な話、今すぐ止めて手で握り、上下に適当に動かしてくれた方がまだ気持ちいいだろう。
しかし、自分の言葉をウソにしないためにも、そして彼女が浮かべてくれている嬉しそうな顔を崩させないためにも、彼はその物足りない刺激の中で、頑張って自分を射精へと導くしかなかった。
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