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腕試し編ートバルの街ー

125話 闇に落ちた者達(5)

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 堕天使信吾と最後の戦いを挑む夏希。

 漆黒の闇の中でスズランは夏希の後ろ姿を見る。

 そして駆け寄ろうとしたが、その歩みは緩やかになり止まった。

「解除する……」

 スズランはゆっくりと影に沈んでいく。

 真冬は見ていたが何も言わない。

 夏希も気付いていたが何も言えない。

 漆黒の闇が霧散する。堕天使モドキはまだ戻って来ていない。真冬と正樹は治癒魔法が届く範囲ギリギリまで夏希から距離をとった。

 夏希は2人をリラックスさせる為に話す。

「ははは、正樹の治癒魔法がある限り、俺は無敵だ!例え手足が斬り飛ばされても「ニョキ」と復活するぞ。まるでナメッ○星人みたいだな!」

「夏希さん……僕まだレベルが足りないので深い傷とかは大丈夫ですが、無くなったものは復活出来ません。くっつける事は出来るので無くさないで下さい」

「マジかー!正樹!今すぐダンジョン潜ってレベル上げて来い!制限時間5分だ!」

 たぶん2人の緊張は無くなった。

 しばらくして約束の30分になった。黒い翼を羽ばたかせ堕天使モドキが夏希から10メートルほど離れた場所に舞い降りる。

「無駄な打ち合わせは終わったようだな。では始めよう。宮田夏希の死刑執行だ」

 堕天使モドキは闇で出来た剣を持ってゆっくりと歩いてくる。残虐な笑みで楽しそうに。

(やはり堕天使モドキは信吾だな。剣で戦うみたいだ。魔法戦よりは戦い易いはずだ。俺は戦闘をやるつもりはない。説得するつもりだからな)

 夏希は剣に高速振動の水を纏わせ構える。

 信吾が剣を振り夏希の剣と交差する。

「ガキィン!」

「ぐわっ!」

 夏希は信吾の剣を防いだが、その威力は凄まじく吹き飛ばされた。

(これは戦いでは無いな。ただのいじめだ)

 夏希は起き上がり剣を構える。

「なあ、信吾。お前はモドキと言えど天使になったんだ。自分が何故そうなったか判ってるよな?」

 信吾は痛め付けるように夏希に何度も剣を振る。夏希の身体に傷は無いが痛みが残る。

「ははは、知ってるぞ。お前が知らない事までな」

 信吾の攻撃は止まらない。

「もう戻れないのか?戻らないのか?」

 夏希は信吾の攻撃を浴び痛みに堪えながら話す。

「…………………」

 信吾の剣の威力が一瞬弱まったかと思った瞬間、反対に防ぎきれない威力の剣が夏希を襲い吹き飛ばされる。

(これじゃあ話も出来ない……仕方ない)

 夏希は立ち上がり念話する。

[スズラン、俺を闇に落とせ。闇を知るお前なら出来るよな?]

 信吾は再び痛め付ける程度の威力で夏希を襲う。

[スズラン、頼む、返事をしてくれ]

[闇のふちまで落とす。そしてワレが支える。だからそれ以上は落ちるな。ワレは落とす事は出来ても浮かび上がらせる事は出来ん。約束するのじゃ]

 スズランは返事を待たず夏希を闇の淵に落とした。

 その深く黒い闇は、夏希の黒い魂に共鳴した。

(うぐっ……これはキツい。気を抜くと全ての事が絶望的と思もうようになりそうだ)

 夏希は闇に飲み込まれないように必死に耐えている。と、急に闇の威力が弱まり夏希は持ち直した。

(スズラン、ありがとう)

 夏希は剣に力を込める。

「キィンッ!」

 夏希と信吾の剣が交わり両者が睨み合う。

「さあ、お話の続きをしようか」

「ぐっ!」

 信吾は剣に込める威力を上げるが、夏希が吹き飛ばされるような事は無くなった。

「なあ、天使モドキになって前より理性があるよな?その天使モドキの力でも闇から抜け出せないのか?」

「無理だ」

(30分の間に色々試してみたんだな…)

「地球に戻りたいか?仲間と一緒に」

 信吾の剣の威力が不安定になっている。まるで信吾の心を表すように。

「俺が戻してやる」

 夏希は剣を捨て、信吾の剣が左肩を深く斬り裂くのも無視して強く抱き締めた。

「俺がお前の闇を貰ってやる。だから諦めるな。考えることを止めるな。お前の人生はお前のものだ」

  「闇の底から這い上がれ!信吾!」

 夏希は己の黒い魂と深い闇とが共鳴した時、闇を吸収出来る事に気付いた。そして実行した。

 (スズラン、約束守れなかったよ)
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