上 下
110 / 171
腕試し編ートバルの街ー

110話 ニアと昼食

しおりを挟む
 魔法を使った模擬戦で勝利した夏希。

 スザンヌ達との模擬戦で、自身の強さと今後の課題をある程度認識出来た夏希。

(ルンバ師匠以外で模擬戦したのは正解だったな。魔法を交えた戦闘も上手く出来たと思う。もう何人かと模擬戦してみたいな)

 夏希はスザンヌ達と別れた後、そのままギルドの休憩場でのんびりしていた。

「夏希さん、お待たせしたにゃ」

 ニアが歩いてくる。休憩時間になったようだ。

「それじゃあ、何処か食べに行こうか」

 夏希は立ち上がりニアを連れてギルドを出た。

「この間は私がお店を選んだから今日は夏希さんのオススメが食べたいのにゃ」

 ニアが楽しそうに夏希の横を歩く。

(俺のオススメ……いいのかな?あそこで? でもニアがどう反応するか見てみたいな)

「それじゃあ俺のイチオシの定食屋に行こうか。少しだけご飯の量が多いけどニアなら食べれると思う」

「ふふ、楽しみですにゃ」

 10分ほど歩き夏希オススメの定食屋に着いた。夏希とニアは店の前で立ち止まり上を見る。

   [ 頑固オヤジの定食屋 ]

「なんか違う………」

 ニアは能面な表情で素の言葉使いだった。

「あっ、い、いや、個性的で魅力的なお店だにゃ。中に入るのが楽しみなのにゃ」

(ぷぷ、ニアの反応が面白い。あえて何も説明せずに「これが普通だ」的な態度で進行してみるかな)

「そうだろ?この街に来てからここの常連なんだ。あの屋号がまた素晴らしいよな!」

「は、はい。す、素敵ですにゃ……」

 ニアをエスコートして店に入る。今日もゴッツい冒険者達で賑わっている。

 俺は迷わず一直線でカウンターに向かい座り、ニアを隣の椅子へと誘う。ニアは暑苦しい男達に唖然としながらカウンターの席に座った。

「な、何故か同じ様な人達ばかり居るにゃ」

 ニアはそう言いながら、壁にある木札のメニューを見ていた。とても不思議そうに…

「あ、あの夏希さん。メニューが少しおかしいと思うのは私だけですかにゃ? [ 頑固オヤジの定食(大) ]しか無いように見えるにゃ。それに他の木札……」

[ 男は強くあれ。己の肉体を極限まで鍛えろ ]
[ 男は筋肉だ。腹筋を6つ割るんだ ]
[ 男は燃えろ。常に熱い情熱で突き進め ]

 ニアは3つ目の木札で読むのを止めた。木札は常に増えていて、今は店の壁を2周目に入っている。

「あの木札はなんでし……」

「はいよ!お待たせ。たんと食べな!ご飯のお代わりは3杯までだよ!」

 恰幅のいい女将がいつものセリフで目の前に定食を置いていく。今日は久しぶりに唐揚げ定食だ。山盛りの唐揚げに山盛りのサラダと溢れんばかりのスープだ。

「あ、あのまだ注文してないですよね。あと……これはなんですか……ファミリーパックですか?」

(ぶほっ!ファミリーパックって…面白いぞニア。そのままのキミで居てくれ。そんなキミが好きだ)

「いや、これが普通だよ?」

「えっ?こ、これが普通…」

 ニアは頭の中の常識を書き換え中だ。

 そこへ追い討ちを掛けるように店の息子が無言で近づいて2人の前に特大ジョッキの果実水を置いた。

「…………………」

 ニアは無表情で頭の中の常識を再度上書き中だ。

「ご飯のお代わりは3杯までだからね」

「は、はい…えっ!食べれませんよ、無理ですよ。どうするんですか?この量。何が少しだけ多いですか!私はあそこに居る人達とは違うんですよ!あんな無駄にデカくて暑苦しく食べてる人達とは!」

 ニアは興奮して余計な事まで叫び散らした。店内は静寂に包まれ男達は食べるのを止め項垂れている。

「あ、あの、違うんです!ごめんなさい…」

 ニアは立ち上がってお客に向かって謝った。

(これ以上は可哀想だな。ごめんなニア。ふふふ)

「まあニアよ、落ち着け。ご飯を食べような」

「夏希さんが悪いんですよ。もう!」

 ニアはブツブツ言いながら定食を食べていた。

「ニア、相談なんだが、ギルドに居る冒険者と模擬戦出来ないかな?自分の強さの基準を知りたい」

 ニアは食べるのを止めて答える。

「うーん、無理ですにゃ。だって夏希さんは他の冒険者から避けられてますよ。それと今朝、訓練場でスザンヌさん達と模擬戦したんですよね。ギルドで噂になってますよ。「あの行動が怪しいヤツは実はメチャクチャ強かったんだ!」って。だから無理ですにゃ」

「そうなんだ…」

(あれはちょっと派手な模擬戦だったからな。同じランクの人ともやりたかったけど仕方ないな)

「スザンヌさんとビエラさんは帝都で実力派として結構有名なんですよ。」

「確かに2人は凄い強かったよ。あの2人はAランクだけど位置的にはどれくらいか判る?」

 ニアは少しだけ考える。

「そうですねぇ。Aランクの上位に近いです。ただその上になる人達はもっと凄いみたいです。Sランクなんてお伽噺話のような強さらしいですよ」

(そうなんだ…まだまだ頑張らないとな…)

「よく判ったよ。ニアありがとう」

「いえ、役立って良かったです。あ、あの…もう食べれそうにないです……」

 ニアの定食は2/3以上残っていた。

 夏希は店の女将に残りを持帰り出来るようお願いして話を続け、冒険者達の情報や依頼の情報を聞きながら食事を進めた。

 夏希は定食を完食し女将から持帰りの袋をもらう。

「とても美味しかったですにゃ」

「そうだろ。ここの飯は旨いんだ。ニア、この旨い定食を作った頑固オヤジを見たくないか?あの木札の格言を書いたのは頑固オヤジなんだぞ」

「あの格言は全部男の強さを語ってましたね。実は気になってたにゃ」

 夏希は立ち上がりニアに指で「立って奥を見ろ」と指示をする。口元をニヤリとしながら…

 そこには、背の小さい細っそい体の男が唐揚げを揚げながら「もう出来るよ~」と小っちゃな震える声で恰幅のいい女将を呼ぶ為に叫んでいた。

「ぶふっ!」

 ニアは吹き出した後、夏希を睨む。

「もう…オチまであったんですね」

「はは、美味しくて面白かっただろ?」

 2人は笑いながら定食屋を後にした。

「あんた、お代がまだだよ!金払いな!」

 走って戻る夏希であった。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...