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腕試し編ートバルの街ー

56話 冒険者登録

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 冒険者ギルドに着いた夏希。

 冒険者ギルドは体育館並みの広さがある木造2階建てだ。(この街のギルドは何故か大きい)

 1階は、受付と事務所、素材処理場、あと軽食(お酒もあるよ)や待機、打合せなどをする休憩スペースと洗い場(シャワーもあるよ)がある。

 2階は、資料室、応接室、会議室、ギルド長室、Bランク以上が使用できる休憩スペースがある。あと、併設された大きな訓練場もある。

 夏希はそのギルドに見合った大きな両開きのスイングドアを開けて中には入った。

 今日の夏希はスーパーハイテンションモードになっている。その夏希は今日、定番を求めているのだ!

 受付は5人居る。朝の依頼受付で忙しそうに冒険者の対応をしている。休憩スペースでは、受付待ち、打合せ、依頼が終わって酒を飲んでいる冒険者達が溢れていた。(来た時間帯が悪かったな)

 取り敢えず休憩スペースに行き、空いているテーブルについて椅子に座る。

 夏希は受付嬢を観察中だ。

 人族の女性が3人と男性が1人、獣人の女性が1人だな。
 5人は若く容姿も整っている。(やっぱり若いのね。定番なのね)

 内訳は以下だ!

 1人目、金髪ロングで大人の色気漂う美女。
 2人目、茶髪セミロングで清楚な感じの眼鏡美女。
 3人目、淡いピンク髪ショートボブで可愛い女の子。
 4人目、細身で真面目そうなイケメン眼鏡男子。
 5人目、語尾に「にゃ」を言いそうな猫族の女の子。

 定番だな!(ローテーションどうしてるんだ?)

 俺はどの受付嬢にするか既に決めている。それはもちろん猫族の女性だ。どうしても「にゃ」って言うか知りたいんだ!定番の「にゃ」を聞きたいんだ!


 ん?近くに寄って耳を澄ませだって?いやいや、会話のキャッチボールがしたいんだよ!

 獣人村にも猫族の女性は居るが「にゃ」を語尾に付ける女性は居ない。(獣人村の猫族と言えばネネさんなんだよな。あの人が語尾に「にゃ」付けたら面白いのにな。ご飯3杯は行けるのにな)

 まだ名前も知らない猫族の女の子ちゃん。頼むぞ~本当に頼むぞ~。今日は定番でお腹いっぱいに成りたいのだ!

 俺は受付嬢猫ちゃんの前に並んでいる冒険者の列が少なくなるのを休憩スペースの椅子に座って待っている。

 ……いや!待ってる場合ではない!その間に他の定番チャンスがある筈だ!攻めろ!夏希!

 夏希は考える。

 あと今出来る事はなんだ?

 おっ、いかん、いかん!定番の定石とも言われる「先輩冒険者に絡まれる」を忘れてた!

 夏希はテーブルに頭を「ガンガン」打ち付けて反省をする。(すぐに行動だ!)
  
 夏希は考える。

 ここに座っていて絡まれるパターンもある筈だが今日は無いみたいだ。あとは歩いていてると足を出されて俺が転ぶか、足を出した先輩冒険者が痛がる2パターンだな。(行動開始だ!)

 夏希は休憩スペースの一番端までわざわざ行くと、座っている冒険者の間をゆっくりと歩く。それも全ての隙間を縫うように歩く。「足を出せ!」と念じながら。

 夏希の休憩スペース巡回の旅は何事も無く終りそうだ…

 何故なんだ!こんないいカモ居ないだろ!ほらっ、足出せよ。獲物は目の前だぞ!俺が足出そうか?勝手に転けようか?

 夏希は必死である。

 だが、冒険者達は無視である。いや、寧ろ関わらないように足をテーブルより内側に引っ込め、視線を合わせない様にもしている。(あの新人?急に頭をテーブルに打ち付けたと思ったら、立ち上がって部屋の端まで行って、舐めるような視線でねちっこく歩くんだぜ。すげぇ、怖ぇえよ…。そこに居合わせた全員の思いである)

 夏希は諦め受付の列に並ぶ事にした。

 はぁ、何故か駄目だった…あとは受付嬢とイチャイチャして絡まれるパターンか、ステータスが凄い数値で絡まれるパターンだな。頑張るぞ!

 列は順調に進み15分程で夏希の番になった。

 夏希の心臓は「バクバク」と高鳴っている。(頼むぞ…頼むからまずは「いらっしゃいませにゃ」って言ってくれよ)

 夏希は列に並んでいる間、受付の声が聞こえないようにずっと耳に指を突っ込んでいた。そして今、受付嬢の前に立ち、耳から指を解き放った。

「いらっしゃいませにゃーん」

「ちがーーう!それもいいけど……」

「そ・れ・は・ちがーーうにゃ!」

 夏希は狂った様に叫んだ。

 荒んだ心を落ち着かせ夏希は受付の椅子に座った。

「すいません、大きな声を出して。何でも無いんです…」

「い、いぇ、問題なければいいですにゃーん。初めて見る顔にゃーん。登録かな?にゃーん?」

 うん…何かウザったい喋り方だけどいいや。これも定番の1つだ。(あれ、わざと語尾付けてないか?)

「はい、登録をお願いします。登録用紙はもう記入してます」

 夏希は事前に書いた登録用紙と身分証を受付嬢に渡した。(村で発行した身分証があるので、簡単な内容のものだ)

 受付嬢は登録用紙の内容と身分証を確認すると、机の上にあるA4サイズより少し大きめの箱に登録用紙を差し込んだ。

「この箱の上にある丸い水晶に手を乗せるにゃーん」

 夏希は言われた通り手を乗せる……何も起きない。(光ったり、音がなったりとかしないの?)

 受付嬢はその箱からタグを取り出して俺に差し出した。(合わせて薄い冊子もくれた)

「はい、登録終わったにゃーん。これが冒険者タグにゃーん。説明はこの冊子を読んでにゃーん」

 え、ステータスは?驚くあなたは?絡む先輩冒険者は?

 全て無かった……

「あ、あの…ステータスとか見ないんですか?」

「そんなの見ないにゃーん。冒険者個人の秘密にゃーん。必要な場合は申告制にゃーん」

 ああ、定番の何割かはこの一瞬で終わった……

 夏希は項垂れながら受付を後にしたのであった。
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