44 / 171
腕試し編ートバルの街ー
44話 夏希の苦悩
しおりを挟む
昨日まで幸せの中を漂っていた夏希。
親しくなった人達の変わり果てた姿を見て夏希の心は溶けない氷で覆われてしまった。
この原因を作った物達は、夏希の万にも及ぶ魔法の刃によって原型を留めてはいなかった。また、その刃が降り注いだ場所は巨大な隕石が落ちた後なのではと思える程、深く大きな穴が開いていた。
夏希は血の水溜まりに伏せるまだ幼い少女を抱き寄せた。
その幼い少女の髪には昨日夏希があげたリボンが結ばれている。だが昨日見せていた笑顔は無い。青白くなった顔は目を閉じて眠っているようだ。
何故こんなことが起こるのか。何故助ける事が出来なかったのか。一緒に馬車に乗っていれば助けられたのではと夏希は苦悩する。
「アンリちゃんごめんな…助けられなかった。お父さんもお母さんも…他の皆も…」
夏希はその小さな体を強く抱き締めた。
「まるで寝てるだけみたいだよな。温かいし…」
夏希の時間は少しの間止まる。ん?死んでも温かいか?
夏希は焦りながらアリンちゃんの胸の鼓動を確認するが自身の心臓の音が激しい為、確認に手間取っている。
「鼓動はしてない。だがまだ間に合うのか?!」
夏希はアイテムボックスから、ありったけのポーションを取り出し震える手で振りかけた。
「アンリちゃんごめん!少しだけ離れる!」
動きもなく返事をしない少女を優しく地面に寝かせ、残りのポーションを持って走る。
「皆ごめんな!」
死んでいると勝手に思い込み、生死の確認をしていない事に今さら気が付いた夏希は急いでポーションを掛けて回った。だが、生死の確認は後回しにする。
「悪いがアンリちゃんを優先する!もう少しだけ頑張ってくれ!」
返事は何処からも聞こえて来ない。無理なのか…
ポーションを掛け終わった夏希はアンリちゃんの様子を確認する。
呼吸も胸の鼓動もない。だが体は温かい…
判らない…どうなんだ!!夏希は蘇生の知識が少ない事に歯噛みする。
時間を掛ければそれだけ助かる可能性は低くなる。
「くそっ、カルレス!お前上から見てるだろ!何とかしてくれ。私に出来る事は何でもする。命でも何でも持って行け!だから助けてくれ……頼む!!」
夏希は空に向かって泣きながら叫ぶ。(頼む…もうあんたしかいないんだ)
不意に静寂な世界に切り替わった。
「はぁ、なんなのよ。まぁ大体判るけど」
目の前には天使カルレスが浮かんでいる。
「皆を助けてくれ。頼む!」
「夏希、少し落ち着きなさい。今、この場所は隔離して時間は止まってるわ」
夏希は時間の有余ができた事に安堵した。
まだ細い糸だが望みの糸は繋がったぞ!
親しくなった人達の変わり果てた姿を見て夏希の心は溶けない氷で覆われてしまった。
この原因を作った物達は、夏希の万にも及ぶ魔法の刃によって原型を留めてはいなかった。また、その刃が降り注いだ場所は巨大な隕石が落ちた後なのではと思える程、深く大きな穴が開いていた。
夏希は血の水溜まりに伏せるまだ幼い少女を抱き寄せた。
その幼い少女の髪には昨日夏希があげたリボンが結ばれている。だが昨日見せていた笑顔は無い。青白くなった顔は目を閉じて眠っているようだ。
何故こんなことが起こるのか。何故助ける事が出来なかったのか。一緒に馬車に乗っていれば助けられたのではと夏希は苦悩する。
「アンリちゃんごめんな…助けられなかった。お父さんもお母さんも…他の皆も…」
夏希はその小さな体を強く抱き締めた。
「まるで寝てるだけみたいだよな。温かいし…」
夏希の時間は少しの間止まる。ん?死んでも温かいか?
夏希は焦りながらアリンちゃんの胸の鼓動を確認するが自身の心臓の音が激しい為、確認に手間取っている。
「鼓動はしてない。だがまだ間に合うのか?!」
夏希はアイテムボックスから、ありったけのポーションを取り出し震える手で振りかけた。
「アンリちゃんごめん!少しだけ離れる!」
動きもなく返事をしない少女を優しく地面に寝かせ、残りのポーションを持って走る。
「皆ごめんな!」
死んでいると勝手に思い込み、生死の確認をしていない事に今さら気が付いた夏希は急いでポーションを掛けて回った。だが、生死の確認は後回しにする。
「悪いがアンリちゃんを優先する!もう少しだけ頑張ってくれ!」
返事は何処からも聞こえて来ない。無理なのか…
ポーションを掛け終わった夏希はアンリちゃんの様子を確認する。
呼吸も胸の鼓動もない。だが体は温かい…
判らない…どうなんだ!!夏希は蘇生の知識が少ない事に歯噛みする。
時間を掛ければそれだけ助かる可能性は低くなる。
「くそっ、カルレス!お前上から見てるだろ!何とかしてくれ。私に出来る事は何でもする。命でも何でも持って行け!だから助けてくれ……頼む!!」
夏希は空に向かって泣きながら叫ぶ。(頼む…もうあんたしかいないんだ)
不意に静寂な世界に切り替わった。
「はぁ、なんなのよ。まぁ大体判るけど」
目の前には天使カルレスが浮かんでいる。
「皆を助けてくれ。頼む!」
「夏希、少し落ち着きなさい。今、この場所は隔離して時間は止まってるわ」
夏希は時間の有余ができた事に安堵した。
まだ細い糸だが望みの糸は繋がったぞ!
32
お気に入りに追加
2,333
あなたにおすすめの小説
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
流石に異世界でもこのチートはやばくない?
裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。
異世界転移で手に入れた無限鍛冶
のチート能力で異世界を生きて行く事になった!
この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる