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外伝 シンデレラを訪ねて

04 舞踏会最終日

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(ナタリア・メトカーフ侯爵令嬢)

 ごきげんよう。
 そうですわ、確かに私がメトカーフ家のナタリアでございます。
 父から連絡を受けたときは驚きましたわ。
 宰相のメトカーフ侯爵とはどういったご関係ですの?
 父ですか?
 昔お世話になった恩人としか…。
 てっきり年配の殿方だと思っていたのに、上品なご婦人だったので驚きましたわ。
 これまでずっと外国にいらした?
 まあ、そうでしたの。
 良ければ後で外国のお話を聞かせて下さいまし。
 ところで、私に聞きたいこととは?
 チャーミング王太子の人となり?
 まあ、それで父は私を…。
 ええ確かに私は数年前までチャーミング王太子の婚約者の地位におりました。
 でもどうして王太子のことをお調べになろうと?
 ああ、今行われているふざけた舞踏会の件ですわね。
 親戚のお嬢様が参加している?
 だからですか…それは気になるでしょうね。
 いいですわ、お話しいたしましょう。
 でもきっと、想像されている王太子像とはかけ離れていましてよ。
 
 チャーミング様は…一言でいえば、高貴な血筋に胡坐をかいた傲慢な方でしたわ。
 あら、かまいませんことよ。
 だって私、もうあの方の婚約者ではありませんもの。
 婚約破棄を突き付けられた時は、これであの馬鹿王子の尻ぬぐいをしなくて済むんだとほっとしたものですわ。
 最初からお話ししますわね。
 私とチャーミング王子が婚約を結んだのはお互いが5歳の時です。
 当然そこに本人たちの意思はありません。
 でも今の国王陛下も、先代の陛下も、幼いころに婚約を結んだ令嬢や王女を王妃に迎えています。
 私はチャーミング王子と同い年だったことと、実家が侯爵でありながら数代前から王族とは縁を結んでいなかったことで選ばれました。
 というのも、先代まで短命な王が続いたことが大きな理由です。
 高位貴族はこぞって王族の姫の降嫁を受け入れ、さらにその子孫を王家に嫁がせていました。
 血が濃くなり、その弊害が寿命という形で出ていたのです。
 先代王妃様は外国の方ですが、現在の王妃様は国王陛下の従妹姫です。
 そこで爵位が高く、王族から血が遠い私は王族の青い血を繋ぐためにうってつけの結婚相手でした。
 しかしチャーミング王子はそのことを理解してはいませんでした。
 よく罵られましたわ、「父親の権力を使って婚約者の座に収まったのだろう、そんなに王妃になりたいのか」とね。
 冗談じゃない。
 あんな顔だけの無能な王子、王命でなければ絶対にお断りでしたわ!
 そうなんです、本当に無能も無能、馬鹿王子でした。
 双子の妹君のリリアーナ様は逆に真面目で優秀でしたのに。
 皆が思っておりましたよ、リリアーナ様が男子に生まれていれば…あるいは生まれた順が逆であったなら…。
 でも今思えばこれで良かったのかもしれません…いえいえ、こちらの話ですわ。
 ともあれ私は王子に疎まれ蔑まれながら、必死に王妃としての教育を受けておりました。
 悲しかったですが、侯爵家の娘として生まれ、貴族特権の恩恵を受けている以上は自分の心を殺さなくてはなりません。
 それでもいつかはあの馬鹿王子と愛のない結婚をし、子供を作らねばならないと思うと絶望しかありませんでした。
 だからこそ、あの男爵令嬢の存在は私にとって僥倖でございましたわ。
 名前は…何だったかしら?
 まあ何だって良いのです。
 「チャーミング様は苦しんでおられるのです。どうかあの方を解放してあげて!」と言いに来たときは驚いたものですが、結果的にあの方を篭絡し、あんなに目立つ場所で婚約破棄という茶番を繰り広げてくださいました。
 そうなんです。
 外国の特使をもてなすための夜会で、あの方は婚約者の私ではなくお気に入りの男爵令嬢を伴って現れましたわ。
 まったく…こちらは特使をもてなす公務に追われていたというのに、本来その役目を担うべき王子は、恋人と乳繰り合って…いえいえ、親密にしていたようですの…王太后様に至っては鬼の形相でしたわ。
 そして会場の真ん中で、私を指さして婚約を破棄する!と醜く喚きました。
 さらに私がその男爵令嬢をいじめたとか、父親の権力を使って民を虐げているとか世迷言を言っていましたが、さすがに激怒された国王陛下の衛兵に拘束され、連れ出されていました。
 あれからチャーミング様にはお会いしていません。
 しばらくして、ようやく待ち望んだ婚約を白紙に戻す書類が送られてきたときは嬉しくて涙が零れました。
 貴族令嬢として傷がつきましたが、これで馬鹿王子の婚約者の座から解放されると思えば安いものでしたわ。
 …あら、そういえば、あの男爵令嬢はあれからどうしたのかしら?
 チャーミング様はあんなにあの令嬢を気に入っておられたのに、いつの間にか見なくなってしまいましたわね…。

 ともあれ、これでチャーミング王太子がどんな方かお分かりになられたでしょう?
 親戚のお嬢様にもお伝えくださいね。
 …え、私の結婚相手ですか?
 あら、気にして下さるなんて。
 実は内々にですが、すでに婚約を結んでおりますのよ。
 あの馬鹿王子がはいちゃ…ではなく、新しい婚約者を見つけた後に発表し、お相手の領地で式を挙げる予定ですの。
 私の方が先に婚約したとなれば、馬鹿王子がまた騒ぎ出すかもしれませんから仕方ありませんわ。
 少し年が離れておりますがとても誠実で素敵な殿方ですのよ。
 先代が王太后様の顰蹙を買ったせいで、とてもご苦労されたと聞いています。
 今は領地の経営に専念されているようですが、時期を見て父が王宮の仕事を斡旋したいと言っておりました。
 まあ!
 どうしてお分かりになったの!?
 そうです、ウォーターハウス侯爵様ですわ。
 侯爵様の姉君?
 お名前だけは存じております。
 ケイトリン・ウォーターハウス様ですね。
 侯爵様と何度かお会いした時に姉君のことは聞いておりましたし、両親も一度会ったことがあるとかで…
 とても美しく優秀な方で、今は大公家の家庭教師をなさっているとか。
 直接お会いしたことはございませんが、生徒のマルゲリータ様はご立派な淑女ですから、噂通りの方なのでしょうね。
 そうでしたの、ケイトリン様にご縁がおありでしたのね。
 でもどうか、この婚約の話は内密にしてくださいませ。
 侯爵様も姉君にはお話ししていないはずです。
 でも楽しみですわ。
 侯爵様と縁を結べば、ケイトリン様は私のお義姉様になるのですからね。

 …少し部屋の外が騒がしいわね。
 どうやら王宮に遣わしていたお父様の部下が戻ったようですわ。
 そうですの。
 馬鹿王子がちゃんと妃を選んだか気になりますからね、舞踏会に女の諜報員を紛れ込ませていましたのよ。
 あ、来たようですわ。

 …。
 …。

 お待たせしました。
 明日の朝には大々的に発表されることですからご婦人にもお教えしますわ。
 王子の新しい婚約者に選ばれた不幸なご令嬢は、準男爵家のエラ・ヨーク嬢だそうですわ。
 大丈夫、大丈夫。
 陛下とて鬼ではございませんわ。
 エラ嬢が望めば離婚も可能でしょう。
 まあ、私ったらまた余計なことを…。
 気にしないで下さいましね。
 …あら、もうお暇されてしまいますの?
 お泊りになってもよろしいんですのよ。
 外国のお話しも聞きたいですし。
 なんですか、これは?
 結婚祝い?
 まあ!すごいわ!!
 だなんて。
 結婚式の日に履きたいけれど、こんな華奢な靴、私の足に入るかしら…。

 本当にいただいてしまってよろしいの?
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