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一難去ってまた一難(2)
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自分という存在がどれほど兄にとって人生の足枷になっているのか、ヴィオレは痛いほどそれを理解している。生まれた時から病に侵され、兄の支えがなければすぐに命を落としてしまうような、そんな自分がどれだけ兄の負担となっているかを、嫌でも感じざるを得なかった。いつか兄に見捨てられても文句など言えない。それが当然の結果だと、そう覚悟もしている。
それでも、今こうして生きていられるのは、すべて兄であるブランが自分を支え続けてくれているからだ。彼の献身的な愛情と犠牲に支えられながら、生き延びている事実に、ヴィオレは感謝している。だがそれと同時に、重い罪悪感が胸を締め付ける日々を過ごしていた。
ヴィオレには両親の記憶がない。物心つく頃には、すでに孤児院にいた。そして、そんな孤児院での生活しか知らないヴィオレにとって、その日々の大半は退屈で、鬱屈としたものだった。孤児院を管理している老夫婦からは、いつも嫌な顔をされ、疎まれていることを、彼女は感じていた。しかし、彼らがいなければ、病に伏せながら兄と共に路上生活を余儀なくされていたのだから、文句を言える立場ではないことも理解している。そんな時、兄がその小さな背中で懸命に自分を背負い、あの丘の上にある草原へ連れて行ってくれた瞬間は、今でもヴィオレの心に深く刻まれている。初めて、この世界が美しいと感じた瞬間だった。それを目にするために自分は生まれてきたのだと、一瞬錯覚してしまうほどに。そのひとときは、ヴィオレにとって病の痛みを忘れるほど楽しく、同時に、あっという間に過ぎ去ってしまう時間だったと彼女は記憶している。
未来ある魔法使いの卵は宝だ。それは、平民でも、貴族でも、親がいない子供でも、その価値に変わりはない。だからこそ、魔力の色彩がまだわからなかったブランとヴィオレは、孤児院に受け入れられることができた。
だが、兄が宿す魔力の正体が明らかになったあの日に全てが壊れてしまった。
兄がその身に宿していたのは、白き色彩の魔力。
その色彩が世界から忌み嫌われたものであることは、ヴィオレも知っていた。。
魔力の色が明らかになった日、すぐにでも死んでしまうかのような表情を浮かべたブランの姿を、ヴィオレは今でも忘れられない。その光景は、彼女の記憶に深く刻まれている。しかし、それ以上に記憶にこびり付いているのは、同じ孤児院の子供たちや老夫婦が、あの日、あの瞬間から兄の事をまるで塵のように、そんな冷たい目で見ている光景だった。
価値のない子供など、足枷でしかない。
身寄りのない子供を見返りもなく育ててくれるような聖人君子などは存在しない。人間という種の根本は、利用価値によってその存在が左右される。表向きの優しさや慈悲の裏には、必ず心の奥底で見返りを求める欲望が潜んでいる。
そして、足枷である存在は切り捨てられる。
だからこそ、兄は孤児院から追い出された。まだ十歳にも満たない年齢だったにも関わらず。だが、老夫婦にとって、ヴィオレにはまだ利用価値があったのだろう。彼女も一緒に追い出されることはなかった。しかし、兄のいない孤児院など、彼女にとって地獄そのもので、彼女は孤児院を勝手に抜け出し、兄の背中を追いかけた。
病からくる身体の痛みなど忘れていた。ただ、遠くに見える兄の背中をひたすらに追いかけた。
死ぬ瞬間が来るのなら、兄に看取られてあの世へと行きたい。どうせなら、兄の腕の中で眠りたい。そんな身勝手なことを考え、それを兄に押し付ける自分が、ヴィオレは嫌いだった。それでも今、こうして兄に力強くしがみついてしまっている。
兄が夜な夜な家を出て、朝日が昇るころに帰ってきてることを、ヴィオレは知っていた。ボロボロになった服を脱いだとき、兄の身体がそれ以上に傷だらけになっていたことを見てしまった。きっと危険なことをしている。彼女は、今すぐにでもその仕事をやめてほしいと思う。しかし、そんなことを言えるわけがない。兄がその危険なことをしているのは、自分が原因なのだから。兄はずっと、自分の病を治すという約束を果たそうとしてくれている。それが嬉しくて、そして苦しくて、たまらない。
ヴィオレがその事を口にしないのはもう一つの理由があった。
それは、ブランは必ずこの家へ帰ってきてくれる。必ず生きて、この場所へ戻ってきてくれると信じているからだ。
だが今日、朝日が昇っても、ブランは家に帰ってこなかった。時計の針が進むたびに、彼女はドアを見つめ、耳を澄ませていたが、待ち焦がれていた足音は聞こえない。いつもなら、この時間には帰ってきているはずなのに。時間が経つにつれ、ヴィオレの心はどんどん重くなり、不安が募っていく。何かが起こったのではないか。そう思わずにはいられない。どこかで兄が傷ついているのではないか――そんな恐れが、冷たい影のように彼女の心に忍び寄り、離れなくなっていく。
いつもとは違う、沈黙と静寂の中。ヴィオレの胸の中に広がるその恐れは、徐々に形を成していく。
だからこそ、扉が開いたとき、誰かも確認せずに飛び込んでしまった。病の痛みすらも忘れて身体が勝手に動いたのは、彼女にとって、あの日以来だった。
ブランは、ようやく自分の行動がどれだけ軽率だったかを痛感する。魔力の膨張による圧迫の痛みは、想像を絶するほどの苦しみであるはずだ。だが、そんな痛みに襲われているヴィオレが、大粒の涙を流して自分の帰りを待っていた。彼女の顔を、その涙を見た瞬間、胸が締め付けられるような罪悪感が押し寄せる。
ヴィオレはもう一度、ブランの胸に顔をうずめた。今にも折れてしまいそうな細い腕をブランの背中に回し、一層強く抱きしめてくる。それでも彼女の力はか弱い。それが逆に彼女の必死さを物語っていると、ブランは感じる。
「……とりあえず中に入ろう? ヴィオレ」
ブランが優しく声を掛けると、胸にうずめられたヴィオレの頭が小さく頷くのを感じた。彼はそのまま彼女をしっかりと抱きかかえ、ゆっくりと家の中へ入る。そして、慎重に寝台まで移動し、そっと彼女を寝かせようとした。しかし、ヴィオレはブランの背中から手を離さず、胸にしがみついたまま離れようとしない。ブランはそんな彼女を落ち着かせるために、優しく背中を撫でた。それは幼い頃からずっと、ブランがヴィオレにしてきたことだった。お互いの心を落ち着かせるための、兄妹だけのおまじない。それからしばらく時間が経ち、ヴィオレはようやく落ち着きを取り戻したのか、ブランの背中からそっと手を離した。彼女の呼吸も少しずつ安定し、顔を上げてブランを見つめる。その瞳にはまだわずかに不安が残っているものの、先ほどのような緊張感は和らいでいる。
「大丈夫、俺は必ずこの家に帰ってくるよ」
ブランはそう言って、優しく微笑みかけた。ヴィオレの顔にほんの少しの安堵が見えたものの、まだ心の奥底にある不安を隠しきれていないのが分かる。ブランはそんな彼女の心を察し、少し優しさを込めた声で問いかけた。
「ヴィオレが考えていること、兄ちゃんに教えてくれるか?」
彼の言葉には、無理に聞き出そうとするのではなく、あくまでヴィオレの心の重荷を少しでも軽くしたいという願いが込められていた。ヴィオレは一瞬、言葉を詰まらせたが、やがて視線を伏せながら小さな声で口を開いた。
「……私は、私がお兄ちゃんの負担になっていることが、とても辛い。お兄ちゃんの人生の足枷になっている自分が、死ぬほど嫌いなの」
ヴィオレは小さな声でそう呟き、再び視線を伏せた。その言葉には、長い間胸の中に秘めてきた感情が滲んでいた。ブランはその言葉を受け止め、思わず息を飲みこむ。
「お兄ちゃんの身体がボロボロなの、私知ってるんだ。それに、全然眠れてないことも……。生活費や、私の治療費のために、いつも傷だらけになって帰ってきてること、知っているの。」
ヴィオレの声は震えていた。彼女はずっと、自分のために犠牲になっているブランの姿を見て、何もできない自分を責め続けていた。その思いが溢れ出すように、彼女の瞳には再び涙が滲んでいく。
「だから、私は……私はお兄ちゃんにこれ以上、負担をかけたくない。私がいなければ、お兄ちゃんはもっと自由に生きられるのに……」
ヴィオレの声は震えていた。彼女は、ただでさえ白い魔力のせいで世間から疎まれ、苦労している兄を思い、自分の存在がその負担をさらに増やしていると考えている。ブランはその言葉を聞き、胸が締め付けられるような痛みを感じる。しかし、彼女の思いをただ否定するだけでは何も解決しない。彼は一つ一つの言葉をしっかりと受け止め、ヴィオレを少しでも安心させたかった。
「ヴィオレは、兄ちゃんとの約束を覚えてるか?」
ブランはヴィオレの手に自分の手を重ね、優しく、そして力強く握りしめた。その兄の問いに、ヴィオレは小さく頷いた。
「絶対に病からお前を救ってみせるっていう約束だ。」
その言葉は、魔法使い《ウィザード》の誓いに含まれている約束の一つ。ブランが心の底から叶えたいと願っている目標でもあり、強い誓いでもある。彼はその約束を果たすために、どんな困難が待ち受けていようとも決して諦めないと、心の中で固く誓っている。
「兄ちゃんはな、お前がいない世界で自由になんてなりたくない。そんな世界で生きたいなんて、全然思わない」
ブランの言葉は真剣で、その眼差しはヴィオレに向けられたまま揺るがなかった。
「お前がいるから、俺は毎日頑張れるんだ。どんなに辛くても、どんなに苦しくても、家に帰ればお前が待ってくれてる。それだけで俺は前に進める。」
決して辛いのは自分だけではないと、少年は知っている。本当に辛いのは、生まれながらにして自由を知らないヴィオレであると。彼女もまた、世界が定めた運命のせいで、辛く、苦しい日々を送っている。
ブランはヴィオレをしっかりと抱きしめた。
そして心の中で再び誓う。どんなに厳しい状況であっても、共に支え合い、乗り越えていくことを。
====================
まず初めに、私の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございます。
ゆっくりと書いていく予定です。
時々修正加えていくと思います。
誤字脱字があれば教えてください。
白が一番好きな色。
それでも、今こうして生きていられるのは、すべて兄であるブランが自分を支え続けてくれているからだ。彼の献身的な愛情と犠牲に支えられながら、生き延びている事実に、ヴィオレは感謝している。だがそれと同時に、重い罪悪感が胸を締め付ける日々を過ごしていた。
ヴィオレには両親の記憶がない。物心つく頃には、すでに孤児院にいた。そして、そんな孤児院での生活しか知らないヴィオレにとって、その日々の大半は退屈で、鬱屈としたものだった。孤児院を管理している老夫婦からは、いつも嫌な顔をされ、疎まれていることを、彼女は感じていた。しかし、彼らがいなければ、病に伏せながら兄と共に路上生活を余儀なくされていたのだから、文句を言える立場ではないことも理解している。そんな時、兄がその小さな背中で懸命に自分を背負い、あの丘の上にある草原へ連れて行ってくれた瞬間は、今でもヴィオレの心に深く刻まれている。初めて、この世界が美しいと感じた瞬間だった。それを目にするために自分は生まれてきたのだと、一瞬錯覚してしまうほどに。そのひとときは、ヴィオレにとって病の痛みを忘れるほど楽しく、同時に、あっという間に過ぎ去ってしまう時間だったと彼女は記憶している。
未来ある魔法使いの卵は宝だ。それは、平民でも、貴族でも、親がいない子供でも、その価値に変わりはない。だからこそ、魔力の色彩がまだわからなかったブランとヴィオレは、孤児院に受け入れられることができた。
だが、兄が宿す魔力の正体が明らかになったあの日に全てが壊れてしまった。
兄がその身に宿していたのは、白き色彩の魔力。
その色彩が世界から忌み嫌われたものであることは、ヴィオレも知っていた。。
魔力の色が明らかになった日、すぐにでも死んでしまうかのような表情を浮かべたブランの姿を、ヴィオレは今でも忘れられない。その光景は、彼女の記憶に深く刻まれている。しかし、それ以上に記憶にこびり付いているのは、同じ孤児院の子供たちや老夫婦が、あの日、あの瞬間から兄の事をまるで塵のように、そんな冷たい目で見ている光景だった。
価値のない子供など、足枷でしかない。
身寄りのない子供を見返りもなく育ててくれるような聖人君子などは存在しない。人間という種の根本は、利用価値によってその存在が左右される。表向きの優しさや慈悲の裏には、必ず心の奥底で見返りを求める欲望が潜んでいる。
そして、足枷である存在は切り捨てられる。
だからこそ、兄は孤児院から追い出された。まだ十歳にも満たない年齢だったにも関わらず。だが、老夫婦にとって、ヴィオレにはまだ利用価値があったのだろう。彼女も一緒に追い出されることはなかった。しかし、兄のいない孤児院など、彼女にとって地獄そのもので、彼女は孤児院を勝手に抜け出し、兄の背中を追いかけた。
病からくる身体の痛みなど忘れていた。ただ、遠くに見える兄の背中をひたすらに追いかけた。
死ぬ瞬間が来るのなら、兄に看取られてあの世へと行きたい。どうせなら、兄の腕の中で眠りたい。そんな身勝手なことを考え、それを兄に押し付ける自分が、ヴィオレは嫌いだった。それでも今、こうして兄に力強くしがみついてしまっている。
兄が夜な夜な家を出て、朝日が昇るころに帰ってきてることを、ヴィオレは知っていた。ボロボロになった服を脱いだとき、兄の身体がそれ以上に傷だらけになっていたことを見てしまった。きっと危険なことをしている。彼女は、今すぐにでもその仕事をやめてほしいと思う。しかし、そんなことを言えるわけがない。兄がその危険なことをしているのは、自分が原因なのだから。兄はずっと、自分の病を治すという約束を果たそうとしてくれている。それが嬉しくて、そして苦しくて、たまらない。
ヴィオレがその事を口にしないのはもう一つの理由があった。
それは、ブランは必ずこの家へ帰ってきてくれる。必ず生きて、この場所へ戻ってきてくれると信じているからだ。
だが今日、朝日が昇っても、ブランは家に帰ってこなかった。時計の針が進むたびに、彼女はドアを見つめ、耳を澄ませていたが、待ち焦がれていた足音は聞こえない。いつもなら、この時間には帰ってきているはずなのに。時間が経つにつれ、ヴィオレの心はどんどん重くなり、不安が募っていく。何かが起こったのではないか。そう思わずにはいられない。どこかで兄が傷ついているのではないか――そんな恐れが、冷たい影のように彼女の心に忍び寄り、離れなくなっていく。
いつもとは違う、沈黙と静寂の中。ヴィオレの胸の中に広がるその恐れは、徐々に形を成していく。
だからこそ、扉が開いたとき、誰かも確認せずに飛び込んでしまった。病の痛みすらも忘れて身体が勝手に動いたのは、彼女にとって、あの日以来だった。
ブランは、ようやく自分の行動がどれだけ軽率だったかを痛感する。魔力の膨張による圧迫の痛みは、想像を絶するほどの苦しみであるはずだ。だが、そんな痛みに襲われているヴィオレが、大粒の涙を流して自分の帰りを待っていた。彼女の顔を、その涙を見た瞬間、胸が締め付けられるような罪悪感が押し寄せる。
ヴィオレはもう一度、ブランの胸に顔をうずめた。今にも折れてしまいそうな細い腕をブランの背中に回し、一層強く抱きしめてくる。それでも彼女の力はか弱い。それが逆に彼女の必死さを物語っていると、ブランは感じる。
「……とりあえず中に入ろう? ヴィオレ」
ブランが優しく声を掛けると、胸にうずめられたヴィオレの頭が小さく頷くのを感じた。彼はそのまま彼女をしっかりと抱きかかえ、ゆっくりと家の中へ入る。そして、慎重に寝台まで移動し、そっと彼女を寝かせようとした。しかし、ヴィオレはブランの背中から手を離さず、胸にしがみついたまま離れようとしない。ブランはそんな彼女を落ち着かせるために、優しく背中を撫でた。それは幼い頃からずっと、ブランがヴィオレにしてきたことだった。お互いの心を落ち着かせるための、兄妹だけのおまじない。それからしばらく時間が経ち、ヴィオレはようやく落ち着きを取り戻したのか、ブランの背中からそっと手を離した。彼女の呼吸も少しずつ安定し、顔を上げてブランを見つめる。その瞳にはまだわずかに不安が残っているものの、先ほどのような緊張感は和らいでいる。
「大丈夫、俺は必ずこの家に帰ってくるよ」
ブランはそう言って、優しく微笑みかけた。ヴィオレの顔にほんの少しの安堵が見えたものの、まだ心の奥底にある不安を隠しきれていないのが分かる。ブランはそんな彼女の心を察し、少し優しさを込めた声で問いかけた。
「ヴィオレが考えていること、兄ちゃんに教えてくれるか?」
彼の言葉には、無理に聞き出そうとするのではなく、あくまでヴィオレの心の重荷を少しでも軽くしたいという願いが込められていた。ヴィオレは一瞬、言葉を詰まらせたが、やがて視線を伏せながら小さな声で口を開いた。
「……私は、私がお兄ちゃんの負担になっていることが、とても辛い。お兄ちゃんの人生の足枷になっている自分が、死ぬほど嫌いなの」
ヴィオレは小さな声でそう呟き、再び視線を伏せた。その言葉には、長い間胸の中に秘めてきた感情が滲んでいた。ブランはその言葉を受け止め、思わず息を飲みこむ。
「お兄ちゃんの身体がボロボロなの、私知ってるんだ。それに、全然眠れてないことも……。生活費や、私の治療費のために、いつも傷だらけになって帰ってきてること、知っているの。」
ヴィオレの声は震えていた。彼女はずっと、自分のために犠牲になっているブランの姿を見て、何もできない自分を責め続けていた。その思いが溢れ出すように、彼女の瞳には再び涙が滲んでいく。
「だから、私は……私はお兄ちゃんにこれ以上、負担をかけたくない。私がいなければ、お兄ちゃんはもっと自由に生きられるのに……」
ヴィオレの声は震えていた。彼女は、ただでさえ白い魔力のせいで世間から疎まれ、苦労している兄を思い、自分の存在がその負担をさらに増やしていると考えている。ブランはその言葉を聞き、胸が締め付けられるような痛みを感じる。しかし、彼女の思いをただ否定するだけでは何も解決しない。彼は一つ一つの言葉をしっかりと受け止め、ヴィオレを少しでも安心させたかった。
「ヴィオレは、兄ちゃんとの約束を覚えてるか?」
ブランはヴィオレの手に自分の手を重ね、優しく、そして力強く握りしめた。その兄の問いに、ヴィオレは小さく頷いた。
「絶対に病からお前を救ってみせるっていう約束だ。」
その言葉は、魔法使い《ウィザード》の誓いに含まれている約束の一つ。ブランが心の底から叶えたいと願っている目標でもあり、強い誓いでもある。彼はその約束を果たすために、どんな困難が待ち受けていようとも決して諦めないと、心の中で固く誓っている。
「兄ちゃんはな、お前がいない世界で自由になんてなりたくない。そんな世界で生きたいなんて、全然思わない」
ブランの言葉は真剣で、その眼差しはヴィオレに向けられたまま揺るがなかった。
「お前がいるから、俺は毎日頑張れるんだ。どんなに辛くても、どんなに苦しくても、家に帰ればお前が待ってくれてる。それだけで俺は前に進める。」
決して辛いのは自分だけではないと、少年は知っている。本当に辛いのは、生まれながらにして自由を知らないヴィオレであると。彼女もまた、世界が定めた運命のせいで、辛く、苦しい日々を送っている。
ブランはヴィオレをしっかりと抱きしめた。
そして心の中で再び誓う。どんなに厳しい状況であっても、共に支え合い、乗り越えていくことを。
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まず初めに、私の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございます。
ゆっくりと書いていく予定です。
時々修正加えていくと思います。
誤字脱字があれば教えてください。
白が一番好きな色。
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