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黄色の少女(1)
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今ではもう遠い存在となってしまった彼女。
かつてはいつも隣にいて、互いに笑い合っていた。
その記憶が、次々とブランの脳裏に浮かび上がる。
クレア・ウィル・ヴァルラーク
『雷霆の剣士』の称号を与えられた魔導貴族、ヴァルラーク家の下に産まれた令嬢で、『黄色の魔法使い』に最も近いと世界から期待される存在。
ブランは、そんな存在であるクレアと幼馴染だった。
後に魔法使いの誓いを交わすこととなる、丘の上に広がる草原。
その場所でブランとクレアは初めて出会った。
ウェストラムの都を一望できるその草原は、もともとブランしか知らない秘密の場所であり、それを知るのは妹のヴィオレだけだった。
しかし、ヴィオレは病に侵されているせいで、次第に孤児院の外に出る日が少なっていき、その草原へ行くことが叶わなくなっていった。
魔力過剰貯蓄症
それが、ヴィオレを蝕む魔法の病の名。
人は無自覚のうちに魔力を発散する生き物だ。
なぜなら、身体の総量を超えた魔力は毒と何ら変わらないからであり、人は自己防衛を本能的に行う。
魔力過剰貯蓄症は、体内に過剰な魔力を蓄え続けることで身体が徐々に破壊されていく致命的な病であった。この病に罹った者は、魔力が一方的に増幅していき、異常なまでに膨れ上がっていく。
そしていずれ、その魔力は体の組織や細胞を圧力で崩壊させていく。
そんなヴィオレでも、月に一度ほど、ブランの支えがあれば歩けるくらいに体調が良い日はある。そんな日には、必ずブランはヴィオレを背負い、その秘密の草原へと連れていった。草原に咲き誇る花々が、いつも苦しげな表情を浮かべているヴィオレをほんの少しでも笑顔にすることができたからだ。病に苦しむ日々の中、丘の上でだけは彼女が幸せそうな顔を見せる。その表情を見ることが、いつしかブランにとって何よりの幸せになっていた。
しかし、ヴィオレの病状が初期から中期へと進行してしまったため、彼女は孤児院の外へ出ることができなくなる。病に侵されながらも笑顔を見せてくれていた彼女の表情が次第に暗くなっていくことは、ブランにとって苦痛そのものだった。彼女の表情を明るくすることを誓って、ブランは毎日草原に咲き誇る花々を妹に見せるために、その草原へ通い続けていた。
『そこで何をしてるの?』
いつものように草原へ行き、ヴィオレが喜ぶ花を探していた時、後ろから誰かに話しかけられる。
この場所を知っているのはヴィオレ以外にはいないと考えていたブランは、その声に驚愕し、背中が跳ね上がってしまう。
草原に辿り着くためには、深く傾斜のある森を抜けなければならないからだ。
ヴィオレの傍にいるために孤児院の他の子供たちと遊ぶことがなかったブランは孤立していた。眠りにつくまでヴィオレの傍にいて、彼女が寝たら起こさないようにそっと傍から離れる。
一人には慣れているため、寂しいという感情はブランにはなかった。
それでも、笑顔が溢れた騒がしい場所を歩けば、一人だけ隔絶されたような疎外感に襲われる。そんな感情から逃れようと、人のいない場所へと向かうと、目の前には森が広がっていた。
そして導かれるように森の中へと入っていき、その雰囲気に引かれて、偶然にもこの草原に辿り着いたのだった。
大人でもこんな場所には来ないだろう。そう考えていたからこそ、その声を聞いたときには心臓の鼓動が驚きと恐怖で速くなった。
もしかしたら、生きた人間ではないのかもしれない。恐ろしい顔をした幽霊が後ろにいるのかもしれないと考えながらも、ブランは恐る恐る顔を後ろに向けた。
ひと際強い風が丘の上で吹き、草原に咲き誇る花々の花弁が大きく舞い上がる。
太陽に照らされた黄色の長髪が、その風で揺れているのが目に入る。
黄金に輝く瞳がこちらへと向けられている。
美しいと、
そう感じてしまうほどの容姿を持つ、自分とそう変わらない年齢であろう少女がそこに立っている。
これが、ブランとクレアの最初の出会い。
その瞬間が、少年と少女の邂逅の始まりだった。
====================
ゆっくりと書いていく予定です。
時々修正加えていくと思います。
白が一番好きな色。
かつてはいつも隣にいて、互いに笑い合っていた。
その記憶が、次々とブランの脳裏に浮かび上がる。
クレア・ウィル・ヴァルラーク
『雷霆の剣士』の称号を与えられた魔導貴族、ヴァルラーク家の下に産まれた令嬢で、『黄色の魔法使い』に最も近いと世界から期待される存在。
ブランは、そんな存在であるクレアと幼馴染だった。
後に魔法使いの誓いを交わすこととなる、丘の上に広がる草原。
その場所でブランとクレアは初めて出会った。
ウェストラムの都を一望できるその草原は、もともとブランしか知らない秘密の場所であり、それを知るのは妹のヴィオレだけだった。
しかし、ヴィオレは病に侵されているせいで、次第に孤児院の外に出る日が少なっていき、その草原へ行くことが叶わなくなっていった。
魔力過剰貯蓄症
それが、ヴィオレを蝕む魔法の病の名。
人は無自覚のうちに魔力を発散する生き物だ。
なぜなら、身体の総量を超えた魔力は毒と何ら変わらないからであり、人は自己防衛を本能的に行う。
魔力過剰貯蓄症は、体内に過剰な魔力を蓄え続けることで身体が徐々に破壊されていく致命的な病であった。この病に罹った者は、魔力が一方的に増幅していき、異常なまでに膨れ上がっていく。
そしていずれ、その魔力は体の組織や細胞を圧力で崩壊させていく。
そんなヴィオレでも、月に一度ほど、ブランの支えがあれば歩けるくらいに体調が良い日はある。そんな日には、必ずブランはヴィオレを背負い、その秘密の草原へと連れていった。草原に咲き誇る花々が、いつも苦しげな表情を浮かべているヴィオレをほんの少しでも笑顔にすることができたからだ。病に苦しむ日々の中、丘の上でだけは彼女が幸せそうな顔を見せる。その表情を見ることが、いつしかブランにとって何よりの幸せになっていた。
しかし、ヴィオレの病状が初期から中期へと進行してしまったため、彼女は孤児院の外へ出ることができなくなる。病に侵されながらも笑顔を見せてくれていた彼女の表情が次第に暗くなっていくことは、ブランにとって苦痛そのものだった。彼女の表情を明るくすることを誓って、ブランは毎日草原に咲き誇る花々を妹に見せるために、その草原へ通い続けていた。
『そこで何をしてるの?』
いつものように草原へ行き、ヴィオレが喜ぶ花を探していた時、後ろから誰かに話しかけられる。
この場所を知っているのはヴィオレ以外にはいないと考えていたブランは、その声に驚愕し、背中が跳ね上がってしまう。
草原に辿り着くためには、深く傾斜のある森を抜けなければならないからだ。
ヴィオレの傍にいるために孤児院の他の子供たちと遊ぶことがなかったブランは孤立していた。眠りにつくまでヴィオレの傍にいて、彼女が寝たら起こさないようにそっと傍から離れる。
一人には慣れているため、寂しいという感情はブランにはなかった。
それでも、笑顔が溢れた騒がしい場所を歩けば、一人だけ隔絶されたような疎外感に襲われる。そんな感情から逃れようと、人のいない場所へと向かうと、目の前には森が広がっていた。
そして導かれるように森の中へと入っていき、その雰囲気に引かれて、偶然にもこの草原に辿り着いたのだった。
大人でもこんな場所には来ないだろう。そう考えていたからこそ、その声を聞いたときには心臓の鼓動が驚きと恐怖で速くなった。
もしかしたら、生きた人間ではないのかもしれない。恐ろしい顔をした幽霊が後ろにいるのかもしれないと考えながらも、ブランは恐る恐る顔を後ろに向けた。
ひと際強い風が丘の上で吹き、草原に咲き誇る花々の花弁が大きく舞い上がる。
太陽に照らされた黄色の長髪が、その風で揺れているのが目に入る。
黄金に輝く瞳がこちらへと向けられている。
美しいと、
そう感じてしまうほどの容姿を持つ、自分とそう変わらない年齢であろう少女がそこに立っている。
これが、ブランとクレアの最初の出会い。
その瞬間が、少年と少女の邂逅の始まりだった。
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ゆっくりと書いていく予定です。
時々修正加えていくと思います。
白が一番好きな色。
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